富士日記(上) 新版 (中公文庫 (た15-10))

著者 :
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (448ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122067370

作品紹介・あらすじ

夫、武田泰淳と過ごした富士山麓での十三年間を、澄明な目と無垢な心で克明にとらえ、天衣無縫の文体で映し出す。田村俊子賞受賞作。巻末に関連エッセイ、大岡昇平の「山の隣人」と、武田泰淳の「山麓のお正月」を収録する。

感想・レビュー・書評

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  • 富士山麓の山荘で過ごした13年間を綴った日記。
    上巻は昭和39年7月から41年9月まで。

    ほとんどの日記は著者の手によりますが、気まぐれのように夫の泰淳や娘の花が書いた日記もあります。
    何がいくらだった、という買い物の記録やその日の食事、地元の人々と交わした会話などが綴られた、誰に読ませるためでもない、家族の生活の記録。
    飾り気のないそのままの記録なのに、ずっと読み続けていたい心地よさがあるのです。
    きっとそれは、武田夫妻、特に百合子さんの天真爛漫という言葉がぴったりな人柄に惹かれていくからだと思います。

    時折きらめくような表現に出くわすのも魅力。
    ふぐの干物を食べるときの食感を「ひごひご」と表していたのにくすっと笑いつつ、リアルだなと思ったり。
    「星がぽたぽた垂れて」きそうな夜空を想像して、冬の冷たい空気を鼻先に感じたり。

  • 1ページ目でもう「うわあ…最高…」となった。
    タイトル通り、富士の麓の別荘で、何を買って幾らで、誰が来て何を食べて、というまさに「日記」なのだけど、とんでもなく面白い。
    作者の武田百合子自身が大層魅力的なのもあるのだけど、文章の良さもとても大きい。
    文庫本裏に「天衣無縫の文体」と書いてあって、何じゃそりゃあと思ったのだけど、読んだら「確かにこれは天衣無縫の文体ですわ…」と納得した。
    続きも読む。

  • 日曜の朝10時、FMで小川洋子さんの「メロディアスライブラリー」を聴いている。それで知った本。小川洋子さんは随分気に入っているらしく、他の本を紹介する回でも「富士日記」に言及することがあり。

    興味は持ったんだけど、でも、作家の奥さんとは言え、素人の日記だよなと、手を出さずにいたのだが。先日、新版が本屋に平積みされたので、購入。

    読み始めて、う~ん、やっぱり只の日記かな、と思ったけど、ジワジワ百合子さんという人が見えてくる。

    赤い実を口に入れようとして、泰淳さんに怒られる。
    「ふらふら散歩に出かけて、やたら道ばたものを口に入れるんじゃないぞ。前に死にそうになったのに懲りないのか。」(前にあったのね。)

    暗いガタガタのトンネルの中で車のホイールキャップが外れる。ふらふらトンネルの中に探しに行く泰淳さん。轢かれてしまうと怯える百合子さん

    停車中の処にトラックに追突される。百合子さんは相手と交渉してるのに、泰淳さんは相手の助手席に乗り込んでビール飲んでたりする。

    自衛隊が対向車線の中央分離帯を越えてくるので、「バカヤロー」と怒ると、泰淳さんに怒られる。その後、頭に血が上って無茶苦茶荒い運転をする百合子さん。

    変な夫婦だなあ。

    巻末に泰淳さんは日記には富士が美しいと書いてないと、記している。
    それでも富士山麓の自然の雰囲気と過酷さが伝わってくる内容だと思う。最初は、冬は東京に帰っていた筈なのに、何で厳冬の年末年始を過ごすんだろう。そういう説明は全然ない。日記だから。

    「暮れ方のサクラは一番きれいだ。何度でも観てやる。これはみんな私のものである。」
    人に読ませる気があったら書けない文章だな。

    勿論、続きも読むつもり。

  • 何回読んでも、最後まで読みきれない本ってやつが、たまにある。この本が読みきれなかったのは三度目。ああ、まさに3度目の正直だったのに。また今回も読みきれなかった。これはもう買おう。うん。それで読むか、きっぱり諦めよう。

    それはともかくとして。本書は田村俊子賞を取った名随筆である。人が、ご飯を食べたり買い物したり、そういう細々した事って、なんてまあ読んでいて楽しいのだろうか。富士山麓の麓の避暑地での、本当になんでもない日常。だけれど文章にすると、本当にささやかで愛おしい。大したことが書いてないと、退屈なさる方もいるだろう。でも、好きな方は本当に、武田百合子の文章にハマってしまうはずだ。

    私は、日記を読みたい方には、今後、この本と、永井荷風と、正岡子規の随筆を勧めようと思う。どれもちょっと似てはいないだろうか。美味しいものが好きで、小さな日常に、豊かな精神世界をぎゅっと凝縮させて暮らしていたひとたちの記録ってところが。

    やっぱりきっと、もう一度読むって、私は言い出すのだろうなあ。

  • だめだ…合わなかった。美味しそうじゃない。それに尽きる。銀色夏生のつれづれノートとほとんど変わらないと思えたが、銀色夏生は美味しそうなんだよな…。ご飯のお伴にできるかできないか、が私の随筆の好みの条件だから…。世間の評価が高いですが、すいません、合いませんでした。

  • 平凡な日常の中にこそ人生の楽しみは隠れていることを教えてくれる。

    武田泰淳、百合子夫妻は富士山麓に別荘を買い求める。そこでの暮らし、極めて平凡な、食事や季節の変化を記録しただけの日記。なのになぜこんなに面白いのだろう。

    まだ高速道路の開通する前の時代。甲州街道経由か国道246号経由か。当然トラックが多いし、事故も多い。渋滞は少ないが。

    ちょっとした買い物と地元の富士吉田の人々との会話の羅列。構成がなくとも、淡々と続く日々。武田百合子の視点の斬新が本書の魅力の多くの部なのだろう。

    何か楽しいことがないか、刺激がないかと求める向きには、本書の視点は極めて有用であろう。
    別荘というだけで非日常的な要素があることも否めないが。

    全然ドラマチックでない淡々とした日々平安な生き方、これが大多数の人の人生のほとんどの部分なのだろう。毎日を何事もなく過ごすだけでも、立派な生き方なのだと思う。

    上巻は昭和39年の7月から昭和41年の9月まで。

  • 富士山麓の山荘での日常を綴った日記。筆者の家族の日常を書いているので、何も大きな事件は起きない。ただ日常が描かれる。少々退屈。
    買い物の記録も多く、50年以上前の物価が分かる。今と比べて全然安いものもあれば、あまり変わりがなくない?というものもあり面白い。
    日記の文体が参考になった。

  • 昭和40年12月の車の故障の描写がうますぎて、笑えない状況に笑ってしまった
    昭和41年6月のタイヤホイールカバーが外れた日の話が切なくて胸がきゅってなる
    百合子氏の気強いけど家族の前だと甘えられるところに惹かれる
    武田一家も好きだし、富士山麓の人たちがいいな
    知らない人たちなのに知ってる人みたい

  • 阿久津隆さんの「読書の日記」にて、読まれていた本。
    以前より、気になっていてようやく手に取ることができた。
    僕は何より、ポコが好きです。
    残りの2巻もちまちま読んでいこうと思います。

  • 何も事件が起こらないただの日記なんだけど、しみじみ文章がうまい。
    「ヒューマニズムのような家具」「ニスを塗ったような肌」とか、ここだけ取り出してもうまく伝わらないかもしれないけど、最高に笑える。
    死んだ鳥を庭に埋める話も印象深い。ぞっとする。

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著者プロフィール

武田百合子
一九二五(大正一四)年、神奈川県横浜市生まれ。旧制高女卒業。五一年、作家の武田泰淳と結婚。取材旅行の運転や口述筆記など、夫の仕事を助けた。七七年、夫の没後に発表した『富士日記』により、田村俊子賞を、七九年、『犬が星見た――ロシア旅行』で、読売文学賞を受賞。他の作品に、『ことばの食卓』『遊覧日記』『日日雑記』『あの頃――単行本未収録エッセイ集』がある。九三(平成五)年死去。

「2023年 『日日雑記 新装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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