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Amazon.co.jp ・本 (304ページ) / ISBN・EAN: 9784122076327
作品紹介・あらすじ
フィクションとは、はじめ私が考えていたような、作者の勝手気ままによって、どのようにもなるというものではなく、むしろ、ある必然の動きをもって作者に迫ってくるものだ、ということができます。
フィクションとは、全体の真実を、生きた形で表わすための、必要な新しいパースペクティヴなのです――作家志望者に向けた講座(「言葉の箱」)、フィクション論から自作歴史小説での史料活用法まで。
貧血化し機能化する散文に対する、豊饒な文学世界の実現へと誘う創作論集。
〈あとがき〉辻佐保子〈解説〉中条省平
(目次より)
言葉の箱
Ⅰ 小説の魅力
Ⅱ 小説における言葉
Ⅲ 小説とは何か
フィクションの必然性
「語り」と小説の間
小説家への道
小説家としての生き方
なぜ歴史を題材にするか
『春の戴冠』をめぐって
歴史小説を書く姿勢
『言葉の箱』あとがきほか
辻佐保子
あとがきにかえて――記憶と忘却のあいだに
文庫版へのあとがき
中条省平
解説
感想・レビュー・書評
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書籍『小説を書くということ』要約
本書は、著者が長年の作家活動を通して培ってきた思索に基づき、「小説とは何か」「なぜ人は小説を書くのか」「小説はどのように世界と関わるのか」という根源的な問いを探求するエッセイ集です。小説を書くという行為の本質、現実と虚構の関係、言葉の力、文学と社会の関わりなど、多岐にわたるテーマが考察されています。
書く動機と落とし穴: 多くの人が小説を書きたいと感じる動機は、個人的な体験(友人の死、失恋など)にあることが多いと指摘。しかし、初心者は自身の経験や感情の吐露に終始しがちで、内向きで普遍性に欠ける作品になりやすいと警鐘を鳴らします。
現実・虚構・想像力: 小説における現実と虚構の関係は中心的なテーマです。単に知っていることや聞いたことを表面的に書くだけでは力強い作品は生まれません。過去の経験や記憶を一度「未来の箱」にしまい、外部と遮断して自身の想像力によって新たなイメージを紡ぎ出すことの重要性を説きます。文学は、ありふれた日常(モノトーンな現実)の奥にある「より本質的な現実」に触れる力を持ち、知識として学んだことが実感として感じられるような状態が創造には不可欠だと述べられています。
言葉と表現、文学の力: 小説家にとって最も重要な道具である「言葉(日本語)」について深く考察。ノンフィクションとは異なるアプローチで真実を探求するとし、時代や作者による文体の変化(スティーヴンソン、中国古典など)を例示します。説明的な伝達ではなく「舞台上で見えるような描写」、一人称がもたらす内面の吐露(『十六夜日記』)、言葉による感情喚起力(器楽曲との比較)、そして朗読に耐えうるリズムや形容句(ディケンズ)の重要性を語ります。読者は小説を通して「この世に存在することの大きな感覚」や「大きな流れに身を任せる感覚」を得られるとし、それが文学の重要な力であると示唆します。
リアリズムから内面へ: 19世紀西欧文学におけるリアリズム(社会状況の詳細描写)から、近代小説における個人の内面探求(『アドルフ』)への移行を解説。キャラクター造形についても、『アンナ・カレーニナ』の肉体感、『坊っちゃん』のあだ名による特徴づけ、『ブッデンブローク家の人々』の捉えにくさなどを比較します。
社会と個人の変容: 近代における共同体の解体と個人の断片化、共有される現実の喪失を指摘。管理社会がもたらす根源的な孤独や、戦後日本の価値観の転換(天皇人間宣言、「家」への疑念)にも触れます。かつて小説の隆盛を支えたロマン主義的価値批判に対し、現代の価値多様化・相対化が小説家にもたらす困難、資本主義や技術化による主体的判断の困難さといった現代社会批評も展開されます。
文学の可能性と創造性: 著者は現実に真摯に向き合い、それを表現したいという衝動から小説を書き続けると語ります。厳しい現実の中での創作には強い精神力が必要ですが、パリでの美的体験のように、現実の厳しさと美の存在を強く感じることが創作意欲を再燃させると述べます。美は普遍的に存在し、それとの一体感が創作の根源的喜びであるとします。「フィクション」とは作者の気ままなものではなく、自然の動きのように迫り、全体像の真実を生き生きと表現するための「新しいパースペクティブ」であると定義。文学は常に想像力によって新しい世界を創造する力を持つと結論づけます(ドストエフスキー、プルースト)。
歴史小説の意義: 歴史小説は、歴史的事実を現代状況の比喩や認識として捉えることで意味を持つとされます。現代の捉えにくい問題を、過去の時代(特に文明史的転換期)を舞台にすることで可視化できる可能性を指摘。歴史的事実は作家にとって、作品状況に合致し現実の比喩となる場合に意味を持ちます(自作『春の雪冠』の例)。歴史小説は「現代という曲がり角における作家の試み」と位置づけられています。
生命と文学: 辻邦生氏の「一回こっきりの生命のほとばしり」という言葉を引用し、瞬間の大切さ、生きることの重要性を強調。文学は「生命のシンボル」を発見し、それを他者に伝えたいという強い欲求から生まれると述べられています。
全体を通して、本書は小説を書くという行為を、個人的な衝動と普遍的な表現、現実と虚構、言葉とイメージ、社会と個人の間で揺れ動く複雑なプロセスとして捉えています。安易な自己満足に陥らず、想像力と深い内省、そして言葉への敬意をもって、より本質的な真実や美を探求することの重要性を説いています。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
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著者プロフィール
辻邦生の作品
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