人間の本性を考える ~心は「空白の石版」か (上) (NHKブックス)

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  • Amazon.co.jp ・本 (301ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784140910108

作品紹介・あらすじ

人の心は「空白の石版」であり、すべては環境によって書き込まれる。これは、二〇世紀の人文・社会系科学の公式理論であり、反対意見は差別や不平等につながるとして、今なおタブー視される。世界的な認知科学者が、人の心や行動の基礎には生得的なものがあることを最新科学で明かし、人間の本性をめぐる科学が、道徳的・感情的・政治的にいかにゆがめられているかを探究する。米国で大反響のベストセラー、待望の翻訳。

感想・レビュー・書評

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  •  産まれたばかりの子どもは一様に無垢であり、能力差や個性はその後に決まるのだという考え方が、なぜか多くの人に刷り込まれている。そしてそれは間違っているのだ、という。本書に、さまざまな形で出てくる思考実験が面白い。

    1.たとえば、もし才能や動因などの心理的特性に個人差がないのであれば、裕福な人はみな強欲な人間か盗人にちがいないということになる。反対に、貧乏な人は怠け者か無能者である。この前提をおくとすれば、『機会の平等があれば公平で公正な、暮らしやすい世界になる』という思想は正しいと言えるだろうか? 反対に、この前提が正しくなく、人はあらかじめ個人差をもって生まれてくるとすれば、機会が平等になればなるほど、それは「親の財産による成功」という不公平から、「生まれ持った才能による成功」という不公平に軸足を移すだけなのではないか?

    2.アメリカの大統領選挙で「アメリカの保守化」が心配されている。ところが、人がどのような政治思想を持つか……保守かリベラルか、どちらの立場に立つかは「おおむね遺伝的である」ことが示される。はたして、ブッシュが当選したのは、アメリカが「保守化」していることを示しているのか? もしケリーが買った場合、「リベラル化」しているという報道をする新聞はあっただろうか? 

    3.親の「育て方」は、子供に重大な影響をほとんどおよぼさない。(もちろん、虐待するとか、ネグレクトするとかは別として)。つまり、3歳までにどんな教育をしようが関係なく、注いだ愛情に比例して能力ある子供に育つわけではない。たしかに、子供を「成功する人間」に育てる法則が存在しないことは残念だろう。しかし、親が子供の将来や人格を「自由にデザインできる」というのも、同様に恐ろしい考えではないか? 親が子供に出来ることはいったい何だろうか?

     答えは、この本の中にもあるとは限らない。ただ、この本を読むことで、さらなる疑問がいろいろ湧いてくるということは確かである。よい本はすべてそうである、とは言わない。しかし、そういう本は魅力的だ。

  • 人間の本性が心に刻まれていると考えることは, 西洋の, 特に神学的教義によって避けられてきた。その影響の下で諸科学は様々なジレンマに直面せざるをえなかった。過去の, 更には今日の哲学者や科学者たちは人間の本性が生得的に存在すると論じて, 批判や非難中傷, 罵声といった対象となった。心に生得的な人間の本性がないと考えること, それが本書の主要なテーマであるブランク・スレート, つまり空白の石板である。著書は, 今日の科学, とりわけ認知科学, 進化心理学等により, 心に生得的な人間の本性が存在することが確定的になっていると主張する。その上で, 過去に, そして今日に見られる論争を取り上げ, 心を空白の石板とみなすことの矛盾を論破していく。著者の知的パワーと論理的分析力に圧倒されるとともに, 人間性について深く考えさせられる。上・中・下からなる長編だが著者のウィットやジョークも交えられており読み手を飽きさせない。

  •  副題の[心は「空白の石板(ブランク・スレート)」か]との問いに対し「違います」とし、進化生物学や脳科学の成果に基づいて、心の先天性の問題について解説した著作。
     上巻の内容は、なぜブランク・スレートが主要な学説になったのかについて整理する一方、進化論に端を発した学問&脳科学の「文化」に関連する学説の紹介、及びこの新しい理論を批判するラディカルサイエンスの主張への論駁。

  • 橘玲氏が推薦され、「暴力の人類史」がとても内容の濃い本だったので、長いだろうな~と思いつつ読書を決心(笑)。生物学や認知心理学などの自分の知識が浅はかなせいか思ったより難解で、思ったより読みこなすのに時間がかかる。橘玲氏の本を読んで得た土壌がなかったら中断したかも(苦笑)。また今のところ(橘氏の本を読んでいたせいか)「暴力の人類史」ほどの新鮮さ、興味深さは感じない。が、後半になって面白くなる予感。中巻は期待できそうだ。ということでこれから中巻に入る。

  • ハーバード大学心理学教室教授、スティーブン・ピンカーによる、心に関する解説書。
    古今の心に関わる研究や哲学、宗教的見地などを幅広く扱いながら、心の本性を表そうという試みが描かれています。
    翻訳物に特有の読みにくさや「ピンカー節」に苦手意識を覚えることもありますが、ウィットに富む文章と一般常識を覆す内容に、引き込まれること間違い無しです。

  • 本書は、「空白の石版(ブランク・スレート)」と、「高貴な野蛮人」「機械の中の幽霊」などを信奉する者たちに対し、進化心理学や認知科学の立場からそれらを批判する。
    「ブランク・スレート」説とはジョン・ロックに端を発する説で、「人種や民族集団や男女、個々人の間に見られる違いは生まれつきの違いではなく、経験の違いから生じる。したがって経験を変えれば、その人間を変えることができる」J・ダイヤモンドの環境適合説もそのひとつだろうか。「学業不振や貧困、反社会的な行動は改善可能であるのだから、それを行わないのは無責任とさえ言える。また、生まれつきの特性とされているものに基づく性差別や民族差別は、不合理である」という考えを指す。
    「高貴な野蛮人」説とは、全面的に高貴なものはなんであれ、自然淘汰の産物にはなりにくいという考えだ。「社会的動機は、その動機を生み出した遺伝子のコピーをできるだけ多くする適応的な性質である限り、そうした対立のなかで郵政になるようにデザインされているはずだが、優勢になる方法のひとつは、競争相手を無力化し、大量殺戮を超えた結果として今日のわれわれがいる」(ピンカー、ウィリアム・ジェイムス)「対立は人間の普遍的特性だが、同時に、対立の解決もまた人間の普遍的特性である」(ピンカー)
    ピンカーは、「ブランク・スレート説は、ほかの2つの教養とひとまとめに語られることが多く、現代の知識社会では神聖な地位を獲得している。私はそのひとつを『高貴な野蛮人』説と呼ぶ。この言葉の由来はジャン・ジャック・ルソーとされるが、実はジョン・ドライデンの『グラナダ征服』の一説に由来する。高貴な野蛮人とは、世界が探検され、現地住民を発見すると次々と淘汰がはじまったことに対し「本来人間は温和だが、智恵を持つ集団がそれらを野蛮な手段で制圧するのは、文明の産物である」という考えに基づく。トマス・ホッブズはこのような因果を免れるには、自主性を統治する統治者や議会を必要とする。ホッブズは、ヤハウェが制圧した海の怪物の名を取り、人間の心にはリヴァイアサンがあると説いた。」
    「機械の中の幽霊」(二元論)の源流はルネ・デカルトにある。「人間は生まれたあとは、環境によってさまざまな影響を受けるという生物学的な機能を有するが、愛・意志・良心は、伝統的に魂の守備範囲とされる」という考え方を指す。「これらは生物学的な機能とは異なるとされてきた。(しかし)もしこれらの能力もまた生物学的であるなら、つまり脳の回路のなかで実行される適応進化であるなら、幽霊、すなわり心のなかに生得的にある、人間の本性(悟性?)は、錯覚ということになる」と説く。
    本書第1巻ではこれら3つの説に対する誤解を解くことと、見当違いな認知科学への攻撃に反論することで費やされている。著者自身の説の構築は第2巻に委ねられる。

  • 私には難しすぎた.

  • 2010/7/2 予約 7/7  借りる。 7/17 返却

    人種の坩堝の 米国では大反響のベストセラーでも、日本ではどうだったんだろう。
    「はじめに」を読んで、本書の趣旨はわかったので、後は読まずに返却した。

    内容と著者は

    内容 :
    人の心は何も書き込まれていない石版であり、全ては環境によって作られる。
    これは人文系科学の中心理論であり、反対意見はタブー視される。
    だが、はたして本当にそうなのか? 米国で大反響のベストセラー。

    著者 :
    ハーバード大学心理学研究室教授。
    視覚認知と幼児の言語獲得についての研究により、米国心理学会からDistinguished Early Career Awardなど受賞。

  • http://yuko.tea​-nifty.com/blog​/2014/07/post-b​be1.html
​絶賛されているけど、amazo​nのコメントは翻​訳難ありという​感じのようですな。

  • サイエンス

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著者プロフィール

スティーブン・ピンカー(Steven Pinker)
ハーバード大学心理学教授。スタンフォード大学とマサチューセッツ工科大学でも教鞭をとっている。認知科学者、実験心理学者として視覚認知、心理言語学、人間関係について研究している。進化心理学の第一人者。主著に『言語を生みだす本能』、『心の仕組み』、『人間の本性を考える』、『思考する言語』(以上NHKブックス)、『暴力の人類史』(青土社)、『人はどこまで合理的か』(草思社)などがある。その研究と教育の業績、ならびに著書により、数々の受賞歴がある。米タイム誌の「世界で最も影響力のある100人」、フォーリンポリシー誌の「知識人トップ100人」、ヒューマニスト・オブ・ザ・イヤーにも選ばれた。米国科学アカデミー会員。

「2023年 『文庫 21世紀の啓蒙 下』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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