針がとぶ Goodbye Porkpie Hat (中公文庫)

  • 中央公論新社 (2013年11月22日発売)
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Amazon.co.jp ・本 / ISBN・EAN: 9784122058712

作品紹介・あらすじ

伯母が遺したLPの小さなキズ。針がとぶ一瞬の空白に、いつか、どこかで出会ったなつかしい人の記憶が降りてくる。遠い半島の雑貨屋。小さなホテルのクローク係。釣りの好きな女占い師…。ひそやかに響き合う、七つのストーリー。

みんなの感想まとめ

日常の中に潜む非日常を巧みに描く本作は、七つの短編から成り立っており、各話が独立しながらも微妙に繋がりを持っています。特に表題作「針がとぶ」では、LPレコードの針が飛ぶ瞬間に呼び起こされる懐かしい記憶...

感想・レビュー・書評

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  •  私の読書疲れ改善策の一つが、「吉田篤弘作品を読む」(あくまでも個人嗜好)です。思うに、ブルース・リーの如く、「考えるな、感じろ!」がピッタリで、読むというより吉田さんの声とその「語りの肌触り」が好きなんですね。
     吉田さんは、ストーリーがあってないような、日常のさりげない場面を非日常と巧みにつなげ、独特の世界観を創り上げている気がします。
     
     本作は2003年刊行、7篇の短編集です。各話が独立しているようで微妙につながり、連作短編とも受け取れます。同じ人、物、土地が、ふと別の話に登場し‥。でも、その関連性も緩いので、集中して留意すべきことでもなく、絶妙なバランスです。

     各話に共通しているのは、(他作品にも当てはまりますが)今ここにないもの、過ぎ去ったもの、あるけれど隠れているものにこだわり、優しい眼差しを向けている点です。
     見えなくても、聞こえなくてもいいものまで明瞭にする、そのことに欺かれないよう、注意深く世界を見たり聞いたりすること。この姿勢は、私たちが忘れている大切な一面でもあるようです。

     個人的に最も郷愁を誘ったのが、表題作の「針がとぶ」でした。LPレコードの針がとぶ一瞬に、(そこにあるはずの)聞こえない音楽を聴く経験、ジャケットを見ただけで脳内に音楽が流れる経験‥。ビートルズの「ホワイトアルバム」だっただけに、まさにドンピシャ! 切なくも温かい読後感でした。

  • 少し古い本だが、フォローしている方のレビューを読んでチョイス。

    7つ+おまけ1つの短いお話の集まり。
    繋がりはあるが連作というわけではなく、それぞれの話の中に他の話の中で出てきたことがひょっこりと顔を出すという不思議な世界。

    最初にある表題作がいい。
    翻訳家であり詩人である伯母の恬淡とした生き方の描写に惹かれ、彼女が亡くなった後、主人公が纏う寂寥感や静謐な緊張感に溢れる佇まいがまたいい。
    “針がとぶ”というニュアンスが、若い方には伝わるのだろうかね。
    続く、本屋の親父さんとホテルのクローク係の男の話も不思議な味わいがあり、3話目の“バリカン”の衒いのない人柄が好ましい。

    ただ、4話5話を境に物語はさらに色んな話が混然一体となり、なんだか夢うつつの世界に放り込まれたようでかなり戸惑う。
    そこまでも緩い繋がりは見えた話だったがさらにポコポコと入り込み、仕事に疲れた頭には曖昧な記憶あるいは脈絡のない夢ってな感じで、雰囲気は悪くないのだが頭の中でうまく消化しきれなかった。

  • 読友さんのレビューに共感し手にとりました。
    ありがとうございます♪
    「マイナスがゼロになる感じ。プラスまでぐいぐい引き上げないところも、私が吉田篤弘さんを好きな理由」…わっこの言葉がぴったり!と思いました。私が惹かれるのも、まさにここ。

    解説の小川洋子さんが「本書を閉じた時、とても長い旅から帰ったような気持ちになる」と。長袖のような形の半島、遥かロング・スリーヴスの海に思いを馳せます。

  • 一篇一編が短いと思ったら、思わぬところでそっとつながる。
    順序だててではないので…
    最後の小川洋子さんの解説もいいです。

  • 吉田さんが創った七つの物語が少しずつ重なり合い、そこから生まれた夢うつつの世界観。
    やっぱり吉田ワールド好きだ、と改めて思い知った一冊になった。
    物語の端々に出てくる単語を一つも見落とすことのないようじっくりと読み切った。お陰で付箋が頁にびっしり。

    聴いているレコードの針がとぶ瞬間に生まれる”無”。
    それは別に何かが無くなった訳でも喪った訳でもない。
    目の前に”在る”確かなものを追う人にはとうてい見ることのできないモノたち。
    心を研ぎ澄ませ、それこそ心を無にすれば自ずと見えてくる不確かな愛すべきモノたち。
    そんな、どこかふわふわした世界観にどっぷりひたれて有意義な休日を過ごせて幸せいっぱい。

    本編ラストの小川洋子さんの『解説』が、いい塩梅に吉田ワールドに合わさって一層嬉しい一冊に。
    私も小川洋子さんに習って、本棚の一角にそっと『針がとぶ』を置き部屋から出ようと思う。

  • 心安らぐ、長編のような短編集。
    その短編たちは、ささやかに響きあう。

    例えば、
    「針がとぶ」の詩人である柚利子伯母と、「パスパルトゥ」の絵描きの文四郎のように。
    柚利子伯母が日記に記していた「彼」とは、文四郎のことではないだろうか。
    「………「白い半島」。かつては私もそこに行くことを望んでいた。………彼のポケットから覗いていた極彩色。彼は鳥の生まれ変わりだったのだと、いまさらながら気づいた。」(針がとぶ より)
    「………もうずいぶんむかしのこと―若い詩人であった彼女と暮らしていたときのことだ。」(パスパルトゥ より)

    また例えば、
    「パスパルトゥ」の“低い声オーディション”に対し、「路地裏の小さな猿」の“登場人物がみな低音ボイスである小説”や、「水曜日の帽子」の“五人目を探しているコーラス・グループ”のように。

    そんな箇所が、場所を変え、時間軸は交差しながら、短編のそこここに散りばめられている。
    そして全ては繋がってゆく…。
    吉田さんらしいなぁ。
    長い昔話を読み終えた後のような良い気分で本を閉じた。


    お気に入りの文章
    「針がとぶ。
    そこに、わたしの聴くことのできない音楽があった。」

    「買ったばかりの本が、ぱりっとした青い包装紙にくるまれ、それを手にして街を歩く幸福。」

    「長袖のように細長く突き出た半島のカフスボタンのあたり。」

    「そういえば、さみしいというのは、どうしていいかわからないことであった。」

    「だいたい本だのなんだのと余計な持ち物が多すぎます。なんですかねぇ、まったく。そういうもので鎧ってないと怖くってしょうがないんだ。」

    「…とうとう答えを出せず、ずいぶんいろいろなものをこぼしながらここまで来てしまった。」

  • 立て続けに吉田さんのお話しを読むと
    その世界から帰って来れなくなる

  • 本を読むことで疲れた心やざわつく気持ちを落ち着かせることのできる人はいるでしょう。でも、わたしは逆で、そんなため息をつくような心持ちのときは本を読めないのです。しばらく本を読むことから離れてました。
    まぁ、だけど何かと飽き性(今のところ読書はセーフ……)のわたしは、悩むことや落ち込むことにも次第に飽きてくるんですよね。というか、どんよりしてる自分に疲れちゃうのです。そうなると、あとは野となれ山となれ「ま、なんとかなるわな」とゆっくりゆっくり浮上することができます。飽き性も時には悪くないものですね。
    とはいえ、まだリハビリ期間中のわたしには、吉田篤弘さんの本が心地いいのです。優しくて、あったかくて。失くした何かへの執着を素直に手放せるような。風にあたる傷口が自然にかさぶたになっていくような……

    「グッド・バイ」洗剤の容器も、テレビのスイッチを消すときにも、教えたがる気持ちにも。どんなものにもサヨナラするときは「グッド・バイ」です。七つの物語は、どこかで交差しながらまた離れていきます。次の物語に出会うために「グッド・バイ」を繰り返しながら。
    ついでに、わたしの昨日にも今日にも「グッド・バイ」です。そして明後日になる頃には明日も「グッド・バイ」いたしましょう。

  • ああ~、やっぱ
    コレ、コレ!(笑)

    日常とは違う世界へ誘うのが小説の役割だとしたなら、
    この作品は
    これほど優秀な小説はないってくらい
    ものの数行で別世界へダイブさせてくれる。


    詩人だった伯母さんと姪にあたる少女との
    突然の別れを描いた表題作
    『針がとぶ』、

    毎週金曜日に本を買うことだけが唯一の生き甲斐の男が
    ついに出会った運命の本とは…
    『金曜日の本』、

    ちょっと変わった少年バリカンと黒猫のコクテンと少女が過ごした
    遊園地の駐車場バイトの日々を牧歌的に描いた
    『月と6月と観覧車』、

    絵描きである旅人と島の雑貨屋主人との奇妙な友情に笑い、
    美しい風景描写に心奪われる良作
    『パスパルトゥ』、

    など時を超え国境を越えて
    絶妙にリンクし、シンクロし合う7つの物語。


    読書だけが与えてくれる
    至福のただなかに取り込まれる幸福感。

    それにしても
    よくもまぁ、これほど心地いい
    大人の童話が書けるもんやね(笑)
    吉田さん、ホンマ毎回感心するわ~


    物語る腕力がすんごい。

    ぐいぐい引き込まれる。


    グッドバイが口癖の詩人。
    言葉の響きを被るためのポークパイ・ハット。
    同じところで針がとぶ、
    ビートルズのホワイト・アルバム。
    マスト・ビーが口癖の本屋のおじさん。
    路地に集う猫の声。
    読書と古い映画が好きなホテルのクローク係。
    餡パンひとつぶんだけ毎日成長する猫。
    八十日間世界一周の道化。
    ありとあらゆるモノを取り揃えた万物雑貨屋。
    タンクという名の
    生まれつき足が不自由な猫。
    湯船に浮かんだ上弦の月。
    べらんめえ風「仁丹カレー」。
    残念賞のウイスキー・ボンボン。
    常夜灯を好きになってしまった天使。


    数ある吉田作品の中でも
    この一冊は特に
    印象深い人物が多く登場する。

    読み進めるうちに分かる
    短編と短編の共通点。

    一話に登場した詩人の伯母さんが
    三話目でティーンエイジャーとなって登場したり、
    大好きだった伯母さんと死に別れた姪の少女が
    最終話には放浪するカメラマンとして
    嬉しい成長を見せてくれたり。

    第二話のクローク係がハマる運命の本を書いた作者が
    第五話でその本を書いたきっかけをチラッと語ったり。

    緻密に繋がり時間軸がバラバラになった物語は
    読むたびに発見があって何度となく読み返したくなるし、
    ヨーロッパの短編映画や
    ロードムービーを観たかのような
    旅の余韻と
    じんわりあたたかな感慨に浸れます。


    個人的には
    忘れてはならないことを左手に書く
    詩人の伯母さんの癖は
    バリカンの影響だったことが嬉しかったなぁ。
    (日記を書き続けてることも)

    そして第二話の『金曜日の本』は
    買ったばかりの本を手にして
    街を歩く幸せを
    誰より理解できるであろうブクログユーザーなら
    間違いなくニヤニヤが止まらなくなる逸品です(笑)
    (特にこの話に出てくるホテルのクローク係は読書と映画が好きなオタクという点で大好きな映画「トゥルーロマンス」のクラレンスを思い出してしまった笑)

    そして駐車場を月面、監視小屋を宇宙船、黒猫をコクテン(黒点)と命名する少年バリカンのネーミングセンスの良さに唸ります!(笑)

    大好きな黒猫コクテンの話になると何故だか素っ気なく恥ずかしそうな顔をする彼のイノセンスがまた沁みるのですよ…( >_<)

    真打ちは百科事典のセールスマンや獣医師、自転車修理屋、コックなど様々な職業を渡り歩いてきた
    楽しい楽しい雑貨屋の主人。

    彼の含蓄あるセリフと数奇な人生に
    是非とも助演男優賞を!(笑)



    かくも言葉の力は強い。

    吉田さんの文体や研ぎ澄まされた言葉選びのセンスは
    一目惚れのように否応なしに僕を惹きつけて離さない。

    聴くことのできない音楽や
    言えなかった言葉、
    滅びゆく風景など
    いつか消えてなくなってしまうものに思いを馳せる彼、彼女たちが愛おしくて切ない
    不思議な大人の童話集です。


    彼女自身大ファンだと公言する
    小川洋子さんによる解説も秀逸。

    • nejidonさん
      円軌道の外さん、はじめまして♪
      たくさんのお気に入りとフォロー、ありがとうございます。
      丁寧で心地よいレビュー、楽しく読ませていただきま...
      円軌道の外さん、はじめまして♪
      たくさんのお気に入りとフォロー、ありがとうございます。
      丁寧で心地よいレビュー、楽しく読ませていただきました。
      吉田篤弘さんの作品に小川洋子さんが解説を寄せる・・贅沢の極みです(笑)
      なんと、登録された本の全てにレビューを載せていらっしゃるんですね!
      私もそれを目指しているのですが、なかなか出来ません。
      これから、ゆっくり本棚を観させていただきますね。
      こちらからもリフォローさせていただきます。
      ちなみに、ワタクシも左利きの0型です。
      (バンドでのパートはドラムですか?)
        ↑単なる勘です。ハズレだったらすみません。
      2014/09/06
    • 円軌道の外さん

      nejidonさんさん、遅くなりましたが、
      たくさんのお気に入りアンド
      フォローありがとうございます!

      しかも本好き、左利きで...

      nejidonさんさん、遅くなりましたが、
      たくさんのお気に入りアンド
      フォローありがとうございます!

      しかも本好き、左利きで
      血液型まで一緒とは
      偶然とは言え、なんか嬉しくなっちゃいました(笑)

      あっ、バンドでは
      ドラムではなくベースを担当しているのです(笑)
      (同じリズム楽器ですね笑)

      16歳から20年以上同じメンバーでやっているので
      もう完全に家族や身内のような感覚で
      ワイワイやってます(笑)

      小川洋子さんは
      前々から吉田作品のファンであることを公言してるので、
      好きが溢れ出し
      敬愛する感じが文章にも滲み出ていて
      読んでるこちらもニヤケてしまいましたよ(笑)

      あはは(笑)
      レビューはブクログに登録する前から
      趣味でずっと書いていたので
      苦痛やないし、
      好きな作品しか登録してないので(笑)
      そんなに難しいことではないんですよね(^^;)

      いえいえ、こちらこそ
      末永くよろしくお願いします!

      また本棚参考にさせてもらいますね(笑)


      2014/09/28
  • 日記、帽子、自転車、電球、雨、
    餡パン、靴、林檎、電話、食堂。

    日常の中に転がっているようなありふれた言葉が、なぜかキラキラして見える作品。

    そしてその言葉たちが、
    ポツリポツリと物語をつないでいく。
    つながるような…思い違いのような…
    そんなささやかさが、また魅力。

    前のページに戻って、
    あ〜こことここがつながってるのね、と
    きっちり読んではいけない作品です、多分…。

    気持ちがマイナスに傾きそうな時、
    こういう穏やかさに触れるとすーっと心が整う。

    何というか、マイナスがゼロになる感じ。
    プラスまでぐいぐい引き上げないところも、
    私が吉田篤弘さんを好きな理由。

  • 『針がとぶ』、他6編。読めば読むほど吉田さんの作品が大好きになっていく。

    『針がとぶ』は特によかった。ユイの個性的な伯母の言葉が私も好きになった。眼鏡をかけると、「見えなくていいものまで明瞭にしてしまう。そのことにあざむかれないよう、注意深く私はこの世界を見つめることにしよう。」見えるからいいとは限らないんだ。そうだよね。

    大好きな人の痕跡を解読する人はいなくなったという表現。失った人の大きさを感じる表現だと思った。時が止まったような感覚、何かを意味があるように感じる感覚。大切な人との別れを知ったときの感覚を思い出した。

    グッドバイ
    ポークパイ・ハット
    片笑い
    伯母の口から出てきた言葉たち。その人の個性が現れる言葉や口癖は、忘れられない。そして、その言葉を忘れたくないと思う気持ちは大切にしたい。針がとぶレコードの瞬間に、意味を見いだす感性もとてもいいなと思った。

    吉田さんの作品は、さりげないつながりがいつもある。私はそれがとても大好きで、読むのが楽しい。穏やかで、静かで、時にはっとさせられる言葉に出会うことができる、緩やかな水の流れのような文章を今回も楽しめた。

  • 本を開く瞬間、この人の世界に迷い込み、不思議なゆったりとした旅をしていたような心持ちで、本を閉じる。
    それぞれの話はとてもつながりそうになく思えるが、本を読み終える時にはそのつながりを見つけ、ほっこりとさせてくれる。
    登場人物の風変わりさ、設定の面白さにいつもクスッと笑わせてもらえる。

  • 積読していた吉田さんの本にやっと手を出した。遠い異国の雰囲気を醸し出す7つのストーリー。
    登場人物は日本人だったり外国人だったりで、まさか繋がりがあると思わず読んでいたのだが、ふと繋がりに気付き思わず声をあげてしまった。最後の小川洋子さんの解説にあった文章がまさにその通りだったので、ここに引用。

    ──舞台も登場人物たちもばらばらのはずなのに、どこかしら小さな一点と一点が響き合っている。読み手は不意をつかれたようにはっとし、まさかこんなところで……と思わず吐息を漏らす。

    こんな文章がレビューに書ければ良いのだけれど…(^_^;)

  • いちいちネーミングセンスが良すぎる。

    砂まじりの駐車場は「月面」
    そこにポツンといる黒猫は「コクテン(黒点)」
    青年が祖母と2人で暮らす家は「すももの木の家」
    ロングスリーブ半島とショートスリーブ半島(長袖と半袖)
    そして本のタイトルは「針がとぶ」。

    ひとつひとつの名前にきゅんとする。

    こんなにも静かで優しい本はじめて読んだ。
    長い旅から帰ってきたような読後感なのに、実際はレコードの針がとぶ、音楽が途切れたその一瞬にいたような感覚。

    小川洋子さんの解説もとても良い。
    一年の終わりにこれが読めてよかった。

  • 記憶と記録が交錯した、ノスタルジックな七つの物語。
    夜空の向こうの星のように、遠くに瞬いていて、そのひとつひとつがどこかしらで繋がっているような、吉田さん独特の不思議な世界が広がっています。
    「グッドバイ」という言葉が郷愁を帯びて、心地よい眠りに誘われます。

    小川洋子さんの解説が見事に寄り添って、余韻を残してくれています。
    何度でも読み返してみたい物語。

  • 経験はないが、
    <催眠術>にかけられた人の意識って、
    こんな感じなのかな…

    なんて、本を閉じた後
    しばらくぼ~んやり。

    機械的にコーヒーを飲んではいたようだが、
    確認してみると
    いつの間にかカップは空っぽ。
    (なんだ。)
    と、乾いた喉に不快を感じつつ、テーブルに視線を戻すと
    (散らばっていたはずのパンくずが無い。)

    なんて、
    頭がホント!
    いや、
    心がどっかに
    いっちゃってたとしか思えない。

    読んでいた、
    のではなく
    彷徨っていた、らしいので、
    ストーリーの記憶を辿る事ができない。

    巻末の小川洋子さんの解説を読み、
    (あ~…、やっぱり小説だったのか。)
    なんて、込み上げてきたありえない思いに、
    愕然としてしまったが、
    バラバラでふわふわな旅の記憶を
    丁寧な針捌きで、ちくちく縫い合わせ、見事なタペストリーに仕上げて頂いた様な、(あとがき)にも
    また見惚れてしまった。

  • 吉田さんの紡ぐ言葉の旅巡りは
    柔らかな海風が身体の中を吹き抜けて
    天空から物語の世界を見ているよう。

    表題作
    「針がとぶ・Goodbye Porkpie Hat」を含む、七つと一つの短い物語は
    微かなところで繋がりあいながら、見知らぬ世界への旅にいざなってくれます。

    ポークパイ・ハットが大好きで
    グッドバイが口癖の由利子伯母さん。

    金曜日は仕事に出る前に
    角の本屋に立ち寄ることが愉しみな
    クロークルームの男。

    遊園地の駐車場で
    バリカンと一緒に働いているのは
    あれっ.....あの彼女?

    解説の小川洋子さんのお話にもあったように
    集められた七つと一つのお話は、一つずつが個々の短編のようであって
    だけど実はお互いがリンクしあっている連作集で、なのに終わってみると
    それらは全部一つにまとまった長編になっている。

    摩訶不思議な世界への旅はなんと心地いいのだろう...

    古いLPレコードの小さなキズに、一瞬針がとぶ。
    その針がとんだ一瞬の、ほんのわずかな空白に
    懐かしい記憶がふいに降りてきて旅は始まる...

  • 仕事帰り、疲れた体を引き摺って帰る道でふと見上げた夕焼け空とか
    霧の中にふんわり浮かび上がる真っ白な灯台とか
    薄暮の淡いブルーの中に輝く一番星とか

    言語化したくない想いがある。
    これは、ふんわりさせておきたい。
    はっきり白黒させておきたくない。
    そんな気持ち。

    この本には、そんな気持ちが詰まっている。

  • 小川洋子さんの密やかな結晶を読んだ後に読みたくなる本書。
    失われたもの、消えてなくなってしまうもの、架空の島、懐かしいもの、小説の中の小説、愛すべき人たち、そしてグッド・バイ。
    2冊に共通するものは、他にもたくさんあるんじゃないだろうか。

    読み進めるうちに、密やかな連なりが見えてきて、思わずはっとする。
    それはまるで針がとぶその瞬間のような、
    電球がぴんっとこと切れるような。
    順不同の年代記を読んでいたかのような不思議な読後感。
    解説は小川洋子さん。

  • 文章が好き ◯
    作品全体の雰囲気が好き ◯
    内容結末に納得がいった ◯
    また読みたい ◯
    その他 ◯

    吉田篤弘作品初です。 

    吉田作品への愛を流しているSNSで存在を知りました。
    そして読み始めてすぐに私も「やだ、好き!」となりました。

    静かに流れるお話が、時に心地よい眠りを呼びます。いつもならストーリーばかり追って、先へ先へと進みたがるのに、まあこれもいいか、と一眠り。目覚めた頭にまた新しい文章。
    こんなに心地いいことってあるんだなあ。



    さて本作品を読み終わって、登場人物をつなげる作業をしようかと思ったのですが、なんかそんなことするのもヤボかと思い、やめました。グッドバイ。

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著者プロフィール

1962年、東京生まれ。小説を執筆しつつ、「クラフト・エヴィング商會」名義による著作、装丁の仕事を続けている。2001年講談社出版文化賞・ブックデザイン賞受賞。『つむじ風食堂とぼく』『雲と鉛筆』 (いずれもちくまプリマー新書)、『つむじ風食堂の夜』(ちくま文庫)、『それからはスープのことばかり考えて暮らした』『レインコートを着た犬』『モナリザの背中』(中公文庫)など著書多数。

「2022年 『物語のあるところ 月舟町ダイアローグ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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