- Amazon.co.jp ・本 (246ページ)
- / ISBN・EAN: 9784122059122
感想・レビュー・書評
-
詳細をみるコメント0件をすべて表示
-
第一夜 杖
第二夜 やまびこビスケット
第三夜 B談話室
第四夜 冬眠中のヤマネ
第五夜 コンソメスープの名人
第六夜 槍投げの青年
第七夜 死んだおばあさん
第八夜 花束
第九夜 ハキリアリ -
人質たちが、自分の中にしまわれている過去を、そっと取り出して、言葉の舟にのせる。こうして人質の朗読会は開かれた。9人それぞれの過去が綴られる短編集。
日常から外れた、少し不思議なお話。
すべての物語の中に、死が横たわっている。みんな、いつかは死ぬのだ。その時を前にしたら、私は何を思い、何を語るのだろうか。
心が重く沈みこみ、それでいて温かみを感じる作品。なんだか、苦しい。
☆あらすじ☆
遠く隔絶された場所から、彼らの声は届いた―慎 み深い拍手で始まる朗読会。祈りにも似たその行 為に耳を澄ませるのは、人質たちと見張り役の犯 人、そして…。人生のささやかな一場面が鮮やかに 甦る。それは絶望ではなく、今日を生きるための 物語。しみじみと深く胸を打つ、小川洋子ならで はの小説世界。 -
短編集は、どうしてもひとつやふたつ贔屓にしてしまう話があって、正直それを無意識に探してしまうのだけど、この短編は全てが贔屓できてしまうほど、愛らしい。
ああ、小川洋子を読んでいるという実感と幸せ。 -
やっぱりこの人の作品は素晴らしい。静寂のなかに漂う狂気と美しさ、優しさ。この人の作品に触れ合うたび、まだ生きてみようと思う。
-
2014.4.19 読了。死を迎えた人質たちの過去。何も考えずに読めば、短編集として読める。人質たちの物語であることを意識した瞬間、様相が一変する。遺書を読んでいるような気持ちになった。不確定な未来ではなく、既に確定した揺るぎない過去を語る彼ら。もし彼らがこれからのことを語っていたなら、人々あるいは読者は一時的にあわれみの眼差しを向けるだけで彼らをいつしか忘れてしまっていただろう。過去を書き記すことは自分の存在した確かな証を残すこと。ラジオを通して、彼らの存在は生き続ける。彼らの話はきっと誰かの記憶に残り、変わらない過去となるだろうから。ハキリアリの行進のように彼らの存在が連綿と伝わることを祈る。
-
手のひらで握りこめるくらいの白い石がおいてある。よく見ると、ふんわりと透き通った、乳白色のガラスである。表面はすべすべとして、どこかいびつで、ひんやりとしているけれど、ほのかな温度が感じられる。硬質なのに印象はやわらかく、しかし薄い膜のようなものにとざされて、決して直接は触れられない。どこかエロチックで、魅力的な死のにおいがする。
小川洋子氏の作品に触れると、いつもそんなガラスの石が思い浮かぶ。
遠い外国の地で人質にされた日本人たち。明日をも知れぬ彼らは、自分たちの人生において印象深い出来事を書きつづり、順番に朗読しあうようになった。聞いているのは、自分たちと、犯人グループと、ひそかに盗聴していた捜査員のみ。
彼らは、先行きのまったく見えない自分たちの未来をいったいどうとらえていたのだろう。絶望なのか、わずかにでも希望を抱いていたのか、それともそんなことはもう超えてしまっていたのだろうか。紡がれる彼らの物語は、無意識か、直接ではなくても、どれもが生や死に触れられている。
今このときを生きるために、過去を語る。誰かに語りたい物語のひとつを誰もが持っているとするなら、自分は何を語るだろう。
そんな極限状態になくとも、ふと、なんでもないむかしの光景を思い出すことがある。強い印象をもたない些細なできごとが、今の自分をかたちづくっているのだと実感する瞬間でもある。
小さな毎日を積み重ねて生きている、という意味をなんとなくいとしく思う、そんなきっかけになる、ちいさな宝物みたいな1冊。 -
土屋さんの作品が表紙なので、気になっていました。
文庫になったので、即購入。
ジャケ買いしたわけですが、内容は素晴らしかったです。
有名な作家さんなので、今まで読んでいないのか!?
という感じでしたが、本当に勿体無いことをしていたと
思うほど。
1冊でひとつのお話ですが、短編集として読んでも
楽しめると思います。 -
遠い異国の地で反政府ゲリラによって拉致された人々。彼らは思い出を書いて朗読し合う。自分の中にしまわれている過去に耳を澄ませ語るのだった。
ひとつひとつの物語は実に小川洋子らしいものです。大家の老婆と食べるビスケット、様々な会合が行われる談話室、一心不乱に作られるコンソメスープ、葬儀会館の課長から貰った花束。ごくありふれたことを描いているようでありながら大きな虚構に包まれているような妙な感覚。それが「人質の朗読会」という舞台設定を与えられることにより、ただ単に短編を集めたものとは異なるイメージが広がります。
もしかすると最後に何か仕掛けがあるのではとも思いましたが、そういうこともなく最後は朗読の聞き手の思い出によって締める。それがまた素敵な彩りを加えてくれます。 -
遠く離れた彼の地に閉ざされた人々の言葉に耳を澄ませる…
3.11の震災後に書かれたのかと思ったけれど、刊行されたのはその直前。しかし、今この本を読んで感じることは「人々の物語に耳を澄ませる」ことの必要性。そこにいる(そこにいた)人々のそれぞれの物語の存在を感じ、耳を澄ませることこそ、私たちが忘れてはいけない…。
そして、その人たち自身にとって「物語る」ことが、いかに生きる力を生み出すかという「物語ることの必要性」も見事に表現しています。
さらに、その語られる物語に登場する人物は日々をともに過ごす存在ではなく、人生のほんの一瞬偶然もたらされた出会いの相手。それを「意味ある偶然(シンクロニシティ)」として自分の中に取り込み自分だけの物語を生み出すことが、生きる上で必要な場面があるのだということを教えてくれる。
「物語る」ことが人生にとってどれほど大きな意味を持つのかということを三つの視点で感じることができる作品です。