愛について語るときに我々の語ること (村上春樹翻訳ライブラリー)

  • 中央公論新社
3.63
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本棚登録 : 982
感想 : 70
  • Amazon.co.jp ・本 (301ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784124034998

作品紹介・あらすじ

アグレッシヴな小説作法とミステリアスなタイトリングで、作家カーヴァーの文学的アイデンティティを深く刻印する本書は、八〇年代アメリカ文学にカルト的ともいえる影響を及ぼした。転換期の生々しい息づかいを伝える、鮮やかにして大胆な短篇集。

感想・レビュー・書評

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  • タイトルがほんとう独特で印象深い言葉の使い方で、こういう言い回しを読むと自分もやってみたくなります(でも、おそらく下手くそになってしまうんでしょうね)。

    バカなことをしたものだなという人物や暴力的な人物、情けない人物も、話の中央に位置するかたちでよくでてきます。また、運命やタイミングなどが、それこそ人間たちのその状況や状態などの一切に構わず、まるで「まったく空気を読まずに」やってきて、人間たちを振り回したり掻き回したりする理不尽ともいえるさまをよく描いているなあと思えました。そういったものはもうしょうがなくて、そういった瞬間以降、人間たちはそれぞれどう考えたりふるまったりするかというところにカーヴァーらしいドラマがあるのではないでしょうか。

    急に直角にカーブするような力技のユーモアのキレがいいです。また、「これは見事だ」「すごい」とのけぞってしまうような、これまた違う意味でのキレのある締めくくり方にしびれるのですが、そこで作者は読者の予期できない方向に話の流れを一瞬で放ってきているし、放られたあと確認するべく後ろを振り向いてみても一体どこにどう放ったのかすらうまく説明できないような放り投げ方をしてきている。それが、「これはやられた!」っていうキレなのです。そしてこのキレは手品的と形容するよりも、鉄棒競技でのシンプルで効果的な種類の着地技と形容したほうがちょっと言い得るような技術ではないかなと思うところでした。

    雰囲気としてちょっとO・ヘンリを思わせるような小編『何もかもが彼にくっついていた』などは僕の好みの話なのでした。しかしながら、執筆の手本とするなら僕の場合では『菓子袋』です。さらに言うなら、目標のひとつに据えるとすると『足もとに流れる深い川』になります。『菓子袋』は地の文が淡々としていて、物語をまるで語らないままの文章で通しています。物語を語っていくのは息子と父親の会話で、はっきりいえば父親のセリフ部分のみだと言えます。構造として分かりやすくあるのにそれに反して効果的ですし、語られる物語の温度(体温を感じられるか)や湿度(乾湿)が快適で、なおかつ強さがあるかが問われるものではないかと感じました。つまり、温度や湿度や強度に注意を払ってから書こうと思ったものを書き始めたならば、『菓子袋』に負けないくらいのものは書ける可能性はあるのではないか、と。また、『足もとに流れる深い川』は筆がのっているような文章だと感じました。書けるぞという気持ちになっているときに書いてみて、このくらいの文章を書けたならけっこう喜べそうな気がします。そういうひとつの尺度として覚えておきたいです。

    ほんとうに短い作品も多いのですが、すべてにおいて作品が上滑りしていません。それこそ一筋の川にたとえたなら、その深いところでの、表層とはちょっと違ったうねりにも支えられているような感覚があります。というか、川に喩えるのはまずかったですね。海に喩えましょう。海は表層の流れと海底での潮流が違います。目に見えていない海底の潮流もきちんと含まれている短篇たち、といったほうがより的に近いんだと思います。

    ひとつひとつの文章に味がありますし、またマクロに見てみても筋やテーマの流れ方に敬意を持てる作家です。またそのうち、別の作品を読んでみるつもりなのですが、すでに今から楽しみなのでした。

  • 村上春樹が文体における我が師と仰ぐレイモンドカーヴァーの転換期にあたる作品。
    文体それ自体は以前読んだ「アメリカの鱒釣り」でリチャードブローティガンが見せた清新な文体に近いものを感じた。
    しかしながら、意味性を排した文というわけではなく、むしろどんなに短い短編にも哀しげな余韻とともに慰みが込められている。そういう意味もこの作品のイメージカラーは表紙にあしらわれているのと同じ色調のブルーだ。
    村上春樹自身これらの作品からどんなエッセンスを引き出したのか最初は疑問に思ったが細かい設定や人物描写をあえて省くことで逆説的に主題を浮かび上がらせるという手法を学んだのでは無いかと思う。

    • ぶらいあんさん
      こんにちは。なかなか咀嚼が難しいですが間違いなくいい作品です!
      すごく選びがたいですが映画化されたものが良かったこともあり、ドライブマイカー...
      こんにちは。なかなか咀嚼が難しいですが間違いなくいい作品です!
      すごく選びがたいですが映画化されたものが良かったこともあり、ドライブマイカーの入っている女のいない男たちが心に残ってます。
      2021/12/29
    • おはようまだねようさん
      返信ありがとうございます。奇遇なことに、ちょうど今日ドライブマイカー観てきました(上映直前にこの返信受け取ったまであります)! 年の終わりに...
      返信ありがとうございます。奇遇なことに、ちょうど今日ドライブマイカー観てきました(上映直前にこの返信受け取ったまであります)! 年の終わりに本作も観れ、村上春樹を味わい尽くした一年になりました。
      2021/12/29
    • ぶらいあんさん
      まだドライブマイカー上映してるんですね!
      終盤の雪景色と共に音がなくなるシーン。一生忘れません。
      まだドライブマイカー上映してるんですね!
      終盤の雪景色と共に音がなくなるシーン。一生忘れません。
      2021/12/30
  • 真夜中になめくじ退治してる人と話しながら上の方で飛行機飛んでるシーンがよかった

  • 九州産業大学図書館 蔵書検索(OPAC)へ↓
    https://leaf.kyusan-u.ac.jp/opac/volume/1381142

  • どこか鬱とした印象を抱く短編集だった。愛、というとロマンティックな方を想像してしまっていたけれど、愛ゆえにどうにもならない現実の方だった。
    レイモンド・カーヴァーははじめて読んだ。どれも物語が最後にさしかかるところの段落、一文にぐっと心をひかれたように思う。

    「ダンスしないか?」がよかったし、表題作がすごくよかった。個人的には最後の一文のために何度でも読みたい。

  • 洋書でここまで読みやすい本は初めてでした。
    洋書特有の具体的な表現がないのに加え、
    カーヴァーによって削れるところはとことん削られたからかと。
    余計な脂肪がなく、品を感じる。

    そして村上春樹さんによる和訳の雰囲気は
    江國香織さんの作風を感じました。
    静かな緑に囲まれたカフェのテラス席で読むのに最適。

    ロマンチックテイストとはまた違い、
    滑稽で飾らない感じ。
    このテイスト好きだな。

    すごく心に残るというか、
    その時のしんとなる心の静寂を味わうタイプの作品。
    中でも「出かけるって女たちに言ってくるよ」が好き。
    脳に浮かぶ情景乗車に対して彼らの自由さと強欲さが滑稽で。あとイケてる女の子たちが見える見える。


  • 初めて読んだ作家だったが、今まで読んできたどの作家とも質を異にする作品だった。この本は短編集であり、この変わったタイトルはここに収録されている一つの短編のタイトルを取ってつけられているが、この本のどの短編においてもこのタイトルが相応しい。テーマは勿論「愛」であるが、浪漫や感動を全面に出す比翼連理の姿や愛に対する憧憬の様な物は皆無である。大抵は愛の修羅場や悲しい結末が扱われているが、そうなる経緯のようなものは悉く除外されている。読み始め段階から既に修羅場、若しくは既に破局しているので、物語を途中から読み始めたような雰囲気があり、出来事の前後や結末の解釈は何通りも可能であろう。ただ、一つ一つの短編の中で愛の形を様々な方向から描いている。その描き方というのが非常に冷めきっていて、簡潔な文章でカラッとしている。三人称で語られるのが殆どだが、語り手が登場人物と寄り添う感じもなく、まるで虫の世界で行われている光景を見下ろすような物で、共食いをしようがどうしようがただ刮目しているだけな感じがある。内容はとても読めた物ではない胸糞なものから、愛の惨劇をイロニカルに例えるものやら、少しでも前に進もうとするものやら、昔を思い出すものやら。中には読後に少し心に微熱を帯びるような僅かな感動を覚えるものもある。全てを読んで感じたのは、愛とは決して美しい物ではないということだ。生きていく上で、愛の表すものというのは様々な色が混じり合う中でグロテスクになってしまうのであろう。アダルトなリアル恋愛小説だと感じた。
    非常に刺激的な読書体験だった。簡単な文章で、登場人物も多くを語らずしてここまで濃密な世界観を形成し、多分に含意を持つような物語が描けるものなのかと感じた。個人的にはもう少し描写の除外を無くして欲しい感じはしたが、そうしていたら衝撃度は下がったかもしれない。他のこの著者の作品も村上春樹訳で読んでいこうと思う。

  • ハンティング、釣り、夫婦(家庭)の不和の話が多い短編集。

    気が滅入ってくる感じと、「人生こんなもんだよな」という思いが交錯した。

    しかしやや退屈だった。

  • 足もとに流れる深い川が非常に好きだ

  • 短篇集。一つの短篇はあっという間に読めてしまう。とはいえかなり好み。「深刻な話」や「静けさ」は登場人物が最後、何かの覚悟を決めるような感じがあって好き。

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