中国思想史

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  • 東京大学出版会
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  • Amazon.co.jp ・本 (255ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784130120562

作品紹介・あらすじ

古代思想と現代中国は、どうつながるのか?世界史のなかで"中国"とは何だったか?停滞史観も革命史観もともに斥けて、中国に固有の歴史枠組をさぐる。

感想・レビュー・書評

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  • ある程度前提知識を持った人でないと理解できないと思う。とても不親切。少なくとも中国思想を知るために最初に読む本ではない。非常にわかりにくい。森三樹三郎『中国思想史』の方がわかりやすいしすぐれている。理の字の使用が華厳経学の事に対する理の影響ではなく唐皇帝の避諱による治の置き換えによって使用が日常的になっていたからという仮説を提示している。唐宋の変革の原動力に印刷革命を挙げている。宋代の官僚士大夫層から明清代の民衆へと社会秩序の実現の担い手が変化していったことを背景に思想の変化を論じている。郷里空間(在地の社会秩序が形成される場)という言葉を用いて社会思想の変化を説明している。地方自治にかわる官・紳・民の郷治の概念を提出している。善会・善堂の民間を主とした活動が慈善活動だけでなく学校、図書館、病院、街灯、水道、道路など公共事業まで行っていて、官が行政をほとんど行っていなかったような気分さえ覚える。郷里空間の地方自治が省まで拡大していって辛亥革命が省の独立という形となったことがわかる。私より公を重視し、個人の自由、人権、私有財産権を否定する伝統があることを述べている。中華人民共和国の成立でも相互扶助、宗族制、均貧富の伝統は生き残り、現在こそ伝統の破壊に直面していると言っている。

  • 中国の思想が歴史に対してどのようにかかわってきたのかということを解説している、ユニークな中国思想の概説書です。

    「はしがき」には、「本書は、思想史とはいえ哲学的な言説の縷述ではなく、また事項や固有名詞がならぶ通史の構成をとってもいない。……中国の思想を知るのではなく、それを通して中国を知ること、それが本書の課題とするところであるといってよい」とあります。

    とくに著者たちは、西洋史の枠組みを用いて中国の歴史を裁断することに批判的です。たとえば、「官」と「民」を対立する概念とみなして中国における近代化の進展を論じることは適切ではなく、郷里空間に根ざした知識人たちによって「地方の公事を地方の手で」という「郷治」の理念が、近世から近代にかけての中国の政治を動かしてきたと論じられています。

    タイトルから予想される内容とはちがっていましたが、他の一般的な中国思想史の概説書と併せて読むことで、立体的な理解が得られるという意味では、有益な本だと思います。

  •  中国にかかった呪いは帝国でも宗族でも個人主義でも官僚制でも郡県制でも道教でもなく儒教でした、中国共産主義も儒教の変奏です、というオチでした。それでいて、共産主義が批判したのも儒教、土地の国有を批判したのも儒教、土地の国有を主張したのも儒教、中央集権を主張したのも儒教、封建制を主張したのも儒教。さらに、儒教が生き延びてきたのは、易と法家を取り込み、墨家をパクり、道教をパクり、仏教をパクってきたからであるとする。すなわち、儒教とは内実がなく、孔子とその周辺の人物に仮託して議論をする文化であるということになる。
     ここまで極端な儒教の理解は、秦における焚書坑儒以降儒教が一貫して中国における思想を固定してきた封建制に固有のものであり、それを打破した現代中国は近代国民国家を形成したというマルクス主義における発達段階論に当てはめる歴史解釈を明確に拒否するためであると考えられる。
     こうした文脈においてこそ、今の中国で歴代皇帝や愛新覚羅の子孫も皇帝の呼称も何ら権力、権威の源泉たり得ないのを考えると、辛亥革命とその後の中華民主主義人民共和国の建国が西欧流の近代国民国家の形成とは全く異なる次元における現象であり、その意義も非常に大きいことも初めて理解できる。

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著者プロフィール

中国思想史研究家、東京大学名誉教授

「2010年 『〈中国思想〉再発見』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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