谷崎潤一郎全集 お艶殺し/金色の死/神童 ほか (第3巻)

  • 中央公論新社 (2016年7月7日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (488ページ) / ISBN・EAN: 9784124035636

感想・レビュー・書評

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  • 以前読んだ夏目漱石の全集がかなり良かったので、刊行年も新しいしせっかくだから初の谷崎潤一郎も全集で、と思ったのだけど、注釈もなにもなくただ分厚いだけで非常に読みにくかった。まあでも同時期の作品が集められていたり、未収録作品が収められているだけでも価値がある。特に「お艶殺し」と「お才と巳之介」を初読で読み比べできたのは大いに有難い。

    漱石ほど読み易くなく、かといって泉鏡花ほど難読でもない、情緒的で豊潤な、艶と湿り気のある文章。暗く深い人間の心底を抉るような眼差しと、結末の是非を問わない純文学的姿勢。全集の3巻しか読んでないけれど、谷崎潤一郎の作家としての裾野の広さ、器の大きさを感じるには充分。なんとなくちょっと前に読んだ奥泉光の文体を彷彿とさせるんだけど、読んでいて静閑さと微弱な興奮を連れてくるこの感じは自分と相性が良いなと思った。これから長い付き合いになりそう、、、

    ■「お艶殺し」「お才と巳之介」、、、どちらも悪い女にハマって堕落していく男の話。が、完成度は圧倒的に後者が上。主な関係性の焦点がお艶と新助のみの前者よりも、お才と巳之介、卯三郎とお露、お才と卯三郎ーーーの後者の方が深みがあるのは自然の道理。登場人物の悪辣さも人物描写も後者が上だが、なにより巳之介の愚鈍で幼稚な人間性が目につく。正直な女の子を騙したと母親に詰られて喜ぶ、その一文だけで、自己肯定感の低さと承認欲求の高さが窺える。こういう心の底を引っ掻くような捻れた心理描写が一等上手く、そしてそれが私達にも充分当て嵌まるというところに、谷崎潤一郎が読み継がれる理由があると思った。
    ■金色の死、、、つまり谷崎潤一郎の芸術論。人間の肉体が最も美しく、男性美と女性美を兼ね備えた中性の美がその最たるものである、というのは「創造」に繋がる主張であるし、自伝的小説とも言われる「神童」で自分の容姿に劣等感を抱いている、かつ「金色の死」の「私」も岡村君の対比として"見るからに哀れな、うら淋しい姿"であると設定されているように、自分が持ち得ないからこそ美しい肉体に固執するのではないかと思われる。それにしても岡村君の創作した自然風景への描写は本当に見事で、荘厳で優婉で雄大、微に入り細を穿ち、言葉は尽きぬとばかりの表現なのが、"生きる人間の肉体"で創作された芸術に移ると途端に口を閉ざす様がまた上手い。自分の芸術論を突き詰め実現したらこうなる、という思考実験の意味合いもあるのか?それにしても身体中に金箔を塗って皮膚呼吸ができずに死ぬってオチ他になんかなかったっけ?
    ■創造、、、会話文のみ。美男美女同士がお互いに一目惚れするのは法成寺物語の前身みたいなとこある。「細君譲渡事件」むっちゃ関係ありそう、、、別巻に纏めてるのかもしれないけど、せっかく全集なんだから年表欲しいよね。
    ■独探、、、普通にめちゃくちゃ面白かった。これぞ愛すべき西洋人て感じ。嘘八百並べ立てて平気な顔してるのも、日本人を雑に侮ってるのも、女と金に目がないのもさもありなん。同時に日本人の懐の広さというか、谷崎潤一郎の情の深さというか、、、こんなにいい加減な人物と付き合い続けるのは寛大だなと思う。まあ結局スパイなの見抜けなかったんだからやっぱり日本人はお人好しで馬鹿なのかも、当時の新聞がどれだけ信用できるかは分からないけど。
    ■神童、、、人間というものをあまりに率直に描くとこんなに屈折して見えるのか、という発見。並外れた己の能力ゆえの自惚れと傲慢、皆で弱い者を虐める快楽と旺盛な性欲に抗えない弱さ、弱者を虐げることで強者に阿る狡猾さ、薄暗くてざらついた物欲に食欲、己の容姿と肉体への劣等感、全て一人の人間のごく一般的な心理である。春之助は確かに流されやすいけれど、それだって指差して非難されるようなことではない。むしろ物語末尾で客観的に自分を眺め、その弱さを自覚するのは流石の聡明さと言えるし、それでも「己はどうしても天才を持つて居るやうな気がする」という筋金入りの自惚れにはすごく人間味があって愛しささえ覚える。けれどめちゃくちゃ屈折した人格に見える不思議。いや、実際屈折してるんだろうけど、誰だってそうだよね、特に思春期は。谷崎潤一郎のごまかさない赤裸々な筆致に感服いたしました。
    ■法成寺物語、、、戯曲。道長の権力者たる傲慢さが良かった。台詞回しもすごく好みだけど、実際舞台にするとつまらなさそう。
    ■懺悔話、、、懺悔というほどでもなくない?
    ■華魁、、、完成してたら「神童」みたいな話だったのかも。勤勉な青年が堕落する話好きだね、、、
    ■夢(翻訳)
    ■ひとりごと

    「金色の死」の序章にて、世間の作品評価が不当であっても褒められれば嬉しさを感じてしまう、人気というものは恐ろしいものだ、と自戒する谷崎潤一郎は芯からの芸術家なんだなと思いました。

  • 驕慢な娘と奉公人の破滅的な道行き「お艶殺し」、悪女に恋いこがれて破滅していく男を描いた情痴小説「お才と巳之介」のほか、「金色の死」「神童」など、大正初期の人気作を収載。

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著者プロフィール

1886年(明治19年)〜1965年(昭和40年)。東京・日本橋生まれ。明治末期から昭和中期まで、戦中・戦後の一時期を除き執筆活動を続け、国内外でその作品の芸術性が高い評価を得た。主な作品に「刺青」「痴人の愛」「春琴抄」「細雪」など、傑作を多く残している。

「2024年 『谷崎潤一郎 大活字本シリーズ 全巻セット』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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