三浦老人昔話 - 岡本綺堂読物集一 (中公文庫 お 78-1 岡本綺堂読物集 1)

著者 :
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (249ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122056602

感想・レビュー・書評

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  • 青年が老人から奇談を聞くという体裁で、一話一話は短いのに、どの話もあっという間に引き込まれてしまった。しかも歴史的仮名遣いでありながら、不思議と読みやすい。この時代で起きたがゆえのやるせない結末には、苦い想いがこみあげてくる。

  • 2012年6月刊行。歴史的かなづかいを生かして再刊行、附録には、単行本未収録作品を加えた、堪らない一冊。
    読物集1ということは、これからも、この幸せが続くということ。
    再読する作品ばかりでしたが、より当時の空気を感じる事が出来ました。

  • 岡本綺堂「三浦老人昔話」は捕物帳の話をしてくれる半七老人の友人、大久保に住む三浦老人が語る昔あった話。今の世の中は新しい話ばかりが溢れている。昔の面白い話を老人から聞くようなことも無くなってしまった。ネット登場以降でほぼ全滅である。明治の頃に老人から聞く話は江戸期のこと。半七捕物帳で語られるミステリでもなく青蛙堂鬼談で語られる怪談話とも違う、それ以外の因縁話や人情話、ちょっとしたエピソードである。武家の奥様がご贔屓の女形役者を内密で下屋敷に招くが恐ろしいことに…「下屋敷」。江戸時代の藩主や旗本の家は家族の住む上屋敷、隠居などが住む中屋敷、蔵屋敷とも言われ荷物を置くための下屋敷に分かれる。「むかしの大名や旗本の下屋敷には色々の秘密がありましたよ」旗本大久保家の小石川巣鴨町にある下屋敷での話。怖い、怖い!更に、狂気なのか祟りなのか本所の置いてけ堀の因縁話「置いてけ堀」、母の病を治す人参を買うために身売りした姉、しかし母の命は助からず、そのうえ姉も失った弟の怒りが暴走する「人参」など。こうした話を年長者から聞くこと自体が昔話になりつつある。更に今のおじいちゃんが話す昔の話が世代的にバブルの話ではあまりに軽い。

  • ふとしたきっかけで陥ってしまう狂気と、それに巻き込まれる理不尽。とても異様に思えるのに、それを自然に描いてしまうとこが怖いのですが、そういうものに自分が行き合ったら普通の反応しちゃうのものなのか。

    時代小説って…宮部みゆきかしゃばけか壬生義士伝しか読んだことないと思うのですが…武士と町人の普段のくらしの中の境界やら折り合いの難しさが実際的とゆーか身につまされるとゆうか。あちゃー、と言いたくなるとゆうか…武士って大変なんだなぁ。

    春色梅ごよみ。
    同情の涙でした…お近さん、かわいそーで。今ならさしずめ運動部に青春かけてた子が、引退してこれまでと違う友達からやおいの世界を知り自分でも書き始め受験に差し障りが…てなくらいでしょうが、江戸時代の武士の家だったばっかりに…涙。現代日本ってほんと素晴らしいですね。
    きっと今の日本のこの溢れ返りっぷりは、過去涙を飲んできた人々の上にたっているんだろなぁ、ととおいめ。かくいう自分も、きっとかつては地方の農民で活字に飢えてた口だと思ってます。

    下屋敷。
    事件は上屋敷で起こってんじゃねぇ、下屋敷で起こってんだ、ばりな。いや、まじでその役者どうなったのか。出してくれたよね。

  • 『半七捕物帳』の半七老人の友人、家主をしていた三浦老人から聞いた江戸の話色々。
    江戸の暮らし、事件事情が明治に語られるのですが雰囲気が独特で良かったです。
    『半七捕物帳』を読んだことがないのですが読みたくなりました。

  • 江戸を舞台にした短編小説集。なんてことのない、実際にどこかにありそうな、だけれどもなかなかないだろうなあと思える物語の数々。一見喜劇に思えることが当人にとっての悲劇であったりだとか。そこに描かれた人々の悲喜交々が、おかしいような、そして悲しいような。少しずつ、じっくりと浸って読みたい一冊です。
    お気に入りは「鎧櫃の血」。いかにもなタイトル。そしてやっぱり怪談話。なのだけれど……醤油って! よりにもよって醤油!!! 笑っていいのか何なのか。でもこのラストにはぞくり。

  • 岡っ引き半七の友人である三浦老人から聞いた奇譚、という設定に痺れますね。プラトン社の雑誌『苦楽』に載った12篇は、半七はもう書きたくないと断って書いたネタだけあって人情話ではおさまらない、怪談、因縁、悲話などいろんな話が盛り込まれててそれぞれ面白い。
    もちろん三浦老人が現役の頃の思い出話を語るので、描かれるのは江戸。この話が語られた明治の風景と、話の中に描かれる江戸の風景の対比もこれまた良い。
    付録の2篇「黄八丈の小袖」「赤膏薬」も面白かった。ままならない所が良い。

  • 置いてけ堀の櫛の話は怪談としておもしろい。
    しょうゆの御家人や矢がすり、手習いの師匠の話などを読むにつけ、やっぱり生きにくい世の中だったのかもしれないなと思い直す。だからこそ、明治維新が起きたのだろうしね。江戸時代の幕藩体制を一番迷惑に思っていたのは、さむらい達だったのではないか。
    解題にもあるが、生まれどころを間違えた人たちの哀話が中心だった。哀しくもおかしみのある話。

  • 面白かった。桐畑の太夫、下屋敷、矢がすり、黄八丈の小袖、辺りが好きかな。
    身分厳しい

  • 半七の友人である老人の昔語りという体裁の短編集。
    物語だけで良さそうなものだけど、話を聞くまでの様子が毎回描かれる。
    その削ってしまえる部分の、聞き手と老人の交流や季節の移ろいがゆったりした空気をかもしだす。

    書籍情報には怪談や哀話とあったけれど、怪談らしい怪談は少ない。
    「哀話」には決められた役割のために自分を生きられない悲しさがある。
    そこに生まれたから、この役割だから、という縛りは時代の影響を大きく受ける。

    老人の語る江戸末期は、聞き手が生まれる前の「昔」。
    聞き手は、「新しいことを話す人は多くいるけれど昔を語れる人はどんどん減っていくのだから今のうちに聞いておきたい」と考えている。
    綺堂は江戸情緒の表現に定評がある人で、この本の解説にも失われゆく江戸を書き残すようなことが書いてある。

    だけど昔は良かったという無批判な理想化とは違うんじゃないかと思う。
    戦後生まれの戦前賛美や、不況しか知らない子が高度成長期を羨むような、「ろくでもない現在」からの逃避を綺堂の文には感じない。
    この本の中の江戸は「今」よりずっと不自由で無用な苦痛がたくさんある。
    だからといって昔はひどかったと切り捨てるのでもなく、そういう昔を悼みながら愛おしむような向き合い方なんだと思う。


    「旗本の師匠」は実話っぽい雰囲気。これを理不尽ととらえているのは綺堂の性格なのか世代なのか。
    武勇伝のように語っていた勝小吉や尾崎行雄をちょっと思い出した。この二人も世代が違うけど。
    「黄八丈の小袖」は『尊属殺人が消えた日』http://booklog.jp/users/melancholidea/archives/1/4480854088を考えてしまった。

    編者の解説はあまり好きじゃない。意味を持たせ過ぎているように感じる。

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著者プロフィール

(おかもと・きどう)1872~1939
東京生まれ。幼少時から父に漢詩を、叔父に英語を学ぶ。中学卒業後、新聞、雑誌の記者として働きながら戯曲の執筆を始め、1902年、岡鬼太郎と合作した『金鯱噂高浪(こがねのしゃちほこうわさのたかなみ)』が初の上演作品となる。1911年、二代目市川左團次のために書いた『修禅寺物語』が出世作となり、以降、『鳥辺山心中』、『番町皿屋敷』など左團次のために七十数篇の戯曲を執筆する。1917年、捕物帳の嚆矢となる「半七捕物帳」を発表、1937年まで68作を書き継ぐ人気シリーズとなる。怪談にも造詣が深く、連作集『三浦老人昔話』、『青蛙堂鬼談』などは、類型を脱した新時代の怪談として評価も高い。

「2022年 『小説集 徳川家康』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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