極北 (中公文庫)

  • 中央公論新社
3.79
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本棚登録 : 149
レビュー : 11
  • Amazon.co.jp ・本 (419ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122068292

作品紹介・あらすじ

極限の孤絶状態に陥り、

酷寒の迷宮に足を踏み入れた私の行く手に

待ち受けるものは――



最初の1ページを読み始めたら、決して後戻りはできない。

予断を揺るがし、世界の行く末を見透かす、

強靱なサバイバルの物語。



この危機は、人類の未来図なのか。

村上春樹が紹介した英国発の話題作、いよいよ文庫化。

感想・レビュー・書評

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  • マーセル・セロー『極北』中公文庫。

    シベリアを舞台にした単純なサバイバル冒険小説かと思って読み始めたのだが、少しずつ物語の全貌が明らかになるにつれ、真っ暗な絶望感だけが心の中を侵食していく。

    こういう小説の場合、大概主人公は男なのだが、途中で主人公が女である描写があり、驚かされる。何があったのか解らないのだが、絶滅寸前の人類が辛うじて極北に生き残った近未来が舞台のようだ。

    絶望の果てに死を決意したはずの主人公のメイクピースは、死への渇望から逃れ、単身過酷な旅に出る……

    話題になっている理由は翻訳が村上春樹だからだろう。

    本体価格860円
    ★★★★

  • 途中まで冒険小説?と思いながら読み進めていたのだけど、村上春樹の言う「近未来小説」の幕が、中盤を過ぎた所でブワァッと突然上がる。

    そこから見える光景が、なんともはや。
    ゾーン。なるほど。予想外でした。

    以下、ネタバレ含みます。



    個人的には超序盤の、主人公メイクピースと言葉の通じないピングの出会いがすごく好き。
    本を盗みだすピングに銃撃をお見舞いするメイクピースなのだけど、殺しはせず、その後二人は共に暮らすことに。

    湯船で互いに女であることが分かり、ピングがすすり泣きながらメイクピースに抱き付くシーンに、じーんと来てしまった。
    これ、男同士では生じないであろう(笑)

    結局、ここが幸せの絶頂期なのだけど。
    カリブー捌いたり、男に痛手を負わせたりと、メイクピースの格好良い姿は最後まで味わえます。

    ピングを喪って、生きることの意味を失う姿も、飛行機を見て、世界の外に新たな希望を見出す姿も一連の流れにあるのに、浅さを感じさせず、彼女の求めるものとは、人だったのかなと切なく思うのでした。

  • 荒廃した厳寒の極北の地で一人で暮らしているメイクピース。家族はすでに亡くなり、殺し合いと奪い合いの結果、町にもほとんど人は残っておらず廃墟と化しており・・・。

    アンナ・カヴァンの『氷』を読んだときもそうだったが、荒廃した世紀末…という設定にいつも反射的に私の脳内に浮かぶイメージは『北斗の拳』の世界(苦笑)しかしまあ、あながち間違ってもいないと思う。狡猾な者、そして腕力のある者が、弱者から奪い搾取する世界を、メイクピースは孤独にサヴァイブしていく。

    その極北がどこであるかは徐々にメイクピースの回想の中で明かされていく。サバイバルスキルがあり、タフで反骨心のあるメイクピースは、あらゆる困難を乗り越え一人生き残るが、大切な人を失い、生きる意味も見失いながら、僅かな希望をみつけ旅立つことを選ぶ。まだどこかに文明社会があり正しい生活を営んでいる人々がいるはずだと信じてそれを探し求めるメイクピース。希望はことごとく裏切られるが、しかしメイクピースは生きることを諦めない。

    なぜ人は生きるのか、生きる意味とは何なのか、そうまでして生きる価値はあるのか。自分という存在に生きる価値があるのかという意味ではなく、生きることそのものに何の価値があるのか、という問いかけを、メイクピースの生きざまは粉砕していくようだ。ただひたすら、生きるために生きる、その本能に従うだけ。クールで潔い。

    メイクピースの変転とともに物語もぐいぐい転がっていくが、何度かちょっとした仕掛けがあり、飽きさせない。どんでん返しというほどではないけれど、メイクピースが知っていることを小出しにするせいもあり、突然今まで伏せていたカードを表にかえす、そのタイミングがうまいので何度かハッとさせられた。(だからその重要な部分はこの感想には書かずにおきます)

    メイクピースの生きる目的は「復讐」というわけではなかったけれど、結果的にそれを果たすことになる痛快さも少しだけある。ある人物がメイクピースに吐き捨てる「イゼベルめ」というセリフだけ、少し記憶に留めておくことをおすすめします。

    余談ですが作中何度も出てくるカリブーという動物、語感からなんとなくブタとか猪っぽい生き物を勝手に想像していたのですが、どうやらトナカイらしい。寒いもんね。あとムースというのはヘラジカのことで、出てくる動物のほとんどはそっち系で想像するのが正解かも。でもどうしても食べるってなるとトナカイやシカ系はイメージしづらいんですけども。

    翻訳は村上春樹ですが、春樹臭はそれほど感じませんでした。メイクピースのキャラクターにも春樹感はなく、メイクピースのことは私はとても好きだったので、読みやすく簡潔な翻訳で良かったと思う。

  • すごかった。こんな大きいスケールの物語を淡々と描けるの本当に凄い。



    『私はたとえばオーロラに対して畏怖と驚異の念を覚えるが、それが自然の営みであることを知っている。ところが橋の上に立ち、対岸に広がる空っぽの都市を眺めるとき、私の視野の領域に収まるすべては、人の手によってそこに据えられたものだ。電線を張り巡らせた鉄柱も、空にそびえる高層建築も、瓦の敷かれた屋根も、すべてがそうだ。そこにはかつて何百万もの人を養えるだけの食料と飲料水が備えられていた。私は簡単に涙を流すような人間ではない。しかしそのかつての我々の残骸を眺めているうちに、そしてぼろを見にまとった一群の囚人たちが、巨人の死体をついばみに行く小鳥たちのようにそこに向かって歩いていくのを見ているうちに、いつしか目の前がぼんやりと滲んできた。』

  • 世界は終わった―。そう言葉にするのは容易いが、それでも人類はその【終わった世界】を生きる他にない。極北の地を舞台に、ひとり残された主人公は旅に出る。傍らの日常を奪われた時、人はアイデンティティを喪失する。肩書、知識、信仰すらも価値を失った時、真価は問われる。幾度も傷つき、度々感傷に浸り、それでも【何か】を求めサヴァイブする主人公のタフさが胸を打つ。先読みの出来ない展開も終盤に差し掛かりトーンダウンするが、作品に隠された仕組みがそこで浮かび上がる。ひとつ命が尽き果てようとも、継承される物語は未だ終わらない。

  • 私の好みではないのだけど、なんだこれは、どうなってるんだと取り憑かれるように読んでしまった。

    初めはまるで上橋菜穂子さんの鹿の王や精霊の守り人みたいだなと読み進めながら、もっと暗い深い闇に紛れ込んでいく感じ。(メイクピースのタフだけど、どこか憎めない生き方はちょっとだけバルサを思い出す)

    そして、チェルノブイリ、福島を連想させられ…結局はコロナという世界がまるで世紀末のように侵された今の状況も重なり…
    怖くなった。

    救いはいつもあるけれど、とにかく怖い。

    「私は眠るために横になりながら考えた
    失われてしまったものは惜しいけれど、あるいはこれがいちばん良いことだったのかもしれないを二百年ばかり地球は休みをとるのだ。その間に雨が汚れを洗い流してくれる。そして私たちはレキシの堆積層のひとつとなる…」

    救いはどこにあったのかな?
    ちょっとラストについていけなかったので、もう一度読み返してきます。

  • 極限の孤絶から、酷寒の迷宮へ。私の行く手に待ち受けるものは。
    この危機は、人類の未来図なのか――読み始めたら決して後戻りはできない圧巻のサバイバル巨編。

  • P.2020/3/6

  • 取っつきやすい冒頭からすると、だんだん重くなってきます。タイトルや装丁から想像するものとは、違った方向、ストーリーでしたね。

  • 行きて帰りし物語の体裁を取った綺麗な構成で、訳文も読みやすい。主人公の強さと情の揺れ動きのバランスが絶妙。
    若い頃の事件の裏に敬虔な父親がいた、というのはありきたりだなぁと思っていたが、もう一回ひっくり返してくるストーリーは最後まで気合いが入っている感じで良かった。ラストシーンのピングのくだりも、しっとりとした読後感を誘って好き。

    SFっぽさもあり、放射能汚染された都市に残った青いフラスコ瓶なんてどう考えてもヤバイ感じしかしないのに人々が警戒しないのが不思議だった。日々を生きるのに精一杯で、そういう想像力が失われてしまった未来なのかもしれない。

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著者プロフィール

マーセル・セロー
一九六八年ウガンダに生まれ、英国で育つ。ケンブリッジ大学で英文学を、イエール大学でソヴィエト、東欧の国際関係を研究。環境問題から日本の「わびさび」まで、多様なテーマのドキュメンタリー番組制作に携わるほか、二〇〇二年に発表した小説 The Paper Chase でサマセット・モーム賞を受賞。本書『極北』は全米図書賞及びアーサー・C・クラーク賞の最終候補となり、「主要な文学賞が見過ごしている格別に優れた作品」に贈られるフランスのリナペルスュ賞を受賞している。その他の作品に Strange Bodies などがある。

「2020年 『極北』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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