御子柴くんと遠距離バディ (中公文庫 わ 16-3)

著者 :
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122064928

作品紹介・あらすじ

長野県警から警視庁へ出向中の御子柴刑事。すっかり東京のペースにも慣れ、刑事としても中堅どころになり、わりあい平穏な日々を送っていた。だが、その油断がたたったのか、年末押し迫ってから行く先々で事件にぶちあたり、さらには凶刃に倒れてしまう! 相棒の竹花刑事は御子柴の死を覚悟するが……。シリーズ第二弾は波瀾の幕開け。

感想・レビュー・書評

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  • 裏表紙の作品紹介に書かれている、『スイーツ&ビターなミステリー』の意味が分からない。

    まあ、スイーツに関しては、地方から出向している刑事を題材にしたシリーズということもあり、各地の名産品を美味しそうに紹介していることなのであろうが、問題はビターの方である。

    これ、ビターなの?
    私からしたら、既にビターを思い切り通り越して、どこかが破綻している、シャレにならないようなイメージなのだが・・若竹さんの中では、比較的、毒が無いと言われている、このシリーズでこう思っているのだから、私にはやはり合わないのだろうか?

    ただ、視点を変えれば、これくらいで、あたふたしなさんな、ということなのかもしれず、そう思うと、人生の崖っ縁はまだまだ先にあって、いくらでも立ち直れるといった所には、何があっても生きていける希望を与えてくれたような心強さもありましたけどね。

    いや、それにしてもですよ、若竹さん。
    悪い癖で、愛する我が子をつい、また千尋の谷に突き落としてしまったと仰いますけど、その突き落とし方に容赦がなさすぎるんですよね(笑)
    もう最初の話の衝撃的な始まり方と、真相もあんな救いの無い感じが合わさって、「犯人、怖っ!」と思いましたし、下手したら、死んじゃいますから。

    思えば、前巻の『御子柴くんの甘味と捜査』の最後の話から、既に違う雰囲気があったのだろうな。
    だって、それまでは小林警部補の安楽椅子探偵で統一されていた展開だったのが、それだけ終わり方が違っていて、そして、この二作目でいきなり御子柴くんの危機が訪れたと思ったら、今度は、探偵役の小林警部補が定年を迎えて、一切、警察と関わらなくなったし、「一体、この後の話はどうなんの?」と心配してしまうのも、やむを得ないところでしょう。

    ところが、その後は、まあいなけりゃいないで何とかなるんだといった展開で、敢えて、ごちゃごちゃとややこしくする、若竹さんの事件のわちゃわちゃ感も加わった末に、終わり方は大体、いろんな人達がてんやわんやに絡まったり、真相を暴いたと思ったら、警察を嘲笑うような更に悲劇的な幕引きになったりと、そんな一筋縄ではいかない感じが妙にリアルですし、若竹さんの場合、悲劇が本当に文字通りの悲劇なので(特に「火の国から来た男」)、フィクションとは思いつつも、何だか現代社会の闇の部分を紹介するドキュメントにも思えてきてならないのです。

    かといって、それでは気分の悪い話なのかというと、そういうわけでもなく、今作に関してはタイトルにもある通り、『バディ』が一つのテーマとなっており、特に、前作では割とそつなくこなす軽いイメージのあった、御子柴くんのバディ「竹花一樹」の、彼への真摯な思いを知ることが出来たのが印象的で、とある話での彼の『それでも久しぶりに聞く声は、涙が出るほど懐かしかった』や、『助けてくれよ。オレの相方を』には、私も思わず、もらい泣きしそうになるくらい嬉しかった。

    また、御子柴くんがああいうことになったので、その間、竹花がコンビを組む、各地のバディ達はどこかユーモラスで、「火の国から来た男」の、『太陽にほえろ!』世代の、ざっくばらんで諦めない燃える男、熊本県警の「隈部雄亮」や、「被害者を捜しにきた男」の、「破局」や「動向」といった、一般的に使われない言葉を笑いのツボにされるが、見た目も実際に怒らせても怖い、沼津港署捜査課所属の「二宮徳範」に、「遠距離バディ」の、長身で拳にタコがあるが、話し方は舌足らずな、世田谷芦花署刑事課の「三村綾」と、これまた一筋縄ではいかない個性たちが、ビターすぎる物語の味わいに、また独特なブレンドとして溶け合っています。

    もちろん御子柴くんにとっても、バディは健在で、それは、たとえ彼があのような状況になったのだとしても、その決して忘れることの出来ない優しさと実直さをもった、彼の素晴らしい人柄があるからこそ、竹花も、モヤシの「玉森剛」も、未だに彼を気にかけているのだろうし、それを踏まえて、タイトルの『遠距離バディ』という言葉を見ると、改めて、感慨深いものもあり、確かに事件の内容はとても暗くやるせないものであっても、彼らの存在が、それらを上手く中和してくれるような、そんな明るさもちゃんと含ませているところが、若竹さんらしさといえば、そうなのかもしれず・・・要するに、若竹さんって、とても不思議で面白い作家さんですよね、ということです。

    ただ、それと他の作品を読むかどうかは別ですけどね(笑)
    御子柴くんの続編なら読んでみようかな。
    なんて書いといて、しれっと「葉村晶」シリーズを、読むかも知れませんが。そういえば、「御子柴くんの災難」で、名前だけ出てきたな。

    • たださん
      111108さん、こんばんは。
      コメントありがとうございます(^^)

      きっかけはそうだったのですが、前回読んだ『御子柴くんの甘味と捜査』は...
      111108さん、こんばんは。
      コメントありがとうございます(^^)

      きっかけはそうだったのですが、前回読んだ『御子柴くんの甘味と捜査』は、割と気に入っていたので、ちょうど、今年のブックオフのウルトラセールで本書を見つけた時、思わず買っちゃいました(^^;)

      ところが、読むと、いきなり御子柴くんがああなったり、小林警部補はいなくなって、最後のお決まりの台詞も無くてと、連作ものとしては、思い切り方向転換してきたことに、最初は戸惑いましたが、この感想を率直な気持ちとして書いていたら、これはこれで面白いかもなんて思ってきたので、気を持ち直した時に、また読むかもしれません。

      ですから、111108さんは別に気になさらないで、無理して今村夏子さんを読まなくても、大丈夫ですからね。

      それから、『若竹さんのビターさはむしろ味付け』というの、分かるような気がしまして、その裏に垣間見える人情味があるのも確かだと思ったので、私も苦手になり切れないといったところです。
      2023/05/22
    • 111108さん
      たださん、お返事ありがとうございます♪

      たしかに本が手元に来るタイミングってありますねよ。ウルトラセール、いいなぁ!
      今村さん読めてないこ...
      たださん、お返事ありがとうございます♪

      たしかに本が手元に来るタイミングってありますねよ。ウルトラセール、いいなぁ!
      今村さん読めてないことのフォローありがとうございます(^^)実はそんなに怖くなくなったので私もタイミング合えばもしかして‥です。
      2023/05/22
    • たださん
      111108さん、返事のお返事ありがとうございます♪

      もしかしたら・・気長に待っております(^^)
      111108さん、返事のお返事ありがとうございます♪

      もしかしたら・・気長に待っております(^^)
      2023/05/23
  • 前作から3年が過ぎた。長野県警から警視庁のパイプ役として捜査共助課に出向させられた御子柴くん。小林警部補も半年前に定年退職した事だし、いよいよ一人前になったと、私が思った途端に彼は凶刃に襲われる。著者はよっぽど主人公を痛い目に遭わせるのが好きらしい。何故彼がそんな目に遭ったのか。その伏線を張って広げて解きほぐしたのが第一話で、なおかつこの文庫本の「遠距離バディ」の始まりになる。いやあ、このさりげない犯人の悪意が若竹七海の特徴で、「でもやっぱり御子柴くんのように誠実に生きる方が、多分寝覚は良いよね」と思わせてくれる。

    刑事の仕事っていうのは、仮説を立てて、足を運んで立証しようとして、それが潰れて、そこから生まれた事実からさらに仮説を立てて、更に潰れて、って言う繰り返しなんだな、ということもよくわかる。

    この文庫本発刊から更に3年が経った。新しい相棒の竹花刑事とのドラマがまた刊行されてもおかしくはない。一つお願いするなら、このコロナ騒ぎで、詐欺から始まる殺人事件を一つ解決して刊行してくれないかな。

  • 御子柴くんシリーズ第二作。
    いきなりの受難で異動。『遠距離』って、御子柴くんが『遠距離』になるということだった。
    新バディの竹花くんと御子柴くん、それぞれが様々な制約の中で捜査している事件が最後に上手く繋がるのが気持ち良い。
    文章はソフトなのにちょくちょく毒を入れてくるのも若竹さんらしい。
    それにしてもあとがきにある通り、若竹さんはお気に入りのキャラを窮地に陥れるのが好きなのか?
    御子柴くんシリーズはまだ続くのか?

  • 若竹七海さんの「御子柴くん」シリーズ2冊目。短編集。
    といっても、私は1冊目を読んでないのですが。

    御子柴くんと言えば、「プレゼント」(こちらも短編集。あの葉村晶のデビュー作)に小林刑事の相棒として登場していた。
    私はプレゼントのなかで小林刑事の話が結構好きで、それを読んだ時に「御子柴くんシリーズもあるのか、これも面白そうだ」と期待してたことを思い出した。
    しかし、本作のあとがきによれば、作者はあれ以来小林警部補のことは忘れ去っていたらしい…。なんと。

    「プレゼント」で刑事だった小林さんは定年退職していて、若手っぽかった御子柴くんはベテランな感じになってる。時の流れよ…。
    御子柴くんの現在の「相棒」は、残念ながら小林ではなく、「竹花」という警視庁の刑事だ。

    葉村晶シリーズもそうなんだけど、若竹先生の短編は要素多すぎで、短編に現れる要素の量じゃないよね?
    登場人物多すぎて誰だっけ?と何度もなるし。
    頑張って読んで、読んだときは「なるほどー、ほほぅ」と満足するんだけど、何故かすぐに内容忘れてしまう。
    長編なら、そんなことならないんだけどな。
    御子柴くんは、長野県の警察官でありながら、捜査協力?のために警視庁に出向している。
    でも、本作第一話である被害にあい、長野県警察に送り返される。
    長野にいる御子柴と、東京警視庁管内で事件を捜査する竹花。二人の追う時間がリンクしていく、という手法は面白かった。でもどのお話も、解決はかなりバタバタだったな。
    御子柴を「長野」と呼ぶ警視庁の玉森が甘いもの好きで、センスのいいお土産を要求するキャラなんだけど、長野名産杏のお菓子が何度か作中に出てきた。杏なぁ、杏酒を飲むくらいしか縁がない果物だ。アプリコットのことだよね。きっと美味しいんだろうな。

  • 冒頭から大怪我ではらはらしたけどそれが原因で長野に帰った御子柴君と東京にいるままの相棒の竹花君がそれぞれの地で起きる事件を解決していく6つの短編集。無関係と思われる小さないざこざが後で全部繋がっていくので読み返し必須。あー、そうだったと何回思ったか。東京と長野で協力する機会なんて…と思っていたらまたうまく繋がるんだこれ。しかし皆、甘味好き過ぎる!見事に賄賂になっていてにやり。

  • 御子柴将(みこしばすすむ)シリーズ、第二弾。
    いきなり最初の一編から、作者は御子柴くんに何をするのーーーーーー!!と悲鳴を上げたくなる。
    前作では、土産物取次係のようにこき使われる御子柴くんがコミカルだったが、芸風変わったの?!という感じで始まる。

    長野に戻った御子柴くんと、警視庁共助課で頑張る、竹花一樹(たけはなかずき)、それぞれの頑張りと、糸電話のような遠いつながり…いや、運命の赤い糸か。
    前作では、御子柴くんの“遠距離バディ”は、先輩であり恩人でもある小林さんのような印象で、竹花君のことはそんなに印象に残っていないのだけれど。

    今回、非常に複雑に絡み合った糸で事件と事件がつながり、芋づる式あり、急展開あり、転がる石のようなスピード感だ。
    繋がるんだろうとは思ったけれど、そことそこでそう来るか!!という感心と面白さ。
    火の国と春の訪れは、「犯人そこっ?!」という驚きが。

    『御子柴くんの災難』
    御用納めを待ち望む御子柴くんを次々と襲う、仕事と災難。

    『杏の里に来た男』
    たかがきのこ、されどきのこ。
    一見、小さいと思われる事象をおろそかにしてはいけない。

    『火の国から来た男』
    でかくて重い熊が意外なところに出現。

    『御子柴くんと春の訪れ』
    タイトルから、勝手な想像をして誤解してしまいました。

    『被害者を捜しにきた男』
    警察医の大屋先生の「かわいそうにな」が印象的。

    『遠距離バディ』
    離れたところで頑張る、御子柴くんと竹花くん。
    繋がっている。

  • 皆さん高評価ですね、、、

    私はどうもこの作家さんが苦手なようです。読み終わるのに珍しく二週間近くかかってしまった。
    まずは短編というところが駄目な理由の1つ。

    登場人物と事件が短編の中に多過ぎて覚えきれない。

    この作家さんに高評価つけてる方は頭の良い方なのだろうなと思います(*^^*)

    全部を覚えていられたら、最後に畳み掛けるように解決していく様は圧巻だろうなぁ。。。

  • 痛快。爽快。テンポよく事件が連鎖して解決していく。遠距離バディとはよくいったもので、あちらとこちらを結んで呼応しあって、離れていても繋がって。
    知ってる地域もたくさん出てきて、甘味も美味しそうで、お腹も空いてくる!

  • 御子柴くんと竹花刑事、わずかに甘味を添えた短編集。全体的にまるで美味しいコーヒーのような深い味わい。凝縮されているせいか展開が早く、一気読みおすすめ。あっちの話がこっちにつながったり、ところどころにあるユーモアあり、うまく描いてるけれど、葉村シリーズの方が好きかな。御子柴くんとかキャラがどうも薄い感じ。あとは、パン好きな私としては、上田のルヴァン! パンは間違いなく美味しいが、杏子ジャムとクリームチーズでこの世で一番うまいと思うとのことで、今度行った時にトライだ。相性がいいのは間違いないでしょうが。そんなことでもちろん楽しめた一冊でした。

  • 前作がなかなかにおもしろかったのでこちらの続編も。
    で、なんか思ってたのと違ったな。。。これはこれで悪くはないんだけど、御子柴くんのとぼけた味わいがかなり減ってる・・・というか、出番事態が激減。どちらかというと前作の小林警部補のように長野から事件を解決していっているような。。。そして主人公はほぼ竹花くんに交代?
    甘味も前作ほど焦点当ててるわけでも・・と思ったけど、まあタイトル通りなんだよな。これはもうこういうものとして楽しむのが吉。

    ただ、警察の面々のコメディさと事件の後味の悪さというか悲惨さが結構ギャップありますね・・・

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著者プロフィール

東京都生まれ。立教大学文学部史学科卒。1991年、『ぼくのミステリな日常』でデビュー。2013年、「暗い越流」で第66回日本推理作家協会賞(短編部門)を受賞。その他の著書に『心のなかの冷たい何か』『ヴィラ・マグノリアの殺人』『みんなのふこう 葉崎は今夜も眠れない』などがある。コージーミステリーの第一人者として、その作品は高く評価されている。上質な作品を創出する作家だけに、いままで作品は少ないが、受賞以降、もっと執筆を増やすと宣言。若竹作品の魅力にはまった読者の期待に応えられる実力派作家。今後ブレイクを期待出来るミステリ作家のひとり。

「2014年 『製造迷夢 〈新装版〉』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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