怠惰の美徳 (中公文庫)

著者 :
制作 : 荻原 魚雷 
  • 中央公論新社
3.82
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本棚登録 : 94
レビュー : 6
  • Amazon.co.jp ・本 (307ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122065406

作品紹介・あらすじ

なんとか入学した大学の講義はほとんど出席せず、卒業後に新聞社を志望するも全滅。やむなく勤めた役所では毎日ぼんやり過ごして給料を得る。一日に十二時間は眠りたい。できればずっと布団にもぐりこんでいたい……。戦後派を代表する作家が、自身がどれほど怠け者か、怠け者のままどうやって生きぬいてきたのかを綴る随筆と七つの短篇を収録する文庫オリジナル編集。真面目で変でおもしろい、ユーモア溢れる作品集。

感想・レビュー・書評

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  • (64年の)オリンピック誘致なんかしてないで漁獲高減ってるから魚誘致しろとか、満員電車が混んでてむかつくとか、ビキニ環礁の放射能雨がとか、近頃の若い者云々という物言いは大昔から変わらんのだとか、50年以上立っても世の中変わってなくて嬉しい。

  • 「怠惰の美徳」という表題とはところどころかけ離れたアンソロジー。

    並行して読んでたエーリッヒ・フロムの「生きるということ」とクロスオーバーする部分も。

    戦争が終わり産めよ増やせよで人口過剰になった日本で、作者は女子供を押しのけねば電車に乗り込めないと嘆く。電車に乗れなければ会社に行くこともできないから、仕方ない。
    戦争を通して感じていた―自分が生きるためなら他者をも食らう―エゴイズムにほとほと嫌気がさし、もーやめようぜと弱弱しくつぶやく。布団の中で。

    ぼくの今の気持ちにはこっちのほうが近いかもしれない。
    <自分が俗物であるという意識、どんな背徳無惨なことでもやれるという気持、これほど私を力づけてくれるものはない。>

    「百円紙幣」「防波堤」もおもしろかったし、小説も読んでみたい。「突堤にて」が気になる。

    <防波堤で殴り合った男も、日曜日の客を素人とさげすんだ男も、あるいは餌を盗んだ子供も、彼が自らの人生に打ち込むべき熱情を、他の低いものとすりかえているのだ。熱情を徒労にすることによってのみ自分を支えて生きて行かねばならぬ彼等の心情が、常に私の心を暗くして来た。>

    <自分の内部のものをむりに明確化し図式化することは、往々にしてその作家の小説をだめなものにしてしまう。むりに見積もらない方が賢明であるとも言える。自分の内部の深淵、いや、本当は深淵でなく浅い水たまりに過ぎないとしても、それをしょっちゅうかき廻し、どろどろに濁らせて、底が見えない状態に保って置く必要がある。底が見えなければ、それが深淵であるか浅い水たまりであるか、誰にも判りゃしない。自分にすら判らない。自分にも判らない程度に混沌とさせておくべきである。その混沌たる水深が、言わば作家の見栄のよりどころである。作家という職業は虚栄心あるいはうぬぼれが強烈でなければ成立しない職業であって、それらを支えているものがその深淵であり、あるいは深淵だと自分が信じているところの水たまりなのである。>

  • 戦後派を代表する作家が、怠け者のまま如何に生きてきたかを綴った随筆と短篇小説を収録。真面目で変でおもしろい、ユーモア溢れる文庫オリジナル作品集。

  • 生まれ変わったら何になりたいかと訊かれれば、イソギンチャクあたりがよかろうなどと答えて、満更でもない答えだろうと悦に入ったりしていた。

    「私は滝になりたい」と梅崎は言う。

    ああ、それだ。
    イソギンチャクごときで何事かを見通した気になっていてはいけなかったのだ。

    前半のしみじみ可笑しい随筆もさることながら、後半の短編小説もひとつひとつ実によい。

  • 大正生まれの梅崎春生の昭和2,30年代のエッセイと短編。編者は荻原魚雷、当代の怠け者プロフェッショナルが先輩の文学をまとめた。いかに怠けたいか、なぜ怠けるか、怠けるとどんなことがあるか、そのテーマで集めているだけあって良い意味で気が抜ける。怠けることにこれだけ細かく描写と考察ができるのだから真に怠け者とは違うのだろうけど、構えたようで構えないような筆致はまた読みたくなる。

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著者プロフィール

一九一五(大正四)年福岡市生まれ。小説家。東京帝国大学国文科卒業前年の三九(昭和一四)年に処女作「風宴」を発表。大学の講義にはほとんど出席せず、卒業論文は十日ほどで一気に書き上げる。四二年陸軍に召集されて対馬重砲隊に赴くが病気のため即日帰郷。四四年には海軍に召集される。復員の直後に書き上げた『桜島』のほか『日の果て』など、戦争体験をもとに人間心理を追求し戦後派作家の代表的存在となる。『ボロ家の春秋』で直木賞、『砂時計』で新潮社文学賞、『狂い凧』で芸術選奨、『幻化』で毎日出版文化賞。一九六五年没。 一九六九年三重県生まれ。文筆家。「大学在学中からフリーライターの仕事を始めるも、なかなか生計が立てられず、アルバイトで食いつなぎ、現在にいたる」というプロフィールを長く使い続ける怠惰ぶり。著書に『活字と自活』『書生の処世』『日常学事始』(本の雑誌社)、『閑な読書人』(晶文社)、『本と怠け者』(ちくま文庫)など。

「2018年 『怠惰の美徳』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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