- 本 ・本 (400ページ)
- / ISBN・EAN: 9784122065154
作品紹介・あらすじ
35歳の千穂は不妊治療を始めて10年。一方的に原因を押し付けられ、夫と義母からの嫌味に耐え続けてきた。ある日、夫の運転する車が男と接触してしまう。「金で解決しろ」と処理を押し付けられた千穂は、男に謝罪しようと姿を探し続ける。その過程で、被害者の男がディスカリキュリア(算数障害)であることに気付き手をさしのべようとする千穂と、その行動を訝しむ夫。一方的に疑われたことで、これまで抑えてきた感情を一気に爆発させた千穂は、ある事件を引き起こしてしまうのだった――。
感想・レビュー・書評
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夫と義母からのモラハラに耐え続ける千穂。その生活から透をきっかけにして生きるために逃げる。
ディスカリキュリア(算数障害)の透との刹那的な生活に希望を抱く千穂。でもその生活が続かない事は千穂がよく分かっている。そんな生活に希望を見ないといけない千穂の心情が破滅的だ。
出てくる人がみんな幸せではない重い内容だった詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
長年の不妊治療と四度の流産と、高圧的な夫、姑との苦しい生活から逃れたのは、年下の影のある青年、高山透との出会いだった。
そろばん塾を経営していた千穂は、彼が算数障害を抱えて苦しんでいることに気づく。
浮気を疑う夫に暴行され、それを止めない姑。ボロボロになった千穂が頼ったのは、透だった。
罪に罪を重ねて、二人の逃避行が始まる。
久しぶりの遠田作品。
毎回読む前からわかっているのに、ズンと気持ちが凹む。これでもかという程、理不尽な目に合い、闇を抱えた主人公につい感情移入してしまう。
逃げて、逃げて、逃げ切って欲しいとラストまで一気に読んだ。
終章の恵梨視点の内容に唖然とし、無性に腹が立つ。子供だったとはいえ、麗を更にあの環境にしてしまった罪は重いはずだ。
娘にも申し訳ない気持ちがあったから、父が真実を伝えてないだけで、読み手の自分はなんだこいつ?!と怒りが・・・・笑
今回も遠田ワールドにどっぷりはまってしまった。
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雪の鉄樹からこの作家さんが気になっていたが、ブックオフには置いておらず、新品を購入。
最初から流石の筆力。ぐっと惹きつけられる。
目まぐるしく進む展開に、ページを捲る手が止められなくなる。
35歳の千穂は不妊であることから、マザコンの夫と義母から嫌味を言われ続ける毎日だった。
ある日夫が酒に酔った男を轢いてしまい、千穂に罪をなすりつけようとする。
謝罪の為、その男を探していた千穂はコンビニで偶然見つけ、そこで彼が算数障害であることに気付く。珠算教室の先生である千穂は彼の力になろうと彼の元に通う。
執拗に妻を監視する夫から、彼との関係を一方的に疑われ、これまで抑えてきた不満が爆発した千穂は、家を飛び出し、彼と共に逃亡する。
新藤賢治は蓮田を持つ農家だった。彼の妻の13回忌に、彼の妻を殺し服役していた大西理香の獄死を知る。何故最愛の妻が殺されなければならなかったのか?その真実を探し始める。
2つの話が交差した時、全ての真相が少しずつ浮かびあがる。
暗く、重く、辛く、苦しい時間が長いのだが、物語から目を離せない自分がいた。
それぞれの登場人物の、ほんの少しずつの過失が大きな事件を生み出してしまう。没頭してしまう作品だった。 -
遠田潤子『蓮の数式』中公文庫。
遠田潤子らしい果てしなく重く、暗い物語。登場人物の一人として善人は居らず、登場人物の不幸が伝播してくるのではないかと不安になるような小説だった。決してつまらない小説ではなく、物語の展開と結末が気になる面白い小説だった。例えるならば、吉田修一の『悪人』が近いだろうか。
不妊と家柄を理由に夫と義母にあらぬ限りの虐待を受け続けていた35歳の千穂は、ある日、夫の起こした交通事故の身代わりを押し付けられる。被害者の男性が算数障害を持ち、悩み苦しんでいることに気付いた千穂は男性に救いの手を差し伸べるのだが… -
算数障害の男とそろばん塾の女の逃避行
ってことになるのかな
女は既婚だが夫と姑に挟まれて・・・
あの展開はしょうがないよなぁ
でもやりすぎ
流れの中で徐々に明らかになる男の過去
そして男を追う男たち
引き込まれました -
人の想いもその想いの受け取り方も思うようにはいかなくて、すれ違ったり誤解を生んだり、重なって重なってある日悲劇がおこる。遠田潤子さんの作品は崖っぷちを歩く人がたくさん出てくるのでいつも胸が痛い。
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夫と義母に苦しめられながらも十年間不妊治療を続けてきた妻。その苦しみがやがて「事件」を引き起こし、彼女はとあるきっかけで出会っていた青年と逃避行に出ることになる、という物語。
最初から最後までどろりどろりとした展開で、主人公も青年も夫も誰もかれもが一癖あり過ぎて、簡単に感情移入を許さない「翳」をまとっている。だから例えば酷い目に遭って逃げている主人公にだって「可哀想」とだけ思うことができない部分があって、どう考えたって未来のない行動をしていくのをただ眺めていくしかできない。その無力感を抱かせる人々の物語を、けれど作者のよどみない筆致で読まされてしまう。苦しいと、楽しいことなどないとわかっている物語を最後まで負わせる力がある。素直に凄い、と感じるばかりでした。
惹かれ合ってその先に地獄しかないとわかっていても、それでもともに歩もうとする二人。妻を自身の所有物として完全に疑わずに行動できる男。善意を振りまいて正義を疑わない女。その正義に怯えてついには自らを罪人にした女。
業が業を呼び、人と人のわかりあえなさが痛烈に描かれていて、つらくてたまらないお話。けれど、おそらく、見たくないと顔を背けている人の一面であることも間違いはないのだろう。だから、興味を持って読んでしまえるのだろう。
そう、真正面から人のいやらしさに挑んだお話だと思いました。
著者プロフィール
遠田潤子の作品





