読書の価値 (NHK出版新書 547)

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  • NHK出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784140885475

感想・レビュー・書評

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  • 工学部の助教授から作家へ転身し、その後自分自身の人生におけるアプトプットを完結させるため、そのいずれもを卒業し、工作や庭造りなどを謳歌しておられるという著者。

    自由な発想で生きておられる自由人的なイメージがあり、そういう人の読書論はどのようなものだろうかと興味があり読んでみた。

    これは、森氏の得意とする書き下しスタイルの本のイメージだ。「1時間に6000文字を打つ作家」ということは自他とも認識されているようで、本書もネタの仕込みやなんかを除いて、ただ文章を書いている期間としては1週間程度であったということがどこかに書かれていたと思う。

    これは著者のロング・エッセイだなというのが、読後の感想だ。得意の自由な発想を飛ばし、次々と思い浮かんだことを綴っていく、そんな風にして書き上げられた一冊ではないか?

    森氏は、読書とは場所や時代を超えて著者と対話することというニュアンスのことを述べていた。たくさんの友人を手軽に作るようなものだもと言われていた。

    本選びについて、本は自分で選べ。それ以外ありえないと。自分の友人を人に選んでもらうのかというような話だった。

    しかし、これらは真っ当な意見で、特別ユニークさを感じるものでもなかった。自身もほぼ同じ考えだ。

    人に勧められて本を読むとか、新聞・雑誌の書評を読んで本を選ぶとかそういうことはしないそうであるが、そこまで徹底することには少しユニークさを感じる。

    小説家であるが、小説家であるがゆえに、他人の小説は一切読まないそうである。これは、自身のオリジナルな自由な発想を生み出すためのご自身の方法なのだと思う。そういうところにも少しユニークさを感じる。

    最も印象に残ったのは、どんな本にも「感謝する」と言われたところだ。どんなくだらない本にも、少しは興味深いところがある。何か新しいものを知ることができたり、何かの気づきが得られたり、新たな発想が生まれるもととなったりと、そういう収穫があれば、それで感謝に値すると言われていた。

    逆に、そのような気持ちで読書を楽しめるのが森氏の自由さであり、さらにその特長をより強化していけるのだろうと思えた。

    後半、これから電子書籍の時代がさらに発展し、AIなどと連動し、未来型の本が登場するというSF的な展開の話があったが、このあたりは著者が仕込んだネタから小説化していくプロセスをわずかに体験できたような感触である。

    本書を執筆された時点で60歳。ますます興味は広がるばかりとおっしゃっていた。

    本書から読書術のようなテクニカルな面での新情報は特になかったように感じるが、「自由な発想」で読書する姿勢が、多くの価値創造につながるのだという生き方みたいなところが参考になった。

    従って「読書の価値」というタイトルには納得。

  • 読書好きな人の書かれた、読書についての本を読むのが好きです。
    この本の著者の森博嗣さんも相当の読書好きです。
    けれども、最近多い、多読、速読派ではなく、視力の(よすぎる)問題もあり読む冊数は決して多くはないようです。(もちろんごく一般の人の何倍かは読んでらっしゃいますが)むしろ多読するより、精読をすすめてらっしゃいます。

    この本で、一番ショックというか驚いたのは、最近、「アウトプット」をすすめる本が多い中、ネットに感想を書く人をいきなり批判されていることです。
    私は、よかれと思い、つい2週間前にブクログに登録したばかりでした。
    「読書感想文は無意味である」
    「同じ本を読んでほしいなら、ネタばれは避けなければならない。一番面白いところ、驚くところをレポートしたら、次に読む人の体験を台無しにしてしまうからだ」
    すでに上記を抜粋したので、このレビューもネタばれですが、これからレビューを続けていくうえで、参考にしていかなければいけないご意見なのかな、と思いました。
    「もし、共感を得たいのならば、もう少し「どう感じたか」という点をアウトプットした方が良いと僕には思えるのだが、ほとんどそうは語られていない」とも。
    耳の痛い言葉です。確かにそうだと思いましたので、これから気をつけていきたいと思いました。
    ネタばれしないと書けないというのは、文章力や推敲の量が足りないのかもしれないですね。
    ネタばれがよくないと述べられた本のレビューをネタばれで書くなんて大変失礼なことでしたが、これも一種の自己満足でしょうけど、あえて載せていただきます。

    軽はずみな「アウトプット」に忠告を与えてくれたありがたい本ということで、星は5つにさせていただきました。(もし著者がご覧になれば書評も星もいらないとおっしゃられそうですが)
    タイトルの『読書の価値』にこめられた意味、よく考えさせていただきます。

  • 「わかる」という状態になってこそ本当に文章が読めたということになる。文章を読み、自分の頭の中で展開することで、初めてそれが「体験」になり、自分の地肉となる。

    本選びは、人選びである。あの人と話すと面白そうという感覚と似ている。選ぶ際のパターンは大きく2つで、未知の経験ができそうかと、自分の考えを確認できるのかである。

    そんな本選びで大切なことは一つ。自分で本を選ぶこと。お金を出して自分で本を買うことで、真剣に考えるし、読まされるという感覚がなくなる。

    なんとなく新しいことを求めているとき、自分が知っている関連ではなく、遠く離れた他分野へいきなり飛び込むことが比較的楽にできるのが、本のいいところだ。

    ベストセラーを避けた方が良い理由は、既にその知識を持った人が世の中に大勢いて、それを知っている価値が弱くなるからだ。

    読書の良いところは、誰にも縛られず、自分が自由に本を探し未知の世界を発見できることである。

    知識を得ることも大事だが、発想、連想することが大事で、自分の興味の範囲外の無関係なものを眺めることが有意義なものとなる。

    そこで注意が必要なのが、ゆっくり読むこと。文字や文章を追うだけでなく、そこからイメージされるものを頭の中でじっくり「展開」することが大切である。

    自分で展開したものに対してどう感じるのか、どう考えるのかという部分が読書の肝となる。こうして、いろんな本と出会って、自分のわからない世界に多く触れていくことが、楽しさであるし、読書の醍醐味なのだ。

  • 森博嗣のエッセイは面白い。
    視点や考え方が本当に独特で、しかも好感が持てるし勉強になるからだ。
    曰く、本はゆっくりと読むべし。
    これはただただ文字を追いかける「速読」をしても、自分の中に何も残らないなら本を読んでもあんまり意味がないよ、ということではないかと思う。
    私は実践できていないが、なるほどその通りだと思う。
    私は今まで読書は情報処理能力を高めるためにするものだと決めていた部分があるが、曰くそうではなく、読書によってある種の記憶やイメージを残すこと、そうして自分の世界を広げることに読書の意味があると。

  • 「国語が大の苦手で、小説を沢山読む読書家でもなく、仕事は理系、文芸とはかけ離れた処にいた。それが、一作の練習もなく、最初に書いてみたら、一週間で完成した。これを出版社に送ったら、作家としてデビュ-が決まった」・・・作家<森博嗣>さんが “読書の世界観” を一切の美辞麗句を排除し、単刀直入に語った体験的読書論。「本の選び方として、僕が指摘したいのは一点だけ。とにかく、本は自分で選べ。 本書のテーマは、この一点だと思っていただいてもかまわない」・・・。

  • 読書本といえば、オススメ本の推薦があったり、あの本は実は…という解釈があったりするものですが、この本では「 読む本は自分で吟味し、自分で決めましょう」と強調します。

    また文章を書くことについての項も長く、良い文章を書くコツも記載されています。

    本を読む価値は、本を読んでおくことで引き出される着想や連想が大事であると。そこから得られる情報の記憶ではないと。

    ネット上に本の感想を上げるなら…というくだりが面白い。本の引用だけするのは違法だし、読んで自分はどう感じたか何を考えたかを記載しておけばいくらか記憶に残るのではないの?そもそもそんな感想文や評論を書くより、小説を自作すればよい、、という指摘があった。森さんはしばしばこうして極論で凡人を引き離すところがひろゆきみたい。

  • 森博嗣的読書論。

    読書から連想や発想を得るためには、「文字や文章だけを辿るのではなく、そこからイメージされるものを頭の中で充分に「展開」する」ために、ゆっくりと読むことが必要だと説く。遅読の私としてはちょっとうれしいが、さりとてそのような読み方ができているとも思えず、歯がゆい思いはする。

    読書によるインプットに対するアウトプットとして感想文を書くということがあるが、森氏はこれに否定的。「自分が良いと思ったところを探し、何故良いと思ったのかという理由を語らせる」感想文は、犯人に「動機を問い詰めているような高圧を感じる」と。そういう面は確かにあるかなと思う。感想文を書かせることにより読書嫌いの子どもが生み出されるとしたなら本末転倒であろう。

    読書感想をネットに投稿すること自体にも否定的な著者には、こういうサイトを利用している身としては苦笑するしかない。

    本書でもう一つ我が意を得たりと感じたのは、「本との出会いは、つまり人との出会いと同じ」で、「人と出会って、そういった人間関係を築くかどうかは、個人の感覚というか、フィーリングである」から、「本は自分で選べ」という指摘。数多出版されている本の中から自分で1冊を選ぶのも読書の楽しみの一つであることは確かだろう。

  • 自分もやってみようという読書術というより、こういう方法もあるんだなと思う内容。何か役に立つと思って欲を出して読むとと空振りしたような後味になってしまうかも。

  • 幾らでも文章が書ける人は、根が饒舌なのだろうか。森博嗣は著作が比較的多い割に、養老孟司と対談した別著で、識字ができないディスレクシアのように自分の事を言っていたので、一体どういう事なのだろうか気になっていた。答えは本著にあった。何のことはない、森博嗣は遠視だったのだ。

    読書論というだけで私は軽くテンションが上がるのだが、森博嗣に関しては、その価値観が異なる点でも面白い。私は比較的、多読派だが、森博嗣は量より質のタイプ。どんな本でも熟読すれば、得るものがあるという。アウトプットは相手へのインプットを意識して、しかし、自らのインプットは読書以外からの方が重要と言い切る。

    スマホ一つで知らない単語を検索できる世の中だから、知識を詰め込む意味は相対的に低くなるが、読書の価値は知識を得る事ではなく、体験を得る事。そして、脳内の体験を結びつけてアイデアに繋げていくという考えが重要。難しい本ほど、その意味を解釈する事に味わいがある。読書の最中に思考が逸れて、別の事を考えることにも読書の意味がある。これらの発言は、共感できる所があった。 

  • 森博嗣先生の個人的な読書体験と読書に対する考え方が書かれたもの。
    現代の多くの読書家がやっていること、考えていることとは、全く真逆のことが書かれていて、読み物として面白い。
    読書に共感体験を求めている人には、不向きな本です。
    森先生にとっては、ブクログやTwitterに本の感想を書く行為自体が、信じがたい行為に思えることでしょう。

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著者プロフィール

工学博士。1996年『すべてがFになる』で第1回メフィスト賞を受賞しデビュー。怜悧で知的な作風で人気を博する。「S&Mシリーズ」「Vシリーズ」(ともに講談社文庫)などのミステリィのほか「Wシリーズ」(講談社タイガ)や『スカイ・クロラ』(中公文庫)などのSF作品、エッセィ、新書も多数刊行。

「2023年 『馬鹿と嘘の弓 Fool Lie Bow』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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