人口減少時代の再開発 「沈む街」と「浮かぶ街」 (NHK出版新書 724)
- NHK出版 (2024年7月10日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
- / ISBN・EAN: 9784140887240
作品紹介・あらすじ
あなたの街は大丈夫か!?
明治神宮外苑の再開発について反対の声が相次ぎ、議論を呼んでいることは多くの人の知るところとなった。
3棟の高層ビルが建てられる計画など、その開発スキームは高層化によって「保留床」を生み出し、得られた収益などで神宮球場を含む一帯の再開発にかかる事業費を補填するというものだ。
ほかにも福岡、秋葉原、中野、福井など、今まさに変わろうとしている都市を現地で徹底取材することで、再開発の裏側に迫ってゆく。
高層化ありきのスキームとなっていないか、街の個性や住民目線を置き去りにしてはいないか、そして、次世代に引き渡せるものとなっているのか――多面的な側面から検証する。
感想・レビュー・書評
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NHKスペシャル取材班による、これからのまちづくりのあり方を特集した際の内容を書籍化した一冊。
人口減少の時代を迎え、新たなまちづくりの必要性を問うために制作された番組であり、事例として、都内や福岡市、さいたま市、神戸市のような大都市の事例、福井市・富山市という地方都市の事例、岩手県紫波町の事例などを紹介しながら、これからの時代にふさわしいまちづくりや再開発のあり方を考えていきます。
再開発における高層ビルが建設される仕組みなど、専門的な内容もありながら、商店や飲食店の視点からまちづくりを考える内容など、幅広く捉えていると思います。
困難な面が多くありますが、著書内でも指摘されているように、この再開発の結果は将来世代にも影響するものなので、単なる利益の面だけでなく、多角的な視点での議論が求められることになってきます。
▼オガール紫波株式会社 岡崎正信氏
かつて中心市街地活性化法のもとで自分が手がけてきた「商店街が復活すれば町全体が再生する」という商業至上主義のまちづくりは間違いで、これからは人間中心のまちづくり、つまり「ここに住んでよかった」と思えるまちづくりをすべき
▼開発のポイント
①まずは「普遍的集客装置」をつくる
「集客のつくり方は、地方都市と大都市では全くアプローチが違う。いろいろな市民の声を聞くと、こんなブランドが来てほしいとか、こんなファストフードのお店が欲しいとか言われるんですよ。実際、ここでも言われました。だけど、ほかでもできたらそっちへ行っちゃうから。不動産価値を上げるための勝ち筋は、消費しない人たちをいかに賢く集められるかだと僕は思っています」
②テナントと賃料が決まってから施設を建築
▼神戸市の取り組みは、都市経営の一つの選択であり、現時点で成功とも失敗とも評価できない。しかし、人口減少の時代を生きる私たちが再開発に向き合う際のいくつかの重要な示唆を含んでいると思われる。
一つは、私たちはもはや目先の経済性を優先した場当たり的な再開発の傍観者ではいられず、まちづくりに新たな思想を持たなければならない時期に来ているということ。もう一つは、”自分だけが勝てばいい”という無益な競争から離れ、人口減少を認めた上で、都市の”持続可能性”、すなわち”未来の世代”のためにどのような街を引き継ぐべきかを、まちづくりの最優先のテーマに据える、ということではないか。
▼これからのまちづくりのあるべき姿
①都市圏ごとに容積率等の規制緩和による「ゴール」を設定
②計画段階からの実効性ある市民参加プロセスの導入
③過密化による街への影響の厳密な評価と予防策の実行
④「減築利用」「修復型」に対する新たな事業手法・支援策の実現
⑤地域の実情・個性に即した「公共性」を評価する仕組みづくり
▼再開発事業が多用される理由は、個々の建物の建て替えの場合にはないような税制・金融等の支援策が得られること、そして、事業推進のための強制力が付与されていることが挙げられる。要するに事業主体にとって使いやすい事業手法なのだ。
▼このような強制力や各種支援策が可能となっているのは、再開発事業が「公共性」を有するものとされているからである。そして、「公共性」があるということで、自治体によっては、再開発事業に対して多額の補助金を出しているところもある。なお、この「公共性」は、都市計画決定手続きや自治体による事業計画認可手続きなどにより担保されると説明されることが多い。
▼個々の再開発事業という部分最適な「点」の視点ではなく、都市圏という「面」の視点から、都市機能や居住・産業機能のバランスを確保するために容積率等の規制緩和による「ゴール」を設定し、実効性のある形で個々の自治体が都市政策を講じるという枠組みづくりも必要不可欠となっている。
▼本来の都市再生の趣旨から見ると、民間側からの提案制度というのは、民間の資金や創意工夫によって自治体だけではできないような都市再生を期待するものであった。しかし、民間側は、営利企業であるので当然だが、どうしても創意工夫よりも事業の推進とリスクの低減、収益の最大化が主眼となりがちである。
▼今後は、再開発を「実現」させることだけに注力するのではなく、過密化による街への影響を厳密に評価し、その予防策を早い段階から実行することが自治体に求められている。
▼再開発事業によって、地域のさまざまな活動にも使える広場などの公共空間を生み出し、それを自治体が取得することで事業を成り立たせる方向性も十分にあり得る話である。
▼これまでの再開発が持つとされる「公共性」は、高度経済成長期仕様の道路や駅広場の整備、木造密集市街地の解消などを目的としたスクラップ・アンド・ビルド、いわば、「リセット型」だった。しかし、今、社会・世論が考える「公共性」は、時代の変化に対応した都市機能の更新とともに、地域の歴史・個性も大切にした都市のリニューアルである。
▼これまでの再開発事業そのものの要件の中に、その街が持つ独特の歴史・魅力・コミュニティの継承ーつまり、独自の魅力を引き出すまちづくりに関わる要件も盛り込む必要があるのではないだろうか。
▼今、つくる建物はこれから100年以上、その場所に建ち続ける可能性が高い。つまり、現時点で投票権を持たない将来世代の街の形を決めているようなものである。自分達の代だけでなく、次の世代のためにも、責任をもってバトンタッチできる心豊かな街にしていくには、市民一人ひとりが街への無関心をやめることこそが実は最も大事なのである。
▼これから日本は世界でも類をない人口減少の時代に突入する。「今までと同じように」、「他の地域と同じように」、という発想では乗り越えられない大きな変化に直面する。私たちは、一人ひとりが、長期的な視点で自分たちの暮らす地域を、どのような場所にしていくのかを問われることになるとも言えるだろう。
<目次>
序章 なぜ全国の都市で高層ビルによる再開発事業が進むのか
第1章 未曽有の再開発ラッシュから見える日本の“今”
第2章 全国各地で顕在化する“課題”
第3章 再開発をしたけれど…
第4章 ユニークなまちづくり 地域の取り組みとは
終章 まちづくりのあるべき姿とは(特別寄稿)野澤千絵(明治大学政治経済学部教授)詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
#人口減少時代の再開発
#著者NHK取材班
24/7/10出版
都会の再開発に関するニュースを見るたびに、どう新しく進化するんだろう?と興味がわく。それと同時に、この開発はどんな人たちに恩恵があるんだろう?と疑問もわく。再開発についてちょっと考えてみたい
#読みたい本
https://amzn.to/4cyJGPX -
2024年 46冊目
日本の再開発に関する特徴、抱える課題、優良事例などを現地取材に基づき、丁寧に記した良書。
現在の事業スキームだと、物価高騰等で上昇し続ける事業費を賄うため、
低層:商業施設、高層:マンション・オフィス
の高層ビル開発が主流となっているが、本当にこの地域でこれいる?と思える再開発もあるのは非常に同感。
人口減少、気候変動に適合した、新たな事業手法をそろそろ生み出さないといけないかもしれない。 -
まちづくりに関わる方(特に自治体職員や住民の方)や、まちづくりに興味がある方(自分ごととしてして多くの方に関心を持ってもらいたい)に是非オススメしたい一冊です!
タワマン建設による再開発のリスクが詳しく書かれていたり、あえてタワマン建設を規制して再開発を行う神戸市や、地方の再開発のモデルとなるような岩手県紫波町の事例などが紹介されており、人口減少が進む将来を見据えたまちづくりを考える上で参考になる内容が多くあったと思います。
再開発は都市だけのものではなくて、古くなった家をリフォームするように、どのまちも定期的にリフォームしたほうが良いでしょう。それを怠れば、朽ちていく一方でしょう。
次の世代に少しでもいい形でまちを引き継いでいきたいものです。 -
良い例も残念な例も、様々な地域の開発事例が赤裸々に書いてあって大変勉強になりました。
「人口減少時代」に加えて、「工事費高騰」時代の再開発を考えるのは容易な話ではない。最低ラインとして、地域の身の丈にあった規模にすること、地域住民をしっかり巻き込むこと、これは言わずもがな。
あとはその工事の結果が100年続くことを考えて、誰も後悔がないよう、少なくとも総体として後悔が少なくなるよう、とにかく考える。これに尽きるなと思いました。 -
現在の再開発をよく捉えている本。
2000年代に開発されたビルは陳腐化しているのに、林立する都内の超高層ビル。
個人的には早く東京から脱出したい。 -
人口減少の一途を辿る日本において、容積緩和を伴う再開発に疑問を呈した書籍。
再開発といっても様々な手法がありますが、本書は特に、「容積緩和により分譲住宅を大量供給をすることで事業開発費のマネタイズをしている再開発」を否定的な観点から分析しています。
立場によって様々な見解が飛び交うであろう難しいテーマであり、特にディベロッパーや自治体の都市計画部門の方々からは「綺麗ごとだ」という意見も出てきそうな内容でしたが、主張は一貫していて、また一定の説得力もある内容でした。
本書では、以下の都市をピックアップし、街づくり・再開発における課題や悩み、工夫所を紹介しています。
秋葉原
福岡市
葛飾区立石
福井市
さいたま市
下北沢
岩手県紫波町
神戸市
知識の肥やしにするという意味で、興味深く読むことができました。
ぜひ読んでみては。 -
NHK取材班『人口減少時代の再開発』NHK出版新書 読了。まちの活性化や都市機能の更新に資する有力な手段である再開発事業。各地の事例からその現状と課題を浮き彫りにする。保留床売却によって事業費を賄うスキームを採用すると、高層化に引き摺られる。持続可能で地域の実情に即した再開発であるか。