- Amazon.co.jp ・本 (190ページ)
- / ISBN・EAN: 9784140881200
作品紹介・あらすじ
頑なに自分流儀を貫く店主、酒と肴をこよなく愛する心優しき人々…昔ながらの大衆酒場で夜毎繰り広げられる人間ドラマ。多種多様の顔を持つ東京の名物酒場を飲み歩き、酒場を巡る四季と人間模様を活写する。巻末には、下町の酒場を詠み込んだ「酒場八十八句集」を収載。
感想・レビュー・書評
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まだ「酒場放浪記」がスタートしたばかりの頃のエッセイ。類さんは、思った以上に(失礼!)文学的な文章をお書きになる。
世代的にも、私達よりもしっかりとした日本語を書くよう話すように言われていた世代だからというベースもあるし、そのうえで類さんご自身が画家であり俳人であるから、情景の切り取り方が上手で、描写も丁寧なように感じた。
もっと軽くサクサク読めちゃうエッセイなのかなと思って読み始めたのに、思いのほかじっくり読まさせていただきました。楽しい読書タイムでした。ちなみに私は下戸なので、お店やお酒の情報は、夫に伝えたいと思います。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
「酒場という聖地へ、酒を求め、肴を求めさまよう…」でおなじみ(?)、吉田類の本。東京にある、昔ながらのカウンターに大将と女将に常連さん、のような居酒屋について、俳句を交えてエッセイ風に紹介、かと思ったら、俳句がメインになって、酒場俳句について語る、かと思ったら、飲んだ時のエピソードが短編小説風に書かれて、最後に「酒場八十八句集」を味わって終わり、という本。人柄が滲み出るような書きっぷりで、読みやすい。
BSのあの番組を知らなければ、というか類さんの人柄とかあの語り口を知らなければ、あと店で飲むのが好きでなければ、この本の面白さは言うまでもなく半減してしまうので、割と読者を選ぶ本なのか。逆に言えば、類さんの番組を見て、「このおじさん、飲んでばっかりでいいなあ~」とか思う人は読んだら面白い。「いいなあ~」と思っていたけど、撮影の苦労話もあって、やっぱり本当に心底楽しめる訳でもないのね、というのが分かった。「撮影用に利用できるスペースは、カウンター席と壁との間に置かれた小さなテーブルだった。肩幅のある大人にはかなり窮屈で、僕は半身に腰掛けるしかなかった。(略)ひたすら元祖酎ハイや純米吟醸やらで自らを鼓舞し、場に馴染む努力を強いた。(略)優先されるべきは流儀でなく映像だ。酔いの勢いを借りた笑顔と麻痺した味覚上のコメントをカメラに向かって発言するしかなかった。」(p.100)など。他にも店名はもちろん明かされていないが、まずい料理をさも美味しそうに食べるのが大変、みたいな話もあって、笑ってしまう。
撮影の裏話的な要素も面白いが、おそらくメインは酒場の雰囲気を俳句とともに表す、ということで、飲みの「流儀」やお酒そのものに関する蘊蓄もたくさん書いてある。「富を誇ったり経歴を披露することは、雑多な人間が集う酒場の話題には向かない。(略)武勇伝や武道歴を、それとなく話題の中にちりばめて誇示しようとする者にもときどき出会う。酒場で、さほど面識のない相手にこれを自慢するのは度量の狭い愚か者のすることである。小心で実力のない者ほど酔うとたちが悪い。」(p.16)というのは、そうだろうなあと思う(とはいえ、こういう酒場、おれは全然行かないのだけれど)。「酔うとたちが悪い」というのは、本当に避けましょう。酔って品が良くなる(?)人になりたい。木場の「河本」(もう閉店してしまったらしい)は、ネコの話が印象的だ。「あるとき、人間の手で腰骨を砕かれたハンジロウが、下半身麻痺のまま前足だけで『河本』の猫窓の下に帰り着き」(p.24)って、なんてことする人間がいるんだ、というところで引っかかって、その後おれの大好きなホッピーの話もあるのだけど、なんか入ってこなかった。次は中野のブロードウェイにあった「八千代」という焼き鳥屋。「旧くて安定した店には、『常連のはじまりは、一見から』というモットーが定着しているからだ。また、過剰な愛想がないのも特徴。」(pp.58-9)という店の一つとして紹介されている。なかなか「常連」になる程の店が作れない(1軒だけそれに近い店はあるのだけど、といっても酒の飲めるピザ屋。でもおれそんなにコンスタントに通わないので…、未だ店主に認められているのかよく分からん)けど、もっとオッサンになったらそういうこと出来るのかなあ。おれにとってはまだ大人の世界。ちなみにおれより10歳上の先輩は、すでにそういう店があって一人で行ったりするのだそうだけど、おれ一人でそういうところ行くのが半年に1回くらいしかないので…。とにかく、過剰な愛想のある店は安定してないってことなのか、とか色々思った。あとホッピーとともに大好きなハイボール(というか、プリン体&糖質を気にしているだけなのだけど。本当に好きなのはビールです)。「ハイボールの名称は、アメリカの荒野を走る鉄道の駅で乗客向けのサービスととして用意した炭酸水(ノンアルコール)のような飲み物が由来らしい。それが飲める場所を示すために目印として揚げた風船、いわば小さなアドバルーンの役目を果たした高い(High)・球体(Ball)からとされる。」(p.78)って、そうなのか。全然知らなかった。でもhighballよりはやっぱりwhisky and sodaと言うのが英語では一般的だそうで、「ハイボール」の名称が日本でこんなに流布しているのが不思議だ。そしてこのハイボール、というか酎ハイで「天羽飲料のエキス」(p.81)というものが飲める店があるらしく、一度飲んでみたいかなあ。お酒の話がひと段落して、類さんの酒飲みエピソードの話もあって、面白い。特に面白いのは「ハードボイルドな一夜」(pp.155-8)の話かなあ。ずっと酒飲んでたら、こんな目にも遭うのか。最後の「あとがき」のところで、「この頃、年を経るごとに自分が意地悪爺さんに向かっているような気がしてならない。優しい人と言われれば、素っ気なく振る舞ってしまい、山好きかと問われれば下町が恋しいと答えてしまう。これは江戸っ子気質の一種"天邪鬼"というやつらしい。これではますますいばらの道を択んで歳を重ねていくしかなさそうだ。」(p.188)とあって、テレビの類さんはそんな感じじゃないので、意外(年を重ねて、と言ってもこの本既に16年以上前の本だけど、今はどういう心境なんだろうか)。でも類さんの場合は、人間臭さがあっていいんじゃないかなあ、とか。
という、酒飲みの本が2021年一発目の本になってしまった。なかなか外の店にも行けない時期なので、類さんのテレビを見ながら雰囲気を楽しもう。(21/01) -
酒場。この言葉には酒飲みを引き付ける独特の響きとイメージがある。ハイカラで、粋で、そして暖かい。常連もいれば一現もいて、他にはない世界が存在する。そんな異空間で、歳時を詠むなんて、なんて洒落てるのか。
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BS-TBSで放送されている「酒場放浪記」でおなじみの吉田類による
酒場と酒場にまつわる著者自身の俳句の本。
失礼ながら、吉田さんがこのようなきっちりとした文章を書くとは
想像していなかった。番組の印象から何となくもっともっと砕けた
文章を書く人だと思っていた。ホント、失礼してすみません。
読んでいて実に楽しい本ではあるが、例によって吞みたくなるし
行ってみたくなるのが大問題(笑)。 -
「酒場放浪記」よりも辛口なエッセイ集。
各章ごとに、独立したものと思って読んだ方が違和感ないかも。全体を通してみると、散漫というか寄せ集めっぽい感じは否めない。
俳句をじっくり味わえるのがこの一冊の一番の魅力か。 -
日本を代表するパンクバンド ポニーキャンプのレイくんの紹介による、私にとっては禁断の一冊。
高知ご出身の著者は奇しくも私と同業の酒場詩人であった。
ただし、私のスタイルがランボーの「地獄の季節」的であるのに対し、氏のそれは歴史に思いを馳せ、その詩に出会う人の酒をうまくする効用の面で私のそれを圧倒的に凌駕している。
居酒屋でも、飲み屋でもなく、「酒場」という言い方は木の匂いのようなリラックスを孕む。それは酒と向き合う人に本来求められる強さと寂しさが剥き出しになったようだからかも知れない。
カッコいい飲み手になりたいと改めて自戒しました。すいませんでした。 -
某BS放送の「酒場放浪記」のファンです。番組最後のテロップで映される俳句を見て、纏めて読めるといいなと思っていました。番組の飄々とした感じが活字になるとどんな具合か、ちょっと心配でしたが、いい意味で別物でした。どちらも類さんらしくて趣きがあります。私はエピローグの小品がテンポもよくて好きです。
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4月1日読了。酔いどれ俳人・吉田類による東京と大阪のシブい居酒屋の思い出とそれに寄せる酒場俳句の数々と、立ち飲みに関する薀蓄など。酒場の感想を手帳や日記に記録するのもいいが、印象的な一幕をサッと俳句に切り取って書き付ける、なんてのも風流でいいじゃないか!文語や口語、固有名詞、場合によっては季語にもこだわらず自由に作るのが酒場俳句の楽しさか。同じようで違う関東の「モツ煮込み」と関西の「どて煮」の違いは、汁の多さにある(関東の方がスープ状、関西は「タレ」の状態)や「ダーク」なる立ち飲みスタイルの解説など、酒場トークを盛り上げられそうなネタも取り上げられている。巻末には酒場俳句八十八首も収められており、居酒屋の奥の書棚に埃をかぶって陳列されたり、居酒屋通いにズボンの後ろポケットに突っ込んでふらっと出かけるなどの付き合い方がこの本には合っているようだ。(図書館で借りたが・・・)
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なかなか味わい深い。