- Amazon.co.jp ・本 (285ページ)
- / ISBN・EAN: 9784130342353
作品紹介・あらすじ
地方分権推進委員会,地方制度調査会をリードした著者が,自らの実践をふまえて1993年以来の分権改革を総括する.分権委員会の調査審議と勧告を拘束していたものは何か,第一次分権改革の成果と残された課題は何か.戦後日本の地方自治制度の構造的特質を国際比較の視点から明らかにし,日本が目指すべき方向性を示唆する.
感想・レビュー・書評
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「戦う行政学者」である西尾先生の著作。学術書というよりかは、地方分権推進委員会の委員として、奔走した先生の記録というべきである。タイトルに似合わず、中身はかなりエッセイっぽい。とはいえ、理論的整合性と実務的限界との対立や理論と実践の懸隔といった示唆に富んでおり、学術書的価値と資料的価値を併せ持っている。
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Ⅰ 戦後日本の地方制度の特徴
「実質的な決定権は国に高度に留保」
国の事務の執行を自治体に義務付け
→機関委任事務
自治体の歳入歳出ギャップ
市町村優先主義と市町村横並び主義
Ⅱ第一次分権改革の構図
「権限の委譲の推進・国の関与・必置規制・機関委任事務・負担金補助金等」
地方分権推進委員会委員
諸井虔・堀江湛・桑原敬一・長洲一二・西尾勝・樋口恵子・山本壮一郎
「自治体から寄せられた改革要望事項の大半は国の関与の縮減を望むもので、権限移譲の要望は予想外に少なかった」
<改革要望事項確認必要>
優先順位
機関委任事務→必置規制と国庫補助負担金→地方税財源の充実確保と地方行政体制の整理及び確立に必要な国の措置
・「相手方の抵抗の壁の厚さ」
・「自治体側から寄せられる支援の強弱の問題」
『中間報告』は理想的→霞が関がルールを遵守するように要請
<本来の目的は『中間報告』と見るべき>
→「関係省庁との合意形成を目指す」必要
この制約のため、特に「国税から地方税への税源移譲に確かな道筋をつけられなかった」 -
本書は、地方分権推進委員会や地方制度調査会の委員として、「地方分権改革」に直接携わってきた著者の体験観察に基づく研究書です。トピックごとに改革の過程が追える構成となっており、改革過程における障害物の多さを認識させられる内容でした。
本書が示す、地方分権に関する重要な理論的知見は、戦後日本の中央地方関係は「集権分散型」であり、第1次分権改革は「分権分散型」への移行を目指したものであったということです。言い換えれば、戦後日本の自治体に与えられていた事務権限の「量」自体は豊富であり、その意味で中央地方関係は既に「分散型」であったため、第1次分権改革が求めたのは中央政府の事務権限に対する「関与の縮小」であり、自治体の自由度の拡大であったということです。
この点、例えば著者は、地方への税源移譲を事務権限の移譲と並行させるものとしてではなく、国からの補助金の廃止と連動させるべきものとして捉えています。更には、地方から国への事務権限移譲でさえ選択肢としては有り得るとしています。
また、改革過程に関する記述では、多様なアクター間の駆け引きの在り様が詳細に後づけられており、さまざまな実践的知見に触れることができます。例えば、第1次分権では、政治家や自治体の間での合意形成が国庫補助金改革と比較して容易であるために、機関委任事務改革から先に手を付けられたこと、三位一体改革では、補助金改革と税源移譲のどちらを先に議論するかが結論を大きく左右したとされていることなどが記されています。
また、地方分権推進委員会(第1次)では、委員会の意見に対する「内閣総理大臣の勧告尊重義務」が規定されており、この規定が逆説的に委員会の自由な議論を阻害していたとする記述など、改革の道程を舗装する細かな制度設計の困難が現れており、興味深かったです。
その他にもさまざまな論点に触れられている本書ですが、改革の第一線で活躍する著者だからこそ書ける、理論的知見と実践的知見が混ざり合った良書と言えます。
地方分権に関心のある方はもちろん、政策学などに関心のある方にも広くおすすめできる1冊です。 -
地方分権推進法から安倍政権ぐらいまでの流れ、
ポイントについて書かれている。
詳細な内容は本を読み返すべし。 -
[ 内容 ]
[ 目次 ]
1章 戦後日本の地方制度の特徴点
2章 第一次分権改革の構図
3章 第一次分権改革の成果と限界
4章 第二次分権改革―二つの流れ
5章 集権分権理論の再構成
おわりに―地方分権改革と政治構造改革
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[ 関連図書 ]
[ 参考となる書評 ] -
地方分権の流れを単に歴史的な事実のみを追うのではなく、流れを作ってきた著者の体験と意見を交えた本です。
戦後の分権の流れの中で、「なんで?」を細かく説明しているので、興味がある人が読むと面白いです。
授業かなんかで単に事実の時系列のみを知りたい人向けではないですね。
?章の地方議会のあり方なんて、自分の将来ともリンクしているのでまさに参考になりました。 -
2007.7刊。巻末に2007年3月脱稿、と記されているように全巻書下ろし。第二次分権改革は成功するか?著者の見込みによると第二次分権改革(政治構造改革)の次なる焦点は公務員制度改革と自治体議会制度改革になる、とのこと。
なお、道州制について、以下『第4章 第二次分権改革』の記述より。
「『平成の市町村合併』が都道府県の再編成を不可避にするか否かは、政令市、中核市、特例市が最終的にどの程度まで増えるのかという道筋の帰趨にかかっているように思われる。その点を留保した上でのことであるが、『平成の市町村合併』が都道府県の再編を不可避にする可能性はきわめて低いように思われる。むしろ市町村合併そのものよりも、これを期に都道府県から市区町村への事務権限の移譲を徹底して行うことにするのかしないのか、にかかっているように思われる。今後の第二次分権改革において都道府県から市区町村への事務権限の大幅移譲が進められれば、そのとき都道府県の合併か道州制への移行かという選択は現実味を帯びることになろう。(P.150)」
「自治体の自治権を拡充する方策は事務権限の移譲に尽きるものではない。自治権の拡充にとって重要なのは、ある意味では事務権限の移譲より以上に、国から自治体への立法権の移譲なのである。この立法権の移譲は政策・制度の企画立案権の移譲といいかえてもよい。事務権限の移譲というときの『事務権限』とは『事務事業の執行権限』にすぎないことに留意してほしい。(P.163)」
「国から道州に相当程度の立法権(政策・制度の企画立案権)が移譲されることとなった場合には、道州議会が制定する道州条例は従来の都道府県条例とは比較にならないほどに重要な意味をもつようになる。(P.166)」
「中央集権的な法令等のこれ以上の増殖を抑止し、地方自治を不当に制約している既存の法令等の改正を促進する、もう少し確かで有効な方策はないものであろうか。国の立法過程に自治体関係者の意見を有効に投入することのできるような恒常的な仕組みを創設してみてはどうであろうか。(ドイツの各州の代表で構成される連邦参事院、フランスの上院の議員は自治体議会議員による間接選挙になっており事実上自治体代表者で構成されているのが参考になる)いずれ憲法が改正される際には、参議院をどうするかは、最も重要な争点の一つになるものと思われる。(両院制を維持する場合、第二院としての参議院の議員の選挙制度を自治体関係者による間接選挙とする(フランス)。参議院を廃止する場合、副次的な立法審査機関として自治体代表者から構成される地方自治保障院(仮称)を新設する(ドイツ)。いずれにしろ、国会議事堂のなかに『地方自治の砦』を築きたい。これは私の夢である。(PP.164-165)」
「ともあれ、道州制はいずれ実施に移されるにせよ、第三次分権改革の課題である。(P.209)」