小児がん外科医 - 君たちが教えてくれたこと (中公文庫 ま 45-1)
- 中央公論新社 (2014年1月23日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (325ページ)
- / ISBN・EAN: 9784122058941
作品紹介・あらすじ
助からないケースのほうが多い「小児固形がん」。小児外科医の筆者は、闘病する子どもたちや患者家族と濃密なやりとりを重ねながら、どんな治療を施し、その過程で何を考えてきたのか?そして、自ら突然の病に冒されたとき、キャリアの途上で下した決断とは?生死に対して、真正面から向き合った、輝く命の記録。
感想・レビュー・書評
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仕事関係の本も読んでみようというのは久しぶり。かなり前に読んだ杉村隆大先生も、先月の2020年9月6日に亡くなったそうで。
さて、実のところ、めちゃくちゃ近い内容なので、必要以上に辛口の評価とさせてもらいますが、お涙頂戴系のエピソードの連続なので、割と一般の人にはひびく内容の一冊。
千葉では有名な、小児がん患者とサバイバーの支援をされている松永先生の、小児がんとの出会いから、千葉大学小児外科を辞するまで、主に助けられなかった患者のエピソードを綴る。小児がんなので、予後の悪いものでなければ8割以上が助かるも、やはり残りのうちのいくらかはどれだけ治療を行っても、現状ではunfavorableな結果となってしまう。
本書内にある、横紋筋肉腫やN-mycの増幅した神経芽腫はその代表格である。不調で入院し、一旦は元気に退院していくが、1年前後で再発し、入退院を繰り返している間に、手のつけられない状態になってしまうという絶望感、家族の思いというものがたくさん書かれており、医療関係者以外にもぐっと来るものがあると思う。
ただ、「神経芽腫のメカニズムを次々と明らかにしていった」と言う割に、書き方もあるだろうが、どうも対処療法を行っているようにしか解釈できないような部分があったのは残念である。もう少し、背景にある進歩というものがしっかり書かれていると良かったのではないか。
あとがきまでの本文は、実に辛い内容だが、あとがきの辺りでパッと明るくなるのは救いだろう。医者だけでなく、医療関係者の希望というのは、そういうところにあるのだから。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
この本に出会えてよかったなと心から思えることは少ないと思うが、私の短い人生の中で間違いなく、そう思えた本のうちのひとつである。
命に対する向き合い方、それは死に対する向き合い方と同義であるのかもしれないと思った。
これを考えることをやめてしまうことは簡単である。まして自分や周りの人間など、身近に死や生が実感として存在していない場合、考えようと思うことすらないかもしれない。
けれど、本書の中に出てくる私よりもずっと小さい子供たちと、その家族は、徹底的にこの試練、難関を突きつけられて、それを自分たちなりに乗り越えていこうとしなくてはならなかった。その苦悶する姿、そして自分達の答えを見つけた姿はかなり感慨深く思われ、読んでいる最中何度も目に涙が浮かんだ。
そして、この家族と子供たちとともに、その一員となって一緒に苦しみ、一緒に考えて道を示し、一緒に幸せを共有する。そんな「小児がん外科医」という職業は本当に苛酷ながらも、素敵な職業であるなと思った。医師とはこうあるべきなのだろう。見習いたいと強く思った。
筆者の意図からも、一人の読者としても、この本が世の中の様々な人々の手に渡り、読まれて継がれていくことを強く願う。 -
人間の業に触れる仕事こそ、他の何によっても代替できない。
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小児がんと向き合い続けた医師が書いた本。だから、出てくる子供たちのほとんどは、2、3年のつらい闘病後に亡くなってしまう。でも悲しい話の中にも、どこか温かい気持ちにもさせてくれる本。なぜか、時々こういう本が読みたくなる時がある。