怒り(上) (中公文庫)

著者 :
  • 中央公論新社
3.84
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本棚登録 : 3295
レビュー : 285
  • Amazon.co.jp ・本 (310ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122062139

作品紹介・あらすじ

若い夫婦が自宅で惨殺され、現場には「怒」という血文字が残されていた。犯人は山神一也、二十七歳と判明するが、その行方は杳として知れず捜査は難航していた。そして事件から一年後の夏-。房総の港町で働く槇洋平・愛子親子、大手企業に勤めるゲイの藤田優馬、沖縄の離島で母と暮らす小宮山泉の前に、身元不詳の三人の男が現れた。

感想・レビュー・書評

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  • 【感想】
    何年か前に見た映画の原作。
    正直だれが犯人だったかはさすがに覚えていたのでドキドキはなかったが、本で読んでも面白かった。
    特筆すべきは、やはり優馬と直人の友情(愛情?)だろう。

    映画も面白かったが、原作もそれがフラッシュバックして読み易く、また曖昧にしか覚えていない箇所も多数あったので楽しめた。
    感想は後半に。


    【あらすじ】
    殺人事件から1年後の夏。
    房総の漁港で暮らす洋平・愛子親子の前に田代が現われ、大手企業に勤めるゲイの優馬は新宿のサウナで直人と出会い、母と沖縄の離島へ引っ越した女子高生・泉は田中と知り合う。
    それぞれに前歴不詳の3人の男…。
    惨殺現場に残された「怒」の血文字。
    整形をして逃亡を続ける犯人・山神一也はどこにいるのか?


    【抜粋】
    1.「疑ってんじゃなくて、信じてんだろ?」
    なぜか優馬は何も言い返せない。
    「わかったよ。なんか言って欲しいんだよな?だったら言うよ。『信じてくれて、ありがとう』。これでいいか?」

    2.当時、優馬は少し遅い反抗期だった。
    成績が上がらないのを狭いアパート暮らしのせいにし、自分の部屋がないからだと言った。
    必死に勉強している横でお袋が編み物をしているから気が散るんだと八つ当たりをした。
    その日から、母は夜外出するようになったが、どこに行っているのかなど気にもせず、清々とした気分だった。
    それがある夜、母の居場所を知った。
    母は近所の神社にいた。境内の冷たい石段でマフラーを編んでいた。


    【メモ】
    怒り 上


    p145
    「ただ、俺お前のこと全く信用してないから先に言っとくけど、もしこの部屋の物をお前が盗んで逃げたら、遠慮なく通報するから」

    (中略)

    優馬が話し終えても、直人は返事もせず振り返りもしない。
    「なんか言えよ」と優馬は言った。
    面倒臭そうに振り向いた直人が、「なんかって?」と訊いてくる。
    「なんかあるだろ?お前のこと、疑ってんだぞ。泥棒扱いしてんだぞ」
    優馬の言葉を直人は鼻で笑った。そして「疑ってんじゃなくて、信じてんだろ」と真顔で言う。なぜか優馬は何も言い返せない。
    「わかったよ。なんか言って欲しいんだよな?だったら言うよ。『信じてくれて、ありがとう』これでいいか?」

    もしかすると直人が言うように、「俺はお前を疑っている」と疑っている奴に言うのは、「俺はお前を信じている」と告白しているのと同じことなのかもしれない。


    p268
    「とにかく、またあとで連絡するよ」と直人からの電話を切ると、まず深呼吸した。慌てるな、慌てるなと声を出す。
    レンタカーの予約。主任へ電話して事情を説明。イベントの準備は終わっているので、あとは部下に任せられる。パッキング。チェックアウト。やるべきことは次々に浮かんでくる。ただ、何か忘れているような気がして、一瞬息を呑む。

    母が死ぬ。母が死ぬのだ。

    一番肝心なことを忘れていた事に、はっとした。


    p276
    「もう、ちゃんと泣いた?」
    ふいに直人に訊かれ、「ん?」と優馬は頭を起こした。
    「泣いた方がいいよ。我慢したって、いつかは泣くんだからさ」
    優馬は何も答えずに立ち上がった。葬儀場へ戻るつもりで玄関へ向かった。その瞬間、母の姿が蘇る。

    母は無理をして私大の付属高校を受験させてくれた。大学に通っていた兄もバイトで家計を助けてくれた。
    当時、優馬は少し遅い反抗期だった。成績が上がらないのを狭いアパート暮らしのせいにし、自分の部屋がないからだと言った。
    必死に勉強している横でお袋が編み物をしているから気が散るんだと八つ当たりをした。その日から、母は夜外出するようになったが、どこに行っているのかなど気にもせず、清々とした気分だった。
    それがある夜、母の居場所を知った。母は近所の神社にいた。境内の冷たい石段でマフラーを編んでいた。

    我慢できずにしやくり上げる優馬の肩に、直人の手が置かれた。優馬は恥ずかしくなり、その手を払った。直人が部屋を出て行こうとする。
    「どこ行くんだよ?」
    「外にいるよ」
    境内の石段でマフラーを編んでいた母の姿がまた浮かぶ。
    「いいよ。いてくれよ」

    どうしてあの時、母に声をかけられなかったのだろう?
    どうして謝れなかったのだろう?
    ただ、自信がなかった。自信のない息子に追い出された母までが、ひどく惨めに見えて仕方なかったのだ。

  • ミステリーなのか、ヒューマンドラマなのか…上巻を読んだ限りでは全くストーリーの全貌が見えて来ない。冒頭に描かれる惨殺事件と全く無関係に描かれる順風満帆とは言えない人びとの暮らし。この先、どう事件と絡んで行くのだろう。

    若い夫婦の惨殺事件。事件現場には『怒』の血文字が残され、犯人は27歳の山神一也と判明したが、山神の行方は分からず、警察の捜査は難航する。1年後、槙洋平と愛子の親娘、ゲイの藤田優馬、沖縄の離島に母親と暮らす小宮山泉の近辺に素性不明の3人の男が現れる。

    山神一也は3人の男のいずれかなのか、はたまた、全く違う人物なのか…

  • 人の思い込みは怖い。

    表面上の付き合いだけでは、本当の姿は見えていない。ただし、それを疑って、自分の見えていないところを信じてしまうこともリスクがある。やっぱり自分が見えているものを強く信じるしかないんだな、そうじゃないと大切なものを失ってしまうと感じた。

    四つほどの話が並行して進んでいき、殺人犯を軸にして繋がりそうで繋がらない。こういう話は重なり合っていく瞬間が楽しかったのだが、別個に物語が進んでいっても繋がりを感じるような話でのめりこめた。

  • 怒りは犯人を追いかけることより3組の暮らしぶりを楽しむものだったと思う。

    人間関係においての信頼について深く考えさせられる作品だった。自分はなにげなく友人と付き合ってきて面倒なことから目をつぶってきたのかもしれないと思ってしまった。人と関わっていくにつれて知られたくないことと知りたいことは必ずあるわけでそれを知らないでおいてもいいかと思える自分は薄情なのかもしれない。

    全体をみて、ぞくっとさせられる部分があった。
    他人がなにを考えているかわかっているつもりでもすべてを理解することはできないし、ほとんど理解することも不可能なのかもしれない。
    面白い作品だった。

    • れもんさん
      フォローありがとうございますm(_ _)m
      フォローありがとうございますm(_ _)m
      2018/10/10
    • ヒサハラチアキさん
      いきなりフォローしてしまってすみません
      いきなりフォローしてしまってすみません
      2018/10/11
  • 映画版を観てあまりの完成度の高さに衝撃を受け、原作も読んでみることにした。人が人を信じるに足るだけの理由とは何だろう。なぜ、人は誰かを信じたいと願うのか。きわどいと捉えられるような性描写が作中でとりあげられているのも、人と人とが関わりながら生きていくことの難しさを強調しているように感じた。「信じていたから、許せなかった」という台詞が印象的だった。

  • 「信じる」ことの困難さを改めて思う。信じることは、信じる自分そのものを信じねば成り立たないことなのだ。この作品が示すものは、人間の弱さ故の、信じることの無力さ、貴さだろう。
    そして怒りはまた、どこかで信じるものと密接に連動していく。無力さへの怒りもあれば、信じるものゆえの怒りもある。得体の知れない怒りもまた、信と何処かで内的に繋がっているのかもしれない、と思わせる作品だった。

  • 人を信じる気持ちってとても難しいと思わされた作品。身近に居る人が連続殺人犯かもしれないと疑ってしまった自分の気持ちって本当に辛いだろうなと読んでて切なかった。
    洋平が愛子を、優馬が直人を信じられなかった気持ち、辰哉の泉を守れなかった気持ち、それぞれの心理描写が胸をしめつけた。
    映画のキャストをはめ込んで読んでみたけど、どの人もピッタリハマってると思う。愛子と泉がどう演じられてるのか観たいなと思った。
    吉田さんは文章も読みやすくてこういう人の悪の描き方が悪すぎなくて少し光もある感じが好きな感じ。

  • 誰が犯人なのか気になる。できれば全員違ければいいけど…

  • 下巻への良い布石でした。

  • 2016/5/30あっと言う間に読めた。後半が楽しみ。★4

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著者プロフィール

吉田 修一(よしだ しゅういち)
1968年長崎県生まれ。法政大学経営学部卒業後、スイミングスクールのインストラクターのアルバイトなどを経験。1997年「最後の息子」で第84回文學界新人賞を受賞しデビュー。同作は第117回芥川龍之介賞候補にもなった。2002年『パレード』で第15回山本周五郎賞を同年「パーク・ライフ」で第127回芥川龍之介賞、2007年『悪人』で第61回毎日出版文化賞及び第34回大佛次郎賞、2010年『横道世之介』で第23回柴田錬三郎賞、2019年『国宝』で第14回中央公論文芸賞をそれぞれ受賞。2016年には芥川龍之介賞選考委員に就任している。その他の代表作に、2014年刊行、本屋大賞ノミネート作の『怒り』。2016年に映画化され、数々の映画賞を受賞。

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