愛について語るときに我々の語ること THE COMPLETE WORKS OF RAYMOND CARVER〈2〉

  • 中央公論新社
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感想 : 14
  • Amazon.co.jp ・本 (329ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784124029321

作品紹介・あらすじ

奇妙にずれたタイトルと謎めいた結末暗示的なまでに簡潔な文体が描き出す普通の人々の癒しがたい暗闇…。転換期の新鮮にして大胆な短篇集。

感想・レビュー・書評

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  •  「風呂」以降の作品が面白かった。
     「デニムのあとで」では、どこにでもいるような平凡な人に不運が連続して起こる様を描いている。何も間違ったことはしてこなかったのに、なぜ私達の身に不幸が襲い掛かるのか、という憤りと疑問を丁寧に描いている印象を受けた。「なんで我々だけがこんな目に合わなくてはならないのだ?なんで他の連中の身にこういうことが起こらずに済むのだ?」
     「深刻な話」では、男が電話線を切る場面が好きだ。男の感情や、彼が考えていることに関しては全く描かず、男の動作を淡々と描写している。この淡々とした描写によって、男が考える気力と能力を失ってしまったほど打ち破れているような印象がもたらされている(ような気がする)。また、第三者の視点からこの場面を見ると、どこか滑稽さが感じられる。この、哀しみと可笑しさが魅力になっているきがする。

  • 『出かけるって女たちに言ってくるよ』
    そういえばジェリーは女達を「どうしたいのか」とは一言も言ってないのだった、と思わせるオチで、本書で最も印象に残る話だった。
    オチを読んだあとだと、ジェリーによる通行人の女達への呼称「売女」「スベタ」「はすっぱ」(訳のセンスはともかく)が単なるイキった軽口というより、女性への激しい憎悪が込められているようにも深読みができる。
    この憎悪は妻や娘達に囲まれた結婚生活で培われたものなのか、もともと腹の底でうずまいていた要素なのかは不明だが、殺人に至るほど根が深いのは確かだ。何が彼をそこまで追い詰めたのか。ひとえに「女」とは言えない社会的な圧力のようなものも感じる。

    ところで村上春樹によるこの章の解説がいまいち腑に落ちない。
    「もちろん彼らが二人の女たちをレイプし、石で殴り殺したことを示唆している。」とあるが、この抽象的な章からわかるのは撲殺したのであろうということだけで、レイプに関しては「もしかしたら」したのかもしれないし、してないかもしれない。どうとでも取れるようになっており、「もちろん」という具体性とは対極にある構成だ。
    せっかく作者が演出を凝らした曖昧で抽象的な表現を、訳者が巻末で「もちろん」と具体的な解釈で断ずる姿勢は作品の雰囲気を壊すナンセンスな行為だと感じる。

    さらに村上はビルを「気弱な男」と断じているが、どこの描写でそう考えたのだろうか?
    ビルはジェリーの行動にあまり乗り気でなかっただけで、それは気弱とは少し違うのではないのだろうか。
    ビルは女とセックスできればラッキーだと考えていたが、しきにり時計や置いてきた車を気にする素振りから早く家族のもとへ帰りたいと思っているのが本音だろうと窺える。気弱と言ってしまえばそれまでだが、落ち込んでいた友人への付き合いとあわよくばというほのかな軽薄さ、気弱というより友人思いのノリの軽い男という感じだが。

    『デニムのあとで』
    身につまされる話である。
    主人公は赤の他人である若いカップルの言動が気に障って仕方がない。自分の気持ちに余裕がなく、不幸であるときほど八つ当たりのように他人へ固執して余計にイライラを募らせる。
    若者のファッション、楽しげな様子、たかだかゲームの小さなインチキに難癖をつけている姿が痛々しく映る。
    若いカップルとの対比・白いリネンの編み物から子供を連想したので、妻は不妊治療がうまくいかず体調を崩しているか何かだろうか。
    ラストの "俺は今、引っくり返った船の竜骨の上に乗っている男のように手を振っているんだと、自分に言い聞かせながら。" という遠回しな表現が好きだ。

    『私の父が死んだ三番めの原因』
    悲劇的な話をまるで他人事のように淡々と連ねる語り口調が、逆説的に悲劇性や陰鬱やを後押ししてるように感じる。
    「相変わらず」と言われるほど温かみのない母親の様子も記されており、家庭内もどこか冷えている。
    友達の死が彼の父の運命を狂わせたとは言い切らず、三つの要因の重なりが父の死へ繋がったとしている。何か大きな出来事一発で(おそらく)自殺へ追い込まれるのではなく、人の死は大小さまざまな出来事の積み重ねが招くことで、すなわち運命の狂いは誰にでも降りかかる可能性のあるものだと解釈した。

    『静けさ』
    主人公は床屋の主人に恋人のようにやさしく髪を梳かれて離婚・別居を決心する。離婚の原因は主人公の性的指向の暗示だろうか。

  • なにかが駄目になってしまう話がこれでもかこれでもかと続く。どれもやりきれなくて、読んでいて苦しく、そこにある絶望感はリアルで生々しかった。それなのに解題では「奇妙」「シュールレアリスティック」と形容されている作品がある。どの話もシュールだなんてちっとも感じなかったのに。カーヴァーに首根っこをつかまれていたのかもしれない。

  • 暴力や不倫などアメリカ社会の負の部分をするどく抉っている。

  • 1年ほど前に買って長らく積みっぱなしにしていた。春樹氏の某マラソンエッセイはこちらのタイトルを捩ったものである。翻訳が村上春樹だからか、村上春樹の小説を読んでいるような錯覚に陥った。非常にシンプルな文体で読みやすくさくさくっと読了。「ダンスしないか?」が一番好きかな。他にもカーヴァー読んでみようかな。2011/559

  • 「足もとに流れる深い川」「出かけるって女たちに言ってくるよ」の不気味さがクセになる。
    「デニムのあとで」「菓子袋」の中高年ならではせつなさもいい。

    「愛について語るときに我々の語ること」の必死さ真摯さにも揺さぶられる。

  • 愛してやまないレイモンドカーバー「愛について語るときに我々の語ること」。目で追った文字を感覚が呑み込むと、ふるふると心の琴線が音を立てて揺れた。勿論、答えなんて載っていないけれど。そこには、千絵が本当に欲しかったものがあった。

  • 2011/06/16 読了

  • 「ダンスしないか?」の静かな興奮、「出かけるって女たちに言ってくるよ」のそこそこの生活に潜む恐怖、「デニムのあとで」の若さへの妬み。

  • ずっと以前に、レイモンド・カーヴァーの何かを読んだことがあったと思うのだが、何を読んだのかすら覚えていないのだから、その時は然程感動しなかったんだと思う。
    それでも何となくまたカーヴァーを買ってみた。

    さて、今回はというと、やっぱり特別にものすごい衝撃を受ける(たとえばエリクソンの『黒い時計の旅』を読んだ時とか、ファウルズの『魔術師』を読んだ時とかのような)というのではなかった。
    この前読んだ『and Other Stories -とっておきのアメリカ小説12篇-』と割と同じような感覚。どちらも短編集でアメリカ小説というのもあるかも知れない。でもまぁ、同じようだとは言え、私はカーヴァーのこちらの短編集の方が良かった。(もちろんいくつもの作品があるので好きなものとそうでないものというのはあるけれど)
    中でも私は『出かけるって女たちに言ってくるよ』『デニムのあとで』『足もとに流れる深い川』『私の父が死んだ三番目の原因』『静けさ』が好きだ。

    あー、レイモンド・カーヴァーってこういう感じなんだ、というのはよく掴めた。他のも読んでみてもいいなという気にもなった。

    ブラックな感じがいい。絶望+救いのない感じ、さらにそれを投げ出しっ放しな感じ、またそのままの終わり方。私は嫌いじゃない。

    私は気持ちの波が激しいので、こういうのがいい時もあればほっこり温かい救いと希望のある物語が読みたい時もある。
    だからカーヴァーのこの作品が好きな人もいればそうでない人もいると思う。

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