なぜ、わが子を棄てるのか 「赤ちゃんポスト」10年の真実 (NHK出版新書)
- NHK出版 (2018年5月9日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
- / ISBN・EAN: 9784140885512
感想・レビュー・書評
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熊本市の慈恵病院が始めた「赤ちゃんポスト」のその後の10年を追ったルポ。預けられた子供は130人に上るという。合法的に?赤ちゃんを捨てられる、というのは衝撃的で、当時あちこちで取り上げられたことを覚えている。
政府関係者が「子供を育てるのは親の責任」「親が赤ちゃんを置き去りにするのは許されることではない」と利いた風なことをいうのがむかっとした。そんなことは当たり前。でも能書きで子殺しや虐待は減らない。もし赤ちゃんポストがなかったら、預けられた130人の子供のうち何人かは、生きていくことすらできなかったのではないのか? ドイツがそうであるように、これは一病院の役割ではなく、本来は社会の仕事、政府の仕事なんじゃないのか?
慈恵病院の蓮田理事長の言うように、最後の手段、必要悪ではあるのと思うので、気軽に使えるようになるのは違うと思うが、政府が積極的に関与しない、法制度の壁で広がらない、というのはげっそりした気分になる。
赤ちゃんポストが批判される理由の一つに、匿名のため、預けられた子供の親がわからなくなってしまうことが挙げられているらしい。個人的にはこれはちょっと不思議な話で、慈しんでくれた「育ての親」がいるのに、「生みの親」ってそんなに気になるものなんだろうか? 事情はともあれ自分を捨てた親って、忘れていいんじゃないの? 大人になってから生みの親を探して、そいつが屑だったらそっちのほうが傷つかないかな。まあ、ぼくだったら、と思うだけで、人それぞれだなんだろうな。
妙にウェットな書き口がちょっと気になったけれど、よい取材だった。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
◯名著。記載されたエピソードは胸にこみ上げてくるものがある。
◯関係者への取材内容は大変貴重なもの。行政では中々収集できない部分であり、報道の正しいあり方というか、さらには取材を通して訴えたい内容が見えてくる。NHK取材班の執念のようなものを感じる。
◯まとめにおける提言も、上記の取材を土台にした説得的かつ現実的なものであり、行政および支援に携わる関係者に勧めたい一冊。
◯個人的な感想としては、女性にも男性にも共感できないと思っていた分野だったが、この一冊のお陰で、悩む人たちの気持ちを垣間見られたことで身近に感じることができた。 -
九州の病院に赤ちゃんポストが設置されて10年経ち、その利用を巡って起きている出来事や日本の児童福祉制度についての本。
子育てを日々行っている親としては、子育てというのは本当に大変であり、産んだはいいが育てられない状況というのはいくらでも思いつく。
いわゆる「できちゃった」で、結婚も、母体も、家庭も、何も準備できてなくて生まれてくる子供。
親が結婚してない、わけありな状況で授かってしまった、健康問題を抱えている、失業している、あるいは、妊娠中や生まれた後夫婦仲が悪化して離婚、シングルになる、etc.
親が健康で、子供の養育にふさわしい環境が用意できて、時間や経済面でも余裕がなかったら子育てはできない。しかも、1人でワンオペでは心身消耗して潰れる可能性もあるという負荷の高い労働であり、夫婦や祖父母、保育園などのサポートがないと厳しい。
しかし現実には、貧乏で荒んだ家庭の女の子が、高校生ぐらいで彼氏を作ってあっという間に妊娠、10代でお母さんになったが、自分もまだ子供で、赤ん坊の世話も母親としての覚悟もできず、父親はどっかに行ってしまい、実家も頼れず、水商売に行き、子供は仕事の間ほったらかし…とか、普通に起きているわけだ。
挙句に彼氏ができて、その彼氏が継子を虐待、とか、子供はネグレクトで餓死、なんていう事件もあった。
赤ちゃんポストは子供を捨てる場所で、ひどい場所とも言えるが、死なせるくらいならよその人に助けて貰おうというと、足を運ぶということは、殺さないだけ心がある親だという考え方もある。
10代でできちゃったとか、DV家庭とか、片親家庭とか、大変なケースはいくらでも想定できる。生まれた子供をしっかり育てられる親ばかりではないことは明らかなので、あまり罪悪感なく、お願いできる場所は必要だと思う。
社会の宝として、いろんな人達に大事にされて成長できれば良いと思う。
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「赤ちゃんポスト」として有名になった「こうのとりのゆりかご」。
2007年に開設され、十年が経過した。
当初考えられていたよりも多い赤ちゃんが、そして一定程度大きくなった子供達が棄てられた。
十年を過ぎた今、この存在を通して、様々な問題を考える。
本書中で記憶に残るのは、ある少年の語った話だ。
その少年は自分が「赤ちゃんポスト」に預けられたその時を覚えているのだと言う。
彼が預けられるまで、母親には様々な葛藤があっただろう。
一概に、ひどい母親だと責めることはできない。
ただ、どうして、と言う気持ちはなくなることはないだろう。
子供を産めない、産みたくない、頼れない、知られたくない......。
世間体を気にして預けた母親(または父親等も)がいたことは事実としてあるようだ。
それは本当に身勝手な行為であるが、それでも、望みを託して、赤ちゃんポストに預けたのだと私は思いたい。
ここなら、この子を助けてくれる、そう信じて、親であろうとしたのだと。
亡くなった赤ちゃんを預け入れた母親も、「ここでなら供養してもらえると思った」と供述しているようだ。
無知だ、無責任だ、自己中心的だ、罪を軽くするための嘘だ、確かにそうかもしれない。
けれども、どうしてそれを決めつけてしまえるだろう。
ましてや虐待だと断罪することなど。
願わくば、もっとたくさんの場所に設置してほしい。
そして、その先の、子供達に寄り添える環境づくりも。
産んだ母親ばかりに責任と負担がかかりすぎる現状は異常だ。
母を責めるならどうして父の責任を誰も問わないのだ。
「こうのとりのゆりかご」は、母と子の悲しみの涙ではなく、祈りと希望で包まれなければならない。 -
東2法経図・6F開架:369.4A/N71n//K
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いい仕事している
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いわゆる「赤ちゃんポスト」の問題を検証する一冊。
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「こうのとりのゆりかご」通称「赤ちゃんポスト」の10年たった現在。
この「赤ちゃんポスト」の件、当時かなり気になっていたが、あれからもう10年たったのか、という驚きとともに読む。
10年たった今も、子どもを取り巻く状況はあまり変わってなくて、むしろ悪化してるんじゃ?と思いながら、苦しくなってきた。
この問題に対する国の姿勢が、ホントに消極的に感じる。
終章の取材を通じて必要性を感じる取組が、何点かあって、取り急ぎ、自分自身にできることは、わが息子への「妊娠、出産、子育てに関する」教育だな、と改めて強く思う。