石油の世紀 上: 支配者たちの興亡

  • NHK出版
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感想 : 10
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  • Amazon.co.jp ・本 (707ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784140051689

作品紹介・あらすじ

19世紀後半、アメリカで興った石油産業は、またたく間に巨大化し、20世紀の人間の生活全般を覆いつくし、変化させた。ロックフェラーからヒトラーまで、企業家も独裁者も、金と権力を求めて石油獲得のために生命を賭けた。石油支配という褒美を求めて闘う男たちのドラマ。全米ベストセラー第1位の話題作。

感想・レビュー・書評

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  • エネルギー業界にいる人間にとっての必読書。

  • ふむ

  • 20世紀という時代が、いかに石油というコモディティによって駆動されていたかということが分かる。かなり分量の多い本であるが、圧巻である。

  • 石油という歴史を変えたテーマの総括をした一冊。すばらしい。やはり近代の起点となったマテリアルはすごい。濃密なテーマ史である。読み応えがある。。。


     最初はゆっくりだった。この本のながれもそうである。しかし途中から急激にテクノロジー的、経済的、政治的、外交的、いろんな変化が次から次へとやってくる。石油をめぐってあらゆる事案が発生する。これを感じちゃうと、石油製品の発明があったから人間の生活は変わったという言説に納得が行っちゃうね。しかしそれは間違ってない。夜に明かりがある生活ってのは、石油以降である。人が眠らない社会を作れるようになった。それが世の中の大きな変化になった。そして奪い合いも大きなものにったんだなって思った。


     しかし、古代の人々も石油を使ってたっていうのがきちんと書いてあってよかった。それがかなり大事だなって思った。コールタールが地面の亀裂からしみだしているのを人類は見つけて利用していた。しかしそれを活用できるのには紀元後1900年もかかっている。それが驚きであるし、それほど科学的発展というのは高度な物なんだっていうのが感じられてよい。コールタールが薬ってすごいな。うそやろ。

     今では灯油っていう表現に「?」が浮かぶようになった。なんでストーブの燃料が灯の油なんだ?そうではなくて、原書は石油ってのはランプのための油として活用されたのである。それまでは鯨の脂肪がランプオイルに使われていたのが、原油を灯油にする蒸留技術ができて、石油への期待が高まった。そこからアメリカで石油採掘競争が加速した。ゴールドラッシュならぬ、オイルラッシュが始まった。

     しかし、資本主義はきびしい。石油を掘り当てたEverlasting Lieの石油を掘る男は金持ちにはなれない。みんなが石油を掘り当てたから原油の過剰供給で価格下落が止まらない。そして原油生産の混乱が続く。
     そこでこの混乱を収拾するために頑張ったのが、スタンダード石油のロックフェラーである。彼は石油業界を牛耳ってトラストを作り独占に走った金の亡者のように見られることもあるが、彼がその視線の先に見つめていたのは、石油産業の安定した成長だったのである。資源を無秩序に堀漁り、誰も得をしないカオスな市場を整理整頓した。そのおかげで利益を上げて安定した生活ができる人が増えた。経済が自由だけじゃあ立ち行かない。安定基盤を作ることが大事だと証明した一件である。

     世界が石油で大きく変わったのが第一次世界大戦である。この戦争で自動車や戦車や飛行機や鉄道など石油で動く機械が戦況を大きく動かした。より強い戦闘兵器を動かした国が戦争に勝てるようになり、競争が激化した。それにより技術的発展も加速した。戦争でテクノロジーが加速するようになってきた。

     そして第一次大戦でカギを握ったのが石油産出国であるアメリカであった。アメリカの石油の後ろ盾があるほうが勝てる。事実、大戦に勝利できたのは連合国側だった。
     そもそもこの戦争もドイツの石油利権獲得の行動に待ったがかかった感じで始まったと言える。ドイツが国力を急激に伸ばし、3B政策を進めて中東の石油採掘権を獲得したらヨーロッパのパワーバランスが崩れる。それを防ぐためにヨーロッパの各国が参加してケンカが始まった。それが血で血を洗う惨劇になったのである。
     
     第一次大戦で石油によって覇権を握ったアメリカ。このアンバランスな力関係の発生によって、世界の流れがかわった。そして第一次大戦後に新たな火種がうまれる。中東に眠る油田である。中東の石油埋蔵量は大戦前に報告があり、その情報のために争いが生まれたとも言える。それをどこの列強国がうまい汁を飲むのか。それが本格化するのがこれからである。ここから第二次大戦までの間に列強が各地の油田開発を行い植民地開発を加速させる。そうすると、植民地を持たない後進国が不満を募らせる。そして格差の拡大が新たな火種を燻ぶらせる。後進国の性急な行動を引き起こす。

     日本が日中戦争を起こしたり太平洋戦争を起こすきっかけとなったのが石油である。他の列強は石油利権を植民地で確保していたが後追いの日本は石油の出る植民地を持たない。石油がなければ戦争継続能力がなく、国際社会で存在感を示すことができない。そういうわけで日本は焦っていたのである。そこで、石油の出るインドネシアとかを占領しようとしたのである。そしてもともと石油を買い付けていたアメリカと揉めたというのが早い話である。
     さらに太平洋戦争の戦術面でも石油の扱いで勝敗を分けたという事例がある。それが真珠湾事件である。この戦いで日本軍はアメリカ連合艦隊に大きなダメージを与えた。しかし、致命傷は与えられなかった。それは一つに空母を沈没させられなかった点。もう一つは真珠湾の石油タンクがある石油貯蔵基地を破壊しなかった点である。もしこの石油基地を破壊していれば、米軍は長期間太平洋に戦艦や戦闘機を派遣できなかった。その間に日本軍はアジア制覇を米軍の妨害少なく勧められたかもしれない。こういうミスがあったのが敗北につながったという。石油が第二次大戦の発端であり、戦局を左右する要因になっていたのである。

     ナチスドイツもそうである。第一次大戦のヴェルサイユ条約で失ったドイツの重要地域を回復するためにヒトラーは各地に攻め込んだ。そして最初は欧州各国も妥協した。もとあった土地を返せばドイツも権を矛に納めてくれるだろうと思ってミュンヘン会談で宥和策を採用したのである。しかし、ドイツの最終目的は石油の産出地を確保することだった。それがキーなのである。それがロシアのコーカサス地方の採油地である。ドイツ軍はここを奪取するために作戦を展開している。しかし、ここを奪えなかったから、最終的に電撃作戦でヨーロッパを制覇できなかったと言える。逆にソ連はここを死守したから長期戦に持ち込みドイツに負けなかったと言える。

     日本が東南アジアに侵攻したのは至言獲得が目的だった。インドネシアの油田があればアメリカにたよらなくてよくなる。そのために大東亜新秩序を急いだ。そして日本軍は太平洋沿岸を広く占領した。しかし念願の石油供給地は確保できなかった。オランダやイギリスの植民地統治府が採掘所や製油所を爆破していったからである。当然の処置である。これを日本軍は真珠湾作戦で出来なかった。相手の石油基地を壊していれば変わったのに。しかし、日本軍は石油工場の破壊工作は想定した。東インド地域を獲得したのち迅速に工場の再建を実現した。すごい。インドネシアの油田を手に入れた日本軍はこれで勝つる!と喜んだ。しかし、そうは問屋が卸さない。米軍の潜水艦が日本の石油タンカーを狙い撃ち。日本の輸送力を徹底的に破壊した。その結果、石油を大量に持っているのに、石油不足になるという歯がゆい状況に陥る。日本軍の作戦行動には燃料不足の制限が付きまとい、太平洋での戦闘で敗戦を重ねる。燃料不足から寒帯規模を縮小して海戦で敗れる。燃料節約のために迂回路をとれずに敵艦隊に見つかり撃沈される。燃料の無駄遣いができず船も飛行機も実機訓練が制限されて軍事訓練ができない。そして最後にはカミカゼをしなければならなくなる。特攻作戦をすれば必要な燃料は片道分で済むし、敵空母も少ない戦闘機で沈没させられて効率的だという狂った考えに至った。

  • 第1部 創業者たち
    第2部 世界的紛争の時代
    第3部 戦争と戦略
    第4部 炭化水素の時代

  •  やっと上巻を読み終わりました。
    ゲッティ・センターでその名を知った、ポール・ゲッティはまだ出てきません。
    どうやって、あの富を築いたのか、下巻が楽しみです。

  • 20世紀初頭、日露戦争から10年のときを経て、英国の海軍大臣となった若きチャーチルは、考える。
    戦艦は、石油を燃料とするべきか、それとも、自国で大量に算出される石炭を使い続けるべきか。 かくて英国海軍省によるアングロイラニアンオイルへの支援が始まる。昨今のイラン石油問題には、昔から、さまざまな出来事や関わり多々あるようです。

  • 568.09

  • 時間的にも地理的にも分散した内容をよくまとめ上げたなあと感心してしまう。石油の歴史とそれに関わった人々ーある意味で地球上のすべての人ーが織り成す近代人類の壮大な叙事詩だ。翻訳も全く不自然さがないので読みやすい。

  • 国際政治学者でもある著者が、石油を巡る列強の興亡、それに翻弄される中東の大国の悲運、そしてナショナリズムの勃興を描く名著。アメリカの石油産業の勃興から細やかに描かれる本書は、読み物としても、また研究書としても素晴らしい。

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著者プロフィール

ダニエル・ヤーギン
IHSマークイット副会長
「米国で最も影響力のあるエネルギー問題の専門家」(『ニューヨーク・タイムズ』紙)、「エネルギーとその影響に関する研究の第一人者」(『フォーチュン』誌)と評される。ピューリッツァー賞受賞者。ベストセラー著者。著書に『石油の世紀――支配者たちの興亡』、『探求――エネルギーの世紀』、『砕かれた平和――冷戦の起源(Shattered Peace: The Origins of the Cold War)』、共著に『市場対国家――世界を作り変える歴史的攻防』がある。世界的な情報調査会社、IHSマークイットの副会長を務める。


「2022年 『新しい世界の資源地図』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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