ウィトゲンシュタイン 「私」は消去できるか (シリーズ・哲学のエッセンス)

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  • NHK出版
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感想 : 16
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  • Amazon.co.jp ・本 (126ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784140093320

作品紹介・あらすじ

「すべて」と「無」は一致する。私は強力で特異だからこそ、無と化していく。独我論から私的言語論まで、正反対のものが折り重なる不思議な世界に分け入る。

感想・レビュー・書評

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  •  ウィトゲンシュタイン研究者でもある入不二基義氏(青山学院大学教授)が,ウィトゲンシュタインの「私」をめぐる思考について書いた一冊です。例えば,独我論と実在論は一致するのか,等が論じられています。また,著者自身はこの本について,「かなり偏向した『ウィトゲンシュタイン本』」であると明言しています。
     ページ数は読書案内やあとがき等を含めても126ページと少ないため,短時間で読めます。しかし,内容的には,哲学に慣れ親しんでいない人には少し難解だと感じました(哲学の本を初めて読むため,極力ページ数の少ない本を選んだのですが,それでも分からないところがたくさんありました)。また,個人的意見として,分かりやすい箇所と分かりにくい箇所の差がはっきりしていると感じました。図を用いた説明は一貫してとても分かりやすかったのですが,ウィトゲンシュタイン本人の言葉を引用している箇所はかなり難解だと感じました。そのような箇所は大体その後に著者の補足説明が入っているため,分からない箇所があったらその先を見てみて,説明があるかどうかを確認する,という読み方をお勧めします。
    (2013 ラーニング・アドバイザー/心理 KANAI)

    ▼筑波大学附属図書館の所蔵情報はこちら
    http://www.tulips.tsukuba.ac.jp/mylimedio/search/book.do?target=local&bibid=1289214&lang=ja&charset=utf8

  •  本書は単なるウィトゲンシュタインの入門書ではない。『相対主義の極北』と『時間は実在するか』で確立された入不二哲学の手法を自我論に適用した、オリジナルな哲学書である。
     入不二はウィトゲンシュタイン哲学を「私」の問題に限定し、「独我論」「無主体論」「私的言語論」の三つの側面に切り分ける。そのそれぞれに入不二製の哲学メスが入れられる――「独我論」には「正反対の一致」が、「無主体論」には「ないよりもっとないこと」が、「私的言語論」には「拡張するわれわれ」が――。ウィトゲンシュタイン哲学の入不二的解釈であると同時に、入不二哲学のウィトゲンシュタイン的解釈でもあり、読者は双方の哲学を味読できるというお得な構成になっている。
    「世界は私の表象に過ぎず、私が死ねば世界も消える」と主張する独我論。「私は世界の一部に過ぎず、私が死んでも世界は傷つかない」と主張する実在論。それら相反する二つの立場を徹底させると、その極限において両者が重なるというマジックのような展開は、序章でも紹介されている「入不二」哲学の醍醐味である。
     世にウィトゲンシュタインの入門書はいくらでもあるが、入不二自我論の書は今のところこれだけである。読みやすそうな体裁をまとっているが、内容は決して薄くはない。『ウィトゲンシュタイン』というタイトルだけで誤解してほしくない、本格的かつ独創的な入不二哲学論文であることを改めて銘記しておきたい。

  • 『論考』が「私」「世界」「言語」をどのようなものとしてとらえているか。そこに焦点を絞って説明してくれているのでありがたい。本書を読み進めていくと、著者が引用する『論考』の文が何だか理解できた気がするのがうれしい。特に60頁あたりの、「「言語」は、「世界」や「思考」や「論理」とは違って、その中で「限界」を引くことができる唯一の領域」という指摘は、なるほどと思った。が、本書後半の『論考』以降の議論は難しかった。

  • 私と世界の深淵をのぞき込む体験をした。言葉に出来ないものを言葉で表す野心作。ウィトゲンシュタインの思考の深まりも追っている。冒頭の維摩詰の導入から引き込まれた。

    ・限界という概念 P39
     0.限界とはあるものごとが、それでありうるぎりぎりの条件である。
     1.限界とは、部分ではなく、全体に関わる。
     2.限界とは、全体の外にある何かではなく、全体を成り立たせている不在というあり方をする。
     3.限界とは、境界線なき全体であり、その全体の中身は別様でありうる。
     4.限界とは一つ限り、一回限りという唯一正を示唆する。
    ・類比的な以降の観点から見るとき、隣接項を持たない側面としての私と隣接項を持つ側面としての私の葛藤は、単に解消すべき矛盾ではなく、移行に内在する力である。P92

  •  著者が知ってる名前だったので思わず。

     この先生、一般的に分かりやすく物事を語るの、ものすごくうまいよね。講義とかも「人に見せるもの」って感じで、共通でやってこそかなって印象を昔から持ってたよ。講義受けたの十数年前の一回一種だけだけど。この本もそう。研究室でガチでやり込むには内容が薄い気がする。たぶんもともとそういう用途ではないんだろう。
     ウィトゲンシュタイン全体の哲学から、独我論を取り出して、一点集中して語ってある本。
     個人的に引っかかったとこ。
    ・限界における唯一性の「示唆」
     提示ではなく示唆。示唆するってなんやねん。絶対的に唯一であるわけではないものもあるってことだと理解したけど、どうなんそれ。
     一章ラストあたりはどうにもこの唯一性が引っかかって理解できませんでした。
    ・主体と所有の関係について。
     譲り渡すことのできない「何か」ってのはないの?
    ・「行動主義とセットになった独我論」
     分からん。一人称と三人称が対比されない場合はないの?
    ・「私の固有性」
     固有性と感覚の違いが分からん。
    ・ディレンマを繰り返すことで「私」が消える
     それってつまり、「私」が残り続けるという意味でもないか?

     論考しか読んでないから、「哲学探究」読もうと思いました。

     追記。
     類比が重なっていくあたり、ラッセルのタイプ理論(これも漠然としたイメージしか持ってないけど)に似てない? モデル的に。

  • p34 主体の扱い方がよくわからない。
    表現された世界は境界を持ち、一つの箱に収まる。しかし収めた箱は世界の外にあり、表現された世界には含まれていない。その箱を収める箱も表現できるが、描かれた時点で別の箱に収まっている。最表部にある箱は常に描かれることはない。

  • 何の因果なのか、ウィトゲンシュタイン氏なる人物にかかわる事情ができたので、一番薄そうな本だったのでとりあえず読んだ。読み終えたのが奇跡。「私は歯が痛い」と「私の身長が5cm伸びた」の違いは面白い。
    本当は「論理哲学論考」に関する功績を知りたいのだが、本書はちょっと違ったようだ。まぁ、どっちにしても形而上の話は理解できないので、薀蓄の「う」の字でも得られれば良いものとしよう。

  • わかりやすく書いてあるとは思うが、理解しきれなかった。
    私は私の世界である。
    もう一度じっくり読みたい。

  •  ウィトゲンシュタインの入門書は書くのが難しいだろう。10人いれば10とおりの入門書ができる気がする。そんな訳でこれも一般的な入門書ではない。僕はそもそも独我論というのがまったくピンとこないので,その路線からのウィトゲンシュタインには興味がない。しかも論理学がからきしダメなのもあって,言語哲学そのものにも全く触手が伸びない。それでもウィトゲンシュタインに魅力を感じるのは,彼の生き方にあるのだろうと思っていて,それはそれで間違いではないのだけれど,この本を読んでウィトゲンシュタインの思想それ自体にも,僕の好きなテイストがあるのだということを思い出した。

  • 難解なウィトゲンシュタインの哲学を、独我論に関する議論を中心にわかりやすく解説している。論理哲学論考以降の姿勢の変化についても、一つの指針を示していて興味深い。

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著者プロフィール

入不二基義(いりふじ・もとよし):1958年生まれ。東京大学文学部哲学科卒業、同大学院博士課程単位取得。専攻は哲学。山口大学助教授をへて、現在、青山学院大学教育人間科学部教授。主な著書に『現実性の問題』(筑摩書房)、『哲学の誤読――入試現代文で哲学する!』(ちくま新書)、『相対主義の極北』(ちくま学芸文庫)、『時間は実在するか』(講談社現代新書)、『時間と絶対と相対と――運命論から何を読み取るべきか』(勁草書房)、『足の裏に影はあるか? ないか?――哲学随想』(朝日出版社)、『あるようにあり、なるようになる――運命論の運命』(講談社)など。共著に『運命論を哲学する』(明石書店)、『〈私〉の哲学 を哲学する』『〈私〉の哲学 をアップデートする』(春秋社)などがある。

「2023年 『問いを問う 哲学入門講義』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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