汽車旅の酒 (中公文庫 よ 5-8)

著者 :
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (231ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122060807

作品紹介・あらすじ

旅行をする時は、気が付いて見たら汽車に乗っていたという風でありたいものである-。旅をこよなく愛する文士が美酒と美食を求めて、金沢へ、新潟、酒田へ、そして各地へ。ユーモアに満ち、ダンディズムが光る著者の汽車旅エッセイを初集成。巻末に観世栄夫の逸文を付す。

感想・レビュー・書評

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  • 「飲み鉄」のご教祖様であろうか。
    時代もあるが、吉田健一氏が乗るのはもっぱら「汽車」であるところが旅情であり、時間がたっぷりあるからたっぷり飲める。
    そして、食堂車も良い。
    東京を出発して早くも食堂車に行ってビールを飲むと、車窓に映る銀座も、国電から見る時とはまるで違って見える。これは分かる!
    どんどん早い列車が現れ、食堂車が廃止され、駅に停車する時間も短くなって、途中で酒を調達するのも時間との戦い、命がけとなったと嘆く。
    金沢がお好きなようで、何度も出かけている。ご馳走もたくさん食べていて、美味しいと思っているのだが酔っ払っているので内容をほとんど覚えていないという。ユーモラス。
    そして、汽車に乗っている時に雑誌や本は読まないことにしていると書く。理由は、たとえば新潟や岡山に向かっていても、北極の本を読んだら、頭がそっちに行ってしまって、自分のいるところが北極になってしまうから。

    それを逆手に取ったのが、【東北本線】という、短編だろう。
    夏休みを利用して北海道へ行こうとしている大学生の坂本。
    東北本線に揺られながら、関東はもともと人の住むところではないし、いくら走っても車窓はつまらなく、乗っている人々も粗末、などと(失礼であるW)退屈している。
    そこに隣に座っていたスーツ姿の大男から話しかけられる。素性は分からないが、中国の広大な大地を語り、ギリシャの密貿易や海賊について語り、日本と文化を比較し、世界で最も古い大陸であるアフリカとブッシュマンを語り、その膨大な知識はとどまるところを知らない。
    東北本線に揺られながら、坂本は男が語る世界を旅している気分になる。

    【道端】は、「何もないこと」が気に入って、山梨のある村に一軒の家を借りて、毎年夏をそこで過ごす野本という中年の男の話。少し文章がまわりくどく、難解に感じる部分があった。
    文明開花というような事が唱えられた結果生じた野蛮な風習の一つが、都会に対する憧憬といったものだという野本。
    そういう風潮に流されず、村に落ち着いて、必要な文明だけを取り入れる生活に居心地の良さを感じる。
    道が三本交る場所に、村で一軒だけのカフェができた。
    バゲットにバタにハム、ビールを注文して、カフェの主人とともに「道」について語る。
    道の意味は、人が通ってこそ、ということ。

  • 英文学者にしてあの吉田茂の息子による旅と酒と食のエッセイ。東京駅からひたすら飲み続け(多くは夜行)、到着した街でも午前から飲み続ける。特に金沢がお気に入りだったようで、金沢のエッセイが多い。

    当時の文豪というか文士の飲みっぷりが良く分かる。不思議な魅力の作品。

  • 収録されている最初のエッセイの書き出し。

    【引用】
    三ヶ月目毎に、或は大体その位の所で五、六日ずつ、或は一週間位、旅行が出来たらどんなにいいだろうと、思う。
    【引用終わり】

    まさに。
    この出だしに引き込まれた。
    また、こんなことも書かれている。

    【引用】
    全く、旅先で一晩旨い酒を飲むこと程、我々の寿命を延ばしてくれるものはない。後は寝るだけで、そう考えただけで夜はとてつもなく前方に向って拡る。その晩も、やがては寝たようである。
    【引用終わり】

    旅と食と酒。
    「汽車旅の酒」という題名だけれども、「酒と食の汽車旅」の方がぴたっと来る。

  • 「酒が本当に上等になると、人間は余りものを言わなくなるものである。」そうですね(^-^) 酒は静かに飲むものだと思います(^-^) 吉田健一 著「汽車旅の酒」、2015.2発行、中公文庫です。一番心を揺さぶった箇所はw「人間は仕事が出来る間が花だ、と言うが、むしろ、したい仕事をしてしまって、天気なら日向ぼっこをし、雨なら小料理屋の隅で雨の音に耳を澄ましたり、家で読書に耽るとかする境涯こそ、人生の花と呼んでいい時期なのではないだろうか。」なんだか、読んでて無性に嬉しくなりました。

  • 旅行といえば移動中や宿泊先で楽しむ酒のことが真っ先に頭に浮かんでしまうくせに、肝機能の数値におびえ深酒に後ろめたさを覚える呑兵衛たち。そんな我々を嘲笑うがごとく、酒を愛する著者の飲みっぷりがなんとも潔い。どれだけこの人は酒好きだったのだろう、果たして素面でいる時はあったのだろうか。

  • 代表作になるとは思えないのだけれど、旅、酒、汽車と揃うとどうしても点が甘くなる。休日に気持ちいい読書ができたので5☆。そもそも金沢について書いている人なので不思議ではないが、このタイミングでの刊行は北陸新幹線開業に合わせてたものでないかと勘ぐってしまう。まあ、それはそれで。

  • 旅と酒、それに鉄道が加われば全てが楽しい、そんなエッセイ

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  • 汽車旅を愛し、美酒と美食を求め、各地を彷徨う。そんなエッセイ。エッセイの斬れ味という点で、物足りない。

  • 酒が好きな人は、そのディティールを細かに表現しようとするが、この著者には一切ない。とにかくぐいぐい飲んで、ぐいぐい書く。本当にかっこいい。

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著者プロフィール

1950年生まれ
出生地 和歌山県東牟婁郡串本町大島
大阪芸術大学卒業
投稿詩誌等:大学同人誌「尖峰」「詩芸術」「PANDORA」
      わかやま詩人会議「青い風」

「2022年 『砂宇宙』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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