大人になったら、 (中公文庫 は75-1)

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  • 中央公論新社 (2022年1月20日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (320ページ) / ISBN・EAN: 9784122071711

作品紹介・あらすじ

三十五歳の誕生日を迎えたメイ。「いつから彼氏いないんですか?」「何が目標なんですか?」――失礼な後輩に憤慨しつつも、カフェの副店長として働く日々はそれなりに充実している。毎日同じメニューを頼むお客さんも、そんな日常の一部だったのだけど……。久しぶりの恋に戸惑う、大人になりきれない私たちの恋愛小説。<解説>渡辺雄介

みんなの感想まとめ

等身大の悩みを抱える主人公メイの姿に、多くの読者が共感を寄せています。彼女の日常や恋愛に対する戸惑いは、まるで自分自身の経験と重なるようで、感情移入がしやすい作品です。特に、メイの心理描写が丁寧で、彼...

感想・レビュー・書評

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  • あなたは、『三十五歳』という時代をどのように思うでしょうか?

    このレビューを読んでくださっている方の年齢はマチマチです。『三十五歳』を、未来に見る方もいれば遠い過去に見る方もいる、そして、現在進行形という方も間違いなくいらっしゃるでしょう。同じ『三十五歳』と言ってもそこに見えてくるものは異なるはずです。

    では、『日本人女性の平均寿命は、八十七歳と少し』という現代社会にあって、『一生を六十分のドラマと考えたら』『三十五歳』はどのような時代になるのでしょうか?

     『三十五歳は起承転結の起が終わり、承の半ばに差しかかろうとしているぐらいだろう。これから転があり、結はずっと先で、何が起こるかまだわからない』。

    確かにこの考え方には一理あると思います。

     『とにかく、三十五歳は、まだまだ若いはずだ』。

    この考え方は間違いないのだと思います。しかし、本当にそうでしょうか?『まだまだ若い』と呑気に構えていても良いものなのでしょうか?

    さてここに、『今日で三十五歳になった』という一人の女性が主人公となる物語があります。カフェの副店長として仕事に奔走する主人公を見るこの作品。そんな女性が『これが、恋なのだろうか』という瞬間を感じるこの作品。そしてそれは、”30代女性が読むと、共感が止まらなくなります。胸キュンも少し”とおっしゃる畑野智美さんが綴る”恋愛物語”です。

    『六月二十二日、今日で三十五歳になった』と『目覚まし時計』の『ボタンを押して止め』るのは主人公の葛城命(かつらぎ めい)。『とにかく、三十五歳は、まだまだ若いはずだ』と思うメイですが、『でも、若くなんてないのだ』とも思います。『子供もいなければ、結婚もしていない。八年前、二十七歳の誕生日に、十年間付き合ったフウちゃんと別れてから、彼氏もいない。好きな人もいないし、気になる人もいない』というメイは、『だからといって、恋愛を諦めたわけではないし、仕事に人生を捧げていて恋愛どころではないわけでもない』という今を思います。『もう起きなくてはいけないと思っても、起き上がれない』というメイは、『高校二年生、十七歳の誕生日の放課後、同級生だったフウちゃんに告白された』時のことを思い出します。『「葛城のことが好きだから、付き合ってほしい」と言われ、うなずいた』メイは、『窓から陽が射して、世界が輝いて見え』ます。『十八年も前のこと』にも関わらず、『ほんの数年前のことのように感じる』というメイは、ようやく『起き上がり、ベッドから出』ました。そんなメイは、『キートスという』『駅の反対側にあるカフェ』で副店長として働いています。『北欧風にまとめたお洒落な店として、雑誌の取材も何度か受けているが、チェーン店』という『キートス』へと出勤したメイは、『新卒で今年入社したばかりの社員』である杉本を探します。そんなところに『おはようございます』と『鶏の唐揚げを揚げてい』た『ベテランアルバイトのレナ』が声をかけてきます。杉本のことを訊くと『レジ開けしています』と言われホールへと向かうと、『レジの前に立って、ぼうっと天井を見上げ』る杉本の姿がありました。『どうして、レナちゃんが唐揚げを揚げているんですか?』と訊くメイに『早いですね』と言う杉本。『オープン準備ができているか確認するために、早めに来たんです』と返すメイは、『今日のシフトは十一時から二十時までの中番だが、三十分前に来』ました。『僕ができないって疑ってるんですか?』と言う杉本に、『疑ってるわけではないです。初めてひとりで入ったら、完璧にできないのは当然だから。それよりも、最初の質問にまず答えて』と返すメイは、質問を繰り返します。それに『僕ができないって言ったら、やってくれるって言うから』と答える杉本は、『レジ開け』も『なんか、わかんなくなっちゃった』のでできていないと説明します。『マニュアル、渡したよね?』と訊くメイですが、『今の時代、紙のマニュアルっていうのも、違う気がする』等言い訳ばかりする杉本。『帰国子女で』『今年で二十五歳になる』杉本は、『すごくかっこよくて、背が高』く、『配属されてきて三週間しか経っていないのに、彼目当てのお客さんもいるくらい』の存在になっています。そして、『笑顔で頼まれると、断れなくなってしまう』という『アルバイトの女の子たち』。『店長は未だにガラケー使っていて…やっていることの古さに気づけずに、昔のままで何も変えないでいいと思っている』と続ける杉本に、『わかった。そういうことは、店長がいる時にまた聞きます』とだけ言うと、更衣室へと移動したメイ。『杉本君と話していると、大事にしてきたものを無神経に壊されている気分になる』と思うも『わたしが怒って反論したら、仕事が進まなくなる』と思うメイは、『まだひとりで厨房のオープン準備ができないかもしれない、と思いながら任せたわたしと店長の判断ミスと考えた方がいい』と結論します。そんなメイは『十一時に開店してすぐに来る常連のお客さんがいる』、『その人は、必ず鶏の唐揚げの南蛮漬けランチセットを頼む』と『開店までに、レジ開けをして、レナちゃんが揚げた鶏の唐揚げを南蛮漬けのタレに漬けて、他の下準備ができているか確認しなくてはいけない』と考えつつ、『まずは、制服に着替え』ます。そして、『開店してすぐに来る常連のお客さんは、レジカウンターの正面、ガラスに接した椅子席に必ず座る。眼鏡をかけ、スーツを着た男性で、いつもひとりで来る』と思うメイ。『雨の日も、雪の日も、台風の日も、欠かさずに来て、同じ席に座る。そして、鶏の唐揚げの南蛮漬けランチを頼む』という客が『いつも通りに注文されたので、いつも通りに出した』というメイ。そんな『メイ』に『あのお客さん、いっつも来ますよね』と『小さな声』で話しかけてきた杉本に『七年間、毎日来てるから』と返すと『マジっすか?』と『引いているような目をする』杉本は、『何してる人なんだろう。毎日、スーツですよね』と続けます。『ずっと謎だった』客の『正体が判明したのは、四年前』のこと、『新しくアルバイトに入った女の子が彼』のことを知っていました。『彼は、隣の駅にある予備校の数学教師』で『羽鳥先生といい、数学のカリスマ講師として有名な人』と知ったメイは、『年上だろうと思ってい』ましたが、実際には『同い年』でした。『あのお客さんが何してるか、わたし知ってる』と語るメイは、『教えないけど』と続けます。それに『ええっ、教えてくださいよ』と『かわい子ぶっているような、言い方をする』杉本を見て、『特定の彼女はいないらしい。だが、特定ではない彼女は何人かいるようだ。かわい子ぶれば言うことを聞いてくれたり、お金を出してくれたりする年上の女もいるのだろう』、『彼の性格は三週間でよくわかった。どんな顔をしても、わたしはだまされない』と思うメイは、『教えません。それより、お喋りしている場合ではないよね』、『厨房で、ランチの準備をしてください』と指示を出します。『キートス』で副店長として働くメイの三十五歳の今を見る物語が描かれていきます。

    “三十五歳の誕生日を迎えたメイ。「いつから彼氏いないんですか?」「何が目標なんですか?」 ー 失礼な後輩に憤慨しつつも、カフェの副店長として働く日々はそれなりに充実している。毎日同じメニューを頼むお客さんも、そんな日常の一部だったのだけど…。久しぶりの恋に戸惑う、大人になりきれない私たちの恋愛小説”と内容紹介にうたわれるこの作品は、1979年5月にお生まれの畑野智美さんが39歳の時に刊行されています。

    そんなこの作品は内容紹介だけでなく、本の帯に”8年ぶりに、恋をした”と大きく記されている通りそこには”恋愛物語”が描かれていきます。ただ、それ以上にこの作品を読んで感じるのは『三十五歳』という人生の分岐点にさまざまに思い悩む女性の姿をリアルに描いていく物語です。その一つが”恋愛”であることには違いないのですが、そこにはその先の結婚、子育てというものを俯瞰する感覚、一方で仕事に対しての思いが対になるように描かれていくのです。そんなこの作品を執筆するに至る畑野さんの思いを”小説丸”というサイトに見つけましたのでまずはご紹介しておきたいと思います。

     “『大人になったら、』を構想していた頃、2015年に『感情8号線』を出しました。それとは違うタイプの恋愛小説を書こうと考えていたとき、30代半ばの友人や知り合いと話していると、みんな恋愛や結婚で、すごく迷ったり悩んだりしていました。
    女の子は「結婚したい」「子どもがほしい」、でも「相手がいない」と言うんです。彼女たちの周りには、相手になりそうな男性がいないわけじゃないのに、何で?と思っていました。だけど男性の側も「結婚したい」「けど、彼女もいない」と言うんです。すぐ近くに対象がいるのに、なぜ?と不思議でした。ほしいものはすぐ近くにあるのに、実際に何を求めているのか、よくわからない。30代半ばのモヤモヤした空気感に触れて、『大人になったら、』を書こうと考えました”。

    少し長い引用ですが、畑野さんのおっしゃりたいことが朧げながらも伝わってくるように思います。短いようで長い人生、その中に私たちはさまざまな悩みと葛藤しながら生きていきます。それは将来が見通せないからこその悩みでもありますが、未来に無限の可能性があった20代までと異なり、30代という時代は、その先に見える景色がよりハッキリしてくる分さまざまな思いに囚われる年代だと思います。まさしく、”モヤモヤした空気感”が漂う時代なのだと思いますが、この作品の主人公・メイは、『十年間付き合ったフウちゃんと別れ』たことで結婚という未来が見えなくなり、一方の仕事においてもまさかの『店長試験』を『三年連続で、不合格』という結果の先に『副店長』という今の人生を生きています。そうです。この作品は、”30代半ばのモヤモヤした空気感”の中に一人の女性の”恋愛”と”お仕事”を見る物語なのです。

    では、まずは”お仕事”から見てみましょう。”お仕事”という意味で外せないのはこの作品の多くの場面で舞台となる『北欧風カフェ』『キートス』です。

     ● 『キートス』ってどんなお店?
      ・『店の名前は、キートスという。Kiitosと書く。フィンランド語で、「ありがとう」という意味』

      ・『青い看板に白い壁の外装は、フィンランドの国旗の色をイメージしている。内装も北欧風にまとめたお洒落な店として、雑誌の取材も何度か受けているが、チェーン店』

      ・『都内はここだけだが、札幌と大阪にも一店舗ずつある』

      ・『北欧風のカフェでも、ごはんとおかずと味噌汁という定食屋のようなセットをメインとしている。開店と同時にランチタイムがはじまる。十二時になるころには満席になり、十四時までは途切れずにお客さんが来る』

    どことなくイメージができるかと思いますが、『北欧風のカフェ』は国内3店舗の一方で『系列店』には『赤と緑と白の看板を掲げたイタリアンレストランや安いことが売りの居酒屋やデザートに力を入れているファミリーレストランもある』というかなり大規模なレストランチェーンというのが組織の実態のようです。そして、主人公のメイは『北欧風カフェ』『キートス』で、副店長として店長を支えつつ店舗の運営を切り盛りしていく姿が描かれていきます。なかなかに気苦労が多い仕事のようですが、まとめるとそこには3つのドラマが描かれています。

     ・『問題を起こすようなミスはしない。仕事をなかなか憶えないくせに、頭はいいのか、適当に立ち回るのはとてもうまい』という新人の杉本への指導の中で『杉本君と話していると、大事にしてきたものを無神経に壊されている気分になる』と苦悩する姿を見せるメイの物語

     ・『大学生の子たちの試験やサークルの合宿、フリーターの子たちのかけ持ちしているバイトのスケジュール、諸々を考慮して作らなくてはいけない』というシフト作りに代表されるさまざまな人が働く職場の中で気配りを重視しなければならない副店長ならではの仕事に奔走するメイの物語

     ・『三年連続で、不合格になる人なんていない』と、『店長試験』に落ち続け、『このままでは、わたしは、四十歳になっても独身で副店長という不名誉な感じのパイオニアになってしまう』とこれからの自身の行く末を不安視する中に、自らの進むべき道を模索するメイの物語

    まさしく”お仕事小説”の醍醐味を見せてくれる物語がそこに展開していきます。これは、リアル社会でも同じことでしょう。仕事のなんたるかを覚える時期を過ぎ、後輩の指導にあたりながら、会社員としてその先を見据える動きが見えてくる時代、それが30代だと思います。女性ならではの複雑な思いの先に悩みを深めていくメイ。そんなメイが”お仕事”の側面において結末でどんな姿を見せてくれるのか、これは間違いなくこの作品の一つの読みどころです。

    そして、もう一つが”恋愛物語”としての側面です。主人公のメイには、高校時代から十年にわたって付き合ってきた男性がいました。それこそが、フウちゃんと呼ばれる男性・風太の存在です。『フウちゃんと付き合っていたころは、結婚したいと思っていた』と過去を振り返るメイ。半同棲という時代を過ごしてきたメイは、『フウちゃんと結婚して子供を産むという未来を、一度も疑わなかった』という思いの中に生きていました。しかし、あることが原因でそんな時代は一気に終わりを迎えます。

     『わたしはどうして、フウちゃんと結婚したいと考えていたのだろう。フウちゃんは、わたしにとっても、結婚を現実的に考えられる相手ではなかった。結婚しようと言い合っても、子供のままで、ままごと遊びをしているようだった』。

    そんな風に過去を振り返るメイは、だからと言って新たな恋に踏み出すこともできない今を生きています。

     『結婚したいのか、子供が欲しいのか、よくわからない』

    高校時代からの友人であるみっちゃんに『考えるだけじゃ駄目なの。行動しないと。あっという間に、四十歳になっちゃうよ』と言われるメイですが、自分が何をすべきなのか、何をしたいのかがそもそもわからなくなっていきます。

     『恋人がいたから、結婚したい、子供を産みたいと思っていたのであり、わたしひとりでは、どうしたいとも考えられない。その可能性を考えられる相手もいないのに、結婚や出産を望むのは、おかしい気もする』。

    そんな風にある意味で自身の置かれている立場を冷静に分析してもいくメイは、『出会いがないわけじゃない』と、『店長や杉本君の他に、羽鳥先生や鯨岡さんというお客さんもいる。大ちゃんの他にも男友達はいるし、マスターみたいによく行くお店の店員さんと話したりもする』という周囲の状況を見渡します。しかし、

     『考えて悩んだところで、誰もわたしのことを好きなわけではないから、話は進みようがない。そして、わたしは八年間、誰のことも好きになれなかった』。

    結局のところ堂々巡りを繰り返すメイの姿が描かれていきます。これでは、読んでいてもどかしい思いが読者の側にも込み上げます。そんな物語は、漠然と恋の思いに悩むメイが、上記した通り、”お仕事”に奮闘する姿が描かれていきます。

     『子供を産むのも、店長になるのも、何をするのも、早い方がいい。でも、三十五歳では、もう遅いんだ』。

    『三十五歳』 という、人生に思い悩む時代だからこそのさまざまな葛藤の日々を生きる主人公・メイのリアルな日常を描いていく物語。そんな物語は、主人公が悩みの中にいることもあって、なんとも鬱屈とした読書の時間が続きます。何事にもおいてもなかなか前に進まない、あまりにもどかしく、場面によっては腹立たしい思いを見せながら物語は展開していきます。そんな物語は、後半数ページになって一気に動き出します。後半数ページ、さらには後半数行に、それまで見えていた鬱屈とした世界が一気に別物に展開する驚き。読者の心をも幸せが包み込んでいく鮮やかな展開。ある意味で読者の大半が予想していたであろう展開にも関わらず、自然とあたたかいものが込み上げるその結末に畑野さんの上手さを改めて感じさせる、そんな”恋愛物語”がここには描かれていました。

     『いい人生とは、なんなのだろう。恋愛や結婚が全てではないと思っても、好きな人と一緒にいることがいい人生という気がする』。

    そんな思いの先に続く主人公・メイの思いの丈を見るこの作品。そこには、”8年ぶりに、恋をした”というメイの揺れ動く内面が丁寧に描かれていました。カフェの副店長の”お仕事”のリアルを見るこの作品。”恋愛物語”の味わいを堪能するこの作品。

    『三十五歳』という複雑な思いが交錯する時代のリアルを鮮やかに描き出す素晴らしい作品でした。

  • メイの悩みがとても共感できる。

    メイの等身大の悩みは、自分が感じてきた悩みと同じところもあり、身に沁みた

    羽鳥先生は少し怖い気がするが大丈夫だろうか。

  • 終盤の展開はときめいた〜〜
    すごく丁寧にメイの心理描写がしてあって、感情移入しまくり。
    向上心って言われても、だよね。わかるわかる。
    考えさせられるという感じではなく、サラッと読めるドラマみたいだった。

  • 最高の読後感でした!
    主人公のメイちゃんが悩む姿が自分と重なり、共感して切なくなったり、応援したり、自分もまるで本の中で一緒に過ごしているようでした
    大人になったら、難しくなることもたくさんあるけど‥だからこそうまくいくこともきっとある♡

  • この作者さん、この前に読んだものは今ひとつだったけど、今回は良かったな。

    葛城 命(カツラキ゛メイ)、35歳。
    父は彼女が大学を卒業した日に出奔し、母はその後に病死、親しい親族はなし。
    高校生の時から10年間付き合っていた彼に振られてから彼氏はなく、誰かを好きになることはないと思っている。
    愚痴をこぼせる友だちは高校からの付き合いの二人で、独身婚活中のみっちゃんとパソコンオタクだった(今はIT系の会社の専務の)大ちゃん。
    チェーン店のカフェの副店長で、店に配属になった新卒男子の教育に手を焼きながらも、常連さんには好かれ、仕事はまあ順調。

    そんな彼女の独白でサクサク進む話は、人を好きになる気持ち、子の親に対する気持ち、仕事に向き合う気持ちなどが語られ、自分はどうだと考えさせられる。
    そしてそこから、世の中で言われる“普通”ということとか、人生における決断やその歩き方などにも思いが飛ばされていく。
    女だからと同情されて甘えていいことではないと札幌への転勤を受け入れたり、東京を離れる前にかつて住んだ街を訪ねる気持ち、高校生のころから何も変わっていないと子どものように悩むところや『相手のいいところ以上に、悪い部分を受け入れて、支え合っていきたい。そう思えることが恋なのではないだろうか』とひとりの女性として思うところなど、私とは年齢も性別も境遇も仕事も立場も全く異なるけれど、その強さも弱さも昭和なところも彼女の気持ちになんだかとても共感した。

    羽鳥先生は常識もなくちょっと気色悪いところもあって大丈夫かなと思うけど、『メイが誰かを好きになるなんて、ないことだったから』というみっちゃんと同じ気持ち。
    メイ自身『常識的で普通とされている家族を築くことよりも、大切なことがある』という思いだものね。

    行きつけのバー・ストロボのマスターの『今も、妻に恋をしているんだ』という生き方も格好いい。

  • 30代半ばの独身女性メイが仕事、恋愛、自身の将来に向き合い、悩みながら少しずつ自分なりの答えを見つけていく過程が描かれた小説。

    ジャンルは恋愛小説となっていましたが、物語のメインはメイの内面の成長だと思いました。恋愛要素は少しのスパイスという位置付けです。

    周囲が変化していく中で、自分だけが取り残されているんじゃないかと焦りや不安を感じたり、自身の結婚観や、仕事、人との関わり方を見つめ直す。この年齢の心境がリアルに描かれていて、メイと歳が近ければ共感する部分が多そうです。

    恋愛面は奥手でなかなか進展しないやり取りがとても可愛らしく、微笑ましい気持ちになります。
    人生のターニングポイントにいるメイを応援したくなる作品でした。自分も頑張ろうと背中を押された気分です。

  • みんなそれぞれが大人であって子どもみたいなところもあるのがとても可愛らしく、気持ちに
    寄り添える感じがとても心地よかったです。

    主人公のめいちゃんの周りにいる人達も
    それぞれみんな素敵なキャラクターで
    温かくて…

    毎日毎日を頑張っていると本当にあっという間に一日1か月一年が過ぎて、気持ちの方がついていってないとき、私はこれからどうなっちゃうのかなぁ。と漠然と不安がおそってきたり、
    誰かの何気ないひと言で、
    なんとかなるわーって気楽な気持ちになったり…
    みんな同じなのかなぁって思いました。
    ちょっぴり恋で一皮むけた
    めいちゃんのこれからも、もっとみていたかったです。

  • 本屋さん徘徊中、書影とタイトルに惹かれなんとなく手にとった作品「大人になったら、」。あらすじもちょうど同年代。
    たんたんと書かれる30代独身女性の日常がリアル。メイちゃん真面目だなぁ。
    メイちゃんとは全然違うタイプなので、終始友人の話を聞いている感覚でしたが、女性ならではの共感ポイントが詰め込まれていた。
    終わり方が良かった。穏やかな結婚生活が送れそうな二人。

  • 大人の恋愛小説だけど、おしゃれすぎないところが親近感を抱きやすくて読みやすい。
    読後感もほんのり絶妙なあたたかさと余韻が漂いました。

  • 著者の初読。
    最近続けてミステリー読んでいたからか、
    スラスラと読めて、穏やかな気持ちになれた。

    何事にも自分だけの中の目標を持つ方が、楽しく過ごせるのかなーって感じた。
    フウくんと別れた理由だけ、なんだったのか気になりすぎる…(敢えての想像お任せなのか、もしかしたら私が読み飛ばした可能性もあり笑)

    他の作品も読んでみようかな✨✨

  • あまり意外性のない結末が意外。
    主人公の選択が現実的。
    でも現実は物語のようにはできず、
    真っ当に生きていくなら、そういう選択だろうな。

  • 『大人になったら』
    大人ってどういうのがおとな?
    大人の恋愛物語と帯に書いてある。
    近頃はガッツリな恋愛小説は読まないけれど手に取ってみました。

    35歳、独身女性、葛城メイ(カフェ店員)が主人公の日常の話。
    仕事のこと、結婚のこと、彼氏、恋愛のこと、友達のこと。
    35歳で独身は周りの人は色々と気になるようだし、メイ自身も色んなことを考えさせられていた。

    「35歳で独身の何が悪い。」
    「色んな考え、生き方があるんだからよいじゃないか」』と読みながら心の中で文句を言っていました(笑)
    カフェ勤務でのお客さんとの出会い、高校時代からの友達の繋がり、転勤、そんな日常の中の穏やかな恋愛の入り口で物語は終わりました。
    ドキドキ、はらはらは無かったけれど、共感出来る所もあって読みやすい作品でした。

  • 畑野智美さんにはハズレはない。それぞれ違うしそれぞれ感動する。帯の8年振りの恋するとあるのでてっきりゴリゴリの恋愛純愛物語かと思ったら、ラストの札幌店に尋ねて来る羽鳥先生で終わるって、9ペースで仕上げるって、なかなか恋の出来事出てこないからどうなるのかと思ったら、メイが頭から離れないそれはもう恋でしょうが、10年引きずっている現在進行形は勘違いでしょうが先生しっかりしてよと思う、7年会話せずとか合わせる顔がないとか回り道だけ。3人の友情も羨ましいな、お別れ会の杉山君、フワちゃん登場、噛み砕く書き方好きだ

  • 主人公の恋愛と人生の悩みを描いた作品。
    常連の羽鳥先生と恋があるかもと読み進めていたら、徐々に二人の距離が縮まったり、縮まらなかったりと楽しめました。一緒に働いている後輩の杉本くんに初めイラッとしましたが、最終的にいい子で応援したくなった。

  • 成り行きまかせのような形で生きてきた主人公めいが人生の岐路にたたされます。
    風変わりな新人社員、店長への昇進、独立話、周りが続々ゴールインする中ちょっと気になる異性の出現、、、!
    割と淡々と書かれてるけど、静かにボディブローを喰らわされてるような感覚で、読み進めました。
    主人公の仕事、恋、友達関係など全てにおいて偏りなくギラギラしてなく割と優柔不断なところが、妙〜に親近感憶えてしまって。
    読む手が止まらなかったです。
    恋と気づくまでに、本書の4分の3はかかってましたからね、30後半の恋へのメンタルブロックたるや、、、。
    後で装丁を見た時にとても、ほっこりして、感慨深く思いました。

  • 恋愛や仕事や劣等感など色んな物事、感情に取り囲まれても1つ1つ着実に向き合おうとする姿がとても良かった

  • 35歳独身女性、大規模チェーン店の正社員でカフェ『キートス』の副店長として働くメイ。彼女の成長と少しの恋の物語。登場人物それぞれの解像度が高く共感できる。35歳という中途半端な年齢であり、人によって大きく岐路が分かれるこの年齢は、どうにもならないモヤモヤを抱えて生きている人が多い。メイは恋人も家族もおらず、仕事での目標もない。そんな女性の物語です。

    著者とはまさに同じ年代で、感じてきたことやその感覚が近しいと思う。

    役職ある立場で働き、会社の駒となり突然の辞令で異動する。社員である自分とパートアルバイトさんたちとの間には距離があり、お互いに本音で語らうことはない。
    必死に働くことやプライベートをやむなく犠牲にすることも美しいとされた時代に働き、その感覚とは違う若い後輩の扱いに困ったり。

    私がメイと少しちがうのは、私は世間のレールに乗り、結婚と出産を経験したことだ。
    メイが感じているように産んでいない人を下に見ているつもりは決して無いのだが、出産は壮絶で子育ては最高の喜びとともにそのの孤独と苦しみは決して無視できるものではない。それを経験しているかいないかはひとつの判断材料になり、相手との間に自然と線を引いてしまう。

    今私は子どもが少し大きくなったため社会に復帰し、役職もないが責任もない一従業員として働く。漠然と今度はこっち側に来たんだなと感じる。世間の仕組みを肌で感じている。

    ああ、細胞のひとつひとつがわかる〜と声をあげているようだ。気がつくとメイと同化して、深いため息が出る。

    その中でわからない存在なのが、後輩の杉本と羽鳥先生。そのわからないがあるから世界は面白いし、メイは成長するのだけれど。

    たまに天気や行動を説明するシンプルな文章が入る。それがまた特徴的で、小気味良い。メイとこの世界の温度を表しているようだ。

    春の新芽が綻ぶようにメイの未来が動き出したところで物語が終わり、前向きな気持ちにさせてくれる物語です。

  • 葛城メイ、35歳独身。
    メイは命と書く。
    父親は「僕の命」と言って育ててくれたが、ある日家を出ていった。
    母親も病を得て逝ってしまった。
    学生のころから付き合っていた恋人がいたが、別れることになってしまった。
    いま、頼れるのは友人のみっちゃんと、大ちゃんだ。

    メイはカフェの副店長として働いている。
    お店の仲間やお客さんとの交流は、時々イラッとするがそれなりに充実している。
    そんなメイに訪れた久しぶりの恋の予感。

  • 35歳独身の都内カフェ店員(副店長)、彼氏無しのメイが主人公。社員として飲食チェーン店に勤めているが、将来の展望があるような、ないような宙ぶらりんの状況。若い人に『目標は何ですか?』と詰められるが、答えるほどの何かの目標を持っているわけでもない。何となくわかるなあ。

    僕も流通業の会社には入ったが、『店長になりたいか?』『将来は何になりたいの?』と聞かれても明確な答えは自分に無かった。『僕は○○屋です(でした)』と明確に答えられる人をある意味では羨ましく思った。

    メイは同級生、元カレ、同じ店の同僚、常連さん…いろんな人に囲まれながら毎日を過ごし、店長試験をいろんな人の協力で4度目でやっと受かる。そして、札幌のお店の店長として辞令を受け、東京から旅立つ。

    テレビドラマ化するには、ドラマチックなこと、ドロドロとした怨みなどがあることなく、緩い日常の連続ではあるが、これはこれでいい話だったなあ。

  • 恋愛から遠ざかり、仕事での中途半端な立ち位置に悩む主人公メイ__
    昔思い描いていた"大人"と今の自分が違ったっていい。若い頃の煌めきを懐かしく思いながらも、過去に戻りたくはない。年齢を重ねて得た確かなものを大事に抱えて、少しずつ進んでいく姿が素敵だった。

    メイと羽鳥先生の初々しさを感じる恋愛も良かった。普通じゃなくていいんだよ!

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著者プロフィール

1979年東京都生まれ。2010年「国道沿いのファミレス」で第23回小説すばる新人賞を受賞。13年に『海の見える街』、14年に『南部芸能事務所』で吉川英治文学新人賞の候補となる。著書にドラマ化された『感情8号線』、『ふたつの星とタイムマシン』『タイムマシンでは、行けない明日』『消えない月』『神さまを待っている』『大人になったら、』『若葉荘の暮らし』などがある。

「2023年 『トワイライライト』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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