昭和史の大河を往く6 - 華族たちの昭和史 (中公文庫)

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  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (225ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122060647

作品紹介・あらすじ

明治はじめに誕生し、敗戦後に廃止された華族という階級は、どのような存在だったのか。公家華族と勲功華族の違い、東條英機の爵位への憧れ、赤化華族事件やスキャンダル、そしてとくに影響力をもった西園寺公望、牧野伸顕、近衛文麿、木戸幸一それぞれの苦脳と選択。華族たちの軌跡を追い昭和史の空白部分をさぐる第六集。

感想・レビュー・書評

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  • 敗戦を機に跡形もなく消えて、しかし確実に存在していた「華族」の歴史を辿ったシリーズ第6弾。

  • 「皇室の藩屏」と言われて一枚岩と思われているが皇族との一体感を持つ公卿華族(公候)と成功者の証としての勲功華族(伯子男)の感覚の違いが印象に残った。

  • 半ば随想のような形で進む華族論。雑誌連載だったとのちに知ったが、そのためか、近衛文麿の旧私邸であった荻外荘や同じく西園寺公望の坐漁荘に足を運び、実際にそこの空気を吸いつつ想いを馳せる…などといった試みをしている。全体に筆致がふんわりしているのは否めないが、こうした独特のアプローチによって、類書にはない味を醸し出しているとも言える。
    本書の白眉は、東條英機ら軍人たちは、華族への道=受爵を求めて武勲を立てんと戦争への道をひた走っていった——という分析であろう。実際、日清・日露戦争ではさかんにおこなわれた軍人への授爵は、昭和の大戦期には、その初期の大勝時においてさえほとんど見られなかったのだ。
    これだけ聞けば軍部の連中はえらい言われようだが、その真意は、対する華族たちにとっても辛辣きわまりない。生まれながらに政治的・経済的・社会的にすこぶる恵まれていながら、その特権に胡座をかいて何を成すでもなかった「弱き有閑階級」へのいらだちが、(実務面で)日本を動かしていた(非華族の)軍人たちにはあった、と言うのだから。
    上層華族は留学や外交官としての赴任を通して親欧米派が多く、インテリの当然の帰結として、良識的なリベラリストだった。そんな彼らが開戦を阻止しようとして叶わず、強硬な軍部に押し切られてしまったのは、ひとえに軍内部に明るい人材が不足していたからだと著者は書く。だが著者はもとより、この時代に興味を持ってこんな本を読むような人間は知っているのだ——「皇室の藩屏」としてなるべく軍人たるべし、と幾度も勧告があったにもかかわらず、ほとんどの華族たちが、ハードルが高く、負担が大きく、皇族を除けば徹底した実力主義で、「昔の家臣や領民を上官と仰ぐ羽目になりかねない」軍人勤めを忌避したことを。
    畢竟、華族たちはあまりにも弱かった。かれらがノーブレス・オブリージュを果たさなかったばかりに、下々「ふぜい」の暴走を許してしまったのである。上から下まで人材が足りなかったことが、昭和前期の日本の不幸だった。

    2015/3/11〜3/13読了

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著者プロフィール

ノンフィクション作家。1939年北海道生まれ。同志社大学文学部卒業。「昭和史を語り継ぐ会」主宰。著書に『昭和陸軍の研究』『昭和の怪物 七つの謎』『あの戦争は何だったのか』『陰謀の日本近現代史』など。

「2022年 『日本人の宿題 歴史探偵、平和を謳う』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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