六本指のゴルトベルク (中公文庫 あ 64-5)

  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (279ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122056817

感想・レビュー・書評

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  • 青柳いづみこ(1950年~)氏は、東京芸大音楽学部卒、国立マルセイユ音楽院卒(首席卒業)、東京芸大大学院博士課程修了のピアニスト。安川加壽子、ピエール・バルビゼに師事。文化庁芸術祭賞受賞。大阪音楽大学教授。エッセイストとしても活躍し、『青柳瑞穂の生涯』で日本エッセイストクラブ賞(2001年)、『六本指のゴルトベルグ』で講談社エッセイ賞(2009年)を受賞。
    私は、ノンフィクションやエッセイを好んで読み、今般、過去に評判になった本で未読のもの(各種のノンフィクション賞やエッセイ賞の受賞作を含む)を、新古書店でまとめて入手して読んでおり、本書はその中の一冊である。
    本書は、岩波書店の月刊PR誌「図書」(2006年7月号~2008年11月号)に連載された、古今東西の純文学やミステリーの中から、音楽や音楽家を扱った作品を取り上げ、音楽との関わりを主軸に読み解いたエッセイ29篇(+1篇)をまとめて、全体を加筆したもので、2009年に出版、2012年に文庫化された。
    本書で取り上げられた文学作品は、トマス・ハリス『羊たちの沈黙』、村上春樹『海辺のカフカ』、ロマン・ロラン『ジャン・クリストフ』、アンドレ・ジッド『田園交響楽』、ジョン・フランクリン・バーディン『悪魔に食われろ青尾蠅』、永井するみ『大いなる聴衆』、中山可穂『ケッヘル』、S・J・ローザン『ピアノ・ソナタ』、アンジェラ・カーター『血染めの部屋』等であるが、ノンフィクション中心の読書をする私としては、登場する文学作品をほとんど知らず、また、音楽もポピュラー音楽以外は殆ど聞かないため、出てくるクラシック音楽がわからず、残念ながら、最初の5篇を読んだところで、ページをめくる手が止まってしまった。
    裏を返せば、著者は、あと書きで、「描かれる音楽作品も演奏家も真に迫っていて、音楽畑の人間が読んでも違和感がないどころか、かえって自分たちの世界の問題を再認識され(ママ)、教えられることが多々である。せっかくこれだけ的確にとらえているのだから、その“ツボにはまった感”を、音楽人以外の方々にも是非味わっていただきたいと思ったのである。」と書いているくらいなので、登場する作品を知っている向きには、さぞかし味わい深いエッセイなのだろうとは思う。
    (2022年12月)

  • 芸術家の芸術家たる所以にいい意味で圧倒されました。
    ピアニストが、私達?一般人の感覚とはいかにかけ離れれた世界感の中で生きていることか。
    それは、あなたの隣に座っているピアニストの見ている景色が眼の前の街並ではなく、宇宙其の物という位の隔たりなのです。
    異邦人を読むような、不可思議を味わいたい方は是非読んでみて下さい。

  • ピアノを弾くものとしての「あるある」が散りばめられたエッセイだった。ミスタッチを許さない日本人の話がすごく頷ける。私の大好きなル・サージュはミスタッチが比較的多いけど、音楽的なミスタッチだからいいんだよね。音楽的で音色が素晴らしいもの。ああなりたいけど、やっぱり、気にしちゃう。あとは、舞台に上がって、1つミスすると、これでもう完璧な演奏はできないのだからと、緊張が解けてリラックスできるってのも分かる気がした笑 文学と音楽を絡めたエッセイだけど、あまり文学の方は気にしませんでした。

  • ドビュッシーの研究家、ピアニスト、執筆者の著者が音楽に関わる小説などを紹介しながら、音楽について論じていく。明け透けに語り、音楽の本質を主張している著者のトーンが魅力的。ジッド「田園交響楽」、ロマンロラン「ジャン・クリストフ」トルストイ「クロイツェル・そなた」中山可穂「ケッヘル」、高樹のぶ子「ナポリ魔の風」、島田雅彦「ドンナアンナ」、こうなると当然村上春樹も「海辺のカフカ」が取り上げられる。「ケッヘル」はモーツアルトに魅せられた人の数字に拘り過ぎる偏愛ぶりが楽しい。626番の飛行機には絶対に乗らない。レクイエムの番号なので縁起が悪い!ジャズとクラシックのピアニストの喜びと苦しみの対比、「バッハ」(BACHの4音)のモチーフによるリスト、Rコルサコフの作曲がある!愉快な話だ。東京芸大のガダニーニ・偽ヴァイオリン事件のことも詳しい。ある日のポリーニのピアノが甘い響きだったので違和感があった裏話とか、そもそもポリーニは「彼がショパンを弾くということは、涙にくもる眼ざしを空に向け、私的な嘆きの歌をうたうことではない」とのドイツ評論家カイザーの引用が言い得て妙で納得した。

  • 新書文庫

  • 音楽を語る小説の紹介であるが、今ひとつぴんと来なかった。

  • 241115

  • 小説に出てくる音楽エピソード(ピアノ中心)についてのエッセイ。
    読書案内としても楽しいし、音楽案内としても楽しくて、お得な一冊ですね。
    ただ、よく知らない人が読んだら、ピアノ弾きはみんな変人に見えてしまうかもしれないので要注意です。(^^;
    ま、ホントに変人ばかりなのかもしれませんけどね。(^^;

  • 絵と同じで、音楽についても、絵を描いたり楽器を演奏したりしたことのある人にしかわからないことがある。
    実際に創作したことのない批評家の書く文章が、創作する側から見たらものすごく白ける内容に思えたりするのは、たぶんそこで多かれ少なかれ断絶があるのだろう(批評家の文章も、その点で意義はあるのだろうけれど、しかし絶対に埋められない溝がある)。
    青柳さんは自身ピアニストでありながら、その自在な言語表現を駆使して、音楽を創造、演奏する側と、聴く側との橋渡しをしてくれている。
    その媒介として、彼女は音楽を題材としたフィクションを毎回取り上げる。
    ピアノを演奏したことのない人が読めばつまらなさそうな小説も、音楽家が読めばかくも面白く身につまされるものになる。そのギャップを知ることができるエッセイ。ところどころで驚かされた。

  • まさかエルロイがでてくるとは思わなかった。クラシックっつうと刑事や探偵というよりスパイな気もするけど、やっぱり古典か純文学のがしっくりする。「ピアニスト」はやっぱり原作よんどいたほうがいい気がしてきた(今更)。あとは「田園交響楽」と「ある人生の音楽」あたりが読みたくなった。

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著者プロフィール

ピアニスト・文筆家。安川加壽子、ピエール・バルビゼの両氏に師事。フランス国立マルセイユ音楽院卒。東京藝術大学大学院博士課程修了。学術博士。武満徹、矢代秋雄、八村義夫作品を集めたリサイタル『残酷なやさしさ』により平成元年度文化庁芸術祭賞。演奏と文筆を兼ねる存在として注目を集め、安川加壽子の評伝『翼のはえた指』で吉田秀和賞、『青柳瑞穂の生涯』で日本エッセイストクラブ賞、『六本指のゴルトベルク』で講談社エッセイ賞、CD『ロマンティック・ドビュッシー』でミュージックペンクラブ音楽賞。2020年、浜離宮朝日ホールにて演奏生活40周年記念公演を開催。テレビ朝日『題名のない音楽会』、NHK Eテレ『らららクラシック』、『ラ・フォル・ジュルネ音楽祭』『東京・春・音楽祭』等にも出演。日本演奏連盟理事、日本ショパン協会理事、養父市芸術監督。大阪音楽大学名誉教授、神戸女学院大学講師。

「2023年 『安川加壽子の発表会アルバム』 で使われていた紹介文から引用しています。」

青柳いづみこの作品

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