制限戦争指導論 (中公文庫 フ18-1)

  • 中央公論新社 (2023年5月25日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (512ページ) / ISBN・EAN: 9784122073722

作品紹介・あらすじ

第一次世界大戦下で陸軍の機甲化を初めて提唱したイギリスの軍人・戦略家が、絶対主義時代下の制限戦争からナポレオン戦争、南北戦争、革命戦争を経て、無制限戦争に至った二度の大戦までを分する。また戦争の勝利のみに拘ったクラウゼヴィッツを批判し、戦争の目的は勝利ではなく、早期決着・和平にあるとした異色の戦略論。〈解説〉石津朋之

第一章 絶対君主の制限戦争  

第二章 無制限戦争の復活  

第三章 ナポレオンの戦争  

第四章 クラウゼヴィッツの理論 

第五章 産業革命の影響  

第六章 アメリカの南北戦争 一八六一― 一八六五年  

第七章 モルトケ、フォッシュ、ブロッホ  

第八章 壊滅的(ハルマゲドン)大決戦の根底  

第九章 第一次世界大戦における戦争指導

第十章 レーニンとロシア革命

第十一章 ソビエトの革命戦争

第十二章 二〇年間の休戦  

第十三章 第二次世界大戦における戦争指導  

第十四章 平和の問題  

解説 石津朋之

みんなの感想まとめ

戦争の目的を勝利ではなく早期決着と和平に置く異色の戦略論が展開されており、読者に新たな視点を提供します。著者は、絶対主義時代の制限戦争から二度の大戦に至るまでの戦争の変遷を詳細に分析し、ナポレオン戦争...

感想・レビュー・書評

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  • どういう目的で本書を読むかで評価が変わるかもしれない。
    『解説』にあるが著者は軍事史家としても各国から評価されているようで、17世紀から第二次世界大戦までの軍事史として読めば、多少冗長であるが非常に面白い読み物である。
二度の世界大戦は著者が生きた時代であるためぶ厚い内容のドキュメンタリーでもある。それ以前の近代の戦争の内容や、時代を経ることによる戦争形態の変化も面白い。それらとは別の視点で、武器(主に小銃や大砲のような陸専用の兵器)の進化を見ていくのも面白い。

    個人的に興味深く読んだ部分は第1,2章やその後も所々で挟まれる政体や民主主義への批判についてだ。
武器や戦術の進歩により必然的に無制限戦争へと向かったと思っていたので、政体の変化がこれほど大きく関与しているとは思いもよらなかった。ナポレオン戦争についてもナポレオンの革新性にばかり目がいって彼の天才ぶりばかりが頭にあったが、彼の才能だけでなく旧体制と新体制の違いという軍の質や戦争への姿勢の差異を強く指摘しているの点にはなるほどと納得し、見方が変わった。
    本書を通してみられる民主主義への批判的な態度については、『解説』にあるように著者がナチズムへ傾倒していた事から来ているものではあるが、それでも民主政体の闇とも言える部分をよく突いていると言えた。SNSによって民衆の(過激な)意見が表に出やすくなった現代では著者の指摘した「大衆感情による政策の歪み」もより顕著になっているようにも思えた。第二次大戦で全体主義、軍国主義が破れ、ソ連の崩壊で共産主義の欠点が明らかになった現代では表だって民主主義の問題点を指摘するような視点は得られにくい。著者の主義はともかく現代では見落とされがちな貴重な見識だと思った。

    一方、タイトルにあるとおりの制限戦争の指導論として読むと読みにくくてガッカリする部分があるかもしれない。『序文』が導入というよりもまとめのようで(;読み終わった後に読むとなるほどと思うところもある)本書の方向性を示しておらず、本文中では過剰な引用もあってか著者の論旨が不明なことも多い。著者が『最も重要な章』とする4章などは章レベルでも文章の総体を欠いていると思ったくらいだ。文章がめちゃくちゃというわけではないので、メモでも取りながら読めば著者の主張を整理できるが、娯楽のために読んでいるのでそこまでする気にはならず「ちゃんと明瞭に書け」という気分になる。

    本書で著者が述べたいことは14章の最初の節(『回顧』)にまとまっているので、これを早い段階で読むと本書の理解の大きな助けになるだろう。具体的には『序文』の後や、近代戦へ入る直前の第3章『ナポレオンの戦争』の後、第4章の『クラウゼヴィッツの理論』の前後といったところで読んでおけば不明瞭な本書の論旨をはっきりさせてくれる。
『解説』も良い内容で、著者の人柄や本書周辺の状況をよくまとめてあるので、これも先に読んでおけば時代背景や本書の位置づけを知ったうえで本文を読むことができる。


    本書にみられる著者のキャラクターについては反感を感じる部分が多かった。『解説』に『彼の真の才能は・・・多くの敵を作ることであった』との引用があるが、私もこの批評の通り著者とは仲良くできそうにない。
    話が前後したり(ex. 直前の章で否定したことがすぐに起こる、細かい年代の逆転や内容のまとまりの無さ)、いくつもある年代などの小さな誤記、自らの論点を示さない議論などは読みにくいだけで「そういうこともあらぁな」と思えるのだが、本文中で他人を貶しすぎるや恣意的な引用はどうにもいただけない。

    第3章『ナポレオンの戦争』でも「ナポレオンの人柄についてはずいぶん手厳しい書き方だな」と思ったが、続く『クラウゼヴィッツの理論』などでの彼への批評が的外れすぎて「なんだコイツ」と印象が悪くなった。その後も二度の大戦中の各国の司令官や政治家(自国の首相であるロイド・ジョージ、ネヴィル・チェンバレン、チャーチルのほかルーズベルト)なども恣意的な引用を交えてしつこく批判し、失政が多かったとの印象を与えようとしている様に見える。

    この中でも気になるのは、クラウゼヴィッツに関する批評は間違っていると思うことが多かった点だ。
    特に本文中で何度も繰り返している「クラウゼヴィッツが無制限戦争の元凶である」や「敵の殲滅を戦争の目標とした」という旨の内容は明らかに間違っており、彼の主張の一部を切り取り、曲解している。
    クラウゼヴィッツはパラメターの最大値として「戦争によって暴力の行使が無制限となる」ことをまず説き、その後にこの最大値が行使されるには実際的にはあり得ない3つの条件(交戦国が何の関係性も持たない突発的な開戦、戦闘が一度だけの決戦、戦後について何も考えない戦争)すべてを満たすときにのみであると結んでいる。つまり、「現実世界では戦争といえど無制限な力の行使など起きえない」というのが彼の主張だ(現実世界であり得るなら、「意思疎通不能な敵性宇宙生物の侵略で地球存亡の時」くらいしか3条件を満たすことは思いつかない)。フラーはクラウゼヴィッツの主張の前半部分だけを意図的に切り取っている。

    この意図的な曲解は、恣意的な引用(著作の部分的な要約ではなく本当に一部分だけを抜き出してくる)としても本文の中に多数現れており、本文の正当性を危うくするとともに著者への不信感を増幅した。
    例えば、1945年3月のルーズベルトが大戦後の中国での動きに注意を払っていなかった旨の引用があるが、これはやや不公平な評価だと感じた。この逸話の一月後にルーズベルトは亡くなっており、同年2月のヤルタ会談の写真でも彼より年上のスターリン、チャーチルと比較して随分とくたびれ、衰えているように見える。不調時の判断力の低下を常時の批判に混ぜるのは不公平で意図的なものを感じる。
    この部分は大戦末期にルーズベルトが死去しているのを知っているので気付くことができたが、「(気付かないだけで)他にも著者に都合の良い抜き出しや不都合な部分の無視が行われているに違いない」と思えてしまうので、著者の主張は信用できないものであると感じた。

    また、第二次大戦についての記述には政治に対する意見がかなり多く含まれるが、著者に政治経験が無いことには注意が必要だとも感じた。著者は少将で退官している。高官ではあるが、中将までは自軍内での実務が主であって、他軍(海軍や後の空軍)や他国の軍との折衝のような政治向のことは大将の職掌である。
    著者が拾っている意見の多くは、肩書きが“将軍”とだけ記載されている。同じ将官でも「大将(:大将が就く元帥や総司令官、参謀総長なども含む)」だけは明記されていることを考えると、これら“将軍”たちは著者と同じく軍内部でも政治をしたことのない中将以下の将官達であろうから、戦略眼は優れていても政治感覚には乏しく政治向きの意見は的外れである可能性がある。著者の恣意的な切り抜きのほか、実情を知らぬ意見であるかもしれない点で二重に注意した方が良いと感じた。
    著者が大英帝国の残像に捕らわれていることも政治的な感覚を狂わせている原因かもしれない。著者の半生は大英帝国の最盛期から衰退へ向かっていく時期で、政治との距離があった著者には現実が掴めていなかったのかもしれない。著者は第一次大戦以降の英国の大戦略、特に機甲部隊の編制に対し何度も不満を述べ、海軍力、空軍力への偏重を批判するが、第二次大戦中の英国の戦闘機は優秀(スピットファイアは開戦当初からドイツ軍機に対抗できた数少ない機体)であり、また大戦時の最優秀戦闘機とも称されるアメリカのP-51も英国ロールスロイス製エンジンの供与によってその性能を開花させた。このことから英国の航空戦力への力のかけ方は間違っていないと言え、大帝国ではなくなった現実を自覚し、より有効に活用できる戦力へと予算と人材の集中を図ったための結果ではないかと思われる。これは、未だ大英帝国の幻想の中にいる著者とすでに衰退へ向かっていることを実感している政治家との差であると思った。


    著者の議論への姿勢や人間性に合わせて、英国至上主義も加わると読み始めた頃に本書に感じていた期待はしぼんでしまった。
    読み始めてすぐの頃から自国への思いが強い文章だなと思っていたが、8章の途中で「英国のバランスオブパワー」の言葉が出てきた時点で著者の正体が見えた気分になり、本書タイトルが急に卑俗なものに見えて冷めてしまった。
    『序章』の『これは政治家と軍人のために書かれたものであり、しかも必読書である』の文言や、「相手国を破壊し尽くさない節度と限度を持った戦争」という考えは、私がタイトルから期待した戦中戦後の不幸を最小限にとどめるためのような高尚なものではなく、イギリスが望む世界にするための「適度に出る杭を打ちたい」「打ち過ぎては他の杭が飛び出して邪魔になるので”適度”でなくては困る」という考えを他国に強いる意図しか無かったのかとガッカリだった。
    アメリカが重要視しているのは本書の内容そのものではなく、彼の主張する「制限戦争」のフレームワークを再定義し、改良したものなのだろうと思った。

    本書を読む前は「グデーリアンの電撃戦の元となる考えを第一次大戦中に提唱した人物!?その最晩年の著書・・・、読みたい!」と著者の才能に大いに期待したのだが、読み終えた後は「第一次大戦中をピークに、人間性や協調性の無さから思考を深化させることができなかったのだな」と残念な気分にもなった。もし、再びフラーの著書を読むことがあるとすれば、著者の天才が発揮されている前半生の作品になるだろうか。

  • 「The Conduct of War, 1789-1961」の翻訳(2023/05/25発売、1540E)。

  • 第一次大戦下で陸軍の機甲化を初めて提唱したイギリスの軍事史家が、戦争の目的は勝利でなく早期決着・和平にあるとした異色の戦略論。〈解説〉石津朋之

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著者プロフィール

中村好寿一九四三年(昭和一八年)、広島県三次市に生まれる。防衛大学校卒業。防衛大学校助教授、米国国防大学客員研究員、陸上自衛隊東北方面総監部幕僚、ジョージア工科大学客員教授、防衛研究所主任研究員を経て、退官。現在、軍事アナリスト。著書に『抑止力を越えて―2020年の軍事力』『軍事革命(RMA) : が戦争を変える』『ビジネスに活かす! 最新・米軍式意思決定の技術』『「作戦」とは何か : 戦略・戦術を活かす技術』など多数。共訳にクラウス・クノール著『国際関係におけるパワーと経済』。

「2023年 『制限戦争指導論』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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