幸福な監視国家・中国 (NHK出版新書 595)

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  • Amazon.co.jp ・本 (254ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784140885956

作品紹介・あらすじ

一体何が起きているか!?

習近平体制下で、人々が政府・大企業へと個人情報・行動記録を自ら提供するなど、AI・アルゴリズムを用いた統治が進む「幸福な監視国家」への道をひた走っているかに見える中国。
セサミ・クレジットから新疆ウイグル問題まで、果たしていま何が起きているのか!?
気鋭の経済学者とジャーナリストが多角的に掘り下げる!

感想・レビュー・書評

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  • そろそろSFが現実になりつつある中、中国が取り組んでいる先進的すぎる取り組みを紹介する本です。
    思ったのは、技術が出てきてから実戦投入されるまでの間がとにかく短いということ。これは日本は負けかねない、と危機感を抱きましたが、もはや日本は日本で勝てるフィールドに特化した方が良いのでしょうか…。
    しかし、そろそろSFをもっとマジメに読まなきゃかも…と思いました。「1984年」も「すばらしい新世界」も、こういう様々な本で触れるのでざっくりしたイメージが頭の中で生まれつつあるのですが、逆に危険ですね。正直、今のところどちらも大差ないと思っていて、それゆえ本著の「いや、ビッグブラザーじゃないんだよ!」というのはあまりピンと来ていないのですが。

    具体的なところで、芝麻信用の「よくわからないシステム」によって行動が評価されて(中略)人々はいわゆる「自発的な服従」と言われる行動をとるように…というくだり、PayPayの青バッジと同じですね。なんでバッジが取れるのかわからないからYahooのなんちゃら会員になってみる、とか。
    こういうパノプティコン的な「黒い」マーケティングが、民主主義国家においても今後増えていくのでしょうか。

    新書なので読みやすいかと思ったのですが、第5章と第6章の読みづらさが凄い。共著者のジャーナリストが書いたカジュアルな感じの第4章からの変化度合いといったら…同じ経済学者の著者でも第1章や第7章ではそんな印象は抱かなかったので、論文が出典なんでしょうか(そんな訳はないと思うけど)。

    情報の鮮度を考えると、早く読んだ方がいい1冊なのかも。

  • 「一九八四年」のディストピアのイメージで中国を見てしまいがちだが、中国の現状は功利主義を追求した結果であり、中に居る人にとっては快適である。
    私達は過剰に中国をディストピアとして見ているが、実態はそこまでではない。
    しかしながら、監視の仕組みが新疆ウイグル自治区の迫害など、俄には信じがたい(信じたくないような)問題が起きているのも事実である。

    私達は、自分の幸せがマイノリティの犠牲の上に成り立っていると知ったとして、今の幸せを捨てられるだろうか?
    外から見ていると、監視社会には嫌悪感を抱きがちだが、多くの人にとっては快適であり、恐らく自分もそちら側の人間になるのだろう。
    そう考えると、中国やロシアで暴動が起きないのもそう言うことなのだろうと思う。
    でも、民主化運動が起こる可能性は否定しないし、起きて欲しいと勝手に願っている。

  • 監視することで、より社会に適合的に生きた人がいい思いをする点数制度。怖いけど、今の日本もそうなってるんじゃないの?みんなそれなりに生きることを要求される社会を笑えない。「あの人はずるい」「私の方が我慢してる」って思いながら生きるのは…どうなんだろう。

  • 以前、中国に行ったとき、空港からホテルに向かったタクシーの中に財布を忘れてしまったことがあった。ホテルの人に伝えたところ、すぐにビデオをチェックすると言って確認をしてもらった。結局夜なのでナンバーが見えなかったということだったのだけれども。その後、警察に行ったとき、当たり前のようにテレビのモニタで空港の様子を見て探そうとしていた。結局、見つからなかったが、ビデオで見られているということが全く当然のことと認知されていることに少し驚いた。

    この本で書かれているように、現実世界では監視カメラやWeChat payやAlipayなどのスーパーアプリを通して行動を把握され、もちろんインターネットでもその行動が監視されている中国社会において、中国人はそのことに不満を抱いていないということなのである。国際的なアンケートによると、自国の進んでいる方向が正しい方向に向かっているかという質問に対して中国は94%がYESと答え、平均の58%を大きく上回り、またテクノロジーを信用するかどうかという質問に対して91%が信頼する(日本は66%)と答えている。「幸福な監視社国家」においては、人による監視社会よりもAIなどのテクノロジーによる管理社会の方が公平で望ましいと考えているのかもしれない。典型的な例を挙げると、芝麻信用の個人信用スコアが広く使われるようになることで、結果的に自発的に行儀のよい行動をするようになっているという。そして、それは情報を取られてはいるが、悪いことではないと考えつつあるのだ。

    ユヴァル・ノア・ハラリのベストセラー『ホモ・デウス』において、「人間至上主義」の世界が終わり、「データ至上主義」の世界が始まるのかもしれないと告げた。今の中国が進む道は奇妙にそのイメージに沿っている。ユヴァル・ノア・ハラリも、「データ至上主義」を語るときに、米国よりも中国をこそ想定していたとしても、それほどおかしい話ではない。これまでは情報を管理する上で分散機構が優位に働き、共産主義圏に対して自由主義圏が経済上圧倒的な勝利を収めることになったのだが、IT技術の進展によって情報の集中管理が分散管理に対して優位に立つことになり、独裁的集権国家(独裁者は人ではなく、AIによる判断であってもよい)に分がよくなりつつあるのかもしれない。

    「「監視社会」をめぐる対立は、じつは「現時点における気持ちの悪さ」を強調する立場と、将来における気持ちの悪さの消滅(=慣れ)」の蓋然性の高さを強調する立場との対立として理解できるのかもしれません」
    と著者は言う。そして、日本では後者が勝利をしてきた、とも。果たしてそうだろうか。日本という国において、人は流されやすいが、変化することにも及び腰であるように思う。

    中国と日本の違いとして、特に上海や北京などの都市部では、いまやどこでも現金は必要なく、WeChatなどのスーパーアプリだけですべて用が足りるようになっている。食事もアプリで頼んで配達してもらうことがとても当たり前になっている。それはとても便利な体験なのだ。そして、そのときわたしのデータはすべて取られているのだ。そして、さらに次の体験は向上する。

    中国が将来を先取りする超先進国家なのか、自由に逆行する国家なのか、その答えはそんなに遠くない将来に出るのかもしれない。

  •  闇の自己啓発にて課題図書として挙げられていた1冊。中国の監視システムとそのあり方について勉強できてオモシロかった。ファクトフルネス的なアプローチで、「中国の監視システムが人民を縛り付けているジョージ・オーウェルの「1984年」を彷彿とさせるディストピアだ!」という固定観念が柔らかく解きほぐされていく感じだった。自分の個人情報と引き換えに利便さや安心を手に入れることは日本を含み先進国では既に起こっている。(たとえば街中にある監視カメラなど)中国ではあらゆる履歴をビッグデータとして活用した、信用スコアに代表されるような情報活用が広がっている。中国では活用の程度が他国に比べて大幅に広がっているだけ。なぜそんなことになるかと言えば中国ではテクノロジーへの信頼性が高く、その理由として功利主義を挙げており、市民社会、道徳といった議論にまでリーチしている。このようなテクノロジーの背景の話が興味深かった。今のコロナ時代はまさに功利主義が重要視されるのでテクノロジーによる統治が拡張する機会なのだろう。AIが結論に至る過程がブラックボックスであるがゆえに「自発的な服従」と言われる行動を取るようになったり、そもそも社会のアーキテクチャ自体を服従させる設計にしたり。監視にとどまらず全体幸福を追い求める社会の実現はすぐそこなのかもしれない。
     中盤くらいまでは中国での監視社会とテクノロジーの発展について解説してくれているものの終盤にかけては負の側面である監視による弾圧について。よくネットで話題になるウイグルの話だった。単純な暴力ではなく年密に弾圧しているところが想像の何倍もエグくて怖い。監視を通じて緩やかな罰も活用しつつ全体的には幸福で良い社会なのかもしれないが、こんな風に悪用して人を抑圧する可能性があるから人間はどこまでも信用できないなと思う。つまり人間の理性でブレーキかければいいと思ってもホロコーストと同様システム化されてしまうと止められない。単純な監視国家としての中国の状況に閉じないテクノロジーと人間のあり方を考えるにはうってつけの1冊。

  • 中国で監視の仕組みがそれほど抵抗なく受け入れられているという説明があったがそれは利便性が高まるためであり(功利主義の追求)、罰則規定もそれほど厳しいものではないからのようだ。

    一方で新疆ウイグル自治区では監視が宗教、文化に対する弾圧手段として使われている。この二面性は無視できない問題。

    日本もいずれ中国のような監視社会に移行する可能性は十分あるし、治安維持、個人情報の管理という意味では現在の内閣は強力な権限をすでに持っている。

  • ある時期を境に中国、特に上海や深圳といった経済都市の犯罪は減少し中国人のマナーが劇的によくなった(たぶん今や日本人のマナーのほうが悪い)。テクノロジー&経済大国となった中国を「独裁国家」で紋切りしてしまうことに前々から違和感を感じていた。その理由が監視社会の「光」に焦点を当てた本書でクリアになった。

    強力な一党体制と圧倒的な内需型経済を有す超巨大実験場の中華人民共和国は、アリババやテンセントが先導したIT革命によって一気に超先進国に躍り出た。リバタリアン・パターナリズムに基づくアルゴリズム的公共性は計画経済の進化系といえよう。そして功利主義のもと、『1984』的ディストピアではない、国民が幸福な社会が実現されるのであれば、民主主義の限界を叫ぶ我々がどうして批判出来よう。

    他方で新疆ウイグル自治区に対する中国政府のパターナリズムという従来懸念された動きも見せる。右傾化する世界経済のなかこうした動きは緩慢な迫害をもたらす危険な動きといえる。何を「功利」とするか、誰が基準で、どう判断するか。道徳の画一性が本当に幸せの答えなのか。中国は共産主義の新たなる形ではあるが、民主主義の新たなる形になるにはまだまだ課題が多そうだ。

    「イノベーションのジレンマ」の後発優位を生かし、いまやAI技術大国となった中国の光と影を描いた良書である。

  • 面白かった。

    監視され、政府から抑圧される中国人は不幸に違いないというある種の思い込みに対し一石を投ずる本。
    功利主義的には監視国家化は政府のためではなく、国民の幸福を求めた結果とも言える。
    これを読むと、中国政府のほうが、政権維持のために公文書改ざんや定義変更を行う日本より、よっぽど国民のための政治をしているんじゃないかと感じざるを得ない。
    少なくとも一貫性を持った合理的な政治をしており、今後ますます中国は巨大化していくであろうと想像できる。

    中国において国内ECが隆盛したのは政府の規制によるものかと思っていたが、中国市場にマッチしたものを作り上げられたからだと考えを改められた。
    中国において「モノ」より「誰から」が重要であり、モノに対する評価より「売り手」に対する評価の重要視されるとのことだった。
    日本人は売り手を無条件に信用しがちだが、Amazonレビューや食べログへの不信が募ってる現状を見るに、今後はそちらに進んでいくかもしれない。

    一方で、西洋的な価値観がやはり正しいのではと思う自分も捨てきれない。
    損得勘定を基にした道徳観では、あらゆることをルール化しなければならなくなる。
    逆説的に「ルールの範囲内なら何しても良い」こととなり、変化の早い社会に対応していけるのか疑問である。

    ただ日本社会の方向性として、今後どんどん監視国家化していくと推測する。
    あとを追うものとして、今後の中国の思想史・社会問題に注目し、同じ地雷を踏まないようにしていきたい。

  • 儒教国という特殊な環境があるとしても、功利主義を進めていけば自然に行き着く社会と思う
    テロという少人数による大量殺人が容易になった社会においては、疑わしきは罰せずという原則はすでに崩れつつある
    さらに功利主義者にいわせれば、殺人が疑われる人間が次の殺人を犯すリスクと、無実の人間を罰するリスクの天秤で今の法があったわけで、一人が大量に殺せるならせめて釈放はリスクが高いということになると思う

    監視が進んで犯罪が減少することで逆に犯罪予備軍の人の人権が守られるとかかなり奥深い話だと思う

    今後急激なテクノロジーの進化で直面する功利主義を根拠とする管理社会にどう対応していくかが大きなか課題と感じた

  • 「監視社会」をめぐる対立
    ・「現時点における気持ちの悪さ」⇔「将来における気持ち悪さの消滅(=慣れ)」
    ・後者にしても、一定の時間や手続きといったものが必要だという事実と矛盾はしない
    ・「幸福な監視国家(社会)」の本質は、「最大多数の最大幸福」の実現のため、その手段として人々の監視を行う国家(社会)、ということになる。
    ・伝統中国:「公論としての法」、「徳」による社会秩序の形成

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著者プロフィール

梶谷懐1970年生まれ。神戸大学大学院経済学研究科教授。専門は現代中国経済。神戸大学大学院経済学研究科博士課程修了(経済学)。博士課程在籍中に中国人民大学に留学(財政金融学院)。神戸学院大学経済学部准教授などを経て、現職。著書に『「壁と卵」の現代中国論』(人文書院)、『現代中国の財政金融システム』(名古屋大学出版会、第29回大平正芳記念賞)、『日本と中国、「脱近代」の誘惑』(太田出版)、『日本と中国経済』(ちくま新書)、『中国経済講義』(中公新書)。共著に『幸福な監視国家・中国』(NHK出版新書)など。

「2023年 『所有とは何か』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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