ロシア文学を学びにアメリカへ? 増補版 屋根の上のバイリンガル (中公文庫 ぬ3-2)

  • 中央公論新社 (2025年1月22日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (320ページ) / ISBN・EAN: 9784122076068

作品紹介・あらすじ

1980年代、ロシア文学を専攻していた著者は、ソ連ではなく米国へ飛んだ。
ハーバード大で古代教会スラヴ語を習得し、街角でポーランド移民と交流。
多様な文化を内包する「サラダボール」の国で得た体験と考察をユーモラスに綴る、ヌマノ教授の原点たるエッセイ。
「ハーバード生活から三つのエピソード」他を新規収録。〈解説〉奈倉有里

感想・レビュー・書評

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  • 【作家を読む】ロシア・東欧文学研究者・文芸評論家 沼野充義 おすすめ5選 | 365bookfair | 365BOOKDAYS(2019.10.31)
    https://www.365bookdays.jp/posts/2712

    【特別記事】西成彦×沼野充義=対談 西成彦著『移動文学論Ⅲ 多言語的なアメリカ』(作品社)刊行記念 新しい世界文学へ、「アメリカ大陸文学史」の試み | 読書人WEB(2024/07/12)
    https://dokushojin.net/news/658/

    沼野 充義 『徹夜の塊 亡命文学論』 受賞者一覧・選評 サントリー学芸賞 サントリー文化財団(2002年受賞)
    https://www.suntory.co.jp/sfnd/prize_ssah/detail/2002gb3.html

    教員紹介 | 大学概要 | 名古屋外国語大学 / NUFS:NAGOYA UNIVERSITY OF FOREIGN STUDIES
    https://www.nufs.ac.jp/teachers/detail/teacher/388

    『屋根の上のバイリンガル ことばの旅行術』 | 筑摩書房(1988年)
    https://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480835888/
    猫が持っているのは、白水Uブックス版(1996年)

    ロシア文学を学びにアメリカへ? 沼野充義(著/文) - 中央公論新社 | 版元ドットコム
    https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784122076068

  •  著者の1980年代のアメリカ留学記だ。
     そんな昔の? というなかれ。 冒頭、著者も記すように、

    「海外で初めて見聞きする移民の姿やマイナー言語のあり方に心ときめかし、おもしろがった経験が本書には刻印されている。本書を支えているそのような若いころの感動は、古びることは無い」

     未体験の生活に好奇心を大いに刺激される日々が瑞々しく描かれていた。

     ロシア文学者として斯界の重鎮の著者をして、なぜアメリカ留学? と思うが、
    「反体制派のソルジェニーツィンや亡命作家のナボコフやブロツキーはソ連では当時読むことさえできなかったのだ」
     と、そんな理由を聞かされると、現代のロシア文学を研究しにアメリカに渡るのも頷ける。

     ロシア語を中心とした語学を通じて、周辺諸国の言葉、ユダヤ人のイディッシュ語、エスニック・ジョークなど、様々な話題を振りまき、飽きることなく読める。
    特に、今なら、下記の記述で、今年(2025)の米アカデミー賞を席巻した映画『Anora』の舞台背景に思いを馳せることができる。

    「1970年代にソビエト政府が国内に住むユダヤ人の一部に出国を認めたために起きた現象で、ソ連を出たユダヤ人の多くが最終的にはニューヨーク近郊に流れ着き、特にブルックリンのブライトン・ビーチBrighton Beachという町を中心に一大コミュニティを形成している。」

     映画の中で描かれていたアメリカにおけるロシア人の暮らしが、当時の記録ではあるが、裏どりが出来た気分。

     巻末の解説が、奈良倉有里というのも頷ける。というか、連綿たるロシア文学研究の伝統が受け継がれていっているように感じられて、良き。

  • 初出は雑誌「翻訳の世界」(1985年11月号〜1988年1月号)連載「言語街道交差点」で、アメリカ留学からの帰国後ポーランドに渡る前の時期に書いて、記念すべき1冊目の著書「屋根の上のバイリンガル」として1988年筑摩書房から刊行、その後1996年に白水Uブックスに入って、今回「はじめに」「ハーバード生活から、三つのエピソード(あとがき)」それにいくつかの章へ「中公文庫版への付記」を書き下ろした増補版。

    連載と単行本はまだ高校生の頃、Uブックス入りはたぶん海外にいたときで、ずっとであいそびれてきたらしく、やっとここで出会えた!という感じ。

    亡命/越境文学を視野に入れたロシア東欧文学研究という看板を引っ提げてハーバード大学に留学し、ソ連から亡命したロシア人の学者や作家、アメリカ国内に思いの外大勢いるスラヴ系移住者の海に飛び込んだアメリカ体験記。移民の言語事情やイディッシュなど、ときに複雑なテーマを扱っているのに調子よく読めるしおもしろすぎた。「亡命・移住・バイリンガル・多言語使用」だなんて、21世紀のいまこそ改めて読むべきテーマであり、ロシア(スラヴ)界隈に興味があってもなくても得るものはとても多い。かつては「バイリンガル」そのもののイメージや社会評価がそれほど肯定的ではなかったというのも私にとっては発見だったが、バイリンガルの言語能力についての見解など、40年前にもうここまでおっしゃってたのか、と。
    それにしても、なんでロシア語にはこういう文才あふれる人(米原万里、黒田龍之介、奈倉有里⋯)が集まるのだろう。

    それにしても当時のハーバード大学スラヴ語学科の陣容も教育内容もすごい(当時にしても浮世離れした特殊なユートピアではあったのだろうが)。いま、トランプ政権のあれこれで学術研究の世界もずいぶん口出しされハーバードなど干されかかっているらしいが、どうなるのだろう。あとがきに引かれていた旧知の某亡命ロシア人のことば「これから四年の間に根絶やしにされてしまうほど、アメリカの知的制度はやわじゃないさ」に希望を持ちたいとは思うが…

  • 著者が留学や旅で体験したこと、言語に関してこれまで考えたこともなかった、いろいろな視点からの話が興味深かった。

  • 1980年代にアメリカで
    ロシア文学を学んだという著者。

    まだ冷戦の時代
    そこに暮らしていたのは
    亡命者だったり、移民だったり
    彼らの2世だったり。
    「ソ連」という広い国土出身の
    人たちの話す「ロシア語」はひとつではない。
    昔のことを書いているようでも
    なんだか今にいたる根深い問題を感じる。

    ただ、全体としては「言語」を学ぶこと
    それも実際の話者から学ぶことの
    楽しさと大切さを語ってくれていて
    おもしろかったです。

  • 804-N
    進路・小論文コーナー

  • 【請求記号:804 ス】

  • すごく面白い。
    軽やかな語り口なのに、やってることがすごくユニークだし、説明はわかりやすいのに高いレベルまでカバーしてるし。何とも贅沢な読書体験、文化体験。
    何でも単純化する現代の風潮の中で、言語や文化はそんな簡単なもんじゃないぞ、と分からせてくれる。難しいけど、面白いぞ、と。

  • 1. プライトン・ビーチのロシア語コミュニティ
    - プライトン・ビーチには多くのロシア系ユダヤ人が住んでおり、彼らはロシア語を母国語とし、英語に苦労している。
    - 言語の壁を乗り越えることが期待されているが、実際には英語が苦手であることが多い。
    - ロシア系ユダヤ人のコミュニティは、ロシアの文化を維持しつつ、アメリカ社会に同化する過程にある。

    2. 英語の習得に関する課題
    - ロシア人が英語を学ぶ際の困難、特に発音や文法の誤りが発生することが多い。
    - 例えば、英単語「fog」をロシア式に発音すると異なる意味を生じることがある。
    - 英語の稚拙さがもたらす悲劇的な出来事(例:警官に射殺されたロシア人の妻が助けを求める場面)。

    3. イディッシュ語の現状
    - イディッシュ語は歴史的に多くのユダヤ人が使用してきたが、現代では言語話者が減少している。
    - イディッシュ語が文化的アイデンティティの一部であることが強調され、ヘブライ語との関係についても言及されている。
    - イスラエルではヘブライ語が国語として優先され、イディッシュ語はあまり重視されていない。

    4. 言語と文化の関係
    - 言語は文化を反映し、言語使用における社会的規範が存在する。
    - 日本語やロシア語における一人称代名詞の使い方の違いが示され、言語の社会的側面が強調される。
    - 英語の使用環境が「デモクラティック」な側面を持つ一方で、他の言語ではより複雑な社会的圧力が存在することが示される。

    5. バイリンガリズムの複雑性
    - バイリンガリズムは、社会的地位や文化的背景によって評価が異なる。
    - 垂直的バイリンガリズム(言語間で地位の不均衡がある場合)と水平的バイリンガリズム(同じ地位を持つ言語間)についての議論。
    - 日本におけるバイリンガリズムの理解と、その文化的背景が考察されている。

    6. 教育と語学習得
    - アメリカの教育システムにおける語学教育の厳しさ。
    - 古代教会スラヴ語など、実用性の低い言語学習が求められる背景と、それによる学びの意義。
    - 文化や歴史を学ぶことの重要性、語学の習得がもたらす学問的価値についての考察。

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著者プロフィール

ぬまの・みつよし
ロシア/ポーランド文学 東京大学名誉教授。

「2025年 『ロシアの鎖を断ち切るために』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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