怒り(下) (中公文庫)

著者 :
  • 中央公論新社
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レビュー : 384
  • Amazon.co.jp ・本 (279ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122062146

作品紹介・あらすじ

山神一也は整形手術を受け逃亡している、と警察は発表した。洋平は一緒に働く田代が偽名だと知り、優馬は同居を始めた直人が女といるところを目撃し、泉は気に掛けていた田中が住む無人島であるものを見てしまう。日常をともに過ごす相手に対し芽生える疑い。三人のなかに、山神はいるのか?犯人を追う刑事が見た衝撃の結末とは!

感想・レビュー・書評

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  • 3つの場所での話と殺人事件がどう絡むのかが気になり
    下巻はものすごい速度で読めます。

    ううむ、
    胸の中にどろっとしたようなものが残る作品。
    だからといって読んだ後悔はないけれど。

    相手を信じる大切さ
    もそうなんだけど
    じゃあ信じれば報われるかというとそうでもない。
    信じた人と信じることが出来なかった人、
    どちらかを正解としていないところが良いなと思った。

    ちなみに
    信じることが出来ずに失敗した人は
    反省して今後は相手を信用するかというと
    そうではない気がする。私自身がそういうところがあるからかもしれないけど。

    映画化の配役の観点でいくと
    渡辺謙と宮崎あおいが小説から読む私の印象とは違ったかな。
    もう少しダサい港町の親子なイメージなので
    この2人じゃシュッとしすぎている。

    他は、特に妻夫木聡や森山未來、広瀬すずあたりは適役かなと。

  • 読了後、何とも言えないやるせなさに襲われ、滅入ってしまった。3者3様のささやかな幸せがずっと続いていったらよかったのに、と願わずにはいられなかった。もし自分が愛子や洋平、優馬だったら、素性の知れない田代や直人を信じられたのか。もし泉や辰哉だったら、信じていた田中の本性を知った時に冷静でいられたのかー。人を信じるという行為の難しさを痛烈に感じた。
    信じてもらえなかった愛子、洋平の下から姿を消した田代は最終的には2人の下に戻った。困難もあるだろうが、きっと平穏を取り戻すだろう。直人を信じることができぬまま失ってしまう優馬も、傷が癒えればきっとまた前を向いて歩けるはず。田代、直人サイドは結局、本来何の関係もない殺人事件に翻弄されただけだったのだ。だが、田中を信じてしまったがために、まだ幼い泉と辰哉が最も悲劇的な、取り返しのつかない結末を迎えてしまったことに強く心を痛めた。辰哉の罪が減刑され、罪を償った後は泉と幸せに生きていってほしいと願わずにはいられない。
    ただ、謎も多く残る。山神が犯した殺人事件の本当の動機は結局のところ何だったのか。山神は何に怒り、「怒」の文字を残したのか。山神のサイコパスな一面はどのように形成されていったのか。殺人事件よりもそれに翻弄される人々に焦点を置いた作品とは言え、消化不良感が残った。北見の下から立ち去った美佳の本性も気になる。
    上巻を読んでいる最中は直人が犯人だと自分なりに予想していたが、下巻ではいい意味で裏切られた。読者をはらはらさせる展開も見事だった。
    同性愛、基地問題というテーマが絡んでいたためか、余計に強く感情移入してしまった。発展場や現代のゲイコミュニティの描写は、おそらくしっかりと取材がなされた上での描写だろうと推察される。反面、基地反対運動に関するシーンはもっとリアリティが欲しかった。
    映画のキャストを知った上で読んだので、特に優馬と直人のシーンは妻夫木聡と綾野剛をイメージしながら読み進め、ぴったりのキャスティングだと感心した。映画公開を楽しみに待ちたい。

  • 何だこれは。
    言葉が出ない。遣る瀬無いなぁ。

    殺人事件はオマケみたいなもので、これはミステリーではなく恋愛小説だと私は認識しました。

    ゲイカップル、切なすぎるだろ。。

    タイトルのインパクトが大きすぎて、何だかミスマッチな気がしました。
    沢山の謎とモヤモヤが残ったけれど、コレはコレで良いのかも。
    何とも言えない余韻が残っているので浮上するのに少し時間が掛かりそうだなー。

  • あなたは目の前の、自分が愛した人を信じられますか?
    そんな問いかけを、発する作品。
    信じられなかったため、相手は去って行ってしまう。
    信じていたから、相手を許せなかった。
    あるいは、信じていると言っているにもかかわらず、相手は去って行ってしまう。

    しかし、『怒り』とは?

    終盤、信じることができず、一度は去っていく相手と、再会を果たせる人がいる。ここで、読者は救われる。

  • 喪失感と遣る瀬無さを感じた結末。

    やはり、惨殺事件の犯人・山神一也を中心としたミステリー、サスペンスというよりは、間接的に山神一也に翻弄される人びとを描いたヒューマンドラマだった。

    逃亡を続ける山神一也の正体に驚愕することもなく、『怒』の正体も知ることもなく、読み手に精一杯生きることに対する不信感を抱かせるような結末だった。

  •  面白かった( ´ ▽ ` )ノ

     奇しくも直前に読んだ「レディ・ジョーカー」どうよう、「実際にあった事件をモデルにした群像小説」だったわけだけど、2作ならべてみると見事なまでに対称的で興味深かった( ´ ▽ ` )ノ
     一方は最初から犯人もその狙いも割れており、他方はその反対( ´ ▽ ` )ノ
     一方はモデルの事件に大外から似せていくのに対し、他方は芯こそ似ているものの細部がどんどん事実から外れていく( ´ ▽ ` )ノ
     また、「レディ」はあえて読みづらく書いてあるのに対し、「怒り」はさらさら読めるよう工夫されてる( ´ ▽ ` )ノ
     そういった手法の違いがありながら、事件の起こす波紋・関わった人たちの心の揺れを描いているところはおなじ( ´ ▽ ` )ノ
    (そういや、二作とも登場人物に 問題のある娘と父、ゲイがいるな)

    「怒り」の3青年は一体何者だったんだろう?
     いちおう作中でバックストーリーは明かされているけれど、彼らの主観で語られる文章が一切ないため、その心理は最後まで不明なまま……(。・_・。)
     得体の知れない闖入者・異人が 出会う人の心に変化をもたらすトリックスターものということで、サマー(京極夏彦)の「死ねばいいのに」に似た感じもあるね( ´ ▽ ` )ノ

    「パレード」もそうだったけど、修ちゃんは隠喩が巧み( ´ ▽ ` )ノ
     本作では、なんと言っても離島の廃墟の壁だよね( ´ ▽ ` )ノ
     誰しも心に構えている、壁……その裏側に毒々しい赤色で記されている「怒」の文字……∑(((*゚ェ゚*)))ブルッ
     周り(身近)には必死で隠している秘密が、じつは大洋(世間)にすべて晒されているという……(´ェ`)ン-…
     個人個人にとっては一大問題である身内の不祥事も性的嗜好も事件のトラウマも、じつは世間一般にとって「よくある話、だれにでもあること、自分にはどうでもいいこと」にすぎない……(´ェ`)ン-…
     みなが無視するただの落書きが意味を持つのは、それがスキャンダルのアイコンとなった瞬間……事件現場の「怒」と離島(これまた孤独な現代人の隠喩?)の「怒」がリンクすると とたんにただの「壁」は「あの壁」になる……∑(((*゚ェ゚*)))ブルッ
     事件を起こしたりそれに巻き込まれると、「ホモ」「低能」「孤児」「夜中にふらついてる若い女」などなど非冷遇者に「やっぱりね」とステロタイプな負のレッテルづけがされる……「壁」が、「普通の」自分らと「問題のある」やつらとを分ける仕切り・保証になる……(´ェ`)ン-…

    「壁」の裏側を覗いた者たちの変化がまた興味深かった( ´ ▽ ` )ノ
     少年は信頼と明るさと将来を失い、少女は勇気を得、刑事は愛を亡くし、世間は新しいオモチャをもらって嬉々とする……(´ェ`)ン-…
     一方(直接には)「壁」を見なかった青年と父娘は、ひとまずのところ心の救いを得る……(´ェ`)ン-…

     ……まあ、これが作者の本意だったのか否かは分からないけど、自分はそんなふうに読んだ( ´ ▽ ` )ノ
     サラッと読めちゃうから うっかり見落とした要点も多々ある気がするし、いずれ再読したい良作( ´ ▽ ` )ノ

     修ちゃん、やっぱりうまいしすごいね( ´ ▽ ` )ノ

    2019/02/10

     

  • 一年近く、自分のなかに怒りを飼っていたときがあった。
    心のなかにはいつも煌々と怒りの火の玉が燃えていて
    それが大きくなったり小さくなったり、消えることなく燃えている。
    何かに対して怒っているわけではない。
    その火の玉のぶつける先を、いつも探している。
    飼っているとも棲んでいるとも、
    とにかく怒りが自分のなかにずっとずっとあったことがあった。
    それを人にぶつけないように気を付けていたけれど
    やっぱりどうしても抑えられなくて
    突然怒鳴ったりキレてしまうことが何度もあった。

    それは一年ほどしてふっと抜けていき
    自分の中がからっぽになったのが分かった。
    ああ、これでもう怒らず心穏やかに過ごせるな、と感じて
    それから怒りは私のなかに戻ってきていない。

    私は一年なんとかこの怒りをなだめて(時には失敗もして)きたけれど
    この怒りが強く長く心に根付いてしまうと
    山神のようになってしまうんだな、と思った。

    この小説のテーマは、怒りというより
    人を信じることだと思うのだけど
    自分のなかに得体のしれない怒りを飼っていたことがあった私には
    このタイトルが妙に腑に落ちた。

    それにしても吉田修一さんは
    地方でくすぶっている地味な人たちを描くのが本当にうまくて
    時々息苦しくなります。
    狭い社会の、どこへもいけなさ。
    どこかへ行くなんて考えたこともないような人たちの地域社会。

    自分の娘が幸せになれるわけがないという
    洋平の後ろ暗い愛情、信じきれない部分が
    とても切なくて、彼らには幸せになってほしいなと心から願います。

    久しぶりに、いろいろとしんどい話を読みました。

  • 怒涛に繋がっていく、
    というよりも、
    それぞれの人間が自らの信頼を疑い、
    愛する人物を疑い、
    独りよがりに不安を掻き立てていく様と、
    それらが事件へと集約され、
    何かが起こりそうな恐怖と興奮で、
    一気に読まされ、
    その慄きが頂点に達した時、
    絶望的な結末へと駆け抜けるその疾走感。

    北見の話しを挿入したのは正解。
    そして、希望の回復と、
    これから更に待ち受けるであろう闇との、
    そのまたコントラストが眩い。

    吉田修一節完結、というラストに、
    いやぁ、あっぱれ。

  • 誰が殺人犯・山神なのか、が主題じゃない。
    山神の殺人の動機もはっきりしない(社会への怒り、むしゃくしゃしていたから、のような話は出てくるものの、本人が語ったことじゃない)。
    殺人事件は軸にあるものの、謎解きミステリーとは違います。人間ドラマ。

    なかなか自分の身に降りかかるシュチュエーションではないものの、誰かを信じることの難しさ、信じることの脆さを痛感した。
    怒り、と人を信じることは、隣り合わせなのかもしれない。

    「大切なものは増えるんじゃなくて減っていく」というのは、大人になってみて私もわかったこと。
    子育て中で、仕事もままならず、自分個人のこだわりを捨てて生きてる現状をネガティブに捉えがちだったけど、この表現に救われた。
    今まで大切だと思っていたものを大切だと思わなくなるほと、大切なものが一つできたということだから。

    読み終わって、しばらく言葉がなかった。
    じわじわと思うのは、こんな完成された小説はほかにないんじゃないか。


    登場する誰もが、どこかにいそうな気がして。みんなの幸せを願わずにはいられない。

  • 犯人の怒りは何だったんだろう。なんとも後味の悪い印象。

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著者プロフィール

吉田 修一(よしだ しゅういち)
1968年長崎県生まれ。法政大学経営学部卒業後、スイミングスクールのインストラクターのアルバイトなどを経験。
1997年「最後の息子」で第84回文學界新人賞を受賞しデビュー。同作は第117回芥川龍之介賞候補にもなった。
2002年『パレード』で第15回山本周五郎賞を同年「パーク・ライフ」で第127回芥川龍之介賞、2007年『悪人』で第61回毎日出版文化賞及び第34回大佛次郎賞、2010年『横道世之介』で第23回柴田錬三郎賞をそれぞれ受賞。2016年には芥川龍之介賞選考委員に就任している。
その他の代表作に、2014年刊行、本屋大賞ノミネート作の『怒り』。2016年に映画化され、数々の映画賞を受賞。体当たりの演技を披露した広瀬すず出世作としても名を残すことになる。

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