動物分類学の論理: 多様性を認識する方法 (Natural History)

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  • 東京大学出版会
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  • Amazon.co.jp ・本 (233ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784130601573

作品紹介・あらすじ

分類学は生物界の多様性を読み解くかぎである.はたして分類学はどのような論理に基づいて生物をわけ,またまとめているのだろうか.誰もが知りたがっていた「分類することの論理」について,気鋭の分類学者が明快に語る.

感想・レビュー・書評

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  • Wikipediaのおかげで、動植物の分類はとても身近なものになった。
    例えばカバを検索してみると、『動物界:脊索動物門:脊椎動物亜門:哺乳綱:鯨偶蹄目:カバ科:カバ属:カバ種』と表示される。
    しかし、これを見て「カバはネコよりもクジラに近い生物なんだ」や「これが進化の順番なんだ」と考えるのは早計だ。
    では、これは一体何に基づく分類なのか。科と属の違いとは何なのか、クジラとカバとネコの違いとは何なのか、分類学とは何なのか。
    本書がそれを教えてくれる。

    動物分類について学び始めたときに、誰もが抱く大きな疑問が3つある。
    ・分子生物学で遺伝子情報を調べれば、進化の順序は完全に明らかになるのでは?
    ・それを使って分岐図を書けば分類に悩むことなどないのでは?
    ・種が生殖可能単位と定義されているならば亜種の定義とは?
    どれも検索では探しにくい問題だが、回答を得る前にそもそも"比較"とは難しいということを知る必要がある。

    例えば文章の類似度を比較する場合。片方では全く同じパラグラフが2回現れた場合、それを1つの違いとしてカウントするか?それともパラグラフに含まれる文字数分の違いとして数えるか?パラグラフの挿入場所が違う場合は?文字列の順序のみ違う場合は?
    例え文章の見かけの類似度を比較する定義ができたとして、そこから生じる意味の違いはどのように比較するのか?
    全然違うアミノ酸から同じタンパク質が生成される場合と、ほぼ同じアミノ酸から違うタンパク質が生成される場合は、どちらが近縁と言えるだろうか?

    そして"分類"についても"比較"と同じぐらい難しい。
    例えば鳥類とは爬虫類から大きく変化した種族であるが、進化の歴史という"答え"に従って分岐分類図を作ると、"爬虫鳥類"となり、"爬虫類"という区分は消失してしまう。
    長い間進化していないシーラカンスや肺魚は"魚類"ではなく、カバも含まれる陸生脊椎動物"四足鰭上類"の一員となる。
    そもそも"分類"ということは指標を一つに定めるということであり、"進化の順番"一点のみに従った分岐分類においては、程度の違いや時間間隔の違い、すなわち"進化"を説明するものとは違うものとなってしまう。

    最後に"種"について。
    "種"という分類のみ、生殖により子孫が残せるかどうかという定義があるが、これもそう単純ではない。
    例えばイリオモテヤマネコとユキヒョウとチーターが生殖可能かどうか、無数の環境下で無数の組み合わせを試すまで分類は不可能ということで良いのだろうか?
    試験管内で生殖可能であれば同じ種とすると定義したとして、未だに無数の新種が発見され続けている南国の昆虫や深海の甲殻類の精子と卵子を採取しなければならないとしたら、分類学は永遠に停滞するだろう。

    クジラとイルカの分類上の違いは、大体のサイズの違いのみで決められるという話を聞いたことがある人もいるだろう。
    理系から見たら曖昧さを感じてしまう事例だが、そもそもが曖昧な人の認識と、正確であろうとする論理科学にどう折り合いをつけるのかという問題は、生物分類以外であっても避けることは出来ない。
    であれば本書から分類にあたって生じる普遍的な課題を学ぶことは、如何なる分野においても役立てることができるだろう。

  • 動物分類学について書かれた教科書はあまりありませんが、その数冊あるうちで一番充実していると思います。ところどころ難しい部分もありますが、基本的には特に予備知識なしで読んでいけるくらいわかりやすく書かれています。

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著者プロフィール

北海道大学大学院理学研究院教授・北海道大学総合博物館館長,理学博士

「2008年 『地球の変動と生物進化』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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