眠れない夜は体を脱いで (中公文庫 あ 91-1)

著者 :
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122069718

作品紹介・あらすじ

自分の顔がしっくりこない男子高校生。五十過ぎに始めた合気道で若い男の子とペアを組むことになった会社員。恋人の元カノの存在に拘泥する女子大生。妻も部下も、なぜ自分を不快にさせるのかと苛立つ銀行支店長。彼らは「手の画像を見せて」という不思議なネット掲示板に辿り着く……。「私」という違和感に優しく寄り添う物語。〈解説〉吉川トリコ

感想・レビュー・書評

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  • 読みやすく、一話一話は短いのに、個人的には割と没入感があった。
    自分の体がしっくりこない人たちがメインの話。
    こんな時自分が男だったら…とは思ったことあるし、なんだかわかるなぁという話が多かった。

    中学生の時にこの本に-こんな読みやすさでさらっとジェンダーのバイアスとかを扱う話に-出会えていたら、もっとはやく視野が広がって、無意識に他の人にバイアスのある視線や声をかけず、自分も気にせず過ごせてよかっただろうにな、と少し思ってしまった。

    とりあえず、合気道、とてもやってみたい。
    中学、高校の時の柔道の授業で受け身が特に好きだったことを思い出した。

  • 自分自身との折り合いがうまくいかない、自分でいることに窮屈さを感じる。こんなに苦しいことってあるか。だけど、共感すること多く読み進めました。
    相手との関係性、距離感にもよるが、おそらく人は大なり小なり自分を演じている部分もあるのではないか。
    コンプレックス、性別、年齢、こうあるべきという価値観、一般的な役割をうち破りながら自分を見つめ、認め直してゆく。
    無意識に解放されたいという思いが繋がったのか、各章の主人公は、あるネット掲示板に辿り着く。この一風変わったスレッドへの応答に様々な捉え方がきっかけとなり現実と向き合う。
    体を脱ぐ、役割の枠に押し込められず、素のままのなりたい自分になる、これが出来たらいいのですが…。
    5つの章、どれも個性に富み深かった。特別何が起きたというわけではないけれど、現代を生きる人たちの(居場所を探す)生きにくさの繊細な心理描写が響きました。
    印象的だったのは、「あざが薄れるころ」の真知子。
    世間からは少し違ったかもしれないが、ひたすら技を磨く姿が凛としてかっこいい。
    「欲しいもの、これさえあればいい、他の人が持っているものはあったら嬉しいけど、なくてもまあいい、というものが分かったから、幸せになれたのかもしれない」
    どれもラストは、主人公の表情がすっきり生き生きとして見えるところが良かった。
    一生つきあっていく自分自身、やはり好きになるのが
    いいけれど、人はこういう思いを抱えてるんだなと。

  • 人は自分の理解を早めるために、自分のなかで作ったフレームに合わせて物事を理解しようとする。

    「顔が良ければ、その他の全て素晴らしい人だ」、「女の人は女らしいかっこをして結婚することが幸せだ」、「死んだ元カノには勝てない」等フレームが邪魔をする。

    このフレームは物事を素早く理解するのには役立つが本質を見極めようとする時には邪魔をする。難しい。

    最後まで読んだ後で「鮮やかな熱病」を読み返すと、本藤が手の写真の掲示板を見た時の感想、これが一番フレームが邪魔をする例を面白おかしく体感できる。

  • なんとなく読みやすいかな?と言うだけで手に取った一冊。何も期待していなかっただけに予想以上に面白かったし、気持ちが前向きになれた。

    短編でサクサク読める。ひとつのネットの書き込みをめぐってのそれぞれの見方が面白い。どれもわかる点はある。どの主人公、どのストーリーも好きだった。

  • 自分や相手に違和感を感じて、やるせなさや息苦しさを感じる。誰もが経験したことのあるこの感じ。
    些細なきっかけで、その違和感を受け止めて前に進んでいく彼らに元気をもらえる、ほっこりする作品です。

  • 5編どれもとても良かった。体のコンプレックス・・・というか、自分のありようと客観との間にあるギャップに、戸惑う気持ちがいろいろな方向から繊細に描かれている。どのお話を読んでも少しずつ、あ、なんだか分かるな、と思ったり、戸惑う人がいたら、こんなふうに接すればいいのかな、と思ったり。
    ふだん生きる社会と、自分の内面とがなんだか噛み合わないと思う人は多いのかな。程度の差はあれ。その感覚に対して、どう向き合うのかも人それぞれ。「認めていいんだ」と思えるようになる高校生の和海。すでに飲み下して、「変わってる」と言われることに何かを感じることもなく日々の楽しみを見つけている50代の真知子。私が一番気持ちを寄せたのは真知子だった。欲しいもの、なくてもいいものを、きちんと見分けられるようになって、幸せな夜を過ごせたらいいな、と思う。

    客観的な要請に合わせれば過ごしやすくなるのかもしれないけど、それが生きやすさに繋がらないならしんどい。そこに目を向け、息をつける瞬間も与えてくれる、そんな物語。

    いい言葉もたくさん。
    「息抜きしたり、自分を作り変えたり、そういう力をあんただけじゃなくて周りも手に入れて、優しくなるから。」
    「新しい価値を不快に感じるのは、それまでのルールに上手く乗ってこられた奴だ。」
    「愚かな熱病に、一度ぐらいかかってみても良かったのかもしれない。そうでなければ、他人の病を許せないのかもしれない。」

    あと、各話に共通して出てくる「手を見せてほしい」のスレ主に『マリアを愛する』の香葉子だけが違和感を覚えている。「労力と成果の帳尻が合っていない」と。スレ主が目指した女の子と香葉子が近い世代だからかなと思うとおもしろい。

  • 帯は、
    -------------------------
    自分でいることに
    窮屈さを覚えた人々が
    夜な夜な掲示板に集う。

    ”私”とうまくつきあえない――
    悩める人々を解放する物語

    いつになったら、
    私は私と仲良くなれるの?
    -------------------------
    『小鳥の爪先』
    高校生の和海は、顔が良い。
    そのせいで、周りの友達や恋人との関係がうまくいかず、
    孤独を感じている。

    『あざが薄れるころ』
    結婚も出産もしないまま、おばさんという年齢になった。
    「女」を押し付けられるようなことには違和感を感じていた。それはおかしいこと?

    『マリアを愛する』
    私には大好きな彼がいる。
    だけど彼の中には、映像で残っている死んだ元カノがいる。死んだ相手には勝てない。
    そう思っていたら…。

    『鮮やかな熱病』
    銀行員として生きてきたが、このところ何に関してもイライラする。妻の行動、娘との距離、友人の決断。
    どうしてイライラするのか。忘れているもの、見えないものに気づけるのか。

    『真夜中のストーリー』
    アバターを作って、仮想空間で恋愛をしている。
    仮想空間内での彼、昴に、現実世界で会いたいと言われる彼女の月子。
    でも月子の本当の姿は30代の男。
    性別が異なる本当の姿で、実際に会うということ。

    どれもこれも日常にありえる、
    言葉にならないような、
    目に見える形になりきらないような違和感、孤独感。
    でも、自分にとっては大きくて、
    永遠にように感じる。泣きたくなる。

    そんな経験を掬い上げて、
    それも悪くないよ、って見せてくれるような一冊でした。

  • 以下、ややネタバレ注意です。




    「小鳥の爪先」
    容姿が優れて生まれてきたことは、宝石を背負って生まれてきたみたいなもの。
    でも、それを宝石よばわりして、価値を外から押しつけられること自体が、苦しかったのか。

    イケメンであることを肯定的に受け取れない和海にかけた、図書室の先生の言葉が、素直に好き。

    あなたは恵まれていると言われ続けて、そのことに苦しんでいたって、幸せな悩みと片付けられてしまう。そんな苦々しさを経験したことがある人は、多いんじゃないかな。
    同じだけ、誰かの苦しみを自分と比べて価値づけてしまったことも……。

    「あざが薄れるころ」
    中年女性と若い男の子が、合気道の黒帯を取るための審査に向けて、ペアになるお話。

    きれいに技を受けられるっていいなあ、と思う。
    相手の力をうまく自分の中に流してしまえるようなメンタルに、私はなりたい(笑)
    二人の技に均衡が生まれていくのが、素敵だなぁと思いながら読んでいた。
    合気道の気の部分は、ちょっと胡散臭い時があると聞いたことがあるけど……身体も心も、上手くつながり、流れることは、どこか同じように思う。

    「マリアを愛する」
    死して人は完成する、のかな。
    「まぼろし」というフィルムに収められた、マリアと基裕。二人は恋人同士と目されながら、マリアは交通事故で亡くなったしまった。

    そんなマリアが幽霊となって現れるくだりも好きなんだけど。「まぼろし」を観たときに、母親と好きなものを共有したときの、淡い幸せな時間を反芻する香葉子の感覚も、すごく好き。
    この二人だから、物語は一歩前に進められたんだと思って、涙が滲んだ作品。

    「鮮やかな熱病」
    生真面目仕事人間の父親が、自分が取りこぼしてきたものを、少しずつ認識していくお話。
    よくあるパターンではあるけれど、行き着くところがヤドクガエルの帽子なのがポイントです。
    奥さんがいきなりそんなの作り出したら、確かに呪いを疑いそう。ここにも「変な子のままでいさせてくれて、ありがとう」が見えるように思う。

    「真夜中のストーリー」
    オンラインゲームで付き合うことになった、幸鷹と月子。幸鷹は実は女の子で、月子は実は男だった。

    最近、ヴァーチャルと現実は、自分が思うよりもあやふやな気がしている。
    身体を持った現実が、唯一の世界のはずなのに。でも、月ちゃんのように、ヴァーチャルの方が生きている感覚や、飾らなさを持つことに違和感がない。

    虚構に救われていいんだと思う。

    短編集の中では、男女の性や性的役割について、多く触れられている。
    私も、小さい頃はジーンズしか履かなかった。スカートなんて大嫌いで、母の趣味には合わなかった。
    けれど、今はそうしたことに苦痛を感じることが少なくなった。なんだっていいからなのだと思う。

    そう思うと、子どもが見えない枠組みをはめられて、その中で育つことが健全だというストーリーを、大人がいかに我慢して壊してあげられるかなんだろうなぁ……。

    とにかくどれも良くて、次のお話に行くまでに、余韻を感じたいと思わされた。

  • 手の書き込みサイトがどれでも出てきて気になったのも、最後にちゃんとオチが付く、これもまたいい作り。物語も繋がっているし内なるテーマも繋がるし、いいですね。身体を脱ぎ捨てるという発想と実際にあり得る事と、なるほど頷く。綾瀬まるさんは桜の下で待ってるから読み初めて、地元が舞台で訛りがちゃんとしてて、そこからですね好きになる。震災の時に相馬で電車に乗っていたんだった。やがて海へと帰るが強く残ってて、あの世界観が何回でも読める

  • 最初はタイトルの意味が分からなくて、だけどすごく気になって手に取った本。

    "体を脱ぐ"ことができたらどれだけ良いだろう。
    私は自分の顔が嫌い。体型も声も嫌い。だから、今の体を脱いで他の誰かの体に入れたらいいなぁと、小さい頃から思っていた。

    本作は、そんな私のように自分という入れ物に何らかの違和感を感じている五人のお話。自分が思い描いている"自分"と、他者が見ている"自分"との乖離に思い悩む五人。
    私は中でも「鮮やかな熱病」が好きだ。こうあるべき、といった枠に囚われがちな人は、きっとその人自身が枠に無理やりはめ込まれて息苦しい思いをして育っているのだと思う。そんな語り手が、体を脱いで伸び伸びと彼らしく息をし始めるラストに自然と頬が緩んだ。

    私も自分自身が好きになれなくても、しっくりこなくても、何か自分に合ったものを見つけて私らしく息ができるようになりたいなあ。

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著者プロフィール

1986年千葉県生まれ。2010年「花に眩む」で「女による女のためのR-18文学賞」読者賞を受賞しデビュー。16年『やがて海へと届く』で野間文芸新人賞候補、17年『くちなし』で直木賞候補、19年『森があふれる』で織田作之助賞候補に。著書に『あのひとは蜘蛛を潰せない』『骨を彩る』『川のほとりで羽化するぼくら』『新しい星』『かんむり』など。

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