NHK「100分de名著」ブックス ドラッカー マネジメント

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  • NHK出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (160ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784140815205

感想・レビュー・書評

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  • 世界的な名著と知りつつも未だに読めていなかったドラッカーのマネジメント。
    それを100分程度で読めるよう分かりやすく纏めた一冊。
    経営者でなくても読むべしと言われる理由がよく分かる。
    彼の人を大事にする考え方や積極的に学ぼうとする姿勢は見習わなければ。
    ハウツー本ではなく人生訓の宝庫のような本だったな。

  • ドラッカーの翻訳者として第一人者である上田惇生氏によるドラッカー著「マネジメント」の解説書。

    ドラッカーの生い立ちや社会的出来事を追って各時代の著書の要旨に触れます。
    「マネジメント論」のエッセンスが分かりやすくまとまっています。
    含蓄に溢れた一冊。


    ■「マネジメント」が感動を与えるわけ

    ドラッカーのマネジメント論をひと言でいえば「人と人とが成果を上げるために工夫すること」
    お金儲けのための方法ではなく、人と人が一緒に働きながら、真っ当な社会をつくっていくための方法が書かれています。

    根底には「人間の本当の幸せとは何か?」という大きな命題が横たわっています。

    「お金を儲けるためにやってくるお客を相手にしてはいけません」
    証券会社の役割は、世の中が必要としている「財・サービス」を提供することであり、お金が貯まり運用したいと考えているお客から集めて、資金を必要としている企業に提供することであり、儲けさせることが目的であってはならないのです。


    ■第一章 社会のためのマネジメント

    ●「傍らに立って見る者」であり続けたドラッカー

    自然生態学者はジャングルを見て生態変化を伝えますが、こうすべきとは言いません。
    ドラッカーは自らを社会に起こっていることを見て伝える社会生態学者と語ります。
    自分は人の先頭に立って歩く者ではなく、その有り様を人に伝えるべき者であり、得意とするものではないかと思い至ったそうです。
    −マネジメント論の大家と言われるドラッカーは、得手に帆を揚げて突き詰めた人物だったことが分かります。


    ●すでに起こった未来を見る

    ドラッカーは、ヒトラーが本気で「世直し」のためにドイツを、ひいてはヨーロッパを支配しようとしていることを知ったとき、ナチスが力を得て、ヨーロッパ全土を支配する絵がはっきり見えたと言います。

    ドラッカーは現在起こっていることを見るとともに、その先に起こる未来をいつも見ています。

    ドラッカーは未来について確実に言えることは2つしかないとくどいほど言います。
    ひとつは「未来は分からない」ということ、ふたつめは「未来は現在とは違う」ということです。
    しかし分からないながらも、未来を知る方法も2つあると続けます。
    ひとつめは「すでに起こった未来を見ること」。
    たとえば今年の出生数が減れば6年後、学校では教室や教員があまる。つまりすでに起こったことを観察すれば、その先の変化もおのずと見えてくるというわけです。
    もうひとつの未来を知る方法は「自分で未来をつくること」です。
    難しいようですが誰にでもできることです。子供を一人つくれば、人口は一人増えます。たとえ小さな事業でも起こせば、財・サービスと雇用を生み出します。
    歴史はビジョンをもつ一人一人の人間がつくっていくものだとも、ドラッカーは言っています。


    ●資本主義も社会主義も同じ穴のムジナだ

    資本主義も社会主義も人間を幸せにしえなかった理由は「どちらの社会システムも『経済至上主義(金を中心とした世界)』を基本にしていたからだ。」
    どちらにも失望したヨーロッパの人々に用意されていた「脱経済至上主義」は「ファシズム全体主義」しかなかった。民主主義を市民自ら獲得した国はファシズムに抵抗し、そうでない国はファシズムへ走っていったのです。
    −ドラッカーは人間を幸せにする答えを考えます。


    ●マネジメントが人間に幸せをもたらす

    すべての財とサービスが組織で生みだされ、すべての人が組織で働いているとするならば、組織をより良いものにしていけば、組織の集まりである社会もよくなるはずだ。
    資本主義や社会主義などの「イズム」に代わるものとしての、組織の運営の仕方(=マネジメント)にこそ注目すべきではないか。

    儲けるための組織運営ではなく、あくまで中心に「人」がいる組織であり社会です。人と人が一緒に働きながら、それぞれが幸せになるためには、いかなる組織運営を行っていくか。


    ●経営三部作、そして「マネジメント」へ

    「経営に絶対はない。絶対というものはこの世に存在しない。すべては変わっていくものだ。」これは日本人の諸行無常の思想に通じています。

    「仕事のことを一番良くわかっているのは現場である。彼らの考えを経営に取り入れるべきだ」

    「世の中のことをもっと考えなければいけない」


    ●文明の運命を握るものとしてのマネジメント

    人間を幸せにする社会とはなんだろう?と考えた末に、最終的にたどり着いたのが「マネジメント」という方法論だったのです。

    組織の中で人と人は、それぞれの理想を抱きつつ、いろんな工夫をしながら仕事をしていく。「そうしたものの蓄積こそが文明である。」


    ■第二章 人こそ、最大の資産

    ●「マネジメント」と他の経営学の本との違い

    経営学の本というとノウハウが書かれたものをイメージしがちです。
    ドラッカーの「マネジメント」では「なぜマネジメントを行うのか?」つまりマネジメントの目的や役割、企業の存在理由などが最初に詳しく触れられているのです。その後に「方法」と「戦略」が語られます。

    ●その事業にドキドキワクワクしているか

    マネジメントの役割のひとつは「本業を定め、真剣に取り組み、世の中に求められる役目を果たす」

    世界で一位か二位になるつもりの事業だけを残しなさい。
    あなたの会社のやっている仕事は、すべてワクワクドキドキするものばかりですか?
    なかには淡々とやっているものもある。
    本気で取り組む仕事は、ワクワクしていてしかるべきであって、そうでないものには取り組むべきではない。
    そうでないものは思い切って止めてしまうか、その仕事を熱意を持ってやるところとコラボレーションしたほうがいい。

    喜びを感じながらやる仕事を本業とすべき

    ●「人」こそが企業の財産である

    現代社会においては、ほとんどの人がなんらかの組織に属しながら働いています。企業は、個人が仕事の中で自己実現を果たせるような仕組みをつくることが必要になってくる。
    顧客が何を求めているかを知り、それを提供することが企業がなすべきことだ。
    そしてもうひとつ正社員以外の人々も含めて働く人々が仕事に生きがいや幸せを見出せてこそ、会社としての存在意義がある。

    ●社会のニーズに応えることが社会貢献である

    会社は誰のために存在していますか?
    答えは、「会社は社会のためにある」です。
    会社とは社会から人材や資源をあずかり、社会に必要とされるものを提供する役割を果たすものである。
    会社は、社会に悪い影響を与えないようにして、社会に貢献することを考えなければいけない。

    組織は自らの「強み」を用いて、社会の問題に貢献せよ。
    社会のニーズに応える事業を行えば、それはすべて社会への貢献になるのです。

    ●マーケティングとイノベーション

    企業側が「何を売りたいか」ではなく、顧客が「何を欲しているか」−それを考えるのがマーケティングです。
    マーケティングの目標は市場における「シェア」です。
    世の中の変化を見ながら、企業自体も変わっていかねばなりません。
    イノベーションとは単なる技術革新ではありません。物事の新しい切り口、新しい捉え方、新しい活用法を創造する行為のことを指します。

    イノベーションの機会はいくつかあります。
    一番目が「予期せぬ成功・失敗」です。
    想定していなかった人たちが商品を買うことがあります。想定していなかった使われ方をすることがあります。その顧客の存在に気づき、求めに応じ開発して急成長を遂げることがあります。
    また予期せぬ失敗から市場の変化に気づき、固定観念を改め大成功に繋げることがあります。
    二番目の種が「ギャップ」です。
    「なんか変だな、おかしいぞ?」とギャップを感じるところにも機会は潜んでいます。
    髭剃り不要の人たちに、髭剃りを省いた安い価格で成功したクイック床屋は好例です。
    三番目は「ニーズ」。
    今までにないものが必要になったときです。
    電話が普及しはじめた頃、電話交換手が不足して、自動交換機が大成功をおさめました。
    四番目が「産業構造の変化」。
    IT社会が到来し、新しい切り口、捉え方、活用法が生まれました。
    五番目が「人口の変化」。
    例えばダイバーシティ問題です。高齢者や女性が新たなターゲットになり、働き手として捉える時代がきて、イノベーションの機会が生まれました。
    六番目が「認識の変化」。
    例えば健康ブーム。かつては具合が悪くなったら病院に行くのが当たり前でした。いつしか自分で健康を管理するように意識が変わりました。DHC(大学翻訳センター)はサプリメント事業に手を出し成長しました。
    最後の七番目が「発明・発見」です。
    説明の必要はありませんが、最後に位置付けられているように成功率は低いです。打率の悪いホームランバッターです。

    ◆イノベーションとは、意識的かつ組織的に変化を探すこと。それらの変化が提供する経済的・社会的イノベーションの機会を体系的に分析することである。

    ◆イノベーションとは、理論的な分析であるとともに、知覚的な認識である。イノベーションを行うにあたっては、外に出、見、問い、聞かなければならない。

    ●経営資源・生産性・社会的責任

    マーケティング、イノベーションに続く、企業の目標の三つめが「経営資源」です。
    モノ・ヒト・カネが潤沢であることが経営にとって望ましいのは当然です。

    四つめは「生産性」。
    肉体労働、サービス労働、知的労働の生産性をそれぞれ向上させていく工夫が必要です。
    サービス労働はサービス自体を本業とするところへ外注すべきです。たとえば病院の正社員はゴミを拾っても直接給与は上がりません。
    知的労働はやらないでいい仕事はやらせなければ生産性は向上するはずです。聞いていない会議、読まない報告書です。

    最後の五つめは「社会的責任」です。
    第一に世の中に害を与えない。
    第二に得意分野で何らかの形で社会に貢献することに目標を設定する。

    以上が、企業が良い仕事をしているかどうかの五つのモノサシ、目標です。

    ◆組織が自らの使命を果たすための五つの目標
    ・マーケティング
    マーケティングは顧客からスタートする。顧客の現実、欲求、価値からスタートする。「我々の製品やサービスにできることはこれである」ではなく、「顧客が価値ありとし、必要とし、求めている満足はこれである」
    ・イノベーション
    予期せぬこと、ギャップ、ニーズ、構造の変化、人口の変化、認識の変化、新知識の獲得、これら七つの機会すべてを分析することが必要である。油断なく気を配るだけでは十分ではない。分析を体系的に行わなければならない。機会を体系的に探さなければならない。
    ・経営資源
    マネジメントとは、人にかかわるものである。その機能は人が共同して成果をあげることを可能とし、強みを発揮させ、弱みを無意味なものにすることである。
    ・生産性
    知識労働者に生産性を要求するのであれば、成果を上げることのできる部署に配置しなければならない。いかに懸命に働こうとも知識や技能が成果に結びつきようのない部署に配置してはならない。
    ・社会的責任
    社会や経済は、いかなる企業をも一夜にして消滅させる。企業は、社会や経済の許しがあって存在しているのであり、有用かつ生産的な仕事をしていると見なされるかぎりにおいて、存続を許されているに過ぎない。

    ◆企業は利潤を目的にしてはならない

    利益が重要でないということではない。利益は企業や事業の目的ではなく、事業継続の条件である。利益は、事業における意思決定の理由や原因や根拠ではなく、妥当性の尺度である。

    ●知りながら害をなすな
    企業の目的の定義はただひとつ「顧客を創造すること」
    企業は、この社会で暮らすみんなに、便利さや快適、喜びを届け、それによってよりよい社会がつくられていく。
    利益は企業が社会に対する役目をちゃんと果たしているかのモノサシ。
    そしてもうひとつ企業に不可欠なのは「プロフェッショナルとしての倫理」です。
    プロたるものは知りながら害をなすことはないと、顧客が信じられなければならない。

    ■第三章 誰もがマネージャーになれる

    ●マネージャーとは、オーケストラの指揮者である
    仕事は分業化・細分化・専門化しています。
    こうした専門家たちが一緒に働くようになったのが組織社会です。
    それぞれの専門家たちの知識や能力をうまく繋げて、組織全体の「成果」に結びつけていくのが、マネージャーの仕事です。
    そうして、投入した資源よりも大きなものを産み出すことがマネージャーの仕事です。
    全体が目指すべき方向性を示し、各々の優れた部分を引き出すことを常に考えるのです。
    各々の強みを引き出すことで各々の弱みを打ち消します。
    マネージャーにもっとも必要とされるのは才能ではなく、「真摯さ」です。
    マネジメントスキルは学べる。人材開発は制度を通じて講じられる。
    自分自身にも厳しく、仕事や人に対して誠実でまっすぐな人物−そういう人こそマネージャーになる資格がある。

    ◆マネジメントに必要な四つのスキル
    ・的確な意思決定
    単に「決めること」ではない。起こっている「問題」を明確にすることが重要。
    「行動するか否か」という問いかけがあって然るべき。

    マネジメントの行う意志決定は、全会一致によってなしうるものではない。対立する見解が衝突し、異なる見解が対話し、いくつかの判断のなかから選択が行われて初めてなしうるものである。したがって、意思決定における第一の原則は、意見の対立を見ないときには決定を行わないことである。

    ・コミュニケーション力
    コミュニケーションは人を動かす手段だ。
    受け手が期待していること、関心を持っていること、理解できる言葉で語ることが大切である。
    自分が組織に対してどんな貢献をなすべきかをハッキリさせておくことが必要。
    上司と部下、他組織同士での認識の違い、考え方の相違をお互いに知ることこそが、組織におけるコミュニケーションの基本。

    コミュニケーションは、私からあなたへ伝達するものではない。それは、我々のなかの一人から、我々のなかのもう一人へ伝達するものである。組織において、コミュニケーションは手段ではない。組織のあり方そのものである。

    ・管理能力
    成果とは無関係の事柄を測定するのは止めるべきだ。
    「いかに」管理するかではなく、「なにを」管理するかが重要。
    人は組織の目的や、自らの位置付けと役割を、賞罰という評価で学ぶことになるので、仕事の成果の測定結果による賞罰には大きな意味がある。

    管理のための測定を行うとき、測定される対象も測定する者も変化する。測定の対象は新たな意味と新たな価値を賦与される。したがって管理に関わる根本の問題は、いかに管理するかではなく何を測定するかにある。

    ・経営科学の活用
    経営科学がリスクを減らすことばかりに偏重していることは批判されるべきだが、道具としてうまく使えば組織運営にも貢献を果たすはずだ。

    経営学者の目的は、あくまでも診断を助けることにある。経営科学は、万能薬でないことはもちろん、処方薬でもない。それは、問題に対する洞察でなければならない。

    マネジメントは組織で働くすべての人が学ぶべきもの。
    組織のメンバー全員が、自らを律する帝王学を身につけて、全員がトップのように働かなければ、組織の成功、ひいては社会の反映はない。

    成果をあげる人とあげない人の差は、才能ではない。
    いくつかの習慣的な姿勢と、基礎的な方法を身につけているかどうかの問題である。しかし、組織というものが最近の発明であるために、人はまだこれらのことに優れるに至っていない。

    ●成果をあげるための5つの方法・能力
    私が知っている成果をあげる人は、気質と能力、行動と方法、性格と知識と関心などあらゆることにおいて千差万別だった。
    共通点はなすべきことをなす能力だけだった。

    「時間管理」
    成果に結びつかない仕事は切り捨てる
    任せて良い仕事は部下や外注に任せる
    時間は大きなかたまりで使えるように調節する
    「貢献」
    自分の仕事が社会とどう関わっているかを考える
    「強み」
    自分の強みを発見し、それを仕事の基盤にする。そうすることで弱みは意味のないものにすることができる。
    「集中」
    際立った成果をあげられる領域に力を集中させる。
    仕事に優先順位をつける。
    「意思決定」
    問題の正体を明らかにすることから始め、異なる意見に耳を傾けることが重要。

    ●組織の正当性の根拠−それは「強みを生かす」こと
    顧客と従業員のニーズを満たすことは組織におけるマネジメントのレゾンデートル(存在理由)にはなりえても、正当性の根拠にはなりえません。
    マネジメントによって「強みを生かす」ことで、より成果を伸ばし社会貢献することこそ組織におけるマネジメントの正当性の根拠になります。

    ●何をもって覚えられたいか
    子供や孫、あるいはまわりの仲間たちに、自分はどういう存在として記憶にとどめておいてもらいたいかを意識しなさい。
    今よりちょっとだけ良い自分を思い浮かべながら日々を過ごす。毎日の一挙手一投足が自然と「なりたい自分」へ向かい5年後には確実に変わっているのです。
    必ずや「よい自分」「よい会社」に近づくことができるはずです。


    ■第四章 ドラッカーが見据えた未来

    ●新しい社会への移行

  •  ドラッカーの「マネジメント」を簡単に紹介した本。非常に読みやすくしているので、興味を持たせる点ではいいが、少し内容が薄い感じもしないではない。
     しかしながらマネジメントを要約しているためか、ドラッカーの言葉の力強さの一部を知ることができ、これを読んだ人はエッセンス版を、読もうという人もいるのではなかろうか。
     個人的にはマネジメントを学ぶというよりも、自己啓発本のニュアンスを感じてしまったのは、「マネジメント」を読んでいないからであろう。

  • ドラッカー、そして著書のマネジメントについて知ることが出来た。

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    ドラッカーのマネジメント

  • ドラッカーの著作の翻訳を手掛ける上田による、ドラッカー『マネジメント』のNHK100分で名著の公式テキスト。『マネジメント』の概要、これに関わるドラッカーの人生や社会の歴史的背景、その他の著作の位置付け、ドラッカーの思想の普遍的・現代的な意義などを描いている。本テキストを読むことで、ドラッカーが書いた本作品は単なる高収益企業の経営論のような狭量なものではなく、人が生き生きと働きより良い社会づくりに貢献できる理想的な社会を目指したとき、組織はどうあるべきか、その中で中心的な役割を果たす「マネジメント」はどんな力を発揮すべきか、を語った懐の深いものであるということがわかる。また、その目的、背景を理解した上で概要を知ることができるため、非常に本作『マネジメント』の理解が深まる。

    『もしドラ』が有名なのでもう一度読んでみたくなった。
    印象的だったのは、「会社は社会のために存在し、利益のためではなく、人間を幸せに導くために存在する」という箇所。今となっては当たり前だと思うし、著名な経営者の同様の発言も多いので真新しいわけではないのだが、1973年に出版された本作でも同様に主張され、またこれが古典になっていることを考えるともっともっとこの主張について真剣に捉えていかなければならないと強く感じた。自社のビジネスも当然社会的意義を掲げているが、どうしても日々追うのは利益や売上であるし、社会的意義のために本当のところ必要な利益は一体どのくらいが適切で、どこまでいけば過剰なのか、このあたりまで考えきれていないので考えたいと思った。

    また、「そもそも利潤動機なるものが、我々の心のなかに存在するのかどうかが疑わしい」という指摘も鋭い。利益を上げ続けたいというその一点が企業の目的ではなく、むしろその利益を手段としてなんらかの目的を達成しようとしているという話で、これも当たり前だが、真剣に捉えたいと思った。日々の業務の中だとここでいう手段の目的化が起こっている部分は大いにあり、倒錯しないように気をつけなければと思わされた。

    来年からマネジメント業務が増えるので、『マネジメント』を時々参考にしながら頑張りたい。

  • 信念を貫く姿勢
    西洋の日本化
    バタフライ効果、全体をみる
    既に起こった未来、既に起こったものの既決をみる
    失敗を含みながらも長期的な戦略を練っていくドラッカー
    貢献と働き甲斐を鮮明にすること
    万能として使うのでなく補助せんとして原則つかう
    興味を抱いたものは23年徹底的に調べまくってきわめる


    どうしても企業活動の現場を見たい──と考えたドラッカーは大企業や中堅企業に片っ端から「研究のために見学させてもらえませんか?」と申し入れたものの、「妙な変わり者」とか「アカ(共産主義)」と敬遠されて、どこも受け入れてはくれませんでした。 しかし、ある日悶々としていたドラッカーのもとに一本の電話がかかってきました。『産業人の未来』を読んでドラッカーに興味を持ったゼネラルモーターズ(GM)(*12)の副会長ドナルドソン・ブラウンからの「我が社を見てみないか?」とのオファーでした。これを機にドラッカーは一年半の間、GMに通い詰めて組織運営についての研究を行なうようになったのです。 彼がGMで行なったのは、本社の幹部や事業所の社員とじかに会って話を聞くだけでなく、さまざまな会議にも参加して、組織のあり方と運営の仕方を徹底的に調べるというものでした。それを報告書というスタイルでまとめたのが、三作目の『企業とは何か』(一九四六年)です。 この本は内容的には企業のマネジメントについて書いてはいたものの、基本的なテーマは社会の体制についての考察であったため、『「経済人」の終わり』『産業人の未来』と合わせて「政治三部作」中の一作として位置づけられています。 経営三部作、そして『マネジメント』へ 『企業とは何か』は、出版されてすぐに評判を呼び、大企業の組織改革のテキストとして、広く受け入れられることになりましたが、当のGM側は内容を見たとたん怒ってしまいました。「もっとこういうふうにしたほうがいいのでは」というドラッカーの提言のいくつかが気に入らなかったのです。 とくにドラッカーの「経営に絶対はない」というスタンスが、GM側には受け入れがたいものでした。GMは当時すでに世界的な超優良企業として成功をおさめ、自社の経営システムに絶対の自信をもっていましたから、それを批判されたことが許せませんでした。 ちなみに「絶対というものはこの世には存在しない。すべては変わっていくものだ」という考え方は、ドラッカー思想の根本ともいうべきものですが、これは日本人の諸行無常の思想に通じています。 また、ドラッカーは社員一人一人に話を聞いた結果として「仕事のことを一番よく分かっているのは現場である。彼らの考えを経営に取り入れるべきだ」と主張しましたが、これもGMの逆鱗に触れる一因になったようです。 さらにドラッカーはGMの事業全体を見て「世の中のことをもっと考えなければいけない」とも言いましたが、これもまた、いらぬおせっかいと映ってしまいました。当時のGMは、よい車を生産することこそが社会への最大の貢献と考え、すでにそれを実現しているつもりでいたのです。 しかし、当のGMからは反発されたものの、『企業とは何か』を書いたことがきっかけとなって、ドラッカーのもとには「我が社のコンサルタントをやってくれないか」という話が次々に舞い込むようになります。 その後、フォードやGEのほか、シアーズ・ローバックや、マークス&スペンサー(*13)といったさまざまな企業の事例を盛り込んで、ドラッカーが四四歳のときに書きあげたのが『現代の経営』(一九五四年)です。この本によって、ドラッカーは「マネジメントの父」「マネジメントの発明者」と呼ばれるようになりました。その後、『創造する経営者』(一九六四年)、『経営者の条件』(一九六六年)を出版。『現代の経営』を含むこの三冊は、さきほどの「政治三部作」に対して「経営三部作」と呼ばれています。 さらにこの経営三部作以降の知見をまとめて、一九七三年に集大成として出版したのが、今回取り上げた名著『マネジメント』なのです。


    「マネジメント」という言葉をそのまま訳せば「管理」「経営」などの意味ですが、ドラッカーのマネジメント論をひと言でいえば「人と人とが成果をあげるために工夫すること」──ということは、そもそも人を感動させるもの。人と人が一緒に働いていれば、必ずそこには感動の種が存在する。だから、小説やマンガ、アニメや映画になってもその部分をきちんと伝えることができれば、読んだ人や見た人が感動するのは当たり前のことなのです。

    第一次大戦が終わりを迎えた五年後、五〇〇年以上続いたハプスブルク家の支配から解放されたことを祝う労働者のパレードが、ウィーンで開催されました。一三歳だったドラッカーは赤旗を振りながら、パレードの先頭を歩き始めたものの、途中で水たまりをよけるために歩道に立ち、しばらくそのまま傍らからパレードを眺めることになります。そのときにドラッカーは、ふと「自分は人の先頭に立って歩く者ではなく、そのありさまを人に伝えるべき者である。それが自分の役割であり、得意とするものではないか」と思い至ったそうです。

    とくにドラッカーの「経営に絶対はない」というスタンスが、GM側には受け入れがたいものでした。GMは当時すでに世界的な超優良企業として成功をおさめ、自社の経営システムに絶対の自信をもっていましたから、それを批判されたことが許せませんでした。 ちなみに「絶対というものはこの世には存在しない。すべては変わっていくものだ」という考え方は、ドラッカー思想の根本ともいうべきものですが、これは日本人の諸行無常の思想に通じています。

    つまり、ドラッカーは、カスタマー・サティスファクション(顧客の満足=CS)と、エンプロイー・サティスファクション(従業員の満足=ES)の二つが両立できてこそ、会社としての存在意義があると考えたわけです。

    でも、これからの時代はトップだけが経営や組織について学ぶ時代ではない──とドラッカーは言います。「組織のメンバー全員が、自らを律する帝王学を身につけて、全員がトップのように働かなければ、組織の成功、ひいては社会の繁栄はない」というのが彼の考え方なのです。 ちなみにドラッカーは、「万人のための」帝王学として『経営者の条件』(一九六六年)という本を書いています。この本は『マネジメント』の原点ともなっている重要な一冊なので、内容について少し触れておきましょう。 『経営者の条件』なる邦題を見ると経営者に向けて書いた本のように思われがちですが、原題は「The Effective Executive」。ドラッカーはexecutiveという言葉を「組織の活動や業績に貢献をなすべき、すべての知識労働者」という意味で使っているので、直訳すれば「仕事のできる人」となります。 『マネジメント』が、組織をマネジメントする方法について書いているのに対して、『経営者の条件』は、自らをマネジメントする方法(セルフマネジメント)について詳しく書いています。つまり、組織のなかでいきいきと働くために、自分自身をどう律していくべきかについて書いたのが『経営者の条件』です。

    「成果をあげる能力によってのみ、現代社会は二つのニーズ、すなわち個人からの貢献を得るという組織のニーズと、自らの目的の達成のための道具として組織を使うという個人のニーズを同時に満たすことができる」と。 少々難しい言い回しですが、かみ砕いていうならば「組織に属する者が、それぞれ成果をあげるために努力工夫すれば、組織のためになるだけでなく、本人の自己実現に繫がる」という意味になるでしょう。 そこでひとつ、組織において成果をあげることについてドラッカーが残した言葉のなかで、私がもっとも好きなものを挙げておきます。 成果をあげる人とあげない人の差は、才能ではない。いくつかの習慣的な姿勢と、基礎的な方法を身につけているかどうかの問題である。しかし、組織というものが最近の発明であるために、人はまだこれらのことに優れるに至っていない。 (『非営利組織の経営

    では、ドラッカーは「成果をあげること」として具体的に何が必要だといっているのでしょうか。『経営者の条件』のなかで、彼は五つの能力を高めれば、成果をあげることができると言っています。五つとは──すなわち「時間管理」「貢献」「強み」「集中」「意思決定」のことです。 「時間管理」とは文字通り、何に自分の時間がとられているかを知り、時間を体系的に管理することです。やる必要のない仕事や、成果に結びつかない仕事は切り捨てる。人にまかせていい仕事は部下や外注にまかせる。時間は大きなかたまりで使えるように調節する──といったことが主なポイントとなります。 「貢献」とは、外の世界に対する貢献に焦点をあわせることを言っています。つまり、ここでいう貢献とは、会社から言われた仕事をこなすだけではなく、自分の仕事が社会とどう関わっているのかを考えなさい、という意味です。 三番目は「強み」。これは自分の持っている強み、得意なことを伸ばしてフルに使う能力のことです。自分の強みを発見し、それを仕事の基盤にする。そうすることで弱みは意味のないものにすることができる、とドラッカーは言います。 四番目は「集中」です。際立った成果をあげられる領域に力を集中させる。そのためには、仕事に優先順位をつけることが大切になります。 最後は「意思決定」の能力。意思決定を行なうには、問題の正体を明らかにすることからスタートし、異なる見解に耳を傾けることが重要になります。 こうやって見ていくと『マネジメント』に書いているマネージャーに必要とされるスキルと、『経営者の条件』のセルフマネジメントのスキルは、多くの部分で共通していることが分かります。つまりはセルフマネジメントを行なうということは、「すべての人が経営者の意識を持つこと」(=万人のための帝王学)と同じととらえていいのです。

    組織の正統性の根拠──それは「強みを生かす」こと こうしたセルフマネジメントの能力や、マネージャーの仕事のなかで、ドラッカーが特に重視しているのが「強みを生かす」ことです。 普通の人間には、誰だって得手不得手があります。子どもを見ても、算数はできないけど国語は得意という子もいれば、歌は上手ではないけれど、体力だけは誰にも負けないという子もいます。 組織で働く大人たちも同じです。細かい作業は苦手なのに、人と話すのがうまい人もいれば、逆に社交的ではないけれど、机に向かって行なう作業には抜群の集中力を発揮する人もいます。社交的でない人のなかには、それをコンプレックスと感じ、なんとか上手に人と話せるようになりたいと考えて、会話のノウハウについて書いた本を読んだり、話し方教室に通ったりする人もいます。そうした努力は悪いことではありません。しかし、ドラッカーは「弱みを克服しようとするよりも、強みを伸ばすことを考えるべきだ」と説くのです。 人間というのは、もともとデコボコがあってあたりまえの存在です。日本の小学校や中学校では、算数も国語も体育も音楽も、全部それなりにできなければいけないと考えて、デコボコな子どもを、なるべくきれいな丸にしようという教育をいまだにやっていますが、本来はデコボコでいいのではないでしょうか。 ボコの部分は無視して、デコの部分をどんどん伸ばしていくことで、ボコは自然に見えなくなっていく。さらに大人になって組織で働くようになると、このデコこそが強みになる。 以前、建築家の方から、ヒノキだけを使って建てた家よりも、スギやマツなど、種類の違う木をいくつも組み合わせて建てた家のほうが頑丈である──という話を聞いたことがありますが、企業もそれと同じです。いろんな得意分野を持った人が集まることで、企業はより強い力を発揮するようになるわけです。 セルフマネジメントによって、自分の強みの部分をより伸ばすことが大切だし、組織のマネージャーが各自の強みに注目してその部分を引き上げてあげることが大切です。「強みを生かす」ことは、成果をあげる組織をつくる──ということになるし、さらには働く人間の「生きがい」や「自己実現」にも繫がっていきます。 たとえば、人と話をするのが苦手な人が営業をやらされても苦痛なだけです。もちろん、話すことが好きで得意とする人が営業職につけば、成果はあがっていくし、成果があがることで本人も喜びを感じるようになります。そして、もっとがんばろうというモチベーションが高まっていきます。 これこそが、マネジメントの「正統性」の源です。マネジメントを行なう立場の人間は、組織のなかにおいてある意味、権力を持つわけだから、その権力には正統性がなければなりません。顧客と従業員のニーズを満足させることがマネジメントの役割であるというのは、前回のお話ですが、それだけではレゾンデートル(存在理由)にはなりえても正統性の根拠にはなりえません。 マネジメントのなかの「強みを生かす」という部分にこそ、組織における正統性が存在しているのです。働く人が幸せを感じるかどうかは、給料の額ではありません。生活していくためにはお金も大切ですが、仕事自体に喜びを感じることができなければ、人生自体が空しいものになってしまいます。 しかし、それぞれの強みを生かせる仕事を与えられれば、人はその仕事に責任を持つようになるし、さらに改善工夫して上を目指そうとがんばるようになる。それによって組織はより成果を伸ばすことになり、社会への貢献にも繫がっていくことになるのです。

    何をもって憶えられたいか 成果をあげるためのセルフマネジメントの必要性に関しては『経営者の条件』だけでなく『プロフェッショナルの条件』(二〇〇〇年)でも書いています。さらにこの本のなかには、ドラッカー自身が仕事に対する取り組み方を改めて考えるきっかけとなったエピソードが「私の人生を変えた七つの経験」として挙げられています。 「自分はいったいこれからどんなふうに仕事と対峙すべきか?」──と迷っている若い世代への助言ともなると思われるので、七つの経験のうち印象深いものをいくつか紹介しておきましょう。 まず「ヴェルディ(*5)の教訓」と呼ばれるエピソードから。ドラッカーはハンブルクにいた時代、図書館通いのかたわら毎週のようにオペラを聴きにいっていたそうです。そんなある日、『椿姫』などの作品で知られる一九世紀を代表する作曲家ヴェルディが八〇歳のときに書き上げた最後のオペラ『ファルスタッフ(*6)』を聴く機会がありました。 はじめてこの作品に出会ったとき、ドラッカーは、その信じがたいほどの力強さで人生の喜びをうたい上げる内容に衝撃を受けます。そしてその後、ヴェルディが八〇歳という高齢になってまで、なぜこれほどの難解なオペラを書こうと考えたのかを本で読んで知り、さらなる感銘を受けます。その本にはヴェルディのこんな言葉が書かれていました。 「いつも失敗してきた。だからこそ、私にはもう一度挑戦する必要があった」 ヴェルディは、すでに若い頃から作曲家としての名声を手に入れていたのに、死ぬまで「もっといい仕事をしよう」という意識を持ち続けていました。それを知ったドラッカーはヴェルディのこの言葉を心に刻みつけて「私もいつまでも目標とビジョンをもって自分の道を歩き続けよう。失敗し続けたとしても、完全を求め続けていこう」と決意したそうです。 もうひとつ、仕事に対するドラッカーの姿勢を象徴するエピソードとして「フェイディアス(*7)の教訓」というのがあります。これもドラッカーがハンブルクに住んでいた頃のことですが、ギリシャの彫刻家フェイディアスについて書かれた本を読んだそうです。 パルテノン神殿完成後にフェイディアスから出された制作費の明細をみて、アテネの会計官は顔をしかめて支払いを拒んだそうです。なぜなら、どの位置からも絶対に見ることのできないはずの彫刻像の背中の部分の制作費まで記されていたからです。 しかし「見えない部分まで勝手に彫刻しておいて、請求してくるとはなにごとか!」という言葉に対して、フェイディアスはこう答えたそうです。「そんなことはない。神々が見ている」と。 この言葉にドラッカーはひどく心を打たれ、それを機に「神々しか見ていなくとも、完全を求め続けていこう」と考えるようになったそうです。 この二つのエピソードだけでも、ドラッカーが理想というものを追い求めて、自分を律しながら仕事を続けてきたことがうかがい知れます。ちなみにドラッカーは「あなたの本で最高のものはどれか?」と尋ねられた際には、必ず「次の作品です」と答えていました。 ドラッカーの仕事に対する姿勢を示すエピソードには、ほかにも興味深いものが多数あります。なかでも私がもっとも気に入っていて、機会があれば必ずお話ししているのが、七つの経験のなかの最後に出てくる「何をもって憶えられたいか」という問いです。 これは彼が通っていた学校の宗教の先生の言葉らしいのですが、彼は絶えずこの言葉を自分自身に問いかけながら仕事を続けてきたそうです。『プロフェッショナルの条件』では、あの経済学者のシュンペーターもこの言葉を一生自らに問いつづけていたと紹介しています。 「何をもって憶えられたいか」──これは言い換えるならば、子どもや孫、あるいはまわりの仲間たちに、自分はどういう存在として記憶にとどめておいてもらいたいかを意識しなさい、ということです。 そう聞くと「大統領を目指したり、スポーツ選手としてオリンピックを目指したりしなきゃいけないのか」と勘違いされそうですが、ドラッカーは、何もすべての人に歴史に残るような偉人を目指せ──といっているわけではありません。 今の自分よりちょっとだけよい自分を思い浮かべながら、日々を過ごすようにする。そうすることで、毎日の一挙手一投足が自然と「なりたい自分」へと向かっていき、五年後、一〇年後には自分が確実に変わっていくことを実感できるようになる、というわけです。 皆さんにも、ぜひこれは試してもらいたいと思います。『マネジメント』を読んでみたけれど、難しくて完全には理解できなかったという人も、これならば簡単に実行できるはずです。 毎日でなくとも年に二回くらいでいいのです。一年の締めくくりの大晦日と、夏のお盆休みの頃とに、「自分は何をもって憶えられたいか」、あるいは会社の経営者ならば「自分の会社は、何をもって社会に憶えられたいか」──それを機会あるごとに問いかけてみて欲しいのです。そうした意識を持ち続けることで、必ずや「よい自分」「よい会社」に近づくことができるはずです。


    工場や建築現場で働くブルーカラーの人々であっても、自ら生産性を高める工夫を考えて、自分の「強み」を発揮しつつ仕事に励む人は、知識労働者ということになります。言われたことだけをやるのではなく、常に自分の頭で考え行動する人は、すべて知識労働者と言っていいでしょう。

    工場や建築現場で働くブルーカラーの人々であっても、自ら生産性を高める工夫を考えて、自分の「強み」を発揮しつつ仕事に励む人は、知識労働者ということになります。言われたことだけをやるのではなく、常に自分の頭で考え行動する人は、すべて知識労働者と言っていいでしょう。 自分の強みを知り、それを伸ばそうと考えることで、生産性が高まるとともに、仕事が生きがいにもなっていきます。知識社会になるということは、人間がいきいきと働ける社会が出現することを意味しているわけです。

    ほとんどの経済学者は単純肉体労働者の問題には興味を示しませんが、組織社会で働くすべての人間が幸せであるべき──と考えるドラッカーは、そうした人々のこともちゃんと考えています。この問題の解決の基本となるのは、単純肉体労働および単純サービス労働の生産性を飛躍的に向上させ、貢献と働きがいを鮮明にすること以外にない──と彼は言います。


    ドラッカーは、モダン(近代合理主義)の次にくる時代という意味で、すべてが繫がった複雑で変化の激しい我々が生きている今の時代を「ポストモダンの時代」と呼んでいますが、ポストモダンの時代を生き抜くには何が必要とされるのでしょうか? 彼はポストモダンを生きるためには、以下の七つの作法が有効であると語っています。すなわち──「見る」「分かったものを使う」「基本と原則を使う」「欠けたものを探す」「自らを陳腐化させる」「仕掛けをつくる」「モダンの手法を使う」です。 これらがいったいどういうことを意味しているのか、順を追って説明していきましょう。 まずは「見る」という作法について。見るとは全体を見る、すべてを命あるものとして見るということです。部分を見るのではなく、全体を見ることの大切さをドラッカーは高等数学の「バタフライ効果」を例に挙げて説明しています。 アマゾンの密林で蝶が一羽、ぱたぱたと羽ばたいた。そして、たまたま次の週にシカゴで雨が降ったとしましょう。この二つの事実は互いに何の関係もなさそうですが、二つが無関係であることは証明できないというのがバタフライ効果なる理論です。つまり、あらゆるものは、あらゆるものと関係しうるということを言っているわけです。だからこそ、理屈で考えるのではなく、全体を見ることが大切になるのです。 さらにドラッカーは見ることの補完として、他の人が見ていることについて聞くことも大切だといいます。たとえば、自分の「強み」がどこにあるのかは本人には意外に分からないものです。人に言われてはじめて「強み」に気づく。こうした「見て、聞いて、全体をとらえる能力」がポストモダンの時代には必要になってくるというのです。 二つ目の「分かったものを使う」。これは次に何が起こりそうかを考えて行動するのではなく、すでに分かっていること、すなわちすでに起こったことをもとに行動せよ、ということです。ドラッカーは「すでに起こった未来」という言葉を使って「今起こっていることをしっかり観察すれば、おのずと次に起こることが見えてくるはずだ」と度々語っていますが、同じ意味ととらえていいでしょう。 三つ目の「基本と原則を使う」というのは、文字通り、ものごとを行なう時に、絶えず基本あるいは原則となるものを知って使うということです。しかし、それを万能のものとして使うのではなく、補助線として使うことが重要です。たとえば何のための経営でしょうか。基本とすべき答えは、「世のため人のため」です。 四つ目の「欠けたものを探す」。これはギャップを探して新しいニーズを見つけることを意味します。現実に私たちの目には、すべてが見えているわけではありません。大事なものの多くは見えていない。目に見えないものによって現実の多くは支えられています。見えないものを明らかにするだけでなく、それによって見えるものの意味を示すことが大切となります。 五つ目は「自らを陳腐化させる」。ポストモダンの社会はどんどん変化を続けているため、同じことをやっていては、すぐにおくれをとってしまいます。そこで必要となるのが、あえて自らを陳腐化し、絶えず新しいものにチャレンジしていく姿勢です。 六つ目は「仕掛けをつくる」。これは理想を現実化するために何らかの仕掛けをつくるということです。そのひとつとして挙げられるのが、達成すべき目標を定めるということ。さらには、失敗した場合に反省するだけでなく、成功した場合に「なぜ成功したか」を検証し、成功を慣習化していく仕掛けをつくることも重要になってきます。 七つ目は「モダンの手法を使う」。ドラッカーはモダンの手法を「論理と分析」、ポストモダンの手法を「観察と知覚」と定義しましたが、やや色のあせはじめたかに見える「論理と分析」も、そこに限界が存在するということを分かったうえで使えば大きな力を発揮すると言っています。何しろ近代文明をここまでもってきたのはデカルト以降の「論理と分析」の力ですし、ドラッカー自身が「論理と分析」の力を縦横に発揮する人でした。

    日本画に夢中になったのと同時に、日本という国に強烈な関心を抱くようになったドラッカーは、日本企業のロンドン支社長らとも親しくなって、日本のことを熱心に調べました。彼はもともと興味を抱いたものについては、二、三年徹底的に調べまくって極める──という方法論をもっていますが、日本についても歴史から世界観まであらゆるものを調べまくったそうです。

    逆に言うと、ドラッカーは「失敗をしない人を信用してはいけない」ということも書いています。それは、何もしてない人のことであると。真摯な人というのは、チャレンジをして失敗をする。しかし、失敗をする人こそ信用に値する。成果とは長期的なものであって、曲芸ではない、と言うのです。百発百中のものは曲芸なので、そういうものは逆におかしい。失敗を含みながらも、長期的な戦略というものを練っていくべきだと言っているんです。

  • ビジネス経営学における現代の孫子の兵法。孫子の兵法が数多の戦略家の基礎となった様に、現代のビジネスマンの基礎となり得るだろう。

    その一つにマネージャー職に就く前からでも、セルフマネジメントをする事は重要であると説かれているからだ。マネジメント職に就いてから、一般職に就くと視界が広がるのだ。これは間違えない。私もプレーヤー目線からマネジメント目線で組織を見た際に視界が変わり、この組織に何をもたらせれば良い方向に向かえるのか、と自然に考える様になった。この様に組織マネジメントも、そして部下世代からセルフマネジメントも推奨するのが本書であり私を含めた部下にも読んでもらいたい作品である。

    マネジメントがもたらすもの、それは働く人間の充実感であり、それをもたらすのは顧客の満足度に注視して働く事。単に金稼ぎではない心の満足度を上げる事である。
    マネジメントの役割は大きく以下の3個
    1⃣自らの組織に必要な役割 使命を果たす。→やるべき事を明確にし実行できる様に作戦を構築しする。
    マーケティングをし分析をし顧客の満足できるイノベーションを起こす。経営資源を潤滑にし、生産性を求める事、
    2⃣仕事を通じて働く人たちを活かす。→人こそ資産。金稼ぎ・生産性だけではいつか倒れる。
    経営資源を円滑にし肉体労働が得意な人間に知識労働をさせない適材適所を行う。
    3⃣社会の問題について貢献する。→社会のニーズを追求し応える事。一人勝ちではないwinwinの関係を築く。
    営利目的だけでない社会的目的を果たす事が肝要である。利益は妥当性の尺度であって、意思決定の理由や原因根拠ではない。

    マネジメントに必要なスキル
    ①意思決定 多様な意見を徴収し、いくつかの判断の中から意思決定は可能。何もしない、も行動の一つ。
    ②コミュニケーション 人を動かせるか。自分が所属する組織に何を貢献できるか。お互いに理解を共有し合えるのがコミュニケーション。
    ③管理 いかに管理するかではない、この組織で何を管理するのかが重要。管理する事自体は大した問題ではない?
    ④経営科学 経営科学を使えば組織に貢献できる。

    これらは経営者だけでない。労働者にこそあるべきスキルだとも記載がある。
    全員が社長の様に働かなければ成功は難しい。全体像を見ながらすれば自ずと動き方が見えてくるという事だ。

    マネジメントは今後の人生に大きな影響を与えそうだ。

  • 紹介されて読みましたが、1~2時間で読めるドラッカーの入門書としては最適ではないかと思います。
    『マネジメント』の解説から入るのではなく、ドラッカーという人の生涯や時代背景を説明しているところがありがたいです。

  • 3.2

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