サボる哲学: 労働の未来から逃散せよ (NHK出版新書 658)
- NHK出版 (2021年7月12日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (286ページ)
- / ISBN・EAN: 9784140886588
作品紹介・あらすじ
万国の労働者よ、駄々をこねろ!
コロナ禍でさらに屈折する現代の労働倫理や規範意識。
「はたらかざるもの、食うべからず」。私たちはなぜ心身を消耗させながら、
やりたくない仕事、意味のない仕事に従事し、生きるためのカネを稼ぐのか。
社会からはいつでも正しい生き方や身の処し方が求められ、
もっと頑張れ、努力しろと急き立てられる。そこから逸脱すれば落伍者。そんな世界は正常か?
気鋭のアナキスト文人が、フーコーからグレーバー、
『古事記』から『鬼滅の刃』、果ては近所の野良猫までをも俎上にあげながら、
資本主義の絶対的な権力性を背景にした労働倫理を相対視し、
そこから踊るように抜け出す道を拓く。未来をサボれ!
感想・レビュー・書評
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独特の文体に、最初ちょっと面食らう。
が、自分のツボには結構はまった一冊だった。
老後のために貯蓄。
明日ちょっと楽になるために、今日のうちに準備しておく。
こういう考えを美徳として育った。
今日も、明日も、きっとこうしていくのだろう。
ところが、それで長い間やっていくと、ふと気づく。
いつ「楽ができる」未来が来るのか。
このまま終わってしまうのではないか。
自分が何かに囚われている。
金銭に?
あるいはものを所有することに?
それどころか、労働そのものに?
年を重ねていくと、年々この気持ちはリアルに切迫してくる。
こんな心境でいると、この本の記述は刺ささること、刺さること。
筆者のようなアナキストが信じる共同体に、相互扶与の関係で社会がうまく回っていくのかに、にわかには信じられない気持ちが、正直に言えばある。
自分は海賊にもなれないし、ラダイトたちと一緒に運動もできないだろう。
だからこそ、かな。
何かこの本に心が揺さぶられる気がする。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
いつも勢いがあってとても楽しく読む。いかに自分の生を拡張させることができるか、拡張を邪魔する社会からは抜け出し、やっつけちゃえと楽しく説く。世界史の流れもあってわかりやすい。今回、アナキズムというのは無政府主義ではなく、無支配主義というのに納得した。無政府主義を目指す団体がそこで支配的な階層を作ってしまうと、それはアナキズムから離れる、というのがわかりやすい。学校なども支配的な閉鎖環境ならつぶす対象となる。常に駄々をこねたい。
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抗い難い魅力のある不思議な本。幸福の科学の映画の話もチラッと出てくる。千眼美子の舞台挨拶までチェックしていたのがすごい。
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働きたくない理由がすとんと腑に落ちた。そう言うことだったのかー。うすうす資本主義の奴隷とは思ってたけれどもや。そして合間に挟まれる長渕剛の歌詞が楽しみでぐいぐい読んでしもた。ホールドヨアラースチャーンスは自ずと。中動態についてもよくわかった。
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こんなに熱い本を初めて読んだ。
筆者の栗原さんの言葉を使えば、共鳴して、震えた。
アナキストとか、資本主義の奴隷とか、よくわからない。でも、間違いなく、私は一般常識(と思い込んでいるもの)とか、敷かれたレールとか、古き良きとか、あるかもわからない将来とか、そういうものに縛られて生きていたことがわかった。そのために今我慢しちゃあだめだよねってことも、頭ではわかった。(実行に移せるかはこれから。)
個人的には、ちょっと熱すぎて共感できない部分があった。暴動を、反逆を、破壊を、やれやれ!というような書き方はあまり好きではないな。まあ、言いたいことを我慢して、何もしないのは良くないけど。
労働について根本的に考えてみたことがない人、働くこと自体やだなって思ってる人、よかったら読んでみてください。
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ILL-BOSSTINOの影響で読んでみた。この系統の本は初めてだった、アナーキー、アナキズム。それなりに面白いが正直、人には勧めにくい…
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勢いのある文章がテンポ良く大層アナーキーで面白かったな…面白かったというのはどういう層に薦めればいいのかな…。海賊といきなりオイスターと千代田の松が折れる初夢とヴァージニア・ウルフのエピソードが面白かったな…いや、どの章にも面白いエピソードがあったな…と思い起こしています。ランボー怒りのハリエット、カキ食いてえだろう(備忘メモ)
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なぜいまオイスターなのですか?
オイスター食いてえだろう
梁塵秘抄
遊びをせむとや生まれけむ、戯れせむとや生まれけむ、遊ぶ子どもの声聞けば、我が身さへこそ揺るがるれ。
遊んでいないのは生きていないのとおなじことだ。
はしゃいでいないのはいきていないのとおなじことだ。
遊ぶ子どもの声を聞けば、わたしのこの体が揺るがされてしまう。
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人生は遊び
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大杉栄の研究者によるアナキズムの紹介本だが、哲学というよりも思想というかエッセイに近い内容。やや冗長でムダ話も多く、文体にも抵抗を感じる部分はあるものの、エッセンスを汲み取ればそれなりに参考になる部分や面白さはある(特に海賊の所は興味深い)。
一般的にアナキズムは「無政府主義」と訳されるが、大杉栄は「無支配主義」による「生の拡充」を唱えているようで、これはこれで重要な指摘ではある。とは言え、現実的には抗議・抵抗するにもバランスが必要である。「労働廃棄」を唱える著者も年収200万ながら非常勤講師という過酷な搾取労働をしているし、生きていくためには社会や制度とのそれなりの折り合いをつけて生きていくしかないのだろう。ただし、過度で過剰な奴隷的労働は避けなければないのは言うまでもない。