戦争の世界史(上) (中公文庫 マ 10-5)

  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (477ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122058972

作品紹介・あらすじ

人類はいかにして軍事力の強化を追求し、技術・軍事組織・人間社会の均衡はどのように変遷してきたか。各専門分野を自在に横断し、巨大な全体像を描きだす野心的世界史。上巻は古代文明における軍事技術の発達から、仏革命と英産業革命が及ぼした影響まで。

感想・レビュー・書評

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  •  著者の疫病の世界史がミクロの寄生、本書がマクロの寄生を扱ったもの。全体として、ミクロとマクロの寄生という整理をしたこと自体が新しかったのだろうけれど、それはもっぱらミクロ寄生の影響度が過小評価されていたことによるのであり、改めてマクロの方に焦点を当てても語る内容には新鮮味がなかったように感じた。
     例えば、ミクロとマクロを並べて、栄養的な観点で農民層への影響度の計算などをしていれば驚きだったかもしれない。でも、おそらく情報不足で無理だっただろう。

  • 士農工商...「人が作ったものを売るだけ」として蔑まれた商人階級。しかし、余剰品の交換から始まった市場経済は次第に必需品の調達に不可欠な基盤に成長する。そして軍事技術・軍需物資が市場に依存するようになったとき、「商」は士農工はおろか王や国家以上の力を持つ存在になる。
    強力な大帝国が市場を国家に従わせられた東洋と、国家間の力が均衡したことで国家から独立した市場が存在し、やがては国家のルールを市場原理に合わせることで発展した西欧先進諸国。

    国家を動かす力の根源を「統治者の道徳」に求めた東洋と「人間の欲望」に置いた西欧の抗争は西欧の完全勝利に終わった。

    「戦争のビジネス化」とは「金持ちが勝つ世界」のことであり、「金持ちが勝つ世界」とは現代資本主義そのものである。

  • 人類の装備が進化することで、社会や文化の歴史にどう変化を与えたのかを追う一冊。
    上巻は古代から産業革命まで。
    世界の覇者が、中国からヨーロッパへと動いていく。

  • Art of War の進化から世界史を読み解く。『銃・病原菌・鉄』の「銃」部分のより詳しい元ネタ本。軍事がわかると世界を理解する解像度が一段上がる。

  • 世界史を「戦争」をメインテーマにふり返ることは「戦争という技芸」とそこに至る「技術開発の歴史」を考える事でもある。世界全史を通じてヨーロッパが非ヨーロッパ諸国に対して圧倒的な軍事優位を勝ち得ていたわけだが、とりわけイギリスとフランスの軍拡競争にフランス政治革命とイギリス産業革命がもたらした影響は大きく、本書でも多くのページを割いてとりあげられる。マクニールの本に多くみられる婉曲表現がこの本でも出てきて頭にすっと入ってこない箇所もあったが、「疫病と世界史」よりはテーマがテーマだけに面白いような気がする。あと訳者も良い。詳細→
    http://takeshi3017.chu.jp/file8/naiyou28504.html

  • 209

  • MWa

  • 中国とヨーロッパを対比させながら、文章を進めていたのが面白かった。
    基本的に文官が武官の上に存在し、儒教の思想により国が経済を統制し続けた中国が画期的な技術や自由な交易の発展を阻害してしまったのに対し、複数の国家が存在したおかげで競争が生まれ、持続的な発展を遂げることができたのは何たる皮肉だろうか。
    国家の統制が上手く行っていた方が結果的に発展が遅れてしまうとはね。
    そう考えるとヨーロッパ、アメリカからは大きく離れ、中国とは交流できるが直接的な繋がりの少ない日本列島の位置は恵まれているな。
    銃や大砲の製造にも歴史がある事も感じたな。蒸気機関の登場が大砲の生産に影響を与えるとは思わなかったよ。戦国日本では精度の低いものしか作れないんだろうな。
    細かい話だけど、ナッサウ伯マウリッツの火縄銃を後退しながら撃つ背進攻撃(カウンター・マーチ)、戦国大名の島津家が火縄銃を前進しながら撃つ繰り詰めと似た戦術がヨーロッパとアジアで同時期に生まれていたことはすごく興味を持たされた。

  • シカゴ大学歴史学者による、軍事に焦点を当てた世界史。紀元前からの武器や戦術、軍事と政治、それを支える経済など、軍事に焦点を当てた世界史になっており、参考になった。国家の軍事に関する考え方がよくわかった。
    「紀元前1800年から1500年にかけて、戦車を装備した蛮族出身の征服者たちが、中東のあらゆる文明化された地域を蹂躙した」p38
    「インドでは紀元前1500年ごろ、戦車戦士集団が侵入してインダス文明をくつがえし、インドは暗黒時代に陥った」p39
    「紀元前612年にニネヴェの都を掠奪し、アッシリア帝国を永遠に滅ぼした新戦力は、馬の背中にまたがったスキタイの騎馬戦士だった」p46
    「西暦1000年頃を境に、中国の産業と軍備にめざましい変化が起こった。その内容はヨーロッパと比較して数百年も先んじたものであった。ところがその新しい生産のパターンは、いっときは巨大な規模で展開したにもかかわらず、出現したときと同じくらいのめざましさで崩壊してしまった」p67
    「中国の技術情報(火薬、羅針盤、印刷術など)が外へと伝播するにつれて、旧世界の中国以外の部分に新しい可能性が開けた。それがもっとも顕著であったのが西ヨーロッパであった」p113
    「クロスボウの操作の簡単さは、戦場において身分の格差を解消する働きをした。めっぽう金のかかる装備をした重装騎士が、ちょっと戦場慣れした程度の平民どもに必ずしも勝てなくなったのである」p145
    「今日の世界の軍事バランスを緊張させ続けている軍拡競争もまた、14世紀に始まった」p149
    「実効的な徴税や、長期公債発行による財政資金調達、技術の高い専門職業人による軍事の運営をなしえた都市は、その都市の内政においては平和維持を達成したけれども、組織的暴力につきものの不安定性を解消したわけではなく、それを対外関係と外交と国際戦争の領域に輸出したのだといえる」p166
    「火薬の着想だけでなく、大砲の着想もまた中国に発してヨーロッパに到来したのだとしても、ヨーロッパ人が大砲の設計において、いかなる国民をも凌駕し、この分野での優位を第二次世界大戦まで譲らなかったことは確かである」p171
    「大砲の砲身は破裂しやすかった。最も良い解決法は、鋳物の技術を使うことであった。ヨーロッパではすでに鐘を製造する職人の手で、鋳物の技術が非常に高い水準にまで発達していたからである」p176
    「1600~1750年ローマ)マウリッツ公の軍隊においては、シャベルは剣よりも、さらにはマスケット銃よりも強いとされた(陣地構築重視)」p257
    「(1600~1750年代)ヨーロッパの軍事機構は、地球上の他の民族や国家に割をくわせての経済的・政治的な膨張を維持し、かつそれによって維持されていたのである」p288
    「(18世紀)あらゆる物資の中で一番の難物が馬の飼い葉で、何といっても遠くまで運搬するにはかさばりすぎた」p321
    「マスケット銃や軍服や靴などの手工職人による製作も、国家の造兵廠における大砲の製造も、戦時だからといって一日あたりの生産量を増やすのは容易ではなかった。従って戦争は通例、事前に蓄積されたストックを取り崩して戦われたのである」p322
    「フランス革命勃発時点において、フランス以外のヨーロッパ諸国の陸軍の野砲は、程度の差こそあったがすべてフランスに遅れをとっていた。ところが平和が再来した1815年の時点では、大国はすべてフランスの開戦当時の野砲の水準におおむね追いついていた」p348
    「モスクワからの撤退の過程では、補給システムが完全に破綻してしまったので、ナポレオンの指揮下にあった兵員は少数を除いて全員が戦死するか捕虜になったのである」p414

  • いつものように感想は下巻でとしたいところだが
    そうすると下巻を読み終えるまでに上巻の内容が忘却されることが目に見えているので
    仕方なく感想を書く
    われながら何が仕方ないのか自然に出てきて不思議だけれども

    主題は単純に軍事史総覧でなく戦争の商業化あるいは産業化とされていて
    上巻では1850年までだが一章で1000年まで
    二章で1500年までの中国に焦点をあてるなどにそれが表されている

    1章では後章で当然西洋がなぜ他に隔絶したかの説明に際し
    何度も範にされている古代ローマの成功について
    かなりざっぱり切り落としているのが目につくが
    いってみれば中国と同じく文明の先行が最大の原因であるから仕方ないことか

    2章で中国に焦点を当てているのは先の主題の通り
    宋代になぜ産業革命の先駆といえる状況が達成されなかったに関連する
    水滸伝をみると残当な気もするが
    もちろん歴史ではそういうみんぞくとしてのきしつみたいな曖昧なことでは
    説明にならないから当然ではある

    3章では時代を戻し1000年から1600年に掛けての商業の発展と傭兵という形態に
    火器による変化の兆しが主で
    わりと普通に歴史ものな内容だが
    日本において大砲がまったく活用されなかったのも不思議なことである
    ドリフののぶのぶも大砲なにそれ強いのって感じだし硝石には詳しいのにね

    4章は1600年から1750までで
    戦争商業化と封建制の両立下においてなぜ西洋軍事力がこの時代に突出したかについて
    火器は日本のように極東にも行き渡って集団運用された実績があるので
    ワレンシュタイン(と書いてあるがドイツ語読みならヴァレンシュタイン)の
    一代に終わった軍政の技術でなく
    マウリッツの軍隊統制技術に力を割いている
    以下そこから密集隊形での教練効果について引用
    「上から決められた規則を遵奉するのは軍隊ではあたりまえのこととなったが、それは、規則違反に対して定められた厳しい罰則が怖いからだけではなくて、兵卒たちが、自分では頭を使わない盲目的な服従の姿勢と、軍隊のルーティンのなかのさまざま儀式のうちに、掛け値なしの心理的満足をみいだしたからでもあった。わが部隊への誇りを共有する一体感は、それ以外誇るべきものをほとんど持たない何十万という人間たちにとって、実感のこもった現実であった。(P267より)」
    「いま、ひとりの男を連れてきて、伴奏なしで十五分間踊ってみろと命じたならば、いったいかれはそれに堪えられるだろうか。(中略)行進中に国旗に敬意を表して太鼓を鳴らしていると、兵士たちはそのつもりもなく、それに気づいてさえいないのに、いつのまにかお互いに足並みをそろえて行進しているのである。(p270より)」
    教練のいわゆる「武力」上昇でなく「統率」上昇効果について良く説明されているが
    それが制度化していち早く定着した
    軍制を軍政として完成させたことのほうが大きな達成であり
    それが軍事が国政でなく商業化されていたからというのはわかるようでもあり
    やっぱり古代ローマにおける空前の達成とその後の衰退が謎でもある
    中国が達成できなかったのはわかる

    5章は1700年から1789年まで6章は1789年から1840年で
    急に数字が具体的になったように軍事の産業化も明確になってくる
    産業の方の革命前夜としてイギリスとフランスがなぜこの前後に突出し得たかと
    国家総動員準備や大洋を越えて独立戦争を支えたロイヤルネイビーの活躍がひかる(ちがう)
    これまでと同じくカエサルがすごいチンギスハーンがすごいでないのと同じように
    ナポレオン戦争もフランスの18世紀後半の人口増加とそれ以降の急激な出生率減少などから
    協調しておくとからでなくなどから説明されていてわかる

    下巻に続く

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著者プロフィール

1917年、カナダのバンクーバーに生まれる。1947年、コーネル大学で博士号を取得。現在、シカゴ大学名誉教授(歴史学)。著書『西欧の興隆――人間社会の歴史』(1963年、未邦訳)で、各文明の個別独立の発展ではなく文明間の相互の影響に力点を置いた世界通史を描き、その後の歴史研究に大きな影響を与えた。『西欧の興隆』を基に学生向けの教科書といて書いた『世界史』(1967年、原題:A World History 邦訳:中公文庫)は広く読まれ、日本でもベストセラーとなった。本書『世界史――人類の結びつきと相互作用の歴史』(2003年、原題:The Human Web: A bird's-eye View of World History)は、著者による最新版の世界通史で、世界史概説書として、いま世界で最もよく読まれている1冊である。

「2015年 『世界史 II』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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