SOSの猿 (中公文庫 い 117-1)

著者 :
  • 中央公論新社
3.03
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本棚登録 : 11034
感想 : 839
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  • Amazon.co.jp ・本 (420ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122057173

作品紹介・あらすじ

三百億円の損害を出した株の誤発注事件を調べる男と、ひきこもりを悪魔秡いで治そうとする男。奮闘する二人の男のあいだを孫悟空が自在に飛び回り、問いを投げかける。「本当に悪いのは誰?」はてさて、答えを知るのは猿か悪魔か?そもそも答えは存在するの?面白くて考えさせられる、伊坂エンターテインメントの集大成。

感想・レビュー・書評

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  • 相変わらず、設定がいい意味でハチャメチャで、読んでいると、置いてけぼりにされてしまう。

    「私の話」と、「猿の話」を繰り返しながら、「猿の話」ってなんやねん、とツッコミを入れたくなるけれど、急に、洞窟を抜け出したときのように、視界が開けてくる。

    話の中でハッと気付かされる登場人物の言葉。今回も、それらに突き動かされる。

    『「それこそが作り話の効力よ。物語は、時々、人を救うんだから」』(kindle P180)

    良薬は口に苦しというけれども、伊坂氏の散りばめた言葉の処方箋は、苦味なく、深く深く、患部に届いていく。

    不思議なタイトル、考えさせられる内容に、一気に引き込まれました。

  • 2021(R3)5.11-6.3

    図書館の2週間の貸出期間では読み切れず、さらに延長してようやく読み終えた。

    「私の話」と「猿の話」が交互に出てくる構成。
    どちらも淡々と進んでいく感じは伊坂作品らしく、最後の伏線回収を期待して読み進める。

    しかし、「猿の話」が荒唐無稽な展開になり、ついていけなくなる自分に「理解できない自分に読解力がないからだ。」と言い聞かせるも、訳が分からない。

    最後にそのカラクリが明らかになるものの、やっぱり訳が分からなかった。

    主題のキーワードは「因果関係」な気がするが、「なんだかよく分からなかった」というのが正直な感想。
    伊坂幸太郎のレトリックと、心理学と孫悟空の知識についていけない自分への評価として星2つとしました。

  • (再読感想)


    四年前の記録内容があまりに悔しかったので再読。

    読み返しだからなのか多少読書慣れしたからなのか、改めて読むとスッキリ爽快。
    こういうことってありますよね。

    「僕の話」と「猿の話」が交互に展開する螺旋構造であるが、「五十嵐真の話」手前の6回目の「私の話」でバシッと背骨が通る感じ。この感覚が気持ちいい。

    「誰かの夢や妄想が、現実と繋がっていることもありうる」(p370)とあるが、主要登場人物には全員’真’の字が入っているというブクログユーザー様の感想を読んでハッとさせられた。
    まさに「五十嵐真の話」に登場する孫悟空は幻のようであるが、恐らくは眞人か伊坂先生か五十嵐大介先生の夢か妄想が繋がった’真’なのだろうと思う。

    不思議ではあるがモヤモヤは残らない物語だった。

    「天竺に行ったところで、くよくよは続きます」(p397)、「エアコンは、誰かを救う」(p401、402)は確かに名フレーズ。

    五十嵐真の親戚が五十嵐大介先生だとする演出はおしゃれ。『SARU』ってまだ読めるのだろうか。


    2021.9.30



    とにかく妙な小説だった。途中のひっかかる部分は一旦置いといて「五十嵐真の話」まで一気に読むべき。結局、孫悟空は幻?超常現象のようなもの?


    読んだのが既に四年以上前。ブクログに記録をつけるにあたり当時のノートを読み返したところ、上記の文章が書かれており我ながら相当難儀した様子が
    うかがえる。その時は読みながらメモを取る習慣が定着していなかった為、気になったフレーズなどの記載もなし。

    残念ながらいまひとつ内容も覚えていない…要再読銘柄。

    投げ込みのチラシの気合いが凄い。


    1刷
    2021.9.27

  • 家電量販店に勤める遠藤二郎には、助けを求めているらしい人を見かけると、無性に何とかしてやりたいと思う癖(?)があった。おかしな成り行きで副業として悪魔祓い師をしているのだが、ある日「息子のひきこもりを治してほしい」という依頼をされ、断りきれずにひきこもり青年・眞人の部屋を訪れる。

    誤発注で三百億円の損失を出した証券会社に、発注システムを納入している会社に勤める五十嵐真。自社のシステムに問題はないと結論付けたい上司や、一社員の入力ミスで済ませようとする証券会社の意向を尻目に、ミスの原因、そのミスを防げなかった原因、その元になる原因…と、因果をとことん追及していくうちに、思わぬ事件に巻き込まれていく。

    と、ふたつの話が同時進行し、やがて…


    出だしのトボけた雰囲気はいつも通り。
    トボけていながらサクッと核心を突くような、伊坂幸太郎ならではのフレーズも満載。
    面白くなかった、ということではない。
    けれど、何か…ごちゃごちゃした感じが残った。

    二郎/二郎真、眞人/孫悟空、五十嵐真/三蔵法師の“3人の真”が関わりあって問いかけられる、仕方のない因果応報や善悪の絶対についてのくよくよは、もっとわかりやすく描けたんじゃないのかという気がする。
    わかりやすさが必ずしも善ではないとしても…
    そして、辺見のおばさんやコンビニ合唱団といった魅力的な脇役が、もったいなかった。贅沢な脇役。

    牛丼にチーズとキムチとうなぎまで載せられて、それぞれ美味しいのに一度にのっけられて得したじゃなくて損したような。
    さらにメインの丼が大盛りで持て余しぎみなのに、副菜の小鉢がとんでもなく美味しくて、困ったような。
    これが消化不良ってことなのかな…

    むむむ、とうなりながら読んだ巻末の解説で、本作は伊坂自身が定義する「第二期」、「モヤモヤシリーズ」なのだとあった。
    そして、読者には不評だったので『マリアビートル』を書いたのだとか。
    へえ〜。

    そんなことお構いなしに読んできたし、純文学とエンタメの区別にもこだわらないけれど…
    好みとしては、伊坂作品の中で最高に面白かった!には至らずでした。

  • 伊坂幸太郎 著

    「また妙な小説を書いたものだな」って解説でも記されてた通り…妙な小説だったが、結構面白く読めた。
    「SOSの猿」ってタイトルから、はてな?って感じだったし、伊坂幸太郎さんって こんな感じの小説も書くんだって
    やけに感心してしまいました。
    猿から始まり…エクソシストやらユングの心理学 そして
    ひきこもりの社会的な事柄までにも結び付けており、そしてまた「西遊記」孫悟空まで飛び出すとは…何だか 楽しい
    こんな妙な展開の中で きっちり 伏線を回収する 流石!
    「私の話」と「猿の話」語り手も状況設定も異なってる話が 調和されてゆく 勿論 他の色々な作家さんが 2つの物語を同時進行させながら 関係を持ち、結びつけたりして収束するっていうのは よくありますが…伊坂幸太郎さんの作品はかけ離れているような次元の2つの物語を本当に心地よく調和してゆくところが とても好きだなぁと思う。
    何だか、気になったのは「誰かを救ってあげたい、というこだわりで、それは、自分自身の存在価値を証明したい、という弱さから生まれているらしくて(メサイアコンプレックス)」え!なるほど…そうなのかもしれない なんて 思わず、自分に当てはめて考えてしまった(>_>)
    そこには 大きく触れないで キーボードで打ってみて、何だか大仰だなぁ、と思った そしてその文章を消し…とあり、
    そんな作者の心配りがいいなぁって感じた 誰かを救いたい とか思う気持ちにあまり意味付けをしても仕方ない。
    救いたいと思える気持ちは救えるかどうかってことより 純粋に そう感じられることが人間らしいし、そうそう弱くてもいいのよ なんて勝手に納得して読み終えた。

  • H29.11.30 読了。
    ・悪魔祓いの副職をしている「私の話」と証券会社で何百億円の損失の原因調査する「猿の話」で構成されている。
    最後までぼんやりしたスッキリしない話で、あまり面白くなかった。

  • すごく奇想天外な物語!
    孫悟空がもっともっと活躍するのかと思いきや、ぬるっと現れてそして消えていくという、なんとも煮えきらない孫悟空。なのに、不思議と物足りない感はなく結構な存在感。孫悟空としてのパーソナリティ(?)にはほとんど言及はないのは個人の持つイメージで補わせるというところなんだと思う。
    原因の原因をもとめていく、という軸がおもしろかった。

  • 「この本は嵐だ」と評される本作。世界観は「オーデュボンの祈り」や「あるキング」に近く感じる。感受性の豊かな青年が人の発するSOSを感じ思い悩む姿は、何となく自分と重なる気もした。漠然と人の役に立ちたい。と思った中学生の頃の僕は医療従事者として人のためになる仕事を選んでいる。

    「SOSを発している人間を救えないと嘆いているが、そうではなく、キャッチしているだけでも十分、救いになっている。そうは思わないか。」

    「家族以外の第三者が、利害関係のない誰かが、『良くなりますように』と祈ることは、誰かを助けたいと思うことは、ひどいことではないはずだから。悪いことではない。」

    どこか救われた気持ちになった。

    「人の気持ちを文章化しにくい。本人にだって、難しい。強いて言うには、気持ちを表現するには、絵とかじゃないかな。」

    ただ絵心のない僕はどこか救われない気持ちになった。

  • 2021/4/25読了。

    西遊記、エクソシスト、株取引、というなんとも突拍子もない語句を組み合わせた作品。
    伊坂幸太郎氏は時折挑戦的な作品を出すのでその類かと思って読んでいたが、漫画家・五十嵐大介氏と企画し生まれたものだと後書きで知ってなるほどなと思った。

    大枠としては関係なさそうな二人が終盤で交わり伏線回収をしていくという王道ミステリーだが、作中にて現実に虚構が入り込んでくるシーンがあり、今までやってこなかった表現をやっていたり、眞人の予言が少しズレており主人公たちの行いが真っ直ぐにオチに直結していなかったりと日々試行錯誤し挑戦されているんだなと感じた。

    はっきり言うと企画としての形式が先行した作品であることは否めず、従来の作品のように楽しめる人は限られるように思える。

    しかし、私は保守的に同じような作品を出す系統の人より挑戦的な方を評価する。

    実際今作も「いったいこの後、どうなってしまうんだ?!」とワクワクしました。

    上で書いたオチも、作品内で語られていた「作り話の効果」をフリにした敢えてのずらしだと思っており、現実って小説のようにはいかないよね、というリアリティの表現として素晴らしい。

    件の五十嵐先生の作品「SARU」と連動しているということで、コチラも読んで更に「SOSの猿」の世界に浸かりたいと思います。



  • 『物語は、語り手が喋ればそれが真実となる』

    「魂の救済」「物語は人を救う」
    「暴力は必ず悪か」「善と悪の拮抗」
    テーマはこの4つ。

    伊坂幸太郎ファンの中でも賛否が分かれる作品だが、私はテーマそのものが好きだった。

    「どうしても分かんないことは頭の中で物語を作って、それで納得するのよ。それで救われる。」

    西遊記とエクソシストとひきこもりという突拍子もないパーツが、このテーマの中でどう絡み合っていくのか、その面白さに注目。

    これをきっかけに西遊記に興味が湧き本を買ってしまった。

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著者プロフィール

1971年千葉県生まれ。東北大学法学部卒業。2000年『オーデュボンの祈り』で、「新潮ミステリー倶楽部賞」を受賞し、デビューする。04年『アヒルと鴨のコインロッカー』で、「吉川英治文学新人賞」、短編『死神の精度』で、「日本推理作家協会賞」短編部門を受賞。08年『ゴールデンスランバー』で、「本屋大賞」「山本周五郎賞」のW受賞を果たす。その他著書に、『グラスホッパー』『マリアビートル』『AX アックス』『重力ピエロ』『フーガはユーガ』『クジラアタマの王様』『逆ソクラテス』『ペッパーズ・ゴースト』『777 トリプルセブン』等がある。

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