人質の朗読会 (中公文庫)

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  • 中央公論新社
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レビュー : 192
  • Amazon.co.jp ・本 (246ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122059122

感想・レビュー・書評

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  • とても静かな物語。
    を寄せ集めたような短編集。

    「人質の朗読会」という共通の背景があるからこそ、
    関連の無いバラバラの物語も、
    共通した優しさやあたたかさを感じるんだろう。
    と思えた。

  • introduction───
    そのニュースは地球の裏側にある、一度聞いただけではとても発音できそうにない込み入った名前の村からもたらされた。
    現地時間午後四時半頃、W旅行社が企画したツアーの参加者七人、及び添乗員と現地人運転手、計九人の乗ったマイクロバスが遺跡観光を終えて首都へ向かう帰路、反政府ゲリラの襲撃を受け、運転手を除く八人がバスごと拉致された。
    ─────────

    この人の言葉の選び方、文章の組み立て方はいつも本当に繊細で、他の誰にも真似のできない静謐さに満ちていて、安定した精神状態でなければとても読むことができないと思う。

    絶望ではなく、今日を生きるための物語。
    いつになったら解放されるのかという未来じゃない。自分の中にしまわれている過去、未来がどうあろうと決して損なわれない過去だ。

    先の見えない状況下で紡がれるからなのか、どの物語にも常に死の影が潜んでいる。

  • 小川洋子さんの書く小説には、静謐がある。
    それはどこか、湖底に沈んだ街を思わせる。
    今はいない誰かの思い出の品から猥雑な生活を連想させる物まで、細々としたものが往時のままに残された場所は、しかし青く澄んだ水の底に眠る過去のものにすぎない。
    十年近く前に読んだ「沈黙博物館」「薬指の標本」、もうあらすじすらも思い出せない。だがあの作品たちの何が響いてきたのかを思い出した。
    誰かに、何かに、ひっそりと、ひんやりと、大切に守られている沈黙の気配だ。

  • 某国でテロ組織の人質となった日本人旅行者が8名の、監禁されている間朗読することになった彼らともう一人の過去の物語。

    佐藤隆太も言っているが、自分も果たして人に伝えるような、残せるような話はあるだろうか?というのが最初の感想だ。

    人質となった時点でもうもう先がないことは決まっていたのだろうか、自らの生きた証として過去の物語を残すことが始まった朗読会。

    不思議な話、心にしみる話など様々だが、どれも共通していることはそれぞれのその人の存在が現れている。

    だからこそ思うのだただのエピソードというだけでなく私と言う者について語ることができる話が今まであったろうかと。

    もう一度過去を思い返してみたい、自分にも証となる話がきっとあったのではないかと信じて。

  • 2014年の61冊目です。
    九つの物語が収められている短編集です。設定は、日本からの旅行会社のツアー参加者が、地球の反対側にある国の山岳地帯で反政府ゲリラの人質になってしまう。捉えられた八人の人質と救出作戦に携わった政府軍兵士の物語です。長い人質生活の中で、彼らは自分の人生における”忘れられない”過去を一つずつ物語にして語ることにしたのです。話の内容は”小川洋子”ワールド全開です。日常生活の中に流れている整然とした時間の刻みに、ちょっとだけ引っ掛かりを残してしなった”自分にとっての忘れられない過去”が誰の人生にもある。それを一つ一つの物語の中で表現しています。
    アルファベットの形をしたビスケット工場で働く女性と大家さんとの交流を描いた「やまびこビスケット」。危機言語を救う友の会のような奇妙な会合が開かれる公民館の「B談話室」。出来損ないのぬいぐるみを路上に拡げ売っている老人と少年の交流を描いた「冬眠中のヤマネ」など、人の心に残り、その周りにある記憶が解け落ちても、確実に生き続ける”その出来事”が人の心の品性を定めていく気がしました。

  • 人質たちが、自分の中にしまわれている過去を、そっと取り出して、言葉の舟にのせる。こうして人質の朗読会は開かれた。9人それぞれの過去が綴られる短編集。

    日常から外れた、少し不思議なお話。
    すべての物語の中に、死が横たわっている。みんな、いつかは死ぬのだ。その時を前にしたら、私は何を思い、何を語るのだろうか。

    心が重く沈みこみ、それでいて温かみを感じる作品。なんだか、苦しい。

    ☆あらすじ☆
    遠く隔絶された場所から、彼らの声は届いた―慎 み深い拍手で始まる朗読会。祈りにも似たその行 為に耳を澄ませるのは、人質たちと見張り役の犯 人、そして…。人生のささやかな一場面が鮮やかに 甦る。それは絶望ではなく、今日を生きるための 物語。しみじみと深く胸を打つ、小川洋子ならで はの小説世界。

  • 短編集は、どうしてもひとつやふたつ贔屓にしてしまう話があって、正直それを無意識に探してしまうのだけど、この短編は全てが贔屓できてしまうほど、愛らしい。

    ああ、小川洋子を読んでいるという実感と幸せ。

  • やっぱりこの人の作品は素晴らしい。静寂のなかに漂う狂気と美しさ、優しさ。この人の作品に触れ合うたび、まだ生きてみようと思う。

  • 2014.4.19 読了。死を迎えた人質たちの過去。何も考えずに読めば、短編集として読める。人質たちの物語であることを意識した瞬間、様相が一変する。遺書を読んでいるような気持ちになった。不確定な未来ではなく、既に確定した揺るぎない過去を語る彼ら。もし彼らがこれからのことを語っていたなら、人々あるいは読者は一時的にあわれみの眼差しを向けるだけで彼らをいつしか忘れてしまっていただろう。過去を書き記すことは自分の存在した確かな証を残すこと。ラジオを通して、彼らの存在は生き続ける。彼らの話はきっと誰かの記憶に残り、変わらない過去となるだろうから。ハキリアリの行進のように彼らの存在が連綿と伝わることを祈る。

  • 手のひらで握りこめるくらいの白い石がおいてある。よく見ると、ふんわりと透き通った、乳白色のガラスである。表面はすべすべとして、どこかいびつで、ひんやりとしているけれど、ほのかな温度が感じられる。硬質なのに印象はやわらかく、しかし薄い膜のようなものにとざされて、決して直接は触れられない。どこかエロチックで、魅力的な死のにおいがする。

    小川洋子氏の作品に触れると、いつもそんなガラスの石が思い浮かぶ。

    遠い外国の地で人質にされた日本人たち。明日をも知れぬ彼らは、自分たちの人生において印象深い出来事を書きつづり、順番に朗読しあうようになった。聞いているのは、自分たちと、犯人グループと、ひそかに盗聴していた捜査員のみ。

    彼らは、先行きのまったく見えない自分たちの未来をいったいどうとらえていたのだろう。絶望なのか、わずかにでも希望を抱いていたのか、それともそんなことはもう超えてしまっていたのだろうか。紡がれる彼らの物語は、無意識か、直接ではなくても、どれもが生や死に触れられている。

    今このときを生きるために、過去を語る。誰かに語りたい物語のひとつを誰もが持っているとするなら、自分は何を語るだろう。

    そんな極限状態になくとも、ふと、なんでもないむかしの光景を思い出すことがある。強い印象をもたない些細なできごとが、今の自分をかたちづくっているのだと実感する瞬間でもある。

    小さな毎日を積み重ねて生きている、という意味をなんとなくいとしく思う、そんなきっかけになる、ちいさな宝物みたいな1冊。

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著者プロフィール

小川 洋子(おがわ ようこ)
1962年、岡山県生まれ。高校時代に文芸を志し、早稲田大学第一文学部文芸専修入学。在学中から文芸賞に応募。卒業後一般企業に就職したが、1986年の結婚を機に退職、小説家の道に進む。
1991年『妊娠カレンダー』で芥川賞、2004年『博士の愛した数式』読売文学賞、本屋大賞、2006年『ミーナの行進』谷崎潤一郎賞、2012年『ことり』で芸術選奨文部科学大臣賞、2013年早稲田大学坪内逍遙大賞をそれぞれ受賞。芥川賞、太宰治賞、読売文学賞、河合隼雄物語賞などの選考委員を務める。
『博士の愛した数式』は映画化され、大ヒットとなった。受賞作以外の代表作として、『薬指の標本』『人質の朗読会』『猫を抱いて象と泳ぐ』。

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