古生物学者、妖怪を掘る 鵺の正体、鬼の真実 (NHK出版新書 556)
- NHK出版 (2018年7月9日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
- / ISBN・EAN: 9784140885567
作品紹介・あらすじ
鬼、鵺、河童、一つ目入道……。誰もがよく知るあの妖怪は、じつは実在した生き物だった!? 遺された古文献を、古生物学の視点から〝科学書〟として読み解いてみると、サイエンスが輸入される以前の日本の科学の姿がほの見えるだけでなく、古来「怪異」とされてきたものたちの、まったく新しい顔があらわれる──。科学の徒が本気で挑む、スリリングすぎる知的遊戯!
感想・レビュー・書評
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古い文献に登場する数々の妖怪たち。それらは人間の頭のなかだけで造られた想像の産物なのか。あるいは、イマジネーションの元となるものがあったのではないか。
本書は、文献に記された妖怪について、実在の生物の骨格や特徴と照らし合わせ、その正体を推察する。
現代に生きる私たちは、先人たちが積み重ねてきたさまざまな知識や研究のおかげで、実際には見たことのないものの情報をある程度得ることができる。だが、何の情報もなく、例えばナウマンゾウの頭蓋骨が土から掘り出されたら、今私たちが知っているナウマンゾウと同じ動物を思い描くことは不可能だろう。額の中央にある大きなくぼみが一つ目のように見えても不思議ではない。
著者曰く、妖怪とは、見たことのない生物を見た時に、何らかのカテゴリに分類できるようになるまでの待機場所、またはごみ箱のようなものではないか、という。
情報のない時代、人々は恐れと興味を持って想像力豊かな妖怪を生み出した。それらは情報が増えるにつれ、実態を持った生物へと変換されていく。つまり、時代を越えた答え合わせのようなものである。
著者はこの答え合わせを「妖怪古生物学」という学問分野として提唱する。妖怪古生物学は、確立された他の学問分野と比較するとあいまいな部分が多い。しかしそのあいまいさを非科学的だと切り捨ててしまうのではなく、さまざまな立場の人が自由に討論し、少しずつ検証を積み重ねて実態を持ったものに到達させていくところにこの分野の学問としての面白さと意義があるのだという。
冒頭のノリが軽すぎて、読みはじめは消化不良状態だったが、読んでいくうちに著者の意外に真面目な思いが垣間見えて、妖怪古生物学に対する興味がぐんと深まった。 -
古生物学の科学的見地から、妖怪のルーツを探る。
第1章 古生物学者、妖怪を見なおしてみる
第2章 古文書の「異獣・異類」と古生物
第3章 妖怪古生物学って役に立つの?
参考文献、図版の出典一覧有り。
古生物学的視点で、古い文献に記載された不可思議な生物や
怪異について、読み解き、その謎や正体について、探る。
ツノのある生物は、ほぼ草食。では何故、鬼にツノ?
『平家物語』や『源平盛衰記』に登場する、鵺の正体は?
一つ目の妖怪、竜骨、大蛇骨の正体は?
『信濃奇勝禄』を読み解き、特徴の詳細な記述から生物を考察。
『雲根志』『怪石志』から化石を考察。
なるほど~。
日本列島って広いし、大陸と繋がっていた太古もある。
ゾウの化石があれば、クジラの化石だってある。
化石や実物を見たこともない骨って、当時の人々からすれば、
わからないから、妖怪とか化け物の骨と考えてしまうかも。
遠い過去に渡ってきた大型のレッサーパンダが山奥深く棲み、
里に下りてきて、わけわかんないから妖怪?なんてことも、
もしかしてあるかもしれない。
現代だって、ある生物の絶滅が話題になることから、
遥か過去に存在し、時代を経て絶滅した生物もいるかも。
その妖怪の姿が詳細に記された古文書の数々や骨、化石の
正体を探る、江戸時代の本草学者や文化人たちのように、
現代の古生物学の科学的見地で探っていくのは、面白い。
更に、異文化の専門家も巻き込み、妖怪を掘る妙味。
「荒俣宏妖怪探偵団」の一員だけあって、
知的遊戯と嘯いても、ガチに本気な研究になっていますね~。 -
才能の無駄遣いーー著者にはこの言葉を進呈したい。
文章はユーモアが散りばめられ、素人でも大変読みやすかった。古生物学に憧れながらその道に進まなかった者ゆえ、この手の噛み砕かれた読みものはとても素敵! 学問って面白いなと改めて噛み締める。 -
妖怪や民話の類は、当時の人なりにわからない事象を理解しようとした足跡でもあり、ユーモアでもあると思う。
一欠片の真実が含まれているかもしれない浪漫と、わからないなりにわかろうと工夫した結果生まれた話の面白さ、この二つの魅力がある。
筆者は真面目に全力で遊ぶタイプの方のようだ。
本作では、古生物学者の視点から丁寧に可能性を拾いつつ荒唐無稽で夢のある仮説を披露している。
この点が、非常に面白かった。 -
この本の著者が監修を務めた「怪異古生物考」と同じような
主旨の本。古生物学者がその知識で妖怪とその起源を考えて
みる、という本だ。「怪異古生物考」が古生物学で妖怪を
考えることを通して読者を妖怪の世界に導こうとしている
本だとすれば、この本は逆に古生物学の方へ導こうとして
いる本だと感じた。 -
真実は確かめようもないからこその面白さがあった。ヤマタノオロチを始め、なるほどそうかも!ということの連続。現在の科学の立ち位置について考えさせられた。