インフォデミック-巡査長 真行寺弘道 (中公文庫 え 21-5)

著者 :
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (377ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122069862

作品紹介・あらすじ

情報に感染し、人は動かされる


2020年春、新型コロナウイルスが世界を席巻する。大型連休を目前に控え、内閣総理大臣は特措法に基づく緊急事態宣言を発出し、人々には外出自粛を、人が密集する事業所には営業自粛を求めた。「命を守るため」という触れ込みであった。

しかし、日本は他国と比べて異常に死者数が少ないというデータが出続ける。何が真実なのかまったく不透明な中で、人々は不確かな情報に感染(=インフォデミック)し、合理的な判断を下せなくなる。そんな中、「人は死ぬときは死ぬ」とライブ活動を続ける伝説的なミュージシャン・浅倉マリがメディアに登場。真行寺は高齢な浅倉の監視と説得を、水野玲子捜査一課長に命じられる。果たして、浅倉が仕掛けた引退コンサートはどのような結末を迎えるのか?


コロナ禍の現在をリアルに抉る超エンターテイメント

感想・レビュー・書評

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  • 榎本憲男『インフォデミック 巡査長 真行寺弘道』中公文庫。

    シリーズ第5弾。文庫書き下ろし。

    新型コロナウイルス禍に翻弄される日本の状況をリアルに背景に物語は展開する。様々な情報が飛び交い、不確かな情報ばかりが伝播していく不条理。新型コロナなど単なる風邪と変わらない、インフルエンザの方が死亡率が高い、若者は重症化しない、BCGの接種が感染を抑制している、Go To事業が感染を拡散・拡大させたエビデンスは無い……

    出張は無くなり、旅行にも行けず、自粛に我慢、マスクに手洗いというまるで囚人のような毎日。そんな俯く毎日に覚える閉塞感。それを全て吹き飛ばしてくれるかのような爽快感あふれる作品だった。そして、予想外の展開と感動の終盤、驚愕の結末……

    この作品を通じて我々はこの情報の感染(インフォデミック)にどう接するべきかというメッセージを感じた。

    政府が新型コロナウイルスによる自粛要請を求める中、伝説的なミュージシャン・浅倉マリは「人は死ぬときは死ぬ」と全く意に介さずライブ活動を続ける。水野玲子捜査一課長から浅倉の監視とライブ活動自粛の説得を命ぜられた巡査長・真行寺弘道は浅倉が仕掛けた引退コンサートを止めることが出来るのか……

    DASPAの警察庁警備局出身のキャリア官僚・吉良大介も登場。

    本体価格800円
    ★★★★★

  • 真行寺弘道シリーズは常に社会のトレンド的な話題を物語の中軸に据えつつ、それでいてそこで投げかけられる(表向きは真行寺に対してだが、実は読者に対して問題提起されている!)二者択一的な選択肢は作品の中ではフィクションではあるものの、その方向性は現実世界を一歩も二歩も先取りした内容といえます。100%そうなるかどうかは定かではないけれども、ひょっとするとこういう未来もあるかも、と思わせられる内容になっているところが読みどころかと思います。

    さらにもう一つのおもしろポイントは作品を読みながら真行寺にアタマの中の思考を一緒にたどっていくところでしょうか。真行寺自身も迷いながらそれでも思考を進めようとしている部分に触れると、あたかも自分が主人公になったような臨場感があります。

    で、本作で構築されたシステムは政府がつくったCOCOAどころじゃない! 個人の行動が丸わかりになるとはいえ、感染経路特定にこれほど有効はものはないかもしれません。個人の行動履歴をすべて吸い上げられるのはどうかとも思いますが、現在の感染高止まり状況を鑑みると、そこまでやらないとどうしようもない未来が待っているのかも、と考えてしまいます…。

    そして本作では著者が一つ前に刊行した「DASPA」に登場した吉良も黒幕(?)として登場。イベント会場内での真行寺とのやりとりは本作で著者がもっとも投げかけたかった内容が凝縮された場面といえるでしょう。真行寺の言い分はちょっと青臭いか…、かといって吉良の言い分も偏りすぎというか、時代の先を行き過ぎていて周囲がついていけていないだけか…、などなど。

    世の中的なネタを扱っている点は過去の4作と共通していますが、そのネタと読者との関わりという点では今回のものは段違いで、それだけに至るところで考えさせられる内容になっていました。為政者が読んだらどんな感想を持つのだろう、ということもちょっぴり気になりました。

  • 巡査長真行寺弘道シリーズ第五弾。

    新型ウイルスが世界を席捲する2020年、自粛ムードが蔓延し、自粛警察という言葉があちこちで語られ出した頃、警察は大きなロックフェス開催の計画を察知する。課長の水野から首謀者のミュージシャン浅倉マリの説得を任されるが、そこには白石サラン関わっていた。自粛なんてクソ喰らえ、自由を守れと聞く耳を持たないサランに心の底で同調し、説得しきれない真行寺。そして、フェス当日、真行寺はその裏に隠された大きな陰謀に気づく。。


    コロナパンデミックの中での自粛ムードへの疑問を投げかける本作。サランのイキった態度や公僕である真行寺の弁えない態度にうんざりする。
    マリやサランの自由は自分たちさえ良ければ良いという考えであって、吉良が真行寺に言ったように自由を求めて社会の外に出て、そこに自分たちだけのコミューンを作れば良いと心底思う。

    真行寺の鳥海に対する働きかけは捜査妨害でしかなく、いくらなんでも刑事としても、人間としても正しい姿とは思えないんだけどね。
    やっぱり私は、エッティーラージ、黒木、吉良の考えの方がしっくりくるかな〜。

    という訳で、シリーズ5作一気読み。
    次はDASPAシリーズ。
    その後は、黒木が主役の新作を読もうかな〜

  • 最後に真行寺が北海道に行くが、そのあたりに主張することがなんとなく見えた感じがした。

  • なかなか勇気ある提言として受け取った。

  • 二〇二〇年、新型ウイルスが世界を席巻する。真実が不透明な中、人々は不確かな情報に「感染」。真行寺は捜査一課長からの密命を帯び……。文庫書き下ろし。

  • 04月-12。3.0点。
    コロナの出始め。老いた女性歌手が「引退コンサート」を企画。場所、規模等なぞの中、真行寺はコンサートをしないよう説得を命じられ。。

    イマドキの小説。しかしスケールの広げ方が相変わらず上手い。ラストは、うーむ。すっきり感がもう少し欲しかった。

  •  二つの小説(主人公)を絡ませる必要はあるのか。
     

  • 真行寺さんシリーズ、大好物なんですが、本作はテーマが時事ネタ過ぎて読み手が冷静になれないせいか、はたまた自由と監視・干渉の二律背反に迷う真行寺の葛藤のせいか、スキっと爽快!にはなりませんでした。

    お釈迦様の掌の上で踊るを是とするか非とするか。鳥籠は嫌だけど鳥小屋なら許せるのか・・・。
    サランにはこれが自由だったけれど、真行寺には網をかぶせられたような束縛を感じるんだろうね。

    でもこんなシステム、それこそ中国ならてきぱきと作り上げて自画自賛しそうかも。

    結局、百人集まれば正義は百通りあるということでしょうか。


    このテーマ、吉良サイドからのストーリーも別にDASPAシリーズで出ているそうですので、そちらも読んでみましょう。

  • 前回よりもDASPA吉良がしっかり絡んできてて
    立場の違いというか両雄、黒木という共通項がありながら分かり合えないところがより鮮明になってきて
    真行寺さんはいい意味でロック青年が何も持たずに
    ロック中年になっちゃったけど
    懐古思想ではないからいいよなー

    わからないをわからないままにして
    だけど何で??はやめない

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著者プロフィール

一九五九年和歌山県生まれ。大学卒業後、西武セゾングループの文化事業部に勤務。その後東京テアトルにて映画事業に携わる。劇場支配人、番組編成担当、プロデューサー等を務め、退社。二〇一一年、監督デビュー作「見えないほどの遠くの空を」の公開と同時に、同作の小説を発表。一六年『エアー2・0』が大藪春彦賞候補となる。他の著書に「巡査長真行寺弘道」「DASPA吉良大介」シリーズなどがある。

「2022年 『アクション 捜査一課 刈谷杏奈の事件簿』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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