東京のローカル・コミュニティ―ある町の物語一九〇〇‐八〇

著者 :
  • 東京大学出版会
3.71
  • (2)
  • (2)
  • (2)
  • (1)
  • (0)
本棚登録 : 20
レビュー : 3
  • Amazon.co.jp ・本 (316ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784130511223

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  •  社会学者の著者が、東京の「ある町」(地名が明記されていないが、内容から大田区のことだとわかる)の地域コミュニティーの変遷を研究したモノグラフ(ある個人や集団、テーマを多角的に分析・調査したレポート)である。仕事の資料として読んだもの。

     学術書ではあるものの、読みやすくするための工夫が随所に凝らされており、その点に好感がもてる。

     著者は『創価学会の研究』(講談社現代新書/2008年)を書いた人である。本書でも第五章を丸ごと割いて「もう一つの地域」としての創価学会コミュニティーが分析されているし、ほかの章にも学会についての言及が随所にある。てゆーか、『創価学会の研究』という本自体が、本書を原型として生まれたものなのだ。

     その第五章と、第二章「町内社会の成立と展開」が面白かった。後者は「町内会」そのものの長い歴史をたどったもので、目からウロコ。たとえば、次のような記述に「へーっ」と思った。

    《戦時中までは国家の権威を笠に着て横暴にふるまう町内会長も多かっただろう。そんなこともあって、敗戦後の町内会の評判はすこぶる悪いものになってしまった。また、戦後アメリカ占領軍は町内会を戦争に協力した封建遺制とみなし、日本の民主化を阻むものとして、その解散を命じることになる。いわゆる町内会廃止として知られる政令一五号の公布である。このようなアメリカ占領軍の判断は日本の知識層にも広く受け入れられ、町内会は長い間、古いもの、やがて消え去るべきものと見なされるようになる。》

     地域コミュニティーとしての創価学会を分析した第五章は、3人の学会員への聞き取り調査を中心としたもの。たった3人の話を聞いただけなのに(当然それ以外の学会員にも接しただろうが)、創価学会コミュニティーの本質に肉薄したと感じられる内容になっており、著者の洞察力は素晴らしい。

  • 何といっても読みやすい。講義での紹介でも、読みやすさにやはり評定のある本だとのこと(それゆえ、ディスカッションの難易度が高まるのだと続く)。もちろんただ読みやすいだけでなく、その内容ももちろん名作たる緻密さを誇っている。なんといっても、インタビュー調査とサーベイ調査のバランス感覚がすごい。まずインタビュー調査から入るのだが、まずそこから一つの普遍性を見つけだす。そしてサーベイ調査によってそれを吟味し、さらに普遍性に対する正確な分析を行う。人々の生活の習慣からの考察もある。このようなことを結びつけるのに必要なのは調査者の想像力である。しかもそれは知識によって裏付けられたものでなくてはならない。さらに対象者からより有益な情報を取り出すことは、調査者の人間性にかかわってくる。それだけに、この研究を完成させた玉野和志という人間もまた、名作と(もしかしたら失礼な言い方かもしれないが)表現することができよう。


    今回のディスカッションは本書の「調査は質的調査とサーベイの相互補完ではなく、有機的に行われた。」という記述についてのことが中心となった。「有機的」とは何か?ここに着眼したのは船橋ゼミの先輩(未だに名前が分からないのだが)。
    この議論をする前に僕が「質的調査で出た結論を、量的調査によって裏付けるということを実践して見せたところに、この研究の魅力がある。」と言ったのだが、とりあえずそれは「相互補完的である。」ということになった。
    先輩の見解では「質的調査と量的調査をつないだところにこの研究の魅力があるが、注目すべきはまさにそのつなぐ線のことであり、そこに有機的なことが隠されている。」という抽象的な提起に始まり、調査者と対象者の背景にあるものを読み取る(例えば調査者が対象から普遍性を読み取るには知識が必要であるということや。対象者ABといたとすれば、Aは何故BのことをCと思い、BはAのことをなぜDと思っていたのかを考え、それは日常知だとか複雑性だとか、ちょっと詳しいことは忘れた。だが要するに両者の間にある溝を読み取ることが有機的であるとしたかったのだと思う。)ことを通してそれを解いていこうとしたのだが、僕としては全然納得のいく回答ではなかった。結局それは先に述べた「相互補完的である」ということに言いかえることも可能だからである。何故ならば、その後でそのようなことを結局サーベイ調査などでさらに深める作業をするからだ。
    講義でも言っていたとおり、議論は難航したといえる。なかなか議論をかみ合わせることができなかった。こういうところで伝える能力の未熟さが露わになるものだ。それにしても有機的とはなんだろうか?一つ思いついたのが、上記レビューにも書いた「研究を結びつける想像力」なのであるが、それだけでもまだかなり抽象的である。延長戦希望。

    【追記】
    量的調査も質的調査も欠かすことができないということが、「有機的」ということらしい。

  • 2005年の前期のテキストとして使用しました。

全3件中 1 - 3件を表示

著者プロフィール

略 歴
 1960年石川県金沢市生まれ.
 東京都立大学人文学部卒,東京大学大学院社会学研究科博士課程中退.
 東京都老人総合研究所研究助手,
 流通経済大学社会学部助教授を経て
現 在
 東京都立大学人文科学研究科教授
専 攻
 都市社会学,地域社会学
著 書
『東京のローカル・コミュニティ』(東京大学出版会)
『近代日本の都市化と町内会の成立』(行人社)
『実践社会調査入門』(世界思想社)
『創価学会の研究』(講談社現代新書)
編 著
『東京大都市圏の空間形成とコミュニティ』(共編・浅川達人,古今書院)
『ブリッジブック社会学』(信山社)

「2020年 『都市社会学を学ぶ人のために』 で使われていた紹介文から引用しています。」

玉野和志の作品

ツイートする
×