残酷な進化論: なぜ私たちは「不完全」なのか (NHK出版新書 604)

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  • NHK出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (218ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784140886045

感想・レビュー・書評

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  • 更科さんの本が面白いのは、文章が上手いからだと思う。
    進化について、更科さん並みに理解している人は他にもいるだろう。しかし、これほどわかりやすく面白く書ける人はいないんじゃないか。
    研究者や専門の学生に向けた文章ではなく、あくまで(生物学や進化に興味があるとはいえ)一般向けの本なのだから、あまり知識のない人にもわかるように書かないといけない。しかし、よく知っている人も読む可能性があるから、そういう人も納得させられないといけない。さらに最後まで読めるリーダビリティが文章と構成にないといけない。そのバランスのすばらしさ。
     書き出しの台風のたとえも良いが、「私たちは小さい物なら、親指の先と人差し指の先で掴むのがふつうである。でも、チンパンジーは、親指と比べて人差し指が長すぎるので、親指の先と人差し指の横腹で物を挟むことが多い。」(P139)と、ここまでは、ほかの人でも書ける。しかし次の一文「私たちも、ドアの錠前に鍵を刺して回すときに、こういう指の使い方をする。」これを読んだら、誰しもやってみて「ああ、なるほど」と腑に落ちる。この一文が書けるか書けないかで、一般向け科学の本を書く才能が決まると思う。
    また、更科さんの人柄が素晴らしい。変に煽ったり、予測を暴走させたりはせず、自説を語るときも、読者が納得できるよう、きちんとエビデンスを提示し、違う可能性も示してくれる。また、人間が思い込みがちな「人間はほかの動物より優れているのだ」という考えをあらゆる方向から「それは間違っている」と語るのもいい。

    いい科学の本を読む悦びがあった。

  • 人は生物の中の一種類であり、他の生物と比べて特に優れているわけではない。進化してゆく中で、環境に最適ではない部分や必要ない所は退化もしてきた不完全な部分を持つ。心臓、肺、腎臓、尿、手足の指、目、骨格などいろんな部位で進化の過程を考察している。そして今が人の完成形ではなく、環境に合わせ淘汰や進化が今後も進んでゆく。人は生物である以上いつかは絶滅する運命にあるのだ。

  • 【kindle unlimited】
    表紙はおどろおどろしいですが、内容は
    進化についてとても面白くかつ分かりやすく
    書かれています。

    人は食物連鎖の頂点ではあるけれど、
    進化の頂点ではないということ、
    考え方を少し変えれば台風すら生物である、など
    著者の考え方を辿る読書は楽しかったです。

    心臓の仕組みを復習できたり、
    他の生物のほうが優れているところが
    あることを思い出したりしました。

  • 「行動の仕方によって進化が起きる」というフレーズに納得しました。
    さらに、細菌が40億年も細胞分裂をしながら生きてている点や死は自然淘汰の一部であることや人類の内臓が完全ではないということが、章毎に詳細に書かれており、また読みやすい本だと思いました!

    この作書の別の作品も更に読んでみてみたいと思いました。

  • ある政党がダーウィンの言葉を誤って伝えたそうだ。
    それは幾度も、各国で誤用される内容だという。
    言葉は時には曲げられ、自己に都合の良いように解釈されるものだ。
    言葉とは不完全で、解釈は難しいものだ。

    本書でもダーウィンの言葉が登場する。
    中でも印象的なものが、
    「進化は進歩ではない」71頁
    「存在の偉大な連鎖」を信じたい人が多い、という指摘であるが、まさにこの言葉は我々が心に留め置くべきことだろう。
    「ある条件で優れている」ということは「別の条件では劣っている」ということだ(70頁)も同様に、忘れてはいけない。
    だから、他人の欠点や動物の一部の性質を見ただけで、即ち自分より劣ると考えることは愚かなことだ。
    いやいや…そう考えてしまうこと自体が、ヒトの欠陥だ。
    そしてまた優れたところなのかもしれないが。

    さて、おもしろいのはヒトと馬の競争。どっちが勝つと思う?
    もちろん、ここに条件をつけなければいけない。
    馬には人が乗っている、短距離か長距離かでも違うのだが、なんと、ヒトが長距離走で勝った!
    逃げることには長けていないが、追いかけていくのは人は得意らしい。
    また、ヒトは4色覚から2色覚になり、3色覚になったそうだ。
    ただ、本書で触れられてはいないが、いわゆる色覚異常は男性にはかなりの割合でいるそうだ。
    一説にはAB型の人と同じくらいだとか。
    それが自然淘汰されないのは、多分何かの理由があるのだ。
    たまたま今は、それが業種によっては不適なだけで。

    色の見え方も、発達の仕方も、たとえ他の人と違っていても、大丈夫だ。
    218頁のロマン・ロランの言葉のように、
    「あるがまま世界を見たうえで、それを愛するには勇気がいる」
    のならば……。
    それを受け止められるだけの強さを私は持ちたい。

  • 人類は進化の終着点にいる、という自負なる認識に、様々な論拠を通して挑んでいる。へぇーと感心させられたり、そうなんだと新たな知見が得られたりで、読み進めることができる。ヒトは赤ん坊から大人になるに従い、能力の向上というプラス方向の成長しかないと思っていたが、そうではない事例が紹介されている。脳に関しては、他の書籍でも、赤ん坊から大人になるにつれ、不要な(
    使われない)能細胞は消えていくという話を目にしたが、それが酵素レベルでも起きていることを教えられた。大人の中で、ミルクを飲むと、腹の調子が悪くなる人は、その答えを見つけられる。最近、新型のコロナウィルスが発生し、その解明に全力が注がれているが、人類と細菌の生存闘争には終わりがないのだろう。

  • ここしばらく読んだ中で、最もタメになった本。意外。消化吸収そして排泄の話、ヒトはどうやって「走れる」ようになったのか、人類はほんとうに「優れて」いるのか、等々、生物としての自分のありようを改めて考えさせられた感じ。

    生きとし生けるもの、その目標はただ「生きる」こと。それは艱難辛苦を乗り越えろ、という意味では決してなく、自分としては生きてればいいんだから楽にしようよ、という意味にとれた。

    生きるのに必要なこと、それって何がどのくらい?と考えていくと、ヘンにミニマライズしなくても、これでいいじゃん、と納得できる気がする。まぁそれはもう自分の残り時間が見えてればこそ言えることなのかもしれないけれど。

  • 生物は生きるために生きている。人間も例外ではない。今生きている人間も未だ進化の途中にあることを痛感した。

  • この本で繰り返し言われていることは、ヒトは進化樹の一番上にいるわけでは無いと言うこと。人類が他の生物に較べて特に優れているわけではないということである。進化がすべて良いと言うわけでなく、腰痛だとか他の動物と較べて難産になったとかヒトが進化する中で抱えてしまった問題も多々ある。
    面白いトピックスも満載である。
    生きものの定義によっては台風も生きものといえる
    窒素の捨て方の種による違い。人であれば尿にして捨てるが魚はどうしてるの
    ヒトと腸内細菌の微妙な関係
    大人になってもミルクを飲むのは人間だけ
    ヒトとチンパンジーはどちらが原始的か・・・最終共通祖先からどちらの方が進化したか
    一夫一妻制は絶対ではない・・・ヒトが他の類人猿と別れた要因が一夫一妻制が契機かもしれないが、だからといって今の人類の本質が一夫一妻制と限らない
    単細胞生物は永遠に生きるが、死ぬことがないと進化をする事もないので一瞬で死滅する可能性がある。死ぬことで多様性がうまれ変化に耐えられる個体が出てくる可能性がある。
    等々読んで損はない一冊である。

  • 数年前から人類史にハマっています。
    先年、更科さんの「絶滅の人類史―なぜ『私たち』が生き延びたのか」(NHK出版新書)をおもしろく読みました。
    更科さんの待望の新作とあって、早速アマゾンで注文した次第。
    いや、知的好奇心を満たされました。
    人類は「万物の霊長」などと言われますが、果たしてそうなのでしょうか?
    本書を読めば、決してそんなことはないと分かります。
    むしろ、我々人類は出来損ないなのでは? とさえ思います。
    直立二足歩行のため高い圧力で血液を全身に送らなければならないヒトは、狭心症や心筋梗塞になりやすくなりました。
    元々は水平だった脊椎を直立させ「不自然な姿勢」で生活するようになったため、多くの人が腰痛に悩まされています。
    また、私たちヒトは、哺乳類の中では特に難産な種として知られています。
    さらに、この眼だって、どうやら鳥類の方が優れているようなのです。
    そう、私たちヒトは、実は大変に「不完全」な存在なのです(だから今も進化が人知れず起きているわけですが)。
    本書によれば、陸上生活への適応という点から見ると、一番優れた種はトカゲとニワトリ。
    ただ、水中生活への適応という点から見ると、順番は逆さまになります。
    「何を『優れた』と考えるかによって、生物の順番は入れ替わる。どんなときでも優れた生物というものはいない。客観的に見て優れた生物というものはいないのだ。」
    実に示唆に富む指摘です。
    私たちヒトは、何かと言うと大きい脳を誇っていますが、脳は体重の2%しかないのに、身体全体で消費するエネルギーの20~25%も使ってしまいます。
    「もしも飢饉が起きて農作物が取れなくなり、食べ物がなくなれば、脳が大きい人から死んでいくだろう。だから食糧事情が悪い場合は、脳が小さい方が『優れた』状態なのだ。」
    本筋とは離れますが、私たちがミルクを飲めるようになったのは「自然淘汰」の結果というのも興味深いです。
    私たちヒト(ホモ・サピエンス)が現れてからおよそ30万年が経ちますが、そのほとんどの期間、ヒトの大人はミルクが飲めなかったのです。
    理由は、ミルクを消化する酵素「ラクターゼ」が成長するにつれ減るから。
    しかし、大人になってからもラクターゼを出し続ける人の方が自然淘汰で有利になり、それで大人になってもミルクを飲めるようになったらしい。
    ミルクを飲めるようになったのは、いわば突然変異。
    こうした突然変異、つまり進化は、この1万年の間に何回も起きているというのだから驚きます。
    私を含め多くの人は、「進化はゆっくり進むもの」と考えますが、そんなことは決してないのですね。
    たとえば、ハワイ諸島に棲むコオロギは、非常に速い速度で進化が起きたことが知られています。
    翅(ハネ)に突然変異が起きて、オスが鳴かなくなったというのです。
    鳴かなければ寄生バエに見つからないので、生きていくうえで有利らしい。
    この性質は、わずか5年でハワイ諸島のコオロギに広がったというからびっくりです。
    つまり5年で進化したというのですね。
    おお。
    面白すぎて、あっという間に読了。
    他の生き物に対して謙虚になること請け合いです。

著者プロフィール

更科功
1961 年、東京都生まれ。東京大学教養学部基礎科学科卒業。民間企業を経て大学に戻り、東京大学大学院理学系研究科博士課程修了。博士(理学)。専門は分子古生物学。現在、武蔵野美術大学教授、東京大学非常勤講師。『化石の分子生物学――生命進化の謎を解く』で、第 29 回講談社科学出版賞を受賞。著書に『若い読者に贈る美しい生物学講義』、『ヒトはなぜ死ぬ運命にあるのか―生物の死 4つの仮説』、『理系の文章術』、『絶滅の人類史―なぜ「わたしたち」が生き延びたのか』など。

「2022年 『人類の進化大百科』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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