パリの日本人 (中公文庫 か 56-13)

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  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (365ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122062061

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  • 「今度、パリに行くんだ」と友人・知人に言いまくったことがある。
    20代後半の編集事務所勤務時代、2回目の海外出張がパリだった。

    語学の才能ゼロなので当然のようにフランス語は出来ないが、石畳
    に感動し、パリジャンを気取ってカフェでクロワッサンとカフェ・
    オ・レの朝食を摂った。

    仕事自体が夜遅くまでかかったので、実際には時差ボケと睡眠不足で
    ボーっとした頭でカフェの椅子に座っていたのだが、西園寺公望や
    東久邇宮稔彦もこの辺りを歩いたのかなぁなどと考えた。

    明治時代から第二次世界大戦前までにパリに留学した日本人が、そこ
    でどのような生活を送っていたかの足跡を追ったのが本書だ。

    ただし、芸術家についてはパリ好きかパリ嫌いの両極端に分かれる
    ようだとのことで除外されている。

    「留学」の箔付けをしたいだけで海外留学した現代の政治家には、
    バカロレアに合格した西園寺公望の爪の垢を煎じて飲ませたいわ。

    東久邇宮稔彦が臣籍降下までちらつかせて無理矢理留学期間を延長
    させたことは知っていたが、日米開戦前に「日本はアメリカと戦う
    のか?」「アメリカはそのつもりだから用心した方がいいぞ」と
    ペタン元帥から言われていたとは初めて知った。

    この辺りの事情は非常に興味深い。

    そして面白かったのは平民宰相・原敬の、パリでの外交官時代。
    この時の経験や人脈が、後の政治家としての糧となっているの
    かもしれない。

    他にも江戸最後の粋人と言われる成島柳北はパリでも粋人ぶりを
    発揮しているし、スキャンダラスな女性・武林文子の章では彼女
    に振り回される無想庵がとことん気の毒になって来る。

    文庫化に際し「パリの昭和天皇」が加筆されており、『昭和天皇
    実録』を引用しながら皇太子時代に非公式訪問をしたパリでの
    様子を描いている。

    この時に乗ったメトロの切符を、生涯大切に保管されてらしたの
    だよね。ご自身で買い物をなされたり、日本にいる時に味わうこと
    の出来なかった「自由」を体験で来たからなのだろうな。

    本書で取り上げられている人たちはみな個性的で面白い。出来れば
    タイトルの「パリ」は「巴里」がよかったかな…と思う。

著者プロフィール

1949(昭和24)年、横浜に生まれる。東京大学大学院人文科学研究科博士課程修了。2008年より明治大学国際日本学部教授。20年、退任。専門は、19世紀フランスの社会生活と文学。1991年『馬車が買いたい!』でサントリー学芸賞、96年『子供より古書が大事と思いたい』で講談社エッセイ賞、99年『愛書狂』でゲスナー賞、2000年『職業別パリ風俗』で読売文学賞、04年『成功する読書日記』で毎日書評賞を受賞。膨大な古書コレクションを有し、東京都港区に書斎スタジオ「NOEMA images STUDIO」を開設。書評アーカイブWEBサイト「All REVIEWS」を主宰。22年、神保町に共同書店「PASSAGE」を開店した。

「2022年 『神田神保町書肆街考』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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