怒り(上) (中公文庫 よ 43-2)

  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (310ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122062139

作品紹介・あらすじ

若い夫婦が自宅で惨殺され、現場には「怒」という血文字が残されていた。犯人は山神一也、二十七歳と判明するが、その行方は杳として知れず捜査は難航していた。そして事件から一年後の夏-。房総の港町で働く槇洋平・愛子親子、大手企業に勤めるゲイの藤田優馬、沖縄の離島で母と暮らす小宮山泉の前に、身元不詳の三人の男が現れた。

感想・レビュー・書評

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  • 八王子で夫婦殺人事件が起こる。現場には「怒」の血文字が残され、犯人は逃亡。
    一年の時が経つ。都会に、離島に、港町に、それぞれ素性の知れない3人の男が現れる。
    この男たちに、周囲の人たちが巻き込まれていく───

    この物語の犯人は、殺人事件のあの逃亡犯がモデルではないかと想像しながら読み進めた。
    整形手術をして名前を偽り、路上生活、短期契約の住み込みの労働を繰り返し、全国をあちこちを転々としたあの殺人犯。

    許しがたき罪を繰り返す罪人の容貌を醜く辛辣に描写した場面がある(下巻P172〜)。
    「諦念や貪欲さや幼稚さの糸のようなものが針で縫い付けられ、その引き攣れがある」。
    この卑劣な殺人逃亡犯に重なった。

    感想は下巻へ続く→→→

  • 何年も前に映画を観たが、いまだに衝撃がはっきりと残っている作品。ずっと原作を読みたいと思っており、ようやく読めた。
    映像で犯人がわかっていても、疑わしい三人とそれぞれが関係を築いていく過程に胸がギュッとなる。濃く、重いが一気読み。下巻を読んで、そのまま映画を再視聴したい。

  • 前提を何も知らないのでどこでどうなるのか…
    下へ

  • 吉田修一作品は読みやすい。多層的な構造でも頭にスッと入ってくる。これも才能のひとつだと思う。

  • 【感想】
    何年か前に見た映画の原作。
    正直だれが犯人だったかはさすがに覚えていたのでドキドキはなかったが、本で読んでも面白かった。
    特筆すべきは、やはり優馬と直人の友情(愛情?)だろう。

    映画も面白かったが、原作もそれがフラッシュバックして読み易く、また曖昧にしか覚えていない箇所も多数あったので楽しめた。
    感想は後半に。


    【あらすじ】
    殺人事件から1年後の夏。
    房総の漁港で暮らす洋平・愛子親子の前に田代が現われ、大手企業に勤めるゲイの優馬は新宿のサウナで直人と出会い、母と沖縄の離島へ引っ越した女子高生・泉は田中と知り合う。
    それぞれに前歴不詳の3人の男…。
    惨殺現場に残された「怒」の血文字。
    整形をして逃亡を続ける犯人・山神一也はどこにいるのか?


    【抜粋】
    1.「疑ってんじゃなくて、信じてんだろ?」
    なぜか優馬は何も言い返せない。
    「わかったよ。なんか言って欲しいんだよな?だったら言うよ。『信じてくれて、ありがとう』。これでいいか?」

    2.当時、優馬は少し遅い反抗期だった。
    成績が上がらないのを狭いアパート暮らしのせいにし、自分の部屋がないからだと言った。
    必死に勉強している横でお袋が編み物をしているから気が散るんだと八つ当たりをした。
    その日から、母は夜外出するようになったが、どこに行っているのかなど気にもせず、清々とした気分だった。
    それがある夜、母の居場所を知った。
    母は近所の神社にいた。境内の冷たい石段でマフラーを編んでいた。


    【メモ】
    怒り 上


    p145
    「ただ、俺お前のこと全く信用してないから先に言っとくけど、もしこの部屋の物をお前が盗んで逃げたら、遠慮なく通報するから」

    (中略)

    優馬が話し終えても、直人は返事もせず振り返りもしない。
    「なんか言えよ」と優馬は言った。
    面倒臭そうに振り向いた直人が、「なんかって?」と訊いてくる。
    「なんかあるだろ?お前のこと、疑ってんだぞ。泥棒扱いしてんだぞ」
    優馬の言葉を直人は鼻で笑った。そして「疑ってんじゃなくて、信じてんだろ」と真顔で言う。なぜか優馬は何も言い返せない。
    「わかったよ。なんか言って欲しいんだよな?だったら言うよ。『信じてくれて、ありがとう』これでいいか?」

    もしかすると直人が言うように、「俺はお前を疑っている」と疑っている奴に言うのは、「俺はお前を信じている」と告白しているのと同じことなのかもしれない。


    p268
    「とにかく、またあとで連絡するよ」と直人からの電話を切ると、まず深呼吸した。慌てるな、慌てるなと声を出す。
    レンタカーの予約。主任へ電話して事情を説明。イベントの準備は終わっているので、あとは部下に任せられる。パッキング。チェックアウト。やるべきことは次々に浮かんでくる。ただ、何か忘れているような気がして、一瞬息を呑む。

    母が死ぬ。母が死ぬのだ。

    一番肝心なことを忘れていた事に、はっとした。


    p276
    「もう、ちゃんと泣いた?」
    ふいに直人に訊かれ、「ん?」と優馬は頭を起こした。
    「泣いた方がいいよ。我慢したって、いつかは泣くんだからさ」
    優馬は何も答えずに立ち上がった。葬儀場へ戻るつもりで玄関へ向かった。その瞬間、母の姿が蘇る。

    母は無理をして私大の付属高校を受験させてくれた。大学に通っていた兄もバイトで家計を助けてくれた。
    当時、優馬は少し遅い反抗期だった。成績が上がらないのを狭いアパート暮らしのせいにし、自分の部屋がないからだと言った。
    必死に勉強している横でお袋が編み物をしているから気が散るんだと八つ当たりをした。その日から、母は夜外出するようになったが、どこに行っているのかなど気にもせず、清々とした気分だった。
    それがある夜、母の居場所を知った。母は近所の神社にいた。境内の冷たい石段でマフラーを編んでいた。

    我慢できずにしやくり上げる優馬の肩に、直人の手が置かれた。優馬は恥ずかしくなり、その手を払った。直人が部屋を出て行こうとする。
    「どこ行くんだよ?」
    「外にいるよ」
    境内の石段でマフラーを編んでいた母の姿がまた浮かぶ。
    「いいよ。いてくれよ」

    どうしてあの時、母に声をかけられなかったのだろう?
    どうして謝れなかったのだろう?
    ただ、自信がなかった。自信のない息子に追い出された母までが、ひどく惨めに見えて仕方なかったのだ。

  • 先に映画を見てから、消化不良だった為購入した。

    やっぱり小説はいいなぁ。映画では(私の能力では)読み取れない心理がたくさんあって、それを全て活字で表現してくれていて。
    あぁ、この時、この人はこういう気持ちだったんだ!っていうのが詳らかに分かる。
    先に映画を見てしまったので、登場人物は映画のキャストになってしまうのだが、それでも映画よりもグっときた。後半が楽しみでならない。

  • ミステリーなのか、ヒューマンドラマなのか…上巻を読んだ限りでは全くストーリーの全貌が見えて来ない。冒頭に描かれる惨殺事件と全く無関係に描かれる順風満帆とは言えない人びとの暮らし。この先、どう事件と絡んで行くのだろう。

    若い夫婦の惨殺事件。事件現場には『怒』の血文字が残され、犯人は27歳の山神一也と判明したが、山神の行方は分からず、警察の捜査は難航する。1年後、槙洋平と愛子の親娘、ゲイの藤田優馬、沖縄の離島に母親と暮らす小宮山泉の近辺に素性不明の3人の男が現れる。

    山神一也は3人の男のいずれかなのか、はたまた、全く違う人物なのか…

  • 映画化されて気になっていたので読んでみました。三人の怪しい人物と周辺の人達の生活の描写がそれぞれ書かれていますが、まだ全然誰が犯人なのかはサッパリです。

  • 都会のホモセクシャル、無人島で暮らす田中、田舎の漁港に流れ着いた田代。それぞれ過去に秘するものを持ちながらそこで暮らす人達を巻き込んでいく。巻き込まれた方の視点で物語は語られ、それぞれ苦悩の中にある。とても人間臭い。冒頭の殺人は誰の手によるものなのか?怒りは誰に向けられたものなのか?3カ所で起こるドラマは丁寧に描かれ、何かに向かっていく予感をさせます。後編が楽しみ。大好き度❤️❤️❤️

  • 夫婦を惨殺し、現場に「怒」という血文字を残して行方をくらました犯人。
    その後、港町で暮らす父娘、大企業に勤めるゲイの男、沖縄に転居した女子高生の前に、身元不詳の3人の男が現れる。
    彼らは男を受け入れるが、テレビでの公開捜査をきっかけに、犯人ではないかという疑念が芽生え始める。

    相手のことを信じたいけれど、信じられない。
    相手から信じてもらいたいけれど、その方法が分からない。
    何が分かれば、信じられるだろうか。
    自分をさらけ出すことだろうか。
    でも、相手のことを信じられなければ、そんなことはできない。さらけ出して傷つくのは怖い。

    この小説では、相手のことを信じた人と、信じられなかった人が、それぞれの結末を迎える。
    続きが気になるストーリー展開というだけでなく、信じるということの難しさを描いた、いい小説だと思った。

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著者プロフィール

1968年長崎県生まれ。法政大学経営学部卒業。1997年『最後の息子』で「文學界新人賞」を受賞し、デビュー。2002年『パーク・ライフ』で「芥川賞」を受賞。07年『悪人』で「毎日出版文化賞」、10年『横道世之介』で「柴田錬三郎」、19年『国宝』で「芸術選奨文部科学大臣賞」「中央公論文芸賞」を受賞する。その他著書に、『パレード』『悪人』『さよなら渓谷』『路』『怒り』『森は知っている』『太陽は動かない』『湖の女たち』等がある。

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