レイヤー化する世界 テクノロジーとの共犯関係が始まる (NHK出版新書)

著者 :
  • NHK出版
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レビュー : 141
  • Amazon.co.jp ・本 (280ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784140884102

作品紹介・あらすじ

情報技術の革新は、メディアや産業の構造を根底から変え、超国籍企業を生んで労働と富のグローバル化を加速し、国ぐにの力を殺いだ。ITを基盤としたシステムそのものが権力化するなか、個人もまた、生きかたの変容を迫られている。これから来る世界はいったいどのようなものなのか。そこでわれわれはどう生きていけばいいのか。斯界の第一人者が、テクノロジーの文明史を踏まえて未来の社会像を鮮明に描き出す。

感想・レビュー・書評

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  • 佐々木俊尚さんの著書には、いつも打ち出されるキーワードに注目している。漠然と無意識に感じていたような空気感が上手く言語化されており、僕にとっては自分と時代との距離を測るモノサシのような存在だ。

    ノマド、キューレション、当事者。そして今回はレイヤー。ノマドの時には、そのキーワードをずいぶん遠い世界のことのように受け取っていたのだが、キュレーションの時には「きっとこの先はこうなる」という確信を持つことができ、今回のレイヤーという言葉は、まさにリアルタイムな概念として受け取った。

    世の中は、大きな流れとして垂直統合から水平分散へ。これをレイヤーという概念を用いて紐解いていくわけだが、ITの世界に閉じた話ではなく、世界システムという大きな構えから論考しているのが本書の特徴である。このような立ち位置をとることによって、IT以前の世界、さらにもっと前の近代や中世の時代へと地続きに流れを追っていけるのだ。

    根底にあるのは、近代以降、蔓延ってきた国民国家及び民主主義というシステムの在り方が特殊事例だったのではないかという視点だ。これを中世以降の歴史を追いながら見ていく中に、レイヤー的な物の見方の一端が垣間見える。

    ある一定の幅をもった歴史を輪切りにして、その切り口の断面を分析する。言わば水平軸を導入して、テクノロジーと文明の相関関係を解き明かすというやり方。また中心点がヨーロッパに置かれていない。「中世 ー 多くの民族がともに栄えた帝国の時代」の章で描かれているのは、イスラムが栄華を誇った時代、”辺境”に追いやられたヨーロッパの姿なのである。

    このような歴史観というのは、先行する類書がないわけではないのだが、いずれもハードで難解な書籍揃いである。その中で本書は、徹底した分かりやすさという点において抜きん出ているという印象だ。

    背後にはおそらくこのパートだけでもヘビー級の書籍50冊分程度の知識がそびえ立っていることであろう。これが、わずか100頁ちょっとの分量に纏められているのだ。また、本文中に掲載されている新書らしからぬ味のあるイラストも、柔和な顔つきに彩りを添えている。

    著者によれば、中世の世界システムはとても強靭で、しなやかなシステムであったという。そこでは、様々な民族が同居し、帝国の内外を結んで交易のネットワークが整備されていた。いまのように「一つの民族が一つの国家」ではなく、複数の民族が集まって一つの帝国の下で暮らしていたのである。

    それを可能にしていたのが、ローマ帝国の場合は言葉であり、イスラム帝国の場合は宗教であった。つまり国民国家成立以前の世界を眺めることによって警鐘を鳴らしているのは、自分が立っている前提条件としての世界システムに無自覚であってはならないということであり、それが副題の共犯というキーワードへとつながっていく。

    現在、それに取って代わっているのが、Apple、Google、Facebookなどの超国籍企業が作り出す<場>というもの。この<場>と我々との関係というのが、実に奇妙なものである。互いが互いを出し抜こうと必至に動き、しかし結果としてそれが互いの存在を強くしてくことにつながっていくのだ。このいかにも人間らしい<共犯>という関係を、テクノロジーとの間に築くべしというのが、本書のもう一つの重要なメッセージである。

    その先に、はたしてどのような世界があるのか?答えは、マクロな歴史の話から、個人の物語へと集約されていく最終章にある。ソトとウチという境界があることによって担保されていた多様性、その行き先としての個人である。レイヤー化された世界とまるで合わせ鏡のように、個人がレイヤー化した模様が描かれている。

    事例の一人として登場する南 暁子さんについては、まさに僕自身も当事者として体験した出来事である。詳細は、こちらの記事を参考にしていただきたいが、このアイコンをきっかけに、僕自身、佐々木さんとレイヤーでつながる機会に恵まれ、さらにそのつながりはHONZのメンバーになることで、もう1レイヤー追加された。

    今や、成毛眞を初め、メンバーの数人が使用しているアイコンがまさに彼女の手によって描かれたものだ。これが僕の目には、2つのレイヤーが重なり合う姿として映っている。

    本とアイコン、そんな身近なことがきっかけでも他人とレイヤーという概念でつながり合えると実感したのが、このわずか数年での出来事だ。中にはたったそれだけのことでと思われる方も、いるかもしれない。だが、要はたったそれだけのことを、どこまで面白がることが出来るかなのだと思う。

    自分自身のレイヤーを見つめ直せば、きっと何かが見つかる。レイヤーの数だけ青春がある。スケール感の大きな話題でありながら、素直に感情移入することができるのは、そんなパーソナルな着地点によるところが大きい。実に甘酸っぱい読後感であった。

    本書は全ての人におすすめ、それだけではもはや物足りないようにも思える。スタンダードな部分も、マイノリティな部分も含め、あらゆる人の全てのレイヤーに染み込ませたい、そんな一冊である。

  • 歴史の外観、特にそれぞれの時代における国(というか帝国というか地域というか)の在り方が非常に分かりやすく書かれている。緩やかな境界しか持たない帝国の時代、国を単位として分割された国民国家体制の時代、そしてこれからは、限界に達した国民国家体制、すなわち"ウチ"と"ソト"が明確に区別される世界観から、一つの〈場〉を世界全体が共有する形へ移行していく、という未来予想図。なるほど、国民単位で何かに(例えば映画やアイドルに)熱中する時代は終わり、その代わりに大きな平べったい〈場〉においてそれぞれがそれぞれに好きなものを作り、またそれを手に入れるという時代、こういう捉え方はありそうでなかった気がする。それに、今起こっている現実にも当てはまる。
    ただこういう時代にありながら、なんとなく国粋主義的な傾向が強まっているという現実はなかなか興味深い。新しい時代を迎えるのとは逆の方に「戻す」力が働いているということか(時代の転換期にはありそうな話だ)。
    新しいレイヤー化の時代を生き抜くため、アメーバのようにくねくねと動きながら自分の居場所を見つけていくという新たなアイデンティティの模索方法が求められる。カチッと決まったアイデンティティを持たせてくれる今の時代と比べると、それは確かに自由がきいて、とりわけマイノリティには暮らしやすくなるのかもしれない。でも同時に、なかなかしんどそうな時代だな、とも思う。自由に自分の居場所を探せるということは、自立というか、自分の意思が当然求められるわけであって、なんとなく何かに追従しておきたい人には甚だ生きづらい時代ではあるだろう。そこには"思考"が求められるのだから。
    いずれにせよ、本書の時代を俯瞰する視点は面白い。所詮一人の人間なんて狭い視点でしか時代を眺められないから、こういう俯瞰的に時代を眺められる本の存在は貴重だ。

  • 勉強は何のために学ぶものかと思う中高生にこそ読んで欲しいし、その頃に読みたかった。答えは書いてないけれど、得た知識の使い方は書いてある。倫理的な指針としてではなく、世界史、世界情勢の流れからみる「君たちはどう生きるか」。

    この手の本の結論は皆同じ「好きな事をしていこう」だけれど、どこまでそれに絞っていっていいのかとか、その際に何が好きなのがいいのかとか、どのように世界に関わっていけばいいのかとか書かれていないものも多い。こういう本を読む人にとってはそれが一番知りたいことであろうが少ないながら例も出ている。著者の”キュレーションの時代”はそういう本だったような。

    今まで知らなかった「人々の生活の実情」がインターネットによっておぼろげながら見えるようになってきたのは、それもまた”レイヤー”の新しい効用だと思うがそれについてはあまり触れられていない。

    また、これからの時代を考える上で、世界史が承認欲求や快楽(満腹や快適な生活環境)といった脳科学的快感をより多く得るために行動を起こしてきた人々の歴史であるという視点は必要かと。

    内容的には同じような本が多く出ていると思う。
    著者のキャリアから見えるものを提示しているわけではないので、具体例に富む訳ではないけれど、かつての自分と同じような悩みを持った(しかし僕よりは明らかに優秀な)中高生の夏休みに将来を考えるための図書としては非常にいいのではなかろうか。

    平成25年6月21日追加
    産業革命を"肉体労働の外部委託”、"肉体労働の効率化”、"頭脳労働の外部委託、効率化”と捉えると、次は感情労働の外部委託?

    宗教や国、民族によるアイデンティティはいまだに有効だと思われ、そのレイヤーでの規定がまた大きくなってきているように感じる。

    国は法による行動規制のレイヤーか?

    日本以外で法規制が強い&当該国民感情が許さない行為であっても、日本では問題がなく世界に貢献するものこそが日本発のイノベーションでは?

    いまの世界をひっくり返すにはなにをする?

  • ウチとソトで成り立っていた世界から、
    境のない真っ平らな地平の上に、横へ横へと広がっていく、そんな世界になるのではないかという考え。

    「レイヤー化する世界」の話も面白かったけど、
    人類の歴史が自分んとこ、と、それ以外で発展してきたのよっていう流れが
    はじめて知ったことだったから、
    じっくり読み込んだ。

    世界がレイヤー化するのはイメージついたけど、
    まだ自分がレイヤー化するのは感じが掴めていないな。

  • 佐々木俊尚さんの新作。IT技術の進展による国民国家の衰退と、超国家企業の登場が、世界をどのように変化させていくかを「レイヤー(階層化)」というキーワードを元に解き明かしていく。

    前作の『当事者の時代』が「言ってることは分かるけれども、読み物として面白くない」という感じだったので、どんなものかな~と思って読んでみたけれども、「世界の実像を解き明かし、これからの指針を与える」系の本としては、かなり間口が広く、面白く仕上げたな~と感心してしまった。現在→過去→未来の構成も納得度が高い。

    「レイヤー化」という考え方は、おそらくセス・ゴーディンがTEDで公演した『我々がリードする部族』の、「部族」というアイデアに近く、これを発展させたものなのかな~と思う。また、ジャレド・ダイアモンドが『鉄・病原菌・銃』のなかで描き出した世界を土台にしているようにも感じられた(ネグリとハートの『帝国』が土台になっているとあとがきにあるけれど)。

    佐々木俊尚さんは、こういう最新の学問の潮流を踏まえて論を立てることができる日本では希有な存在だと思うんだよね。ツイッターで朝にキュレーションをやっているけれども、これも大変参考になっている。というか、朝の楽しみ。

    ただ、実際の所、世界が佐々木俊尚さんが予測するような方向に行くか、それについては保留かなぁ。「レイヤー化」という考えはとても魅力的だけれど、人間としての限界はどうしてもあるからだ。

    無数の場があって、そこにアイデンティティーが横断的に存在できるようになっても、肉体は「1つ」だし、その肉体はものを食べていきている。その生物的な枷は、レイヤー化とは真逆なものであると言えると思う。ここで描かれていることは「事実」ではあるだろうけれども、「そういう流れがある」程度に考えたい。そして、その脇には無数の「別の流れ」があるものだ。

    あと、岡田斗司夫さんの『評価経済学入門』でも感じたけれども、「世界の実像を解き明かし、これからの指針を与える」系の本って、歴史の流れも同じように竹を切ったように解説するよね。

    この本においても、そんなに変な(というか、納得できるくらいの)歴史観で世界が説明されているのだけれども、私個人の目で言えば「そうとは言い切れないだろ」と思う部分が多々あった。これは私が歴史学を専攻していたからかもしれない。そして、そういう目から観れば、「世界の実像と、これからの未来」というのも、まったく確かなものではないと言い切ることができると思うのだ。

    もちろん、一読する価値はある。古い価値観に生きているならなおさらのこと。でも、そういう人はこの本は読まないだろうね……(^_^;)

  • 面白かった
    レイヤーでつながる世界か
    これは頭の体操と言うか、発想の転換に役立つ考え方として覚えておいて損はない
    て言うか、もうすでに「レイヤー」と言う観念が私の頭にすっかり定着してしまった
    良い良い
    日々のニュースや記事の見方も変わってきたぞ

  • 中世から近代の歴史を振り返り、帝国が滅び国民国家と民主主義が取って代わったように今度は国民国家と民主主義が崩壊することによりウチとソトを分け隔てる壁が消滅し、グローバル開かれた世界に数々の「場」が設けられ、人々はその「場」群れ集いそして支配される。国民国家もレイヤーのひとつとなり、民族、言語、産業、雇用、文化なども様々な人々や団体がレイヤーを作り活動し、個人は数多くのレイヤーを身にまとい、「場」で自立的に活動する。

    グローバルなネット企業が国家に所属しない(雇用が少なくあっても自国に拘らない、タックスヘブンなどを利用して税金を払わない)ことから国民国家が崩壊するので、国や会社などに依存しない自己をレイヤーのつながりによって確立せよとのことだ。確かに、様々なレイヤーでの人々のつながりはTwitterやFacebookなどソーシャルメディアでも実感しているところではあるが、それらを人の繋がりができるレベルでやっている人はまだまだ少なく、日本人には敷居が高いのだ。

    近年、右寄りな言論が活発なのはこのような動きの防衛としての反応だろうか、大局的な歴史観から俯瞰する未来像としてとても興味深い論考でした。

  • 「社会のカタチ」の変遷を世界史から辿って行き、「今の時代」がどうやって成り立ったかを知り、「未来」と「未来をどう生きる」ことについて考えるためにとても役立つ1冊。

    100年も生きられない人間には、「今」は歴史の完成形ではなく、通過点にすぎないという当たり前のことが実はよくわかってない。

    歴史を学ぶというのは過去の叡智を受け継ぐことなんだなと。そしてそのことこそが未来を正確に、冷静に見つめることができるんだなと。

    新しい時代に希望を感じられるかどうかは、「今」どういう立ち位置で生きているかによる。

    まずは知ること、そして考えること。
    とても読み応えがあり、読んでよかった1冊です。

    長くなるのでブログに感想を書きました。

    http://rucca-lusikka.com/blog/archives/4924

  • たまに現る当たり新書!

    人と人の繋がり方&お金の流れ方の変移を、「世界史」を道具にして丁寧に説明した本。
    Amazonでの評価はなぜか低いけど、私はスーパーな書だと思う。

    今世界で音をたてながら猛烈なスピードで起こっている変化。

    ここ数年、変化が起こっていること(つまり世界がレイヤー化されてきていること)は、私自身肌で感じていた。

    そして、本書による「現代の解説」自体は、真新しくもなんともない。ここ数年、クリスアンダーソン辺りの、いけてる!?人が、いたるところで言ってる。

    (iTunesが何で流行って、何で儲かってるとか。
    同じく、YouTubeがなぜ?Facebookがなぜ?
    なんでPanasonicが厳しい状況になってもうたの?
    SONYが何で?みたいな話。)

    (ってことは、先進国のポジションを守りにかかっている時期の日本に産まれた、私をはじめとしたゆとり世代としては、テンションの下がる不都合な真実もたっぷり書かれてます。)

    本書が新しいのは、「今」の状況を「歴史」という道具によって説明しているところ。

    ローマ帝国の時代から現代の流れの中での今を説明している。
    今はあくまで歴史の真っ只中だと。

    道具として使われてる歴史は、噛み砕いてあってシロウトでもよくわかる。

    今ある、国家という場は、今たまたまあるだけで、場は代わるんだと。
    代わり続けてきたのだから、また代わると。今はその過程だと。

    今の状況を、俯瞰的に見えるようになったような気がしてる。

    ただ、レイヤー化された世界でどう生きるのかという命題については、ほぼ丸投げ。

    確かに、正しい答えなんてないから、自分で考えるしかないね。
    さて、どうしたもんかのぉ。

  • 時代の流れを中世、近代、未来に分けて解説をされていて、これまでの石階の流れをおさらいすると共にテクノロジーや時代の変化に世界の産業などが追いついていないことが指摘されています。
    これからはテクノロジーの発達によって生まれた「場」によって国民国家の境界があいまいになるというのは、共感出来ました。
    新しい働きを考える前に、時代の流れを知る事が重要だと感じるので、時代の流れがうまくまとまっていて、オススメです!

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著者プロフィール

佐々木 俊尚(ささき としなお)
1961年生まれ、兵庫県出身。早稲田大学政治経済学部政治学科中退後、1988年毎日新聞社入社。記者として勤めたあと、1999年『月刊アスキー』の編集部デスクに転身。2003年退職後、主にIT分野やメディア業界に関わるフリージャーナリストとして活躍。大学非常勤講師なども担当している。
代表作として、2010年度大川出版賞を受賞した『電子書籍の衝撃 -本はいかに崩壊し、いかに復活するか?』、『キュレーションの時代』など。近年は『家めしこそ、最高のごちそうである。』といった自宅料理についての著作もある。

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