海辺の生と死 (中公文庫 し 11-2)

著者 :
  • 中央公論新社
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感想 : 18
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  • Amazon.co.jp ・本 (239ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122058163

作品紹介・あらすじ

幼い日、夜ごと、子守歌のように、母がきかせてくれた奄美の昔話。南の離れ島の暮しや風物。慕わしい父と母のこと-記憶の奥に刻まれた幼時の思い出と特攻隊長として島に駐屯した夫島尾敏雄との出会いなどを、ひたむきな眼差しで心のままに綴る。第十五回田村俊子賞受賞作。

感想・レビュー・書評

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  • 去年同名の映画化作品を見ましたが、本書は原作小説というのとはちょっと違って、どちらかというと著者の自伝的要素も含む回想エッセイ。奄美大島の豊かな自然、父母の愛情、島の言葉や歌、生き物たち、独自の風習など、幼い少女時代のミホさんの目に映る世界が、素朴な言葉で描き出されていて美しい。

    1章はおもに家族の思い出や、島の風習や自然の話。3回忌、7回忌などの節目に墓地から掘り出した骨を洗う「洗骨」という行事(?)に驚き。墓から人骨を掘り起こすというのはなかなか怖い作業だけれど、それをみんなで川でジャブジャブ洗うという作業中の風景が妙に明るくていいな。

    2章は、島にやってくる旅芸人などの思い出。巻末の吉本隆明の解説にあった「聖と俗」「まれびと」に対する民俗学的視点で見ると面白い。それにしてもミホさんの両親が、お父さんもお母さんもどちらも「人格者」というかなんというか「徳が高い」人たちすぎて感動。しかもミホさんは実子ではなく養女。優しく正しいひとたちに大切に大切に育てられたミホさんの心はきっと透明で純粋で美しすぎたがゆえに島を出たら壊れてしまったのだろう。

    3章でようやく「島尾隊長」が登場する。この部分が映画のベースになっていたようだ。島尾隊長は、それまでに島に来ていた乱暴で横暴な軍人たちと違い、礼儀正しく、老人や子供にも優しく、島の人たちからたいそう敬われる。しかも若くてイケメンだ。島尾隊長様さえいれば島を守ってくれる、と神様のように頼りにされていた彼を、ミホ自身も神格化・偶像化していたのだろう。

    しかし「そして私の夢の中にもしばしば島尾隊長は現れてきて、私の夫を悩ませているようです。」という「特攻隊長のころ」の最後の一文にハッとさせられる。ミホにとってだけでなく、島尾敏雄本人にとってももはや「島尾隊長」は別人なのだ。ミホが愛した「島尾隊長」は、ミホの夫の中にはもういない。しかしミホが愛しているのは今も「島尾隊長」だ。これは夫婦どちらにとっても切ない。そして恐ろしい。

    ※収録
    序文 島尾敏雄
    Ⅰ 真珠――父のために/アセと幼児たち――母のために(声援/挨拶)/茜雲/海辺の生と死(誕生のよろこび/海中の生誕/浜辺の死)/洗骨/鳥九題(マシキョ/猫とマシキョ/鳥さし富秀/アカヒゲ/ルリカケス/クッキャール/ウイチウジ/フクロウ/マヤとフクロウ
    Ⅱ 旅の人たち(沖縄芝居の役者衆/支那手妻の曲芸者/赤穂義士祭と旅の浪曲師/親子連れの踊り子
    Ⅲ 特攻隊長のころ/篋底の手紙/その夜

  • 学生時代に島尾敏雄の『出発は遂に訪れず』を読んでから30年。運命の悪戯で小説家などと結婚してしまった島娘の素朴な文章を読めるのかと思って手に取ると、そこには言いようもなく美しい世界が拡がっていた。

    小さな南の島の少女の目に映る季節の去来と、同じく来ては去っていく人々が、澱みなく繊細な文章で綴られている。
    思えば、後に彼女の夫となる人も、そうしたマレビトのひとりであったのだ。

    カタカナで表記され、共通語が添えられた島の人々の会話も興味深い。

  • 安藤

  • 映画「海辺の生と死」を観た。主演・満島ひかりブラボー!である。ので、この原作本も速攻買い。短編13のうち「その夜」をまず読んだ(原作に使われた中心的作品らしい)。以下「その夜」だけの感想になるが…。映画と原作の両方とも同じところで深く感動できる作品に出合うということはそうあるものではない。表現者(創作者)がまず同じ人ではないということもあるし、そもそも文章と映画では道具も表現手法も違うから。が、今回だけはどっちも、高いレベルで良かった。心がふるえるほどに。

  • 解説にある通り、生と死の狭間にあるような情景が生き生きと描かれている本。骨の話が美しかった。

  • ◆きっかけ
    MOE2017/7月号。p9。満島ひかりさんが自身の主演映画とのことで「原作の島尾ミホさんの短編小説は、奄美大島の古い絵本のように読めます」と紹介されていて。映画の中では満島さんが心揺さぶる島唄を唄っているそうで、映画も観てみたい。2017/6/16

  • 20170312
    ‪奄美大島で買った島尾ミホの『海辺の生と死』読了。なんと豊かな表現力。美しい奄美の自然と当時の島の生活が、音、匂い、色彩、光、熱気まで含めて目に浮かぶ。感受性豊かな方だったのね。他の著作も読んでみたい。‬

  • 2019/1/18購入

  • 旅芸人達の思い出を綴った文章が、一番感銘深い。

  • やさしいまろい欠片を糸に通して繋いだような、郷愁にあふれた、どこか懐かしく慕わしい随筆集。島尾ミホの幼少期、奄美の生活が、ていねいに、事実の通りと思う描写で綴られており、かのじょの観察力と思い深い眼差し、そしてどこかおおらかな雰囲気を(おそらくそれはかのじょの両親が、うしろに頼母しく居るということにもよるのだろう、解説の通り)こちらに感じさせるものである。
    島尾敏雄とその主著のことは、今作を知る前に、未読ながらぼんやり知っていたけれど、こんな穏やかなかのじょと結びつくとはとても思えない。
    ただ本文に窺えたそのひたむきさと、「島尾隊長」の「聖と俗(解説より)」に関する描写をみていると、私の中のかのじょの姿に、この世の淵を容易に跨ぎ超えてしまいそうなおそろしさが過ぎってしまいもする。
    2018.7.2.

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著者プロフィール

1919年、鹿児島県鹿児島市生まれ。
1921年、加計呂麻島(奄美大島)・押角の実父の妹夫婦、大平文一郎・吉鶴夫妻の許に引き取られる。
1946年、島尾敏雄と結婚。1974年、『海辺の生と死』(創樹社)刊行。本書で、1975年、南日本文学賞、田村俊子賞受賞。1987年、『祭り裏』(中央公論社)刊行。1996年、南海文学賞受賞。2007年、死去。2017年、『島尾敏雄・ミホ 愛の往復書簡』(中央公論社)刊行。

「2023年 『新装版 ヤポネシアの海辺から』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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