平成論―「生きづらさ」の30年を考える (NHK出版新書 561)

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  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784140885611

感想・レビュー・書評

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  • 東工大のリベラルアーツの先生が宗教を軸に平成を語る内容。興味深いのは中島岳志の「スピリチュアリティーとナショナリズムの融合」に関する箇所で昭惠夫人について語っている部分。ナチュラリストとしてのナショナリストである昭惠夫人が、右派権力者である安倍晋三氏とダイレクトに結びつく事を懸念。この根っこにあるのは60年代のヒッピー運動の流れの一つが右傾化し、陰謀論やスピリチュアル・ナショナリズムへと展開しているとのこと。
    本書刊行後、令和に入り安倍晋三氏が銃撃され、ひとつの時代が終わったことを意味するようにも思えるが、この事件から別の形で政治と宗教の問題がクローズアップされている。この問題は本書で論じられている部分とどのような関係にあるのか、それとも全く無関係な別問題なのか。平成から令和へと続く政治と宗教の問題の連続性について、本書を手掛かりにあらためて問い直す必要があるのではないかという気にさせられる。

  • ◆5/24 シンポジウム「自由に生きるための知性とはなにか?」と並行開催した「【立命館大学×丸善ジュンク堂書店】わたしをアップグレードする“教養知”発見フェア」に登壇者の推薦書としてご紹介いただきました。
    http://www.ritsumei.ac.jp/liberalarts/news/article.html/?id=22
    本の詳細
    https://www.nhk-book.co.jp/detail/000000885612018.html

  • 我らが東工大の誇る教授である池上彰、上田紀行などリベラルアーツ研究教育院の 4 人の先生によって書かれた本である。平和を目指す思いを込めて名付けられたが、多くの人が「生きづらさ」を感じ、「生きる意味」を見出せず、「生きている実感」がなかった平成の時代、実際はどのような時代だったのか?宗教の視点から平成を振り返っていく。
    (生命理工学系 B2)

    皆さんは自分が生まれ、育ってきた「平成」という時代がどんな時代か知っていますか?人間は社会によって作られるとすれば、自分がどこまで時代の影響を受けているのかを知ることは必須でしょう。この本では「生きづらさ」をキーワードに平成という時代を読み解いています。「昭和」の影響下で育った皆さんのご両親や先生達との違いを知るヒントにもなることでしょう。東工大リベラルアーツ研究教育院の4人の教員の共著ということで、1冊で4人の視点を知ることができるお得な本でもあります。
    (選定年度:2019~)

  • 読了。
    平成論、とあるが、実際は平成時代の宗教のあり方に対する対談集。オウム事件や仏教の衰退について、平成時代の閉塞感を誘因とするような記述は、ちょっと違和感あった。平成って、そんなに閉塞感に満ちたつらい時代だったっけかな…?

  • 「平成の社会と宗教」というテーマで4人の論者がそれぞれの立場から平成の30年を振り返り語った本。
    平成の30年間は、ぼく自身が生まれてから今までの期間とほぼ一致したので、この30年間の振り返りはすごく身近に感じた

    今まで宗教について、深く考えたことがなく、なぜ人は宗教にはまるのか?について考えさせられたり、仏教やキリスト教など2000年以上もの変わらず続いている宗教を学ぶ意義があるのかを考えるきっかけになった。

    WHOによる健康の定義も1998年にスピリチュアルという言葉が加わるほど宗教は密接に関わっている。

    こと日本では宗教に対する嫌悪感は多少あるようだが、これはおそらく1995年の地下鉄サリン事件を起こしたオウム真理教の影響が大きい。
    しかし、実際は宗教団体に対する信仰は低下しているものの、パワースポットやオーラなどのスピリチュアル(宗教性)に関しては、存在意義が強くなってきている。

    これは、ひとえに現在の人たちの「生きづらさ」を反映している。
    昭和時代の敗戦から豊かな日本を取り戻そうと一丸となってひたむきに頑張っている時代には感じることのなかった「なぜ生きているんだろう」という悩みが、バブル崩壊後の平成に一気に溢れてきた。

    ものは溢れて豊かなのに、なぜか生きている実感がない。そういう人にとって、拠り所にできるもの、それが宗教なのだろう。
    個が強くなってきている昨今、教団としての宗教は弱くなっているかもしれないが、教団とは関係ない個人に対する宗教性は強い。

    人が何を拠り所にして生きていくのか?最近は高齢者の在宅医療に関わっているので、いろいろ考えるきっかけになった。

  • 「平成」とは、平和国家を目指してきた日本が、今後も平和を目指していくのだという決意表明が感じられました。このとき私の心の中で重苦しさがスッと消えたのです。ある種の解放感でした。元号とは、不思議な力を持っています。(p.16)

     ダライ・ラマ14世に会うたびに驚かされるのが、チベットの仏教の信者たちの心の平静ぶりです。彼らには、輪廻転生、つまり「自分の命は永遠なんだ」という思いがある。今はかりそめの人生で、その後がまたあると信じていれば、簡単なことでは絶望しないのかもしれません。「永遠の命」という思いが心の平静をもたらす。宗教というものは、仏教でもキリスト教でも、本来はそのようなものだったのではないでしょうか。(p.53)

    「スピリチュアリティ」とは、正確な意味は後述しますが、わかりやすく言えば、「生きる意味の探求」のことです。伝統的に人は「生きる意味」を見失ったとき、宗教の教典を開き、また祈りや同じ信仰者との語らいのなかから「生きる意味」を見出そうとしてきました。しかし、先のニューエイジにも見られたように、現代にあっては宗教を介さずとも意識変革や大いなるもの(宇宙・自然・生命体)とのつながりを感じることで「生きる意味」にアプローチすることが可能です。(p.80)

    「いのちには三つある。まず第一にそれぞれが親から先祖から頂いた自分自身のいのち。二つ目のいのちは教訓を伝えるという使命、三つ目のいのちが一生懸命。それはやっぱり3.11を経験しなければ思いつかないことだったし、それがなければ悲しみ、苦しみ、絶望をわからないで、なんとなく一生を送っていたかもしれない。」(及川秀子さん、p.102)

     真の「自由」は「支え」なしではもたらされません。支えなき社会は、人々を保身に走らせ、権威、権力の前で無力となってしまうことを私たちは見てきました。となれば、今後の日本社会の課題はいかに「支え」を再構築するかにかかっています。(pp.144-145)

    「不可能性」とは、「現実」という言葉の反対語を想定することができなくなった――という意味です。通常は「現実からの逃避」と言われていますが、95根にこうは「現実への逃避」ということが起きていた。理想も描けない、虚構も描けない、将来は良くなるというイメージやファンタジーすら描けない「不可能世の時代」――それが大澤真幸さんの時代区分ですが、これが始まったのが1995年前後であると見ているのです。(p.160)

  • 【問いかけて30年】「怒涛の時代」とも称される平成の世を、「生きづらさ」をテーマとして、主に宗教面から読み取ることを試みた作品です。著者は、東京工業大学でリベラル・アーツを教える上田紀行ら4名。

    「そんなこともあったなぁ」と読み進めるうちに、平成の一側面をわかりやすく解説してくれる一冊でした。難解なところはまったくなく、コンパクトでありながら同一テーマに関する複数名の指摘を合わせて読み進められるため、頭の中で比較をしながら考えることができる点も高評価です。

    〜私たちを取り巻く社会はさまざまな問題を抱えています。それらの問題の根底には,日本でも世界でも,若者を中心にして広がる「生きづらい」という感覚が大きく関係しているのは見過ごせない事実でしょう。〜

    やっぱり1995年は分水嶺の年だと再実感☆5つ

  • 「平成」という時代を、「宗教」という視点から分析した本です。社会の変化とそれをうけた宗教界の変遷が、相互に影響しあって平成の「空気」を作り上げた様子がわかりやすくまとめられています。

    「激動の昭和」につづく平成の30年は、「失われた20年」などともいわれるように、閉塞感のある時代だったような印象があります。
    もっとも、平成生まれの私にとってはこれが「フツウ」でしたから、そこまでネガティブなイメージではないのですが…。
    ただ、阪神淡路大震災やオウム真理教のサリン事件、9.11同時多発テロや3.11東日本大震災など、多くの「事件」が印象に残っている時代ではあると思います。
    それぞれの事件によって、社会全体が「暗く」なったり、その流れを変えたり(特に昨今ではポピュリズムやナショナリズムがその勢いを増していると思います)したことも、平成の時代の特徴なのかもしれません。

    なかでも本書では「生きづらさ」という言葉がキーワードとして取り上げられていました。昭和のように地縁血縁が薄くなり、コミュニティが弱体化する中で、個人個人が「生きている」という実感を持ちにくくなったり、「生きている」ことの目的を見出せなくなったりしている。そのことが「生きづらさ」の原因になるし、またそれまでの宗教観のままでは様々な人々の「つらさ」を救うことができない。
    これらの分析は説得力がありましたし、平成という時代の「核心」をついているように感じます。

    宗教学についてや宗教論についての記述の部分では少し読みにくい部分もあるかもしれませんが、全体としては中学・高校生にとっても読みやすい本だと思います。
    平成の時代を振り返る際に、とてもいい本だと感じます。

  • 思ってたのと違ったけどまあまあ
    平成論というタイトルに惹かれて読んだけれど,中身は平成における宗教論.池上さんのわかりやすい総論のあとに各著者がそれぞれ1章ずつ考えを書いている.
    ざっくりまとめると,バブル崩壊からの心の拠り所として宗教は力を持ったが,オウムの事件で敬遠.ただスピリチュアリティはパワースポット巡りの流行だったり災害を機に改めて重要視されてきている,といったかんじ.
    日本での仏教が衰退しているのは僧たちが広める努力をしてこなかったからだ,という記述にはなるほどなと思った.日常で仏教にかかわる場面がないなかで葬式のときだけ高い金を要求されるのだからよいイメージはもてない.
    宗教観の希薄な日本で心の拠り所を確保するには,各個人のリベラルアーツ(自由にする技)にかかってしまっている.

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著者プロフィール

池上彰(いけがみ・あきら):1950年長野県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、73年にNHK入局。記者やキャスターを歴任する。2005年にNHKを退職して以降、フリージャーナリストとしてテレビ、新聞、雑誌、書籍、YouTubeなど幅広いメディアで活躍中。名城大学教授、東京工業大学特命教授を務め、現在9つの大学で教鞭を執る。著書に『池上彰の憲法入門』『「見えざる手」が経済を動かす』『お金で世界が見えてくる』『池上彰と現代の名著を読む』(以上、筑摩書房)、『世界を変えた10冊の本』『池上彰の「世界そこからですか!?」』(以上、文藝春秋)ほか、多数。

「2023年 『世界を動かした名演説』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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