アイロンと朝の詩人 回送電車III (中公文庫 ほ 16-5)
- 中央公論新社 (2012年10月23日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
- / ISBN・EAN: 9784122057081
感想・レビュー・書評
-
楽しいはなしは楽しく、苦しいはなしは静かに
詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
堀江敏幸さんの第三雑文集です。硬軟取り混ぜた文章が収録されていますので、お好きなものからどうぞ、という本です。
-
回送電車Ⅲ
中公文庫から堀江敏幸3作目のエッセイ集(雑文集)
若干の偏りはあるが、紹介されている本が読みたくなるし、読んでいない自分が少し恥ずかしくなる。優し言葉で当然のように本の書評を言われると、その意味では北村薫が本を紹介している時ににている。
・・・・・はかなき者よ
人間とは何なのか、人間ではないものは何なのか、人間とは影の夢・・・・・だがときおりまるで
高みから降りてくる光線のごとく、よろこびの短い光がその生を美しくする、そして人間は知るのだそこはかとない甘美さを・・・・・
ピンダロス『ギリシャ詞華集』 -
『回送電車』シリーズ第3巻。
古本と鉛筆削り、そしてタイプライターのエピソードが印象的だった。特にタイプライターには風情がある……あっても使えないけれどw -
最初は緩慢に、でも、ある程度を過ぎると、饒舌に。いつのまにか、堀江さんの足跡を追って堀江さんの世界に足を踏み入れているる。そして、気がついたらスキップするように歩き回り、「いい気分」になっている。
読むリズムがあるのだ、この本に。だから、かみ合うまで時間がかかる。リズムが身につくまで苦しい気分になり(だから挫折しそうになるのだが)、リズムに合うようになってくると、その感覚に嬉しくなり、酔いしれてしまう。それが堀江さんの魔術なのだ。
この回想電車は「文学論」めいた小品が多い。読むことをどう考えたらいいのか…私の一番踏み込みにくいエリア。どうなのか、強い関心はあるのだが、妙な拒絶感がある。
一方で、私がほのぼのするのはやっぱり故郷の話。本とコーヒーを持っていった場所の記憶。 -
回送電車シリーズ第三弾。
いつもながら、一つ一つを宝物のように読み進めていけるこの感覚が楽しい。
まず、着眼点が好き。
ゆで卵とハムエッグか目玉焼きをモーニングとして出す喫茶店で、「同じ素材のものが二品」あることに「遺憾」を覚え、指摘した際のおばさんの「驚愕」の描写。
堀江さんの纏っている、もの静かで理知的でつぶさなものの見方が、ずれる瞬間の笑い。
そこかっ!とツッコミを入れずにはいられないのである。
なのに、描写自体にユーモアがある訳ではなく、丁寧で、あぁ愛着があるんだな、と思わせられるのだから不思議。
そうして初出一覧を見るのも楽しい。いろんな分野から引っ張られては、その空気感を変えずにきっちり返答する姿勢。
すごいな、この人。
今巻では書評の割合が大きかったが、あぁそんな所にそんなものがあるのねっ!とうずうずさせられること間違いなし。
いつも回送電車シリーズを読み終えると、まんまと書評から原作に当たっている私である。
分かる分かる、と思わせてもらいながらも絶対に分からない部分があるのだ。こんな人になりたい。 -
堀江敏幸さんの文章を読んでいると、頭の中でぐちゃぐちゃになっていたものが、アイロンがかかったようにすうーっと伸びていくような気がして心地よい。