言語を生みだす本能(上) (NHKブックス)

  • NHK出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (312ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784140017401

作品紹介・あらすじ

母語が思考を枠づける、とするサピア、ウォーフの言語決定論を実証的にしりぞけ、言語本能説の前提として、人は普遍的な心的言語で思考することをまず洞察する。さらに、文法のスーパールールが生得であること、その基本原理を幼児は母語に応用して言葉を獲得することを、最新の発達心理学等から確認する。チョムスキー理論をこえて、人がものを考え、言葉を習得し、話し、理解するとき、心の中で何が起きているかを解き明かす、アメリカで大きな反響をよんだベストセラー。

感想・レビュー・書評

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  • 「言語が思考を制約する」と考えるのは、ある意味、20世紀の社会科学の大きなトレンドではないだろうか。ソシュールの言語学に始まる構造主義や記号論、文化相対主義を主導する文化人類学や解釈学など。こうした傾向は、実証主義的な傾向の強い英米系でも一定のポジションを得ており、哲学の分野では「言語が考えられる事の限界を示す」とするウィトゲンシュタインや言語哲学の一派や「言葉が現実を構築する」とする社会的構築主義など。社会現象面でも、PC(ポリティカリー・コレクト)もそうしたトレンドのなかにあって、言語決定論は、文化相対主義と連動しつつ、政治的には、民主主義や多元主義と連動するものともなっているのだ。

    一方、この議論も、ちょっと行過ぎているのではないか、と思うところもあって、自然科学の全てを含めて全部相対化されてしまったり(自然科学も、たしかにクーンのパラダイム論でいうような人間の認識のパラダイムによる相対性はあるのだが)、自然的なものと思われる性差も結局社会的に構築されるジェンダーなのだ、というところまでいくと、?な気がする。

    やっぱり、程度の差というものは、あるんじゃないの?

    という気分でいるところに、ちょっとした気分転換を図ってくれるさわやかな本であった。

    言語は、人間の社会的構築ではなく、脳の本能によって生み出されるものである。また、言語の前に、言語化されない思考があり、言語によって思考が構築されるわけではない。ということを、言語学や心理学、進化論、脳生理学などなど、さまざまな角度から論証していく。

    事例が、英語によっているところが多くて、ちょっとニュアンスが分からないところも多いが、内容はおおむね、そうだろーなー、と思えるものであった。

    特に、移民の集まりが片言の文法化されない言葉でコミュニケーションをとっている状態から、第2世代の誕生とともに、クレオールとして、一挙に文法化され、言語的に洗練されたものになるというあたりは、とてもスリリングだったな。

    でも、ピンカーが批判の対象としているほど、社会的構築主義の論者は、単純な言語決定論を主張しているのかなー、というのはやや疑問である。一部の極端な論者を例外とすれば、脳の構造が、一種の文法を持っており、この文法に基づいて(一見)多様な言語が生じてくる、という主張は、それほど違和感を持たないのではないだろうか?

    つまり、言語化されていない思考までも含めて、一種の言語、文法的なルールに基づいているというのが、「言語によって思考が決定されている」という意味じゃなかろうか。

    また、言語化されるまえの思考が言語を通じて表現されると同時に、社会化された言語が思考に影響するという側面もあるんじゃないかな、と思う。

    つまりは、「言語決定論」も「脳決定論」も同じ穴のムジナじゃなかろうか、という気がするな。

    なにかによって一元的に「決定」されるというのはないんじゃないかな、と思うんだけど。。。。

  • これは面白い。思考は言語に規定されるという一般意味論は科学的根拠がないのだと一刀し、言語能力(特に文法)というのは人間が直立歩行するのと同じように、本能的に形成されたものだという主張をダーウィンの進化論やチョムスキーの生成文法と関連付けて展開する。英文法の構造の解説は流石に飛ばし飛ばしになりつつも、クレオール言語の形成や心的言語の解説箇所は本当に刺激的だし、「文法は、耳と口と脳を結びつける仲介者」なんて比喩もセンスが効いている。ちなみに、『虐殺器官』の中核をなす言語論の内容は、本書からほぼそのままの引用。

  • 言語のうち、書き言葉は文明だが、話し言葉は本能であり、カラスが空を飛べるように人間が本能的に持ち合わせた先天的な能力であって、どんな言語でも共通の心的言語を基盤にして成立していることを主張した書籍。

  • <内容>
    母語が思考を枠づける、とするサピア、ウォーフの言語決定論を実証的にしりぞけ、言語本能説の前提として、人は普遍的な心的言語で思考することをまず洞察する。さらに、文法のスーパールールが生得であること、その基本原理を幼児は母語に応用して言葉を獲得することを、最新の発達心理学等から確認する。チョムスキー理論をこえて、人がものを考え、言葉を習得し、話し、理解するとき、心の中で何が起きているかを解き明かす、アメリカで大きな反響をよんだベストセラー。
    (BOOK」データベースより)

    <感想>
    発売当初から話題になった本ということもあり、洗練された議論の進め方だったり随処に至るトリビアルな知識が知的欲求を満たしてくれる。一方で、かなり噛み砕いて説明がなされているにも関わらず、テーマ上どうしても難しい部分があったり、使われている例文や表現も英語ベースのものばかりだったりするので、予備知識がない読者にとっては結構大変なんじゃないかな、と思ったりも。
    いずれにせよ、初版からかなりの時間がたってはいるが、基本的な内容はそう色褪せてはおらず、普遍文法や言語能力についての概略的説明としても、疑似科学的な言語に対する通説をバッサリと斬ってくれる読み物としても、良書であると思う。ただし、普遍文法や言語の生得説があくまでも一理論であり、Michael Tomaselloのレビューに見られるような批判や違う方向からの研究もまた数多くあるということには留意しなければならない。そしてその辺の議論を追っていくのもまた、ホットなテーマを扱った本書を読む面白さではないかと思う。

  • 子どもは、統語体系の設計図をもって誕生し、クモが巣を作るように、母語を本能で獲得する。世界的言語学者が、チョムスキー理論を越えて、言語獲得の謎を実証的に解き明かす。【「TRC MARC」の商品解説】

    関西外大図書館OPACのURLはこちら↓
    https://opac1.kansaigaidai.ac.jp/iwjs0015opc/BB00218042

  • <シラバス掲載参考図書一覧は、図書館HPから確認できます>https://libipu.iwate-pu.ac.jp/drupal/ja/node/190

  • 「ブレークポイント」関連本。

  • 生得なルールによってひとが言葉を理解していることがよく分かる。心的プログラム「パーサー」の仕組みを様々な実験を通して解き明かす第7章が最も興味深かった。二義性のある文を聴いている際には一つの意味を選択して解釈を進めていくという。機械であればどちらの可能性も一時記憶として保持できるが、人間の場合はそれが苦痛になるため、可能性の高い意味を選ぶ必要があるらしい。二義性があることに脳は反応しながらも、文法だけでなく何らかの知識を使って判断をしているというのだから奇蹟のようだ。1995年出版ということもあり、今日のコンピュータ技術を前提とするとやや古いのではないかと思われる言及も少なからずあった。この辺りはピンカーの近著等でアップデートしたい。

  • 和訳の素晴らしさも手伝って、言語学の凄さに楽しく触れられる本。
    論文調ではなく、ユーモアや例えを持ち出しながらの演出。

    上巻は、全体的に丁寧な文法の持論が、後半に音韻と書き言葉、そして談話分析の話題。幅広いものの、浅くない。知らなかった事や視点だらけ。下巻も一気に行けそう。

  • 1209円購入2012-01-19

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著者プロフィール

スティーブン・ピンカー(Steven Pinker)
ハーバード大学心理学教授。スタンフォード大学とマサチューセッツ工科大学でも教鞭をとっている。認知科学者、実験心理学者として視覚認知、心理言語学、人間関係について研究している。進化心理学の第一人者。主著に『言語を生みだす本能』、『心の仕組み』、『人間の本性を考える』、『思考する言語』(以上NHKブックス)、『暴力の人類史』(青土社)、『人はどこまで合理的か』(草思社)などがある。その研究と教育の業績、ならびに著書により、数々の受賞歴がある。米タイム誌の「世界で最も影響力のある100人」、フォーリンポリシー誌の「知識人トップ100人」、ヒューマニスト・オブ・ザ・イヤーにも選ばれた。米国科学アカデミー会員。

「2023年 『文庫 21世紀の啓蒙 下』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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