猫と漱石と悪妻 (中公文庫 う 29-4)

著者 :
  • 中央公論新社
3.46
  • (4)
  • (5)
  • (14)
  • (0)
  • (1)
本棚登録 : 91
レビュー : 16
  • Amazon.co.jp ・本 (251ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122062788

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 漱石について書かれた本はいくらか読んだり、講座を受講したりとそれなりに理解しているつもりだ。初期のころは「吾輩は猫である」や「坊ちゃん」など軽妙で笑える作品だったのが、晩年近くになるにつれ死生観や知識人の苦悩などの重厚なテーマに変わっていく。生い立ちは勿論のこと、イギリス留学を機に精神的に不安定になり闘病が続く。一通り漱石論も学んだが、文豪・漱石さんは苦手。読んでいると、小説の主人公である男たちにイライラが募ってしまう。親友の恋人を奪い自分を赦せないでいる『先生』、妻の愛情に疑念を抱き、弟に妻と旅行に行ってもらい愛を確かめたい男。かと思えば、罹患した病の詳しい説明や、愛娘が亡くなった時の様子や葬儀などが細かく小説にとりいれられたり・・・。苦しみから首をひん曲げて顔を背けて乗り切ってきた私には、到底理解できない。文章を綴る作業をやっていたら、始終向き合わねばならず忘れる暇がないのではないか。却って症状が治まらずにひどくなっていったのは仕方ない。漱石、50歳に届くか届かないかの死だった。
    漱石の作品の中の女性たちは結構自由奔放な面が見受けられる。漱石は屈折した女性観の持ち主なので、あけすけに物言う女に安心感を抱いていた。
    鏡子さんはまぎれもなくそういう女性だったと思う。漱石は仕事には几帳面で社会人としては常識を通していたが、家庭では怒り出したら妻や幼い娘たちにも手をあげていた。今でいううつ病で家庭内暴力をふるっていたという。一番近い家族に甘えて暴力に走るという典型的な症状に感じられた。
    本書は妻・鏡子さんの視点から漱石を捉えてある。鏡子さんについて云々というより、家庭での漱石を描かれたことで、より漱石像が鮮明になって好きではなかった漱石に親近感が湧いた。
    『銀河鉄道の父』で賢治の隠された面を知り、より深く理解できたのと同じ感覚だった。

    ※漱石は「漱石枕流」から筆名を取った。
    昔中国に『流れに漱(くちすす)ぎ石に枕す』という言葉を、『石に漱ぎ、流れに枕す』と言い間違えた男がいたが、負けず嫌いで間違いを認めなかった。負けず嫌いやへそ曲がりを『漱石枕流』と言うようになったという。負けず嫌いは苦しかろう・・・。

  • この本を見た時に、昨年秋にNHKドラマで「夏目漱石の妻」を放送していたのを思い出し購入した。

    漱石門下の小宮豊隆等によって、漱石の晩年には「則天去私」の心境に達したという「漱石神話」と「鏡子の悪妻」が言われ続けたが、近年は「則天去私」「悪妻」のそのどちらも違って、漱石自身がかなり精神をやられていたという説が主流になっている。
    因みに漱石の病名は「神経衰弱」と言われているが、現在では、そういう病名はなく、精神分裂症、躁鬱症の類ではないかと推察されている。ただ、通常の社会生活はきっちりと熟していて、謂わば「家庭内暴力」の要素が強く、複雑な症状と思われる。

    全体の視点は夏目鏡子の「漱石の思い出」を下敷きにしている。
    見合い相手として現れた夏目金之助(漱石)に一目惚れした鏡子・・・ここから物語が始まるが、そこから山あり谷ありの苦難の生活に突入していく。
    そしていつしか家庭内暴力が始まる。ただ鏡子は、漱石の異常性は小さい時に親の愛情を受けることなく育ったことが原因で、「子供の我がまま」と同じようにしてその愛情を自分に求めているとして、温かく包み込んでいく。

    著者は、本来暗い題材を、明るく、そしてやや軽めの感じに仕上げており、文豪漱石ではなく、肩を張らずに、漱石・鏡子の素顔に触れながら読み進める。

  • 夏目漱石の奥さんからの視点で小説が生まれていくところが面白かった。亭主関白というか暴力を振るうのはどうかと思うけど、植松さんの文章で嫌な感じもなくすんなり読むことができた。

  •  夏目金之助(漱石)の妻、鏡子夫人の視点から描かれるホームドラマ小説。
     お見合いによる結婚、不慣れな土地での新婚生活。
     流産を苦にして思い詰める鏡子と、彼女を労わる金之助。
     英国留学からの帰国後、神経を病み、暴力を振るうようになった夫に、毅然と言い返しつつ、耐えて支える妻。
     彼らの夫婦生活は、悲惨な一面もありながら、夫人の人柄と軽快なタッチもあってか、作風は温かい。
     悪妻であったとの評価が巷に残る一方で、この女性でなければ、『夏目漱石の妻』は務まらなかったのではないかとも思われる。
     “この容易ならざる男を、最後まで愛し続けた、ただひとりの女だと胸を張れる”。
     まさに、夫人が回顧する一文に尽きるのだろう。
     参考文献には挙がっていないが、夏目夫妻の長男・純一氏の息子、夏目房之助氏のエッセイ「漱石の孫」に出てくるエピソードを思い出す。
     夫人が時々頓珍漢な発言をして子供たちに笑われると、“お前たちは、そうしてばかにするけれど、お父さま(漱石)はばかにしなかったよ。ちゃんと、やさしく教えてくださったよ”と懐古する、彼女の姿が印象的だった。
     夫婦間の機微とは、余人には窺い知れぬ深淵があることを、改めて感じさせてくれる。

  • 「漱石の思い出」(夏目鏡子述、松岡譲筆録)を読了後に読み始めた。
    「漱石の思い出」の概要を軽い娯楽小説に落とし込んだ印象。ただ、実際の鏡子さんの方が本作より気が強くてさばけた感じ。

    「漱石の思い出」からこちらの作品を読み終えて、改めて鏡子さんの人生のドラマチックさに想いを馳せる。病気のせいとはいえ、DVといえる漱石からの扱いにもめげずに最後まで漱石を支え続けた。鏡子さん無しでは「夏目漱石」は生まれなかったといえよう。

    ちなみに占い師・天狗は時期は不明だが、鏡子さんが実際に贔屓にしていた実在の人物らしい。

  • 暴力夫は嫌。

  • 今ならDV夫で大問題

  • 見合い相手として現れた夏目金之助(漱石)に一目惚れした鏡子。しかし、結婚生活は苦難の連続で…! 波瀾と笑いの数々を経て、深く結ばれた夫婦の絆を描く、文豪一家グラフィティ。

    夏目漱石と言えば気難しそうな顔をしたあの写真と、ロンドン時代に心の病を発症したことが知られている。「吾輩は猫である」が実話に基づいていることは聞いたことがあったけれど、本作はさまざまな漱石作品の誕生の背景を鮮やかに描く。さすが植松三十里だ。
    (B)

  • 内助の功という言葉がありますが、文豪の妻という他人にはわからない立場であるが故の苦労は相当なものだったと考えられます。悪妻との定評?のある鏡子さんですが、これを読むと、良妻という一般的な見方が、漱石との夫婦関係には全く意味を成さないものであることがわかります。
    少し前にテレビでドラマ化されていたのを見て、良かったので興味を惹かれて小説でも読んでみましたが、原作どおりだったことがわかりました。
    癇癪持ちで妻子に暴力を奮うという、今だったらDVに相当する仕打ちも、幼少期の心の傷や、仕事や創作活動のプレッシャーが原因だと理解し、漱石が気持ち良く過ごせるように気を配る姿は、誰にも真似のできることではありません。彼女がいてこそ、夏目漱石が文豪と呼ばれるような存在になったといえます。7人の子どもや福猫とのエピソードも微笑ましいものでした。

  • 夏目漱石の妻、鏡子視点の漱石。史実とは違うエピソードもあるしヒステリックではない穏やかで肝っ玉女性的に描かれているが、総じて私のイメージから離れてはいないし、良く描かれているのでスムーズに読むことができた。ま、ちょっと良い話として仕上がっている軽い読み物。おもしろかった。

全16件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

歴史小説家

「2019年 『梅と水仙』 で使われていた紹介文から引用しています。」

植松三十里の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
三浦 しをん
柚月 裕子
ピエール ルメー...
辻村 深月
三浦 しをん
ヨシタケシンス...
有効な右矢印 無効な右矢印

猫と漱石と悪妻 (中公文庫 う 29-4)を本棚に登録しているひと

ツイートする
×